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異世界旅行記  作者: 想明 芳野
異世界召喚編
15/25

セダスよ、俺は帰ってきた!

軍議っぽい雰囲気とか全然出せません。orz

あと今回はずっと放置してた魔法設定について少し触れてます。

 一週間ぶりに帰ってきたクレアの寝室で明かした一夜。朝はそんなに強くない俺でもこの世界にきて半月ほどですっかり早起きの習慣が身についてしまった。さようなら、惰眠生活。

「ふかふかベッドの重要性を改めて思い知ったな」

 近くの村へ立ち寄ったときはゴザ。研究所は麻袋に藁を敷き詰めた感じの布団。アルヤードの宿屋は固い上に寝返りを打つだけでぎしぎし音がなる。まだ地球暮らしの感覚が抜けきってない俺は本当の意味で昨夜はよく熟睡できた。

 ベッドから下りて部屋を見渡す。当然だがクレアの姿はない。天空騎士団を束ねる立場であるクレアの朝は俺なんかよりも早い──

「あ、おはよーハヅキ君。良く眠れた?」

「…………」

「おはよ、ハヅキ君!」

「あ、あぁ……おはよ」

 ──なんでこの人、普通にネグリジェ姿で出歩いてるの?

「朝ご飯もらってきたから一緒に食べよ♪」

「う、うん……。てか着替えないの?」

「ハヅキ君に隠し事をするようなことは一切ありません」

「さいですか」

 一応納得しておいて、手早く着替えてクレアが持ってきた朝食に目をやる。

 メロンパンを一回り大きくしたようなきつね色のパン。これは何度か食べたことがあるから分かる。パサパサしてるから日本人の口には合わない。よって、湯気の立つシチュー(カチャンシチューというらしい。要はビーフシチュー)と一緒に食べるのが吉。そして野菜不足を補う為のサラダ。ドレッシング・マヨネーズがないのが残念だが我慢するしかない。最後に紅茶と……俺用に用意したと思われるエーテル。

 デザート感覚でエーテルが出てくるのってなんか笑える……。

「外の世界はどうだった?」

 パンを一口大に千切ってシチューに浸しながらクレアが尋ねる。勿論、テーブル席に座りながら。

「色々大変だったよ。自分が甘やかされた環境で育ったって凄い実感できた」

 シチューで口の中をしめらせてからサラダを一気に頬張る。

「そう言えばハヅキ君は一般人だったわね。でも今まで荒事とは無縁だったんでしょう? なのに今日まで生き延びれたってだけで充分凄いって!」

「うーん……どっちっつーとチート能力のお陰だと思うんだけど」

「ちーと?」

「簡単に言うとズル。喚ばれただけでこんな力を身に付けたんだ。外から見れば立派なズルだろ?」

「ふーん」

 クレアはあまりそういうことに関心がないのか、適当に相づちをうつだけ。

「そういや今の俺の立場ってどーなってるの?」

「んー、再編成で忙しいってこともあるけど上層部以外はあまり気にしてないよ。魔王の力舐めてるって感じがあるのは否定できないけど……」

 魔王……そう言えば俺が呼ばれた目的って魔王討伐だったっけ。でもそういう話は一度も聞いてないし……。

「なぁ、実際魔王ってどんな奴なの? 俺の居た世界じゃ魔物すら居ないからよく分からないけど」

 個人的には光りのアイテムで弱体化するとかそういうサービスがあるととってもありがたい。まぁ世の中そう都合良くいくとは思わないが。

「私も文献でしか知らないけど、最後に現れたのが200年前で、そのときはセダス国と帝国の混成部隊で挑んだらしいよ。約20万人の大軍で挑んだけど実際に生き延びたのは30人ちょっと。それも封印するのがやっとだって話。当時は異世界から喚ばれた英雄をまとも……て言うとちょっと変だけど、少なくとも雑に扱うようなことはなかったわ」

「なるほど」

 要するに分からないってことか。アバウト過ぎると思うけどクレアの言い分は理解できる。

 スポーツに興味のない人間に対して『この選手はとても強い!』とアピールしてもその凄さが上手く伝わらない。時折、そうした人間は山に例えられることがある。山というのは麓にいてもその凄さが分からないもの。遠く離れて初めてその山を知ることができる。

「まぁ、そういう訳だから今日も夜までハヅキ君には構ってあげられないけど、今日はハヅキ君にやってもらうことがあるから」

「何を?」

「能力検査」

 空になった食器を片付けながらクレアは説明する。

 この世界の住人は誰もが魔力を持っている。今回は俺の魔力値と魔力制御の訓練の為にクレアの専属メイドが面倒を見るとのこと。

「今のハヅキ君は魔力を垂れ流してる状態だから、制御さえ覚えれば節約にも繋がるしね!」

 ……要するに今の俺は蛇口を閉めきってない水道みたいなものらしい。魔力を無意識に放出してるだけでなく、生きる為の魔力も同時に消費。うん、確かに無駄しかないわ。

(ミゼンの奴どうしてるかな……)

 ふと気になったのは別行動中のミゼンのこと。

 ミゼン曰く、『セダス国の王族は嫌い……』ということで男たちが住むと言われる地下街に居る。何かあれば安宿まで出向けばいいとも言ってた。おいていくのはかなり心が痛んだがミゼンに押し切られたのと現状、クレアの魔力供給なしではかなり厳しいものがあるという理由から城にいる。まぁ別れたのは昨日なんだけど。

(訓練終わった後で会いに行くか)

 密かに決意を固めながら、俺は今日から始まる訓練に向けて気合いを入れるのだった。


「初見。我、タバサ。貴様、ハヅキ=キサラギ?」

「えとえと、クレア様から紹介を受けてるとは思いますがこちらの方がクレア様専属メイドのタバサさんです。で、タバサさんはあなたがハヅキさんで間違いないですかっと仰ってます」

「あー、うん……俺がハヅキだな。ハヅキ=キサラギ」

「承諾。早速訓練開始」

「訓練を開始するそうです」

 なんかノワールと一緒にすっごい個性的な専属メイドが現れたんですけど?

 肩まで揃えた栗色の髪に……真っ黒な帯で目隠し。クレア曰く、『目が見えない』そうだ。盲目なのに普通に動けるのは常時発動させてる微弱な風で周りのものを把握してるから。

 パッと見た感じ、歳は俺より2つ上ぐらいじゃないだろうか?

「結果ノワール朗読。承諾?」

「えーっと、結果が出たらノワールが口頭で伝えろってこと?」

「肯定」

 おかしいなー。言葉は通じてる筈なのに通訳しなきゃいけないなんて……。

 戸惑っている間にも測定は始まる。と言っても難しいことはしない。ただ指先を軽く切って特殊な加工を施した羊皮紙に数滴垂らすだけ。

 言われた通り、俺は羊皮紙に血を垂らす。すると淡い青白い光りが羊皮紙から発せられ、ぽぅっと光の文字が浮かぶ。

 断っておくと俺は字が読めない。だから今回は通訳として連れてきたノワールがそれを読み上げることになる。

「えっと……最大魔力値が6400で現在の魔力値が700と出てます。……え、なんですかこれ?」

「ノワール、事実?」

「は、はい。間違いありません。……というかこれ、もし本当でしたら結構問題ですよね?」

 何が問題なんだ?

 そうノワールに質問すると彼女は(タバサの解説込みで)丁寧に解説してくれた。普段はドジッ娘だがやはり王宮勤めのメイドは伊達じゃないってことか。

 結論から言えば俺の魔力値は並み程度。つまり、そこら辺にいる魔術師と同格か、少し上回る程度の魔力しか持ちあわせてない。参考程度に宮廷魔術師の平均値が10000ちょっと。クレアが19800でフィリーが10500弱。俺を喚んだクリスは貫禄の130000越え。というかクレア、魔法苦手なわりにはそれなりの魔力持ってるんだな。流石は王族ってところか。

「我、疑問。現存魔力値貴様既消滅」

「えっと、タバサさんが仰るにはハヅキさんの魔力値では既に消滅してもおかしくないのに今こうして私たちとお話できることが不思議で仕方ないって仰ってます」

 スゲーよノワール。何がスゲーってこの意味不明な言葉を正しく通訳できるのがスゲー。

「現状貴様魔力保留。現在優先魔力制御、承諾?」

 俺の魔力はおいといて魔力の制御訓練をするのが優先事項って意味かな?

 半信半疑のまま頷いた後でタバサから説明が来るんじゃないかと思ったがここはノワールが説明してくれるらしい。正直すんごくありがたい。左手に持ってるカンペなんて見えません。

「えっと、まずはハヅキさんが自分の身体に宿してる魔力を自覚するところから始めるそうです。確かハヅキさんの世界は存在しないんでしたよね?」

 この辺の事情はクレアとノワールには既に話してある。他の連中にも特に隠す必要性を感じてないので素直に頷く。

「魔力は、身体の芯を支える一部です」

 ぽぅっと、ノワールの手が青白く光る。見た目が派手な魔法は戦闘中に見たことあるけどこういうこともできるんだと知ってかなり驚いた。

「すげーなノワール。ただのドジッ娘じゃなかったのか」

「だからドジッ娘から離れて下さいッ。それにこれは魔力を大雑把に移動させてるだけですから誰でもできますよ」

「そうなのか……」

 大雑把ってどのぐらい大雑把なんだろう……とは言わない。ドジッ娘相手だと話が脱線しそうだ。

「ハヅキさん、身体がだるく感じたことありますよね? それは身体を支えていた魔力が激減したのが原因なんだそうです。……まぁ厳密には違うらしいんですが今はこの解釈で間違いないそうです」

「ふむ。激しい運動をすれば全身が疲れて休憩を挟まないと動けないのと同じ理屈か」

「はい。……え、ハヅキさん何でそんな物わかりいいんですか?」

「微妙に失礼だな」

 ここまで聞いてみた限り、そう難しいことを言ってる訳でもないから理解できるだけだし、専門用語がバンバン飛び出てきたらパンクしてたかも知れない。

「それでノワール、肝心の制御方法は?」

「あ、はい。えっとですね、魔力を生み出してるのは丁度左胸辺りで、まずはそこに魔力が存在することを自覚するところから始めて下さい」

 左胸……心臓が魔力を作ってるってことか。この世界じゃ心臓はポンプの役目だけじゃなくて脾臓と似た役割を担ってるんだな。

 そんなことを考えながら右手を心臓に当てて目を閉じる。魔力が存在することを自覚すると、ノワールは言ってた。つまりそこに魔力があると思い込めば──

「………………」

 思い込めば……。

「…………………………」

 思い込めばッ!

「…………………………………………」

 出てこい俺の魔力! 魔法なんか捨てて出て来やがれ……ッ!

「……身体は魔力で出来ている…………」

「マジメにやって下さい」

「…………ハイ」

 かなりマジだったのにノワールに怒られた。


 所変わり、ここは会議室。今回この場にいるのはクリスティナとクレスメント、イザベラとフィリー、そしてトトゥーリアの五人。何故トトゥーリアが平然とこの場にいるのか、フィリー、クレスメントとしては大いに不満だが、今言うべきことではないので怒りをそっと腹の底にしまいこむ。鉄の如き自制心がなければ精鋭揃いの天空騎士団を束ねることなど出来ないからだ。

「先の戦での死者は28人。うち天空騎士が3人の死亡を確認。重傷者・軽傷者合わせて256人。想定内の被害です。件の混成部隊の出所ですが斥候から南東の魔物が激減したとの報告が上がってます。恐らくはそこから調達したものと思われます」

 報告をしたのはクレスメント。その後も淡々と報告を続けていく。

 部隊は既に再編済み。警戒レベルは一級を維持。首謀者はファントムと名乗った男と側に使えていたネクロマンサー。この辺はクリスティナたちにはない情報だ。

「ネクロマンサー……死者を操る禁術を扱う者。帝国はそんな切り札を持っていたのね」

「ですが、何故このようなタイミングで使ったのか。私には分かりかねます」

 先の戦はどう見ても本気ではない。フィリーの報告も合わせてみればファントムなる男が前線に出ていればこちらも甚大な被害を受けたであろう。そこに正規軍が加われば……なんてことは考えたくもない。

「彼らは遊びと言ってました」

「贅沢ですね。こちらは余裕がないというのに……」

 繰り返すが、セダス国は軍事力に関しては精鋭揃いだが同盟国と呼べるような国がない。言わば陸の孤島に位置する強国だ。正確に言えば同盟国は200年前の戦争で滅んだと言うべきだが。

「魔王については?」

「牛歩の速度だけど封印は確実に弱まってる。最短で1年、遅くても1年半後には顕現するわ」

 深い溜め息を吐きそうになるのをグッと堪える。本来ならばすぐにでも葉月の協力を得るなり帝国との交渉を進めるべき状況であるにも関わらず、クリスティナを始めとする重鎮たちはそれを行おうとはしない。

(新しい英雄でも召喚するつもり?)

 クリスティナならやりかねないと一瞬思うクレスメント。だがそれはないと断言できる。

 そもそも召喚術とは時空・次元を超えて英雄を召喚する大魔法だ。召喚時に用いる膨大な魔力に下準備、複雑な術式に星の位置など、入念な下準備と条件が揃って初めて行使できるものだ。

「クレア」

 思考の渦に落ちかけていたのを引き上げたのは、クリスティナの声だった。

「件の男は何故戻って来たと思う?」

「さぁ。本人に聞いたら?」

「クレスメント、クリスティナ様を馬鹿にしてるのか?」

 抗議の声を上げるイザベラ。尤もらしいことを言っているが、結局のところ自分で確認を取らない辺りやる気のなさが窺える……と、クレスメントはそっと思った。

 彼女にとって、葉月が何故戻って来たのかは分からない。はっきりしていることは自分はまだ必要とされてること、召喚されたことに関しては周りが想像してるよりも怒りを覚えてないことぐらいか。事実、彼が嘆いているのは自分を取り巻く環境ではなく自分自身の弱さだ。ソースは彼とのピロートークなのはここだけの話。

「まどろっこしいことしないで、知りたいなら本人に聞けばいいわ。ハヅキ君、私たちのこと殆ど警戒してないし。……その辺は暗殺に失敗した無能な刺客さんが詳しいんじゃない?」

 皮肉を言った本人は『ざまぁ見ろ』とでも言わんばかりの笑顔。言われた側としてはうざったことこの上ない。

「……確かに彼は平和ボケが過ぎてるところがあります」

 ポーカーフェイスを維持したまま、答えるトトゥーリア。

「あんな目に遭ったにも関わらず舞い戻ってくるなんてお人好しを通し超しての馬鹿です。案外、利用しやすい駒だと私は思いますが?」

「ふむ……。つまり、こちらがよほど理不尽なことを要求しない限りは牙を剥くことはない、と?」

 イザベラの問いに頷いたのはクレスメント。そうならないように最大限の努力はしようと決意を固めた上での肯定である。

「男に関しては現状、保留ということにしましょう」

 そうしてクリスティナが出した結論は保留。つまり、現状維持である。

「この件に関してはクレアに任せるわ。必要なことがあればこっちでも支援する。但し、常に二人以上の手練れを監視役として派遣、場合によってはその場で殺害」

 有無を言わせぬ迫力でこの場を威圧するクリスティナの声。クレスメントから言葉はなく、周りはそれを肯定と受け取った。その後は細かい討伐予定や新兵の訓練についていくつか話し合ってから解散となった。

(まぁ、周りはああ言ってるけど……)

 カツカツと、廊下を歩きながらクリスティナは思う。この国で一番彼と親しい自分だからこそ、これは自信を持って言える。

 平和ボケした人間が力を持ったところで、牙を剥くなんてことは絶対にあり得ない──

 と。


 何も進展がないままお昼を迎えてしまった。アレだ、チート能力貰ったんだからパパッとできるんじゃね? という考えは流石に甘かった訳だ。

「ハヅキさんでも苦手なことってあるんですね」

 使用人用の食堂でノワール作のサンドウィッチとまた食べたいとリクエストしたので作ったうす塩で味付けただけのポテチをぱくつく。周囲から怪訝な視線を感じるが全員がそうって訳でもない。兵士舎の食堂なら最悪だけど。

「でも、そんなに落ち込むこともないですよ。魔力は持っていても魔法が使えないって人も沢山いるんですから」

「そうなのか?」

「セダス国だけで見るなら約50人……200人に1人が使えない計算よ」

 そう答えたのは正面に座ってる大柄で、かつモデルのようにすらりとした体格を持ち、どこか淫靡な雰囲気を持つノワールの後輩メイドのリサ。ノワールの先輩メイドじゃね? と思ったのは俺だけじゃない筈。

「10000人中50人なら結構レアじゃないか?」

「あら、そうでもないわよ。……そうね、ハヅキは何故私たちが魔法を使えるか考えたことある?」

「何故って……」

 あれ? 言われてみれば確かにそうだ。今まで全く自覚してなかったけどミゼンもフィリーもどうして魔法が使えるんだ?

 魔力を制御できるから……は、理由としては弱いな。修行中にノワールから教えて貰った話によると魔力制御と魔法の行使は別物……らしい。

 ゲームや小説の世界なら事は単純だ。主人公、もしくは仲間が魔法を使える素養があって魔物を倒して経験値を経て、レベルアップすることで新しい魔法を覚えていく。

 或いは、精霊というものが存在して人と精霊との間にワンクッション置くことで人間が魔法を使えるようになる。

 ミゼンが使ってる妖刀やレッドダガーのような魔器はこの際おいとくとしよう。この中で一番有力なのはやっぱりアレか。

「精霊、もしくは妖精の力を借りてる?」

「あら、男ってもっと愚鈍かと思ってたけどあなたは意外と知恵は回るのね」

 正解じゃないけどねーっと付け足しながら答えるリサ。バカにされたのに腹が立たないのはこの人がおおらかな人間だからか。

「正確には、魔力を使えるようになった人はまず、神様に祈りを捧げるの。魔法を使えるようにして下さいって。火の属性を持つ人なら火神・カクヅチに。水の属性なら水神・クラミツハへ祈りを捧げるのよ」

「祈り、か……」

 正直な話、国単位では宗教ウェルカムでも個人単位では宗教嫌いと言いつつ宗教行事を取り入れてる日本人としては引き腰だったりする訳で……。

 小学生の頃とかまさにそうだ。宗教嫌っている癖にクリスマスはプレゼントが貰えるから好き。初詣は出店が出てるから好き。バレンタインは……まぁ好きなのは一部だけだな。

 毎年律儀なことに姉妹からチョコ貰ってた俺は毎年やっかみの対象となってた。

 俺の様子に気付いているのかいないのか、リサは更に話を進める。

「祈りを捧げると言っても、必ずしも神様がそれに答えてくれる訳じゃないわ。例えば帝国を縄張りにしてる盗賊団にも現役の魔術師がいるし、信仰心に篤くても魔法が使えない信徒を差し置いて、そそっかしくて良く失敗ばかりしてるノワール先輩は火・水・雷の三属性持ちだったりするのよ」

「こんなんでもは余計だよリサ!」

 あぁ、やっぱり後輩にも弄られてるんだ。

「因みに、ノワールみたいに三属性以上持ってる人って少ないわよ。ましてや、高い火力を持つ火と、最速を誇る雷、汎用性の高い水。これらの適正を持って生まれただけでも奇跡と言ってもいいわ。……普通ならね」

「うぅ……どうせ私は一発こっきりの大雑把な魔法しか撃てませんよ」

 よっぽど気にしてるんだな、才能ないこと。その気持ちはよく分かるぞノワール。誰だって才能あると信じてたのにそれを否定されちゃあ落ち込むわな。

「最初の魔法が使えない人間の話に戻るわね。彼らは魔法が使えなくても魔力は扱える。何故、使える者とそうでない者が出てくるかは諸説あるけど、どれも確証がないから割愛するわね。では、魔法が扱えない人たちは代わりにどんな手段を選ぶと思う?」

 どんな手段って、そりゃあ魔法を使わずして魔力を運用……あ、そうか。

「魔器……」

「正解。そうした人たちは魔法の代わりに魔器を選ぶわ。と言っても、魔器そのものが高級品だからそれができるのは一握りね。でも、世の中にはそんな高級品を条件次第で手に入れられる方法があるんだけど……なんだと思う?」

「うーん……」

 高級品たる魔器を手にする方法か。何の捻りもなく考えれば値切り交渉だがそれは正解ではない。リサは条件次第と言ったからだ。

 リサの口ぶりからすると魔器(多分店売りしてるような消耗品だろう)は適正のない人間が持つもの。魔法という適正を持った人間がわざわざ値の張る魔器を買う為に必死になって働く姿はちょっと想像できない。ミゼンが持つようなレア装備を偶然入手したのならそれはアリだろうが、この場合は違う。

 ……逆の立場で考えよう。俺が魔器職人で、お金のない客がどうしても魔器が欲しいと言ってきた。そんな彼らに突き付けられる条件と言えば……。

「試作品?」

「……本当、びっくりするぐらい賢いわね。あなた、向こうの世界じゃ貴族か何か?」

「いや。俺の国には貴族はいないし俺ぐらいの人間は沢山いる」

 かなり本気で驚くリサとノワールとは対照的な反応で答える。

 何故こんなに驚いてるのか少し考えて、すぐに答えが出た。

 きっとこの国──いや、この世界と言うべきか──は平民への教育に力を入れてないからだ。以前、クレアと一緒に町で食べ歩きをしたとき色んな建物を見たが学業を学ぶ為の学校というものは存在しなかった。小学校で習う字の読み書き、四則計算、国の成り立ち、道徳、それらを習うにはお金を払って家庭教師を雇うか商人に弟子入りするしかないだろう。今更ながら日本の教育水準の高さを思い知るとは……。

「魔器を作ったはいいけどそれが実戦に耐えられる代物でなければ意味がない。だから魔器専門の職人は冒険者に試作品の運用テストを依頼するわ。で、それが実戦に耐えられる代物ならその試作品がそのまま報酬になる訳よ」

 魔器の試作品か……。試作品というぐらいだから当然リスクはあるだろう。けど覚えておいて損はないだろう。

「ところでハヅキ、お昼食べたらまた制御訓練?」

「まぁな」

 本当は町に出て気分転換がてらミゼンに会いたいとこだが流石にこの状況で外出歩くのは……ねぇ?

「部屋にこもってばかりじゃ健康に悪いわよ。ノワール先輩もそうは思わなくて?」

「そうだけど……リサ、何か悪いことでも考えてるの?」

「人聞きが悪いわね、先輩。私はただ、気分転換がてら買い物に付き合ってもらおうと思っただけよ」

「要約すると荷物持ちか」

「あら。こんな綺麗なメイドさんと出歩けるなんて一種の特権だと思わない?」

 スッと、ごく自然な動作で細い腕を伸ばして指先で頬を撫でながら妖艶な笑みを浮かべる。あまりにも自然な動きだったせいで反応が遅れる。

「……まぁ、断る理由はないかな」

「決まりね。あ、ノワール先輩はお留守番でいいわよね?」

「わ、私も一緒に行きますッ! えぇ、リサと二人きりにしたら大変ですから私がお目付役として一緒します!」

「…………」

「………………」

「なんで二人揃って黙るんですか?!」

「だって、ねぇ……?」

 と、意味ありげな視線を向けるリサ。これは……うん、どう見ても俺たちがノワールの保護者にしか見えない。彼女には悪いが間違いなくそういう光景にしか見えない。


主人公の魔力が低いのにはちゃんと理由があります。

早めに主人公無双できるよう頑張ります。

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