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異世界旅行記  作者: 想明 芳野
リヴァイアサン討伐編
19/25

月蝶花を求めて・前編

今までPVとか全然見てなかったけど何気に3万超えてる……。

ということで祝・3万突破!

……言ってみただけです。

「ただいまー……」

「お帰り……て、やけに疲れてるけどどうしたの? 帰りも遅かったしあの諜報員に何かやられたの?」

「あー、うん……ちょっと特訓を…………」

「……?」

 訝しむも疲れ切った様子から何かを察したのかそれ以上の追求はしないクレア。

 ……言える訳がない。ミゼンに一方的にボコられたなんて口が裂けても言えねぇ……ッ!

(容赦なかったなぁ、ミゼンの奴……)

 戦いの基本は防御。その意見に反対する理由はないので彼女のアドバイスに従い、防御に徹した俺に降りかかってきたのは容赦のない剣戟と魔法の嵐。攻撃と同時に魔法発動とかマジ勘弁! かなり再生したから魔力も相当減っちゃいましたよ!

「ロクサスにはいつ行く?」

「三日後には出立するからハヅキ君もそれを目安に動いてくれると有り難いわ。あと、ロクサスへは私も行くから」

 それは非常にありがたい申し出だ。クレアとの関わりは魔力回復こそないが魔力の維持には繋がる。流石に出来ちゃった~的なことは避けたいがそれでも彼女が居るのと居ないのとではエーテルの消耗が大分違う。

 ……いやいや勿論それだけが理由じゃないですよ?! こう、自分の周りに華が増えて嬉しく思うのは男の悲しい性というか……ねぇ?

「それより、ア・キーバ共和国の諜報員さんと何話したの?」

「ん? 俺を監視してる諜報員から何も聞いてない?」

「報告はちゃんと聞きました。私が訊いているのは何か個人的なお話をしたかってこと」

「いや……。強いて言うなら昼食用にピザと紅茶持って行ったぐらいだけど」

「…………うん。今ので大体分かったわ」

「? そうか……」

 何を納得したんだろう? まぁ男の俺が女のあれこれを詮索するのは良くない。考えても分からないだろうという諦念もあるけど。

 クレアからの質問が終わったところで俺たちは字の勉強に入る。異世界の言葉は通じる癖に文字の読み書きができないという、何とも中途半端な俺は今後のことも考えて字の勉強を教えて欲しいと懇願した。

 勉強、と言ってもクレアはそれほど教え上手ではないと公言しているので単語だけを習っている。アイヤールでは結局、依頼書の把握はミゼンに丸投げだったし、宿屋のメニューも何が書いてあるのかさっぱり。クレア曰く、識字率はそれほど高くはないから気にしなくてもいいと言っていたが、仮にも先進国で生まれ育った身としては簡単でも読み書きができないのは恥ずかしい。

 勉強は基本的にクレアの仕事が終わった後、それも就寝時間前の30分とかなり限られた時間の中だ。自分の仕事も忙しいのに嫌な顔一つせず付き合ってくれてるクレアには本当頭が下がる。その甲斐あって自分の名前とミゼンとクレアの名前、それといくつかの単語はどうにかマスターできた。ただ、現段階では簡単な文章を把握することすら難しい。

(順調にこの世界に染まってきてるなぁ、俺……)

 それが良いことなのか悪いことなのかは別にして、少なくとも可愛い娘が圧倒的に多いこの世界は下手をすると地球で一生を終えるよりもずっと良いんじゃないかと思うようになってきた。いざというときはこの世界に骨を埋めるのも悪くはないという、この世界に来たばかりの俺からは考えられないようなことを思いながら、今日も俺はふかふかで暖かいベッドに身を沈めるのだった。


「ハヅキ、訓練開始。焦燥無用、我気長」

「焦らずじっくり魔力制御を覚えろ──と、タバサさんは言ってます」

 午前中の魔力制御の訓練。誰も居ない空けた屋外スペースでタバサさんと通訳のノワールを交えて訓練を始める。焦りは禁物と、タバサは言ってる。だが今日の俺は一味違うぜ!

 訓練初日に教えてもらったことを思い出す。魔力を精製しているのは左胸。これは心臓を指してると睨んでる。

 だから俺は魔力を血液と解釈することにした。心臓が脈を打てば血液に魔力が付加される。魔力で身体が維持できるのは全身に張り巡らされた血管をくまなく血液が循環しているから。

 座禅を組んで意識を内側へ向ける。血管とその中を流れる血液を魔力に置き換えてイメージする。今、俺の身体に流れている魔力はただ流れているだけ。心臓から精製された魔力を受け取り、その魔力を意図的に身体中を駆け巡るところを想像する。

(いける……ッ)

 昨日の訓練では感じ取れなかった手応えを掴み、思わず興奮する。だが油断はできない。一度掴んだ手綱を手放すと何が起こるか分からない。はしゃぎ出す心を静めて掴んだイメージをより鮮明に想像して、右手に集める。

「へ……うそ、でしょ?」

「…………」

 驚きで声を漏らすノワールの声が聞こえる。近くに立っているタバサが息を呑んだのも分かる。そっと首を動かして右手を見れば赤い光が燃え上がる炎のように輝いていた。ノワールがやったときは白だったけど、魔力の色って個人差があるのか?

「……制御訓練合格。我驚愕。制御習得最短記録」

「二日で魔力制御の訓練を達成したハヅキさんは事実上の最短記録です……て、タバサさんが言ってます」

 タバサさんでさえ一ヶ月掛かりました……と、さり気なく付け足したノワールを睨み付けるタバサ。同じ要領で左手に魔力を集めてみると右手と同じように赤い光が出た。

「偶然否定、二度成功上等。今後毎日訓練慢心禁物」

「二度続けて成功すれば偶然じゃありません。但し、毎日訓練してこそ魔力制御は意味があるもの。慢心しないで下さい、だそうです」

 隣でノワールがなんか言ってるけど気にしない。だってアレだぞ? 30歳迎えて魔法使いにジョブチェンジするのとは次元が違うんだぜ? ついつい何度もやってその感動を噛み締めたいと思うのは当然じゃないか!

 ……まぁお陰で二人に呆れられたのはここだけの話だが。

 ともかく魔力制御に関しては無事に終えることができた。ついでに魔法なんかも覚えられたら言うことはない……と、思ったけど俺の場合、命削って魔法使う訳だから……うーん、実用性があるのかないのか微妙なところだな。並み程度の魔力量しかないっていうなら寧ろ魔法は使わずに自動回復に費やした方が利口かも知れない。

 そんな調子で午前の訓練を終えて昼食を取った後はミゼンと戦闘訓練。地下街だとスペースに余裕がないから外で戦います。

「昨日も思ったけど、ハヅキは防御より足を意識した方がいい……」

 ミゼンとの訓練二日目は魔物を相手にした戦闘。バトルソードとラメラーアーマーで固めた俺はセダス国近辺に多く生息するオークを切り捨てながらミゼンの解説に耳を傾ける。

「触れることすら出来ない速さは、それだけで大きなアドバンテージ。攻撃手段が限られてるなら、一つの武器を磨いた方がいい」

「それがスピードって訳か」

 俺の速さに追随しながらこくりと頷くミゼン。結構飛ばしてるのに平然と付いてくる彼女もなかなか侮れない。しかも表情から見てまだ余力を残してるっぽいし……。

「ハヅキ、目が良いよね?」

「んー、まぁ相手の動きは見えるな」

「なら、カウンターを主戦力にするのも悪くない。これなら相手も避けるのは難しい」

 カウンターか……。今まで全く意識してなかったけど言われてみればなるほど、確かに今の俺には有効手段かも知れない。思い起こせばテラードレイクなる魔物を相手にしたときだって攻撃自体は見えていた。あのときは恐怖でいっぱいいっぱいだったけど……。

(試してみるか……)

 群れのボスであるオーガ(ミゼンがそっと耳打ちしてくれた)と対峙しながら、戦略を練る。魔物との戦いは命懸けと言うが、この地域に住んでいる魔物が相手だと命の危険を感じる方が難しい。ぶっちゃけて言えばこれは安全が約束された戦闘訓練。だからこそ、何の気負いもなく色んなことを試すことができた。

 同胞を殺された怒りを力に変えて、鉄塊とも呼べる野太い腕をストレートに振り抜くオーガ。初撃は余裕を持って回避。二発目は前髪を掠らせる。三発目は首の皮一枚残した、ギリギリの回避。小さく避けることに慣れてきたら回避と同時に反撃に移る。スウェーで攻撃を流して、そのまま身体を回転させて下段から掬い上げるように振り上げる。或いは自分から攻撃に突っ込み、首を振って回避すると同時にボクシングで言うクロスカウンターを叩き込む。

(不思議な感覚だ……)

 魔力制御を覚えた恩恵だろうか。昨日に比べてずっと身体が軽い。勿論、魔力制御を覚えたからと言って減った魔力が戻った訳じゃないし魔力不足のせいで全力疾走した直後に身体の芯に鉛を巻き付けられたような感覚は抜けてない。

 それでも、この身体は動く──

 以前の状態を例えるならギアを目一杯重くした自転車だ。ギアが重くなれば推進力が上がるがその分、力一杯漕ぐ必要がある。以前の俺はその重たいギアを踏むことが出来なかった。

 けど今は違う。ギアを二段階ほど軽くしたような体感に始めの方こそ戸惑ったが、今は完全に手足を自在に操っている。

(これで不調とか元のスペックどんだけ高いんだよ……)

 オーガの首を跳ねて、一息付きながらふと思う。前より身体が動くようになったとは言え、お世辞にも全快とは言えない。もしこれで全力戦闘できるようになったら……と、考えたところで止めた。考えても仕方ないしそれは当分先の話だからだ。

「……ハヅキ、魔力制御覚えたの?」

 気持ちを締め直して訓練を再開しようとしたとき、ミゼンが唐突に尋ねてきた。そう言えばミゼンにはまだ言ってなかったな。

「あぁ、できたのはついさっきだしまだ気を抜くと元の状態に戻るけど、意識すれば出来るようにはなった」

「…………。魔法は、覚えないの?」

「んー……ぶっちゃけ魅力的だけど俺の場合、魔術師以上に魔力の運用は気を遣わなきゃいけないと思うからなぁ……」

「それなら、魔器を使えばいい」

「んん? 魔器って、レッドダガーのことか?」

 腰定めに固定してるシースからレッドダガーを抜いてそれとなく眺める。魔力を充填したばかりのそれは刀身からうっすらと赤い光の粒子が湯気のように立ち上っているのが分かる。

「魔器の利点は、素養のない人でも少量の魔力があれば魔法が使える……」

「そうなのか?!」

「うん。魔法発動のメインは杖だけど補助としても使われることも多いから」

 てっきりゴースト系モンスターの対策か弱点属性を突く為の代物ばっかだと思ってたぞ。

「……貸してくれる?」

「あ、うん。……どうぞ」

 どうやら実演してくれるそうなので素直にレッドダガーをミゼンに渡す。

「このレッドダガーなら人差し指程度の魔力を込めればそれで充分。この魔器で使える魔法は──」

 直後、刀身が光ると同時に赤いレーザー光線が地平線の彼方へ飛んで消えていった。短剣で遠距離攻撃できるってなんか凄い違和感が……。

「──この魔術だけ。初歩の初歩だけど、遠距離攻撃はあって困るものじゃない」

「それは……確かにそうだ」

 実のところ、今後の戦闘で確実に障害となるのは飛行系の魔物だと睨んでいた。跳躍力では限界があるし、かといって弓を四六時中持ち歩くのも不便だ。

「魔力があるときに、練習するといい」

「それには激しく同意。練習が原因で死亡とか嫌過ぎる」

 そんな感じでミゼンとの訓練を終えて、地下街までミゼンを送って一日が終了──なんてことになるほど世の中甘くはなかった。

 えぇ、もしかしたら俺って何かに憑かれてるんじゃないかと思うぐらい素敵な出会いがありましたよ。

「いい加減にしなッ! ここはガキの遊び場じゃないんだよッ!」

 バタンッ……ドサッ!

 乱暴に閉められるドアと共に外へ放り出された小さな影。多分、子供だろう。その子は打ち所が悪かったのか、なかなか起き上がろうとしない。

 ……ここで周りの人と同じように他人の振りができない俺はつくづくお人好しなんだと思う。

「おい、大丈夫か?」

 いくら治安の悪い地下街とて、子供を投げるところを目撃したとあっては黙ってられない。店に殴り込んで死体を増やそうとは思わないが。

 ミゼンも同じように腰を落として子供の顔を覗き込みながら回復魔法を掛ける。

「う……くすっ……」

「あーほら、泣くなって。ほら、綺麗な顔が台無しになっちまうぞ」

 ポケットからハンカチを出して顔に付いてる汚れを落としながら改めて子供を見る。

 歳は……12歳ぐらいか。身長は140センチオーバー。まだ幼さが抜け切れてないから子供と呼んでもおかしくはない。

 そんなことを考えながらハンカチで顔を拭いてると、ふとした弾みで深く被ってたフードが後ろにずれた。しゃがんでいるとは言え、体格差のあるので必然的に頭のてっぺんまで見えるところに顔がある俺の目に飛び込んできたのは──サキュバスっぽい二本の角。

「……っ!」

 バッと、大慌てでずれたフードを戻してささっと逃げようとしてローブの裾を踏んづけて盛大にこける幼女。

 ……あぁ、これは多分あれだ。異世界でいう人間以外の種族だ。角があるってことはエルフやドワーフじゃない何かだろう。生憎、俺の知識で角がある人型種族と言えばサキュバスあたりが限界。でもこの娘はきっとサキュバスなんかじゃない。理由? 色気が感じられない。それで充分。

「お前、そそっかしい奴だな。あーあ、服まで汚れちまったな」

「……ち、ちかよらないでっ」

「いや、近寄らないでって言われても──」

「ハヅキ、その娘からは魔族の臭いがする」

 んん、魔族?

 ……そうか。魔族という線もあったな。

「けど、弱そうだし悪そうな奴には見えないぞ?」

「それは──」

「ミゼンなら孤独の寂しさ、分かるよな?」

「…………」

 ちょっと卑怯だとは思うが無理矢理黙らせることに成功した俺はそのまま警戒する魔族(?)の娘に話しかける。

「やぁ、お嬢ちゃん。俺の名前は葉月って言うんだ。……お名前、教えてくれるかい?」

「…………」

「あ、もしかしてこっちのお姉ちゃんが怖い?」

「私、怖くない……」

 こらこら、子供と張り合うな。大人げない……。

「……こわく、ないの?」

「お嬢ちゃんみたいな可愛い娘を怖がる方がおかしいって」

 いや本当、どうして人種(?)差別が起きるのかこの辺は地球に居た頃から疑問に感じてることだ。黒人とかまさにそうだ。だってあいつ等別に悪いことなんてしてないだろう。なのになんで未だに迫害受けるワケ?

「……アリス。……わたしの、なまえ…………」

「そっか、アリスちゃんか。女の子らしい、可愛い名前だね。……それで、アリスちゃんは何をしてたのかな?」

 また警戒されるんじゃないかと思ったが、思った以上にこちらを警戒してないアリスは恐る恐るといった風に口を開く。

「……おにーちゃん…………」

「お兄ちゃん……アリスちゃんにはお兄ちゃんが居るんだね」

「うん。……あ、あのね……おにーちゃんびょーきなの。だから、たすけて……」

 ここから先はアリスのペースに合わせると長くなくので割愛するので簡単に纏めよう。

 アリスは兄と二人暮らし。稼ぎ頭の兄が病気……というか毒に犯された。これは話の端々から得た情報を元にミゼンが推測を立てた結果からほぼ間違いないと断定してる。決め手になったのは蛇みたいな魔物に噛まれた~という証言。

 アリスのお兄ちゃんを助ける為には薬がいるのでなけなしのお小遣いで冒険者を雇おうとするも、結果は悲惨なもの。それが魔族との混ざり者でしかないアリスなら尚更……というのが現状。

 その薬はミゼンも調合できるというが、材料となる月蝶花が地下街の奥まったところにある迷宮にあると言われてる。

 迷宮というのはRPGに出てくるダンジョンを想像すると分かり易い。例外を除けば某ゲームのように入る度に中の地形が変わったり未識別のアイテムが落ちてたりしてるようなところじゃない。

 迷宮は基本的に英雄譚に出てくるようなとんでもなく強い魔物、或いは伝説級の武具によって作られるもの。故に、迷宮内の魔物は外の魔物よりも強く、一攫千金を夢見て迷宮攻略に挑んだ冒険者の殆どが帰らぬ人となり、生きて帰ってきてももう一度チャレンジするのは稀だと言われてる。そんなのが街中にあって平気なのかと言ったらセダス国の迷宮は先代が特殊な結界を張ったお陰で魔物のみ迷宮の外へ出られない仕組みになってるとか。……なんて都合の良い設定なんだと思ったのはここだけの話。

 迷宮攻略の条件は先に挙げた魔物の撃破、或いは武具の入手となる。これを達成すれば迷宮は消える。つまり、セダス国内にあるこの迷宮は未だに攻略されてないということだ。

「助けるの?」

「んー……まぁ見捨てたら後味悪いし、それが出来ない性格だし……」

「ん。なら、私も手伝う。それにハヅキにとってもいい経験になる」

「おし、決まりだ。じゃあ早速迷宮に──」

「悪いけど、それは出来ない」

 気合いを入れていざ迷宮攻略!

 ……と思った矢先にバッサリとヤル気を挫く一言。そして間を置かず現れた魔術師っぽい格好をした女性。

 ……いや違う。こいつは──

「よぉ、久しぶり」

「自分を刺した相手によくそんな態度で居られますね。もしかしなくても馬鹿ですね」

 もはや俺が馬鹿なのは公認らしい。流石に真顔で面と向かってちょっと傷付くぞ。

「馬鹿ってのは認めるけど俺の経験上、人を恨むのって結構シンドイからなるべくそうしないようにしてるだけ。……で、迷宮に行くのがどうダメなのか説明してくれないか?」

 押し問答をしてる間にビクビク震えてるアリスを後ろに回して真っ直ぐトトゥーリアに意識を向ける。前回はあまりにも間抜けな不意打ちを受けたから今回はそうならないようにしないと……。

「機密事項よ。それ以上は言えない」

「ふむ。つまりトトゥーリアが月蝶花を寄越すか押し通るかのどちらかという訳か」

「本当、男って単細胞生物ね」

 呆れたように吐き捨てるトトゥーリア。その点については激しく同意できる。女が我が儘なら男は自分勝手。だから意見が大きく食い違ったりズレが生じるものだ。

「殺してでも止めると言ったらどうする?」

「無理矢理にでも押し通る」

「…………」

「──て、言いたいトコだけど、その場合はクレアに頼むとしよう」

 それでもダメだったら……どうしよう。セダス国見限って影でこそこそ暮らすか?

 けどクレアにノワール、リサたちとはそう簡単に割り切れるほど浅くない付き合いしてるし、うーん……。

「どうしても必要ならグランドリヴァーの渓流を目指せばいい」

 くるりと、踵を返しながら地名らしきものの名前を端的に告げる。……あれ、もしかしてデレ期に入った?

「その代わり、グランドリヴァー渓流にはセントラル大陸最強の種族が居るから。……尤も、国としてもその程度の魔物を倒せないなら処分するみたいだからどの道行くしかないんじゃないかしら?」

「さっきのは茶番だったのか?」

 グッと怒りを堪えてトトゥーリアに食い付く。彼女はそんな俺を鼻で笑う。

「そんな回りくどいことをする為にこんな薄汚いところへは来ませんよ」

 今度こそ話は終わり、彼女は俺たちの目の前から立ち去っていく。自分たちの住処を薄汚いと言われ、周りに居た野次馬は忌々しく悪態を吐き、ミゼンはコツンと道ばたに落ちてた小石を蹴っ飛ばす。

「嫌な人……」

「だな。俺もああいう女……いや、ああいう考え方しかしない奴は大嫌いだ」

 確かにトトゥーリアの立場上、厳しい判断を下さなければならない時はある。しかし、だ。効率を最優先するあまり常に弱者を切り捨てるような……それこそ害虫駆除を推奨するような輩に好感なんて持てない。しかも連中、見た限り無能じゃないから余計に腹立つ。

 ……いや、今はそんなことを言ってる場合じゃないか。

「グランドリヴァー……そこに行けば本当に月蝶花が手に入るのか?」

「私は嘘だと思う」

「まぁ普通に考えたらそうだな。……クレアに確認取ってみるか」

 なんか最近、困ったら取り敢えずクレアに頼れ! というのがデフォになってるような…………気にしないでおくか。

年内にあと一話更新できたらいいなぁ……。

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