二話 いつの時代も、救国の英雄は生贄を美化した存在だと私は思う ──クリスティナ・アールグレイ・フォン・セダス
2013/07/02
本文を加筆・修正。
目の前に現れた男を凝視する。
頭のてっぺんから爪先まで、まるでお気に入りの洋服を品定めするかのように。
烏を彷彿とさせる真っ黒な髪と瞳。身に付けてる服に見覚えはない。いや、異世界から来たのだから当然と言えば当然だが、それを差し引いても彼の着ている服の素材は素晴らしい、のだが──
(最悪……)
男の英雄を召喚したのが最悪ではない。
【隷属の鎖】がレジストされてることが最悪なのだ。
クリスティナとて男が召喚される可能性を考慮しなかった訳ではない。寧ろそういう可能性があるからこそ、【隷属の鎖】をオプションとして組み込んだ。
だが男がそれに引っ掛かるような手応えはなく、悪戯に時間だけが過ぎてしまい、首輪のない犬のような状態で降り立った。
(いえ。諦めるにはまだ早いわね)
幸いにして、目の前の男は状況を把握しきれてない。ならそれを利用しない手はない。
模擬戦と称して徹底的に痛めつけた上で、今度こそ【隷属の鎖】で支配してやる。一国の未来の為ならば異世界の住人であろうが──いや、寧ろ異世界の住人だからこそ何処までも冷徹に対応できる。
「手練れの近衛騎士を五人用意して」
「御意」
クリスティナの言わんとすることを即座に理解した側近は一礼して音もなく部屋から立ち去る。目の前では妹が親しげに話していた。
簡単に自己紹介を済ませた後、王位継承権持ちのクレスメント様の案内に従い城内を歩く。未だに信じられないけどこれは多分アレだ。いわゆる異世界トリップって奴。
そんな訳ないと声高々に叫ぶのは簡単だ。
簡単だが……否定するだけの要素もない。そして残念ながら紳士とのやり取りが妙に現実味を持たせている。本当に何故かは分からないが、ここは異世界なんだとぼんやりながら俺は認識してる。
……我ながら順応が早いことだ。もっともこれは実家に居たときに身に付けた対人技術なんだが。
鎧姿のクレスメント様と部下らしき女性(魔術師っぽい人と騎士っぽい人合わせて六人)に脇を固められながら歩く俺は……当然浮きまくった格好だ。
学校指定の制服。色々入ってる鞄、通学に使ってたロードバイク。時折、すれ違う人たちは決まって俺を見るが、決まって汚いものを見るかのような視線ってのはどーいうこと?! 流石に傷付くぞ!?
「あの──」
「無礼者、口を慎めッ!」
えぇー。声掛けただけで頭叩かれるとかどんだけだよ。
「ちょっと、声掛けたぐらいでそれはないんじゃないの?」
「姫様、しかし──」
「あ、これは気にしなくていいわ。で、私に何か用?」
良かった。妹さんは普通っぽい人だ。
「えっと……ここって何処ですか?」
「セダス王国。人口は凡そ十万人。王族・騎士・平民を含めて人口の八割が女性よ」
「は、八割ぃ!?」
八万人が女性とか完全に女尊男卑の世界じゃないか!
「──て、説明しても異世界から来たハヅキ君にはピンと来ないかも知れないか」
「いやあの、ピンと来るも何も……見事に女だらけですね」
跡継ぎとか人口のあれこれとか大丈夫なのか?
「んー、やっぱりまだ混乱してる?」
「えぇ、まぁ……」
主に八万人が女性という事実に対しての混乱だが。
「それより俺、これからどうするんです?」
「あぁ、うん。それなんだけどね……」
「…………?」
何処か申し訳なさそうに顔を俯かせるクレスメント様。どうしたのかと聞こうとしたとき、目的の場所に到着した。いや、してしまったと言うべきか。
鉄扉を易々と開くクレスメント様。草一つ生えてない剥き出しの地面に四方を城壁で囲まれた広場。屋外訓練場と思われるその場所にはいくつもの訓練道具と思われるものがある。……あとサ●ケっぽいヤツが端っこに見える。
そしてその広場の中央にはクレスメント様のお姉さんと側近らしき騎士5人が立ってる。
ただ立ってるだけ? いいえ、違います。完全武装です。
「ハヅキ君が英雄かどうか、それを確かめる為に姉さんと戦ってもらうの」
どう見ても公開処刑です。本当にありがとう御座います。
「その、ね……ハヅキ君が何を言いたいのかは重々承知してるよ? でもほら、流石にすぐ殺すとかそういうことはしないし、危なくなったら私が助けに入るし、何も丸腰で戦えなんて言わないから。ほら」
そう言ってクレスメント様から渡されたのは待機している騎士たちが持っている得物と同じ木剣──ではなく、鉄製の剣。RPGなら鉄の剣とかそういう安直な名前が付きそうな奴。
「クレア──」
「そっちは正騎士5人でしょ? それとも姉さんお抱えの近衛騎士様は英雄様に頼らないとダメな訳?」
「…………ふん。勝手になさい」
何だろう、この姉妹。ひょっとして仲悪かったりする?
まぁ王族だし二人とも王女だから王位継承争いとかで仲違いしてるんだろう。王族じゃ良くある話だ。そういうことにしよう。
クレスメント様から受け取った仮称・鉄の剣を手に取る。重たいだろうと思って受け取ったら軽い──いや、というか軽いなんてレベルじゃない。頼りない。
例えるなら……そう、これは外見が鉄で中身が鴻毛のようなものだ。
ひょっとして鉄の剣(笑)なんて代物なんじゃないかと思い、親指に軽く刃を当ててみると引っ掛かりを覚える。
……うん、ちゃんと切れる。ついでに軽く指で弾いてみても鉄の音がした。素人判断だけど。
「何してるの?」
流石に不審に思ったクレスメント様が怪訝顔で尋ねてくる。
「いや……なんかこれ妙に軽いから」
「えっ? それ鉄製だから結構重いと思うけど?」
「そうなのか」
あまり喋ってボロを出すのも面倒だし適当に切り上げて中心へ向かう。
相手は木剣。防具はなし。
対するこちらは鉄の剣。やはり防具はなし。
だが相手は俺が素人だからと言って油断する気は微塵もないようで、型にはまった構えを取ってる。切っ先を喉元に向けて蹴り足を半歩後ろへ下げている。
流石に構えを取らない訳にもいかないのでこっちも構えを取る。剣道の構えだが。
開始のゴングは鳴らなかった。機を計っていた二人の騎士が跳んだ。
ごぉっ! と、風を唸らせながら直進してくる二人の背後で土煙が舞い上がる。
斜め右上から一撃目が来る──動きを見て即断して剣で受けきろうとして思いとどまる。
相手は一人じゃない。そちらの対応もしなければならない。
予定を変更して初撃を躱し、二撃目を入れる女騎士に対して打撃を入れる。
斬撃、ではない。打撃だ。理由は剣を鞘に収めたまま振り抜いたから。
これなら万が一のことがあっても殺したりはしないだろう──と、思った俺の見通しが甘いことを次の瞬間、突き付けられた。
地を這う蛇のように低空から迫る騎士に向けて鞘に収まった剣を振り抜く。鞘が肩口に食い込む。バギバキと、小気味の良い音を立てながら不自然なまでに肩がへこむ。そこから力任せに掬い上げるように振り抜く。突進を強引に止められただけでなく、逆方向へ働き掛ける暴力とも呼べる力の影響をもろ受けた女騎士はその場で縦回転しながら二度三度と地面をバウンドして後方の壁に激突。
どぉおんっ! と、派手な轟音を立てながら直撃する。ついで石片がぱらぱらと彼女の身体に降り注ぐ。
「はっ?」
「なに!?」
「えっ?」
試合を吹っ掛けてきた騎士たちが驚く。当事者の俺はもっと驚いてる。
多少の手心は入っていたかも知れない。にしたってあれはない。こっちに来る前に読んだラノベの主人公は異世界に来てチート能力を得て八面六臂の活躍をするという話があったけど、今まさにそんな気持ち。
俺の攻撃を見て、即座に後方で待機してた残りの騎士達が動く。そりゃ仲間がやられてもずっと指を銜えて見守る訳がないよな。
「貴様……よくもキャシーをッ!」
「嬲り殺してくれる!」
女子がそんなこと言うんじゃありませんとか、そんな突っ込みを入れる余裕はない。
どばぁっ! と、騎士たちの身体から色の付いた何かが蒸気のように噴出する。
色もそれぞれ違う。
赤、青、緑、黄、全部で四色だ。
ある者は色の付いた蒸気(?)のようなものを身体に纏わせて身体能力を劇的に向上させ、ある者はそれを炎や石に変えて攻撃してきたりする。
目の前で車が急発進したかと思わせるほどの超スピードで迫ってくる騎士は不思議な力で作り上げた、炎を纏った双剣を操り首を狙ってくる。
力任せに双剣を叩いて弾き、前蹴りをかます。ボールのように跳ね上がった騎士は不時着して動かなくなる。
遠距離と近接の連携攻撃を駆使して機動力を奪うと共に命を奪おうと画策してくる二人の騎士。
飛来してくる石槍は全部叩き落とす。迫ってきた騎士は正面から掌打で突き飛ばす。一足飛びで距離を詰めて遠距離攻撃に専念していた騎士を落とす。
これで三人目か、等と呑気なことを考えてた俺だが突如、全身から冷や汗が溢れ出るような悪寒が走る。本能に従い、真横へ飛び退くと一瞬前まで居た地面を抉り取るように何かが降ってきた。
その何かを確認する余裕はない。巻き上がった土煙が晴れるよりも早く、影が躍り出た。咄嗟に鉄の剣で受け止める俺。だがその攻撃は鉄の剣など意に介さず、小気味の良い音を立てながら枝のように折れて鳩尾に深く突き刺さる。
これには堪らず膝を付き、ゴホゴホと咳き込む。片手を地面に付いて顔をあげると影の主が大剣を振り下ろす姿が見えた。
がしっと、何かに心臓を鷲掴みされる。
これは恐怖だ。地球で事故死しそうになったときでさえ、俺は他人事のようにそれを受け止めていた。
けどこれは違う。
生き物だけが発することの出来る殺意。
斬られたら激痛を伴うであろう無骨で巨大な剣。
虫けらを見るような、侮蔑のこもった眼差し。
これといった未練がある訳じゃない。そもそも俺は実家じゃ必要とされない人間だった。
親戚からの嫌味に耐えるべく、感情の起伏をなくして、人間味をなくして来た俺だけど──それでも死ぬのは嫌だ。
仲間を庇って死ぬ。最善を尽くしても手遅れ。
それはいい。それなら俺だって納得できる。だけどこんな理不尽な死に方はあんまりだ。訳も分からず喚ばれて、次の瞬間には胴体、もしくは腕をばっさり切り落とされる俺は苦しみにながら死んでいく。
そんな惨めな死に様は嫌だ──!
そう強く願ったからか、突然俺の身体を凶刃から守るように深紅の炎が噴き出た。
(あれは、まずい……っ!)
模擬戦という言葉を借りた公開処刑を見守っていたクレスメントは数分前の自分を殺したい気分にかられた。
稀代の召喚師とまで言われた姉が喚んだ英雄の力を見てみたい──
その好奇心が最悪の結果を生んでしまった。刷り込み教育の賜物と言うべきか、姉は決して男という存在を認めない。国を維持するという名目で認めることはあっても、個人の感情がそれを許さない。
最初の攻防はクレスメントが思わず拍手を送りたくなるようなものだった。拙い部分が目立つが、逆に言えばスペックのみで彼はエリート集団とも言える近衛騎士を圧倒したのだ。
だがそれも、近衛騎士団長が乱入するまでだ。
一切の手加減のない、本気で放たれる一刀両断の斬撃。後悔の念に押し潰されそうになりながらクレスメントは割り込む決意をした。始めから自分が彼のサポートとして入ればこんなことにならなかった。全ては後の祭り。だが後悔するのは後からでも遅くはない。
抜剣して、最初から全力で強化魔術を全身に纏わせる。だが彼女が割り込むよりも早く、変化は訪れた。
葉月の身体を、ワインよりも濃厚な赤い炎が噴出する。彼に向かって振り下ろされる凶刃。
一瞬の静寂の後、結果は出た。彼の死でもなければ超人的な動きによる回避でもない。
振り下ろした大剣が、超高温の炎によって焼き溶かされるという想像を絶する結果で。
(嘘……全力で振り下ろした大剣を溶かした……?)
鉄を溶かすほどの炎が存在することぐらいは誰でも知っている。
が、それを差し引いてもあの大剣を一瞬で溶かすほどの炎が存在するなど一体誰が想像できようか。
葉月に対して斬り掛かった団長は唖然とした様子で半分以上溶けた己の愛剣を見つめる。
と、そこで力を使い果たしたのか、どさりと倒れる葉月。これ幸いと思い、クレスメントは良く通る声で宣言した。
「そこまでッ! もう充分でしょ?!」
「クレア!? 男の肩を持つというのか!」
当然のように食い付いてくる姉のクリスティナ。だが彼女もここで引く訳にはいかない。彼の命を繋ぎ止める為にも。
「副団長として当然の判断を下したまでです。姉さんが彼をここへ連れてきたのは英雄としての素質があるか否か。何の訓練も受けていない彼が正騎士を相手にここまで奮闘したのが何よりの証拠です。それとも、姉さんの目はその程度のことすら分からないほど腐ってしまったのですか?」
「………………」
「…………」
「……そこまで言うなら勝手にすればいいわ。でもクレア、私は首輪すら付けられないような男の面倒を見るつもりなんて毛頭ないから。面倒見るならあなたが見なさい」
「元よりそのつもりです」
意識を失った彼をひょいっと担ぎ上げながら、クレスメントはそう宣言して見せた。
暖かい。そして柔らかい。
意識が覚醒するにつれて、感じたのはそれだ。
布団にくるまって得られる暖かみとも、うたた寝のそれとも違うこれは何だろう。
寝ぼけたまま、意識を覚醒させながら顔を動かす。俺の上に何かが覆い被さっている。と言っても胸から上はフリーだが。
「んっ……あ、起きた?」
「………………」
一瞬で意識が覚醒して、思考がフリーズした。
PCで言うところ、今は丁度強制シャットダウンして全てのアプリケーションを再起動させているところ。
……………………。
おーけい。状況確認。
1.戦闘の後、俺は意識がぶっ飛んだ。
2.目が覚めるとなんかいい具合に暖かい。
3.全裸になった俺の上にこれまた全裸のクレスメント様が身体を密着させてる。
はい如月君。これらが意味することは何か答えなさい。
先生、何がなんだか分かりません!
……うん、本当に分からない。
「あ、ハヅキ君起きた?」
そして何食わぬ──いや、羞恥心と必死に戦いながら平静を装ったクレスメント様が声を掛けてくる。
「あ、あの……クレスメント、様……?」
「ん、クレアでいーよ。堅苦しいの嫌いだから。勿論、様付けとかもいらないし普通に話していいからね」
「えと……じゃあ、クレア」
「なぁに?」
「なんで裸で抱きついてるのデスカ?」
「ハヅキ君、どうして倒れたか覚えてない?」
倒れた理由……えーっと、確か婚期を逃した感じの女が斬り掛かって来て、身の危険を感じた瞬間に全身から炎が吹き出したんだよな?
んで、その後に全身を鉛で括り付けられたような疲労感が襲って、それから……こうなった?
「ハヅキ君はね、魔力を使いすぎたんだよ」
はっ? 魔力だって?
「えっとね、簡単に説明するとハヅキ君はこの世界にとって異物なの。英雄召喚で召喚された人達は皆、世界からすればそういう立ち位置なんだって。で、ハヅキ君みたいな人がこの世界で生きるには魔力の補充が絶対条件。本当は姉さんが魔力ラインを確保して魔力を提供するんだけど召喚魔法を使う際にそういうオプションを組み込んでいなかったみたいなの。だから私がこうしてハヅキ君に魔力を提供していたって訳」
…………えーっと、そこでどうして裸で抱きつくところに行き着くんですか?
「あ、あのね……本当はこんなことしなくてもいいんだけど……ほら! 私達の都合でハヅキ君の人生壊しちゃったからその……私なりの謝罪? 小説に出てくる男の子ってか弱い女の子を屈服させるのが好きだって書いてあったから」
…………どうしよう! 一分の隙もないから反論できない!
だってさ、よく考えてみろ。目の前にいるのは日本の、今をときめく人気アイドルが霞んでしまうぐらいの超絶美少女が、一糸まとわぬ姿で、恥じらいながらも身体で御礼をしてくるんだぞ?
果たしてこの状況に流されない男がいるだろうか? 少なくとも俺は流されたい。
……長年、心を殺してきたせいですぐに流されない自分が悲しい。
「あのさ、クレア。どうして俺はこの世界に喚ばれたんだ? 流石に理由もなく召喚されたとは思えないんだけど」
「露骨な話題転換だけど……ふふ、いいわよ。英雄の顔を立てるのも姫騎士の勤めだしね」
そう前置きしてからクレアはとつとつと話し出す。
曰く、この国は女尊男卑の気が強い……のはお姉さん見て何となく想像付いた。で、王女様とお姉さんは男嫌いだから部屋の代わりに牢屋を用意してそこにぶち込むかも知れないから自分の部屋を使えということ……らしい。
「私もセダス国に住んでいる男はそんなに好きじゃないけど、ハヅキ君は特別かな。なんて言うのかな……こう、思わず守ってあげたくなる魅力があるって言えばいいのかな?」
ふむ。つまりクレアは母性本能が人一倍強い女の子という訳か。
「で、真面目な話になるけど……多分ハヅキ君は元の世界に帰れないと思う。それどころか魔王討伐の為の捨て駒にされる可能性もある」
「スターリンや毛沢東も真っ青になるくらいの暴君だな」
「スター……なに?」
「こっちの話」
とは言え、俺個人としては元の世界に帰れないというのはさほど深刻な問題ではない。考えようによっては人生リセットしてやり直しをするようなもんだし、ラノベを読み過ぎたせいかファンタジーの世界へ行ってみたいっていう願望もあったし。
……いやまぁ、流石に捨て駒にされるってのは承服しかねるけど。
「勿論、私はそんなやり方には賛成できないけど魔王をどうにかしたいのは私も同じ気持ち。だから私がハヅキ君に示すのは提案」
「……それは、どういうことだ?」
「ん? 言葉通りの意味よ。第二王位継承権持ちでも姉さんの影響力が強いからアレだけど……それでも私は出来る限りハヅキ君の希望を叶えるわ。それも期限を付けたり回数制限なんてケチなことは言わない。身も蓋もない言い方をするとハヅキ君は私のことを好きにしていいってこと。精神的にも──勿論、肉体的にも、ね?」
「……けど、魔王を倒す為に利用するんだろ?」
ここで理性的に戻ってしまう自分をグーで殴ってやりたい。
正直な話、魔王どころか自分が異世界に居るという実感は──まぁそこそこ持っているしそういう世界だと認識しつつある。まだこっちに来て半日ぐらいしか経ってないのにこの順応力、自分で自分を褒めてやりたい。
「そうだね。私も自分──というより、世の中の為にキミを利用してることは否定できない。でも、脅迫されながらやるのと見返りが約束された上での利用ならどう動く?」
「…………」
「卑怯な言い方だって分かってる。けど、これだけはハッキリ言える。姉さんも母さんも、都合が悪くなれば貴方を斬る。だけど私はそんなことはしない、絶対にさせない。だから私はハヅキ君に信じて欲しいし、ハヅキ君の信頼を得る為に、そして魔王を倒す為なら私は祖国にだって剣を向ける」
あぁ、本当卑怯な言い方だ。そんな風に言われたらグラっと来ちゃうじゃないか。
それに現状、味方が欲しいのも事実だ。電気もガスも水道もない、見知らぬ世界で孤立無援の生活を送るなんて想像しただけでゾッとする。
……しかし、考えようによってはなかなか美味しい状況だ。
異世界。美少女。好きに出来る。
魔王を倒すっていう義務があるがどうせ日本に戻れたところで無意味な人生を送るだけだ。
価値のない人生を歩むよりは、価値のある人生を歩んだ方が有意義に決まっている。敷かれたレールの上を歩かされているのは認めるが、そんなのは些末事だ。
「そうだな……じゃあ早速だけど滅茶苦茶な要求してみてもいいか?」
「それはつまり、私とエッチしたいって解釈でおっけー?」
「うん」
「ふふ、ハヅキ君は直球だね。でもいいよ。ハヅキ君が責めでも、私がご奉仕でも……大丈夫、私も初めてだけどいっぱいご奉仕してアゲル♪」
「よし、今すぐヤろう!」
なに、最低なヤツだって?
はっ、何とでも言うがいい!
これは当然の権利であって合法だ! だから俺はそれを行使しているだけに過ぎないんだ! つまり何が言いたいかと言えば某赤毛の主人公の台詞っぽくこう言おうじゃないか。
『俺は悪くねぇ!』
つまりはそういうことだ!
……流石に誘った本人が先にバテたのはちょっと情けないって思ったけどね。
読み返してみて、確かにフラストレーション溜まる展開だなーと反省して、当初の予定を前倒しして始めから主人公無双で行こうって思いました。
と言ってもいきなり引き出し全部出すのはアレなので少しずつ出す予定です。