表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界旅行記  作者: 想明 芳野
異世界召喚編
11/25

俺たちの依頼は始まったばかりだ!

前回、葉月たちの居場所が監視の腕輪で逐一チェックされてるような描写がありましたがあれは間違いです。

そしてタイトルが(以下略)

 葉月とミゼンが呑気に依頼を受けてる頃、セダス国に広がるアラド荒野は戦場と化していた。砂と岩しかない荒廃した景観ではあるが、今この瞬間だけは違った。

 己の拳を、或いは手にした武器で、後方からの魔法を頼みの綱として押し寄せる、凡そ1000体規模の魔物たち。徒党を組んで人族の生活圏を襲う魔物がいるのは知られているが、組織化した動きを見せるのは異例と言ってもいい。

 だが──

「いくら何でもナメ過ぎじゃない?」

 空を覆う五つの影。セダス国が大陸に誇る天空騎士団。単騎だけでも手に余る戦力だというのに、その数五騎。更に城下町への被害を考慮して地上で応戦してる500の騎士。単純な数値だけ見れば二倍の戦力差。だがセダス国の者は誰一人、自分たちの勝利を疑っていない。

 侯爵級のドラゴンに跨がり、指示を出すのは天空騎士団の団長・クレスメント。相棒は彼女の指示に従い、口から吐き出されたのは全てを凍てつかせる息吹。眼下でわらわらと蟻のように群れをなしてた魔物の大多数は一瞬にして凍結。すぐ側に控えて追撃役の竜騎士が圧倒的な力で氷像を砕き、残った竜騎士は後衛を潰す。取りこぼした魔物たちは魔術師たちが一斉掃射して対応。それでも命からがら死線をくぐり抜けてきた魔物を待ち構えていたのは無慈悲に広がる剣林。

 要するに、戦力に差がありすぎてまともな勝負になる筈もなく、終始一方的な展開で幕を閉じたのだ。その様子を冷静に観察しているのは総大将を任されたイザベラ。何処までも戦局を客観的に分析した結果はおかしいの一言に尽きる。

 魔物が組織的な動きを見せたのは驚いたが、本当の意味で驚いたのは編成された魔物たちだ。オーガやトロール、ワーウルフといった混合部隊などイザベラは聞いたことがない。

 派遣──そう言っていいかは微妙なところだが──された魔物のレベルが低いのも気になるが、そこは単純にこちらの戦力を見る為の使い捨ての威力偵察と考えればいい。セダス国周辺の荒野には今し方、相手にしたような魔物より強い魔物が多く生息していることを知らない訳がない。

 思考を打ち切ってクリスティナに報告する為に城へ戻ろうとした時、息を切らせながら斥候が駆け込んできた。

「敵、第二陣を確認! 数、凡そ500! ドレイクとバジリスクの混合部隊です!」

「ドレイクとバジリスクの混合部隊? 見間違いではないのか?」

「いえ。間違いありませんッ」

「そうか……」

 こと部下の諜報力には信を置いてるのでそれ以上の言及はせず考え込む。

 ドレイクとバジリスク。この二つの種族は先祖の時代から対立してきた関係にある。強靱な肉体を持つドレイクに対して、魔眼を持つバジリスク。どちらも中級冒険者にとっては五指に入る強敵として数えられ、同時にドラゴンと戦う為の練習相手としても知られる。

 特筆すべき点はどちらも変化をすること。変化をすればそれまで受けたダメージは全て回復してしまうのでそうなる前に叩くのがセオリーだ。

(ドレイク共が後方で指揮を執ってたと考えるのが無難か……)

 結論を出すには早計過ぎるが、気にとめておく価値はあるだろう。

 考えもそこそこにしてイザベラは手短に指示を出す。

 厄介な相手ではあるが所詮は階級なしだ。殲滅に時間が掛かるだけで、セダス国の敵にはなり得ない相手だ。


 不意打ちを受けて一度は焦ったが、冷静に考えれば魔術師はどうにでもなる。

 アンデット系の魔物らしくただそこに居るだけで群れの特権である連携などはまるでなし。つまり、分断して各個撃破すればいい。

 迷える騎士を曲がり角まで誘き寄せて、振り向きざまに一発叩き込む。下半身でしっかりと上半身を支え、腕力だけでなく身体の捻りも加えた一撃。元のポテンシャルが高いから意識しないとすぐ手打ちになってしまう。

 衝撃。

 バトルソードを通じて激しい衝撃が腕に伝わるがどうにか堪える。俺の全力攻撃を受けた迷える騎士はよろめきながら壁にぶつかる。すかさずもう一発、バトルソードを叩き込んでやる。

 ガギイィンッと、鎧が大きくへこみ、ついで片腕がぽろりともげる。それでも迷える騎士は痛みを感じない身体を最大限に利用し、残った腕を振り上げてくる。リアルでヒットストップなしってチートだな……。

 振り抜かれた一撃は剣を引き戻して腹で受け止める。互いの力が一瞬だけ拮抗するがすぐにそれは崩れた。

 力比べなんて俺の趣味じゃない。咄嗟の判断で剣を手放し、下から懐へ潜り込んでそのまま巴投げを決める。老朽化した木製の手すりを壊し、派手な音を立てながら一階エントランスへ落下した迷える騎士。上から様子を伺ってみたが、動く気配はない。

(アンデットなのに物理で倒せるとはこれいかに……)

 ものすごく気になることだが考えても仕方ない。バトルソードを回収してからミゼンの援護に向かう。丁度、レブナント化した魔術師の首をミゼンが跳ねる場面を目撃した。

 ……これ以上の説明はしない。したら1D20でSANチェック入ります。数値が高いのはリアル補正込みだから。

「ハヅキ、終わった?」

「あ、あぁ……うん。終わったよ」

 そう言うと、とことこととミゼンが近づいてくる。何だ、と思う間もなく右手を差し出してきた。丁度、子供が親にお金を強請るように掌を見せながら。

「…………えっと、こうでいいの?」

 5秒ほど、たっぷり時間を掛けて出した結論。右手で掌をパチンと叩く。

 果たしてそれは正解であり、満足そうに笑ってみせる。

 ハヅキも一緒に……と催促されたのでミゼンに習い、同じようにやる。

「なんかRPGのパーティーみたいなだな」

「あーるぴーじー?」

「俺の世界にあった、一昔前に流行ったゲームのジャンル。結構人気あったぞ」

 個人的には90年代後半から05年が最盛期。色んなRPGやってファンタジーの世界行って勇者たちと一緒に冒険したいという願望が強かった。

 ……まぁ今現在それを体験してるし、ミゼンはあっちの世界では絶対お目にかかれないくらい綺麗だし、考えようによっちゃこれ、二次元の世界へダイブしたってことだしな!

 ……SA●みたいなデスゲーム仕様ですけど。

「身体、大丈夫?」

「んー……今日中なら大丈夫だと思うぞ。戦闘でもない限りは」

 だから俺としては目的のブツを回収してさっさと依頼達成して回復したいところだ。回復しても次の仕事が待ってるけどね!

 心配してくれるミゼンを気遣ってから俺は地図に記された奥の部屋へと入る。ふわっと埃が舞い上がるものの、それ以外は至って普通の部屋だ。

 天蓋付きベッドに執務用と思われる机。大きな暖炉。本棚。何となく本を手に取ってみるが、どの本にもタイトルが書いてないのが気になった。今のところ字が読めなくて困る場面がないからスルーしてる。

「ハヅキ、こっち」

 ミゼンがちょいちょいと手招きをしてきた。目的の金庫はベッドの横の壁に巧妙に隠された隠し戸の中にあった。

「本当にダイヤル式だ。……魔法か何か掛けられてるってオチはないよな?」

「大丈夫。マジックロックの開錠もできる」

「へぇ。それってどうやるの?」

「耐久地以上の魔力を流すだけ」

 ミゼン、それ開錠ちゃう。力技や。

 と、心の中でそっと突っ込みを入れてからダイヤルに手を掛ける。番号は確か36,10,59,97だったな。……何処か懐かしい数字だが多分気のせいだ。

「お、開いた」

 ぽーん……という音の後にガチャっというおきまりの音。無言で金庫を開けると目的のブツらしきものは確かにあった。

 革製のハードカバー(鍵付き)が三冊。依頼の品は●辞苑的なものを想像してたんだが……。

「こんな薄っぺらいのに鍵付きのカバー?」

 しかもその鍵は紋章が浮かんでるだけで鍵穴らしきものが見当たらない。これがミゼンの言うマジックロックってやつか?

「それは多分、焚書指定だと思う」

 俺の疑問に答えてくれたミゼン。むしろミゼン以外の人が答えたら怖い。

 焚書指定つったらあーた……軍とか教会とかに見つかったらヤバい代物だぞッ!

 さっさと持ち帰ると決めた俺とミゼン。と、丁度そのとき、玄関の方から物々しい音が聞こえた。

「なんだ?」

 異世界補正なのか、それなりに距離がある筈なのに俺は音をしっかり聞き取れていた。

 足音は複数。金属同士がぶつかり合う音がするのは鎧を着てるから。一分もしないうちにこの部屋に踏み込んでくることも……。

「外もダメ……」

 チラッと窓の外を窺ってたミゼンが言う。

 俺たちを狙ってきたか、或いは偶然か。いずれにしろ穏やかな展開とは思えない。

 隠れるべきか、大人しくするべきか。……まぁ考えるまでもないか。

「あの本棚が怪しいな」

 均一に並ぶ本の中で一つだけ痛みが激しいのを見つける。ゲーム脳に従うのならこの手の本には仕掛けがあると決まってる。

 縦に本をずらしてみれば案の定、本棚が静かにスライドし、如何にもな感じの隠し通路が姿を見せた。


 クリスティナに命じられた男の捜索でアルヤードまで出払ったのは意外だったが、こんなにも早く見つかるのは想定外だった。本来ならトトゥーリアが現場指揮を取らなければならないがフィリーとの戦闘が予想以上に激しかったこともあり、部下が代わりを務めることになった。

「相手はもう袋の鼠よ」

 外に60の兵士で囲み、突入と巡回に20人ずつ人数を割いてある。葉月の隣にいたエルフ似の少女が少し気になるが案内役を買って出たガイドだろう。

「レミィさん、男の処遇はどうします?」

「殺しても構わないそうだ。……もっとも、身体を維持するほどの魔力は残り僅かだ。手を下さなくても今夜には消滅するさ」

 だが、万が一ということもある。それに自らの手で殺した方が信用性は増す。

 一応、罠の類には注意し扉を魔法で吹き飛ばして突入する。埃が部屋中に舞い上がるが視界が悪くなるほどではないが、葉月の姿はなかった。

「…………」

 レミィは無言で本棚に歩み寄る。注視せずとも、本棚を動かした形跡、そして一部の本を弄った形跡が見られた。

 痕跡に従って本を動かせば彼女の予想通り、本棚が横にスライドして隠し通路が姿を見せた。

「隠し通路ですか」

「見つけたのは褒めてあげますけど、ただの延命措置に過ぎませんね」

「同感だな」

 事前の下調べではこの屋敷に外へ脱出する為の隠し通路は存在しない。ましてやミランダは錬金術と魔法学に精通した学者だ。この手の通路の奥には彼女が秘匿としてる研究室があると見ていい。

 数名の兵士だけを連れて狭い隠し通路を歩くと研究室らしき部屋が見えた。

 壁一面を埋める棚と中央に小さな机が二つと、その上に乱雑する実験器具に魔道書。そして用途の分からないマジックアイテムが床に散らばってるだけの部屋。

「居ない、だと……?」

 何処かに見落としがないかもう一度部屋を見渡す。人が隠れられそうなスペースも、それらしき仕掛けも何もない、研究する為だけの部屋がレミィの目に広がってる。

「……やられたッ! 奴はもう脱出してる可能性がある!」

 レミィの声に兵士たちは弾かれるように隠し部屋から出て行き、矢継ぎ早に指示を出す。アルヤードの街は地元の人間でも迷うような造りとなってる。捜索が遅れれば遅れるほど、相手を見つけるのが困難になることをレミィは知ってる。

 だからこそ一分一秒を惜しむように、残りの部下たちに捜索命令を出した。どのみち、明日まで生き延びることの出来ない身体だが、どうせなら自分の手で殺しておきたい。

 セダス国の徹底した女尊男卑は、葉月が考えてるよりもずっと根深いものなのだ。


「…………行ったかな?」

「大丈夫。もう聞こえない」

 追っ手……と思われる人間が出て行ったのを確認してから苦労しながら暖炉から出る。

 隠し通路を使うという案は確かに魅力的だったが、そこで思いとどまることができたのは僥倖だった。

 仮にも相手は訓練を受けた人間だ。この部屋は埃が溜まっているから本棚が動けば必ずその痕跡が残る。その痕跡を見つければ必ず相手は踏み込んでくる。

 暖炉を調べられたらおしまいという懸念もあったが、本棚の件を話したらミゼンが魔法でどうにかすると言ってきた。

 使った魔法は【アウトアイ】と【ハイド】と呼ばれる二つの初級魔法。【アウトアイ】の効果は指定したオブジェクトへの感心を逸らし、【ハイド】はカモフラージュ率を高める魔法。初級魔法というだけあって【アウトアイ】は抵抗力を持ってなくても頭の片隅において意識すれば容易く看破できるとのこと。

 そして【ハイド】は文字通り、隠れる為の魔法。ただ、これは近づかれただけで勘付かれるのである程度距離を取る必要がある。だから俺たちは念のため、煙の通り道となる煙突へ登っておく必要があった。

 博打であったことは認めるが、最終的に勝てばこっちのものだ。

「いや、本当助かったよミゼン。お前が居てくれなきゃ今頃牢屋にぶち込まれてたよ」

 今回の功労者であるミゼンを労うべく、ぽんと軽く手を置いて撫でてやるとミゼンは小声で何か言ったが、よく聞き取れなかった。

 何て言ったか尋ねても教えてくれないし……もしかして嫌だったか?


 兵士たちを出し抜いた後、【ディスガイア】という変装魔法で姿を変えて兵士たちを欺き、ミランダさんの屋敷へと向かう。マジで魔法って便利だな。今回の件だって魔法がなければ間違いなく詰んでたし俺も習おうかな──なんて思いながら応接間に足を運ぶと見覚えのある人が座っていた。

「フィリー……だったな?」

「男に名前を覚えられるのは不本意だけど……一応顔の識別ぐらいはできるみたいね」

「…………」

 ただの確認だったんだけどなー。

 感心半分嫌悪感半分といった風に答えるフィリーと、どういう訳か臨戦態勢に入るミゼン。三者三様の様子を不安げに見つめるミランダは完全に蚊帳の外だ。

「つーかお前、よくここが分かったな」

「この国で黒髪ってのは結構目立つものよ。そういう貴方はどうやってアルヤードに入ったの? マジックアイテムによる監視がないってことは通行証を使ったってことよね?」

「それは企業秘密だ」

 偽造したのがバレたら大変だし。

「それより、わざわざ男である俺に会いに来たんだ。それなりの用事があるんだろう?」

「…………。そうね、さっさと本題に入りましょう」

 そう前置きしてからフィリーは話を切り出してきた。まぁすぐにどうこうされるって訳じゃなさそうだけど……。

「さっき入った情報だけどセダス国が魔物の襲撃に遭った。第一陣、第二陣共に大きな被害はなかったけど、問題が起きたのはその後」

「ドラゴンでも現れたのですか?」

 あー、それならなんか納得できるかも。いつの時代に置いてもドラゴンって特別な存在だしな。

「もっと厄介よ。セダス国を襲った首謀者の中に死霊使いがいた。それによって屠られた魔物をレブナント化──端的に言えば強化された亡霊を使って強襲を掛けてきた」

「そうか。でもそれ、天空騎士団出せば一発で解決するんじゃないか?」

 先に後衛を潰すのは誰でも知ってる常套手段でもあるが、同時に効果的なやり方だ。地上戦を強いられてるならともかく、セダス国には制空権を支配するだけの力があると俺は見てる。クリスティナからその辺の話も聞いてるし。

「私とお姉様を含めて天空騎士団は20人しかいない。そして報告では既に3騎落とされてる」

「天空騎士団が3騎も!?」

 何やら驚きを隠せないミランダさん。そんなに凄いのか、天空騎士団って。

「普通の天空騎士が騎乗してるのは男爵級のレッドドラゴン。単独ならAランクの冒険者がパーティーを組まないと倒せないレベルよ」

「けど、俺にはどうすることもできない」

 なんか雲行きが怪しくなってきたので早めに釘を刺しておく。

 だって戦争だぞ? 人間相手(推測だけど)するのもそうだけど間違いなく戦闘のプロだぞ? ぽっと出の俺にどうにかなるレベルじゃねーだろ。

「私も反対。ハヅキは今、戦える身体じゃない……」

 俺を庇護するかのように、それまで沈黙を保っていたミゼンが怒気を含んだ声音で言い放ち、フィリーを睨み付ける。ついでに妖刀に手を伸ばしてる。刃傷沙汰とか止めてくれ、マジで。

「……ずっと気になってたんだけどこの娘なんなの? ガイドにしては物騒じゃない?」

「私にはミゼンという名前がある。それに私はガイドじゃなくてハヅキの友達」

「うむ、友達だな」

「ボケていい空気じゃないと思うのだけれど……」

 うん。ごめんミランダさん。ちょっとフィリーさんの言い分聞いてイラッとしたからつい出来心で……。

「まぁとにかく、俺じゃ協力できそうもないってのがこっちの言い分だ」

「お姉様はそう考えてないわ」

 ばっさりと切り捨てられる俺の主張。おっかしーなー。この手の百合キャラは男に頼るぐらいなら自分で! て来るのがテンプレじゃないのか?

「クレスメント様との模擬戦を覚えてる? そこであなたは雷の魔法を避けて見せたでしょう? そこまで魔力が回復できるかは疑問だけれど、それに近い状態まで持ち込めば或いは、というのがお姉様の見解。……それとも、お姉様見捨てる?」

「…………」

 直視しなくても分かる。肌をちりちり焼かれるような、明らかな敵意。一方的な主張で断れば斬る。その上でクリスのことを引き合いに出してきた。マジでセダス国の女の価値観を疑いたくなる。

 取り敢えずすぐ隣で今にも爆発しそうなミゼンを窘めながら冷めた紅茶を飲み干して考えを纏める。

 まず、セダス国に義理立てする理由があるか否か。

 これは全くない……とは言いがたい。クリスとの約束もあるが、冷静に考えればセダス国を見捨てるってのはノワールを見捨てることにも繋がる。そうなると俺の良心が痛む。

 次、協力することで得られるメリット。

 クリスは出来る限り協力すると言ってくれた。ならここで突撃してやればそれを引き合いに何かしらのお願い事ができるのではないか? それが何なのか草案すら浮かばない段階だが、恩を売るにはいい機会だ。魔力補充の件もあるし。

 最後、見捨てることで出てくる弊害。

 よしんばフィリーを突破できたとしよう。そうなると俺たちはお尋ね者になる可能性が出てくる。目撃者はミランダさんだけだがこっちは焚書指定と思われる書物をネタにすれば解決できそう。

 だが魔力の補給だけはどうにもならない。馬車馬のように働きまくって魔石を購入する毎日。……老死より先にヘマして死ぬか過労死するかも知れない。自由というのは捨てがたいが。

「どうする? あまり時間ないから早く決めて欲しいんだけど?」

 ……あまり深く考えてる暇はないらしい。

おまけ・本の正体


 ミランダは私室の中をうろうろしていた。著名な錬金術師である彼女の元には毎日のように依頼が舞い込んでくるが、どれ一つとして片付いていない。あれを御回収し損ねたのは痛恨のミスだ。故に、多少金を掛けてでも回収したいのが彼女の本音だ。

(あれがもし他の人の手に渡りでもしたら……ッ!)

 そう考えただけでもゾッとする。下手をしなくても自分の立場が危うくなるのは明白だ。

 結論から言えばミランダが所持してる件の書物は焚書、それも第一級の指定書物だ。にも関わらず、彼女はその書物を手放そうとは思わない。寧ろ集められる限り集めたいとさえ思ってる。

 それは彼女に限った話ではない。この国にいる貴族の殆どは危険を冒してでも焚書を手に入れ、それを最上の娯楽としてる。

(私があんなものに夢中になるなんて……あれを考えたあの連中は悪魔の化身よ! 悔しい、でも買っちゃう!)

 貴族たちを魅了して病まない焚書。薄いのは10ページ。多くても30ページしかないモノ。中身は様々だが、行き着き先は大体が裸体関係のもの。

 彼の者たちはそれをウス=異本と呼ぶ。そして葉月がそれを知ったならこう答えるだろう。

 同人活動ぐらい好きにやらせてやれ……と。


結論。ウス=異本を出したかっただけ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ