チート強しと言えど不意打ちは防げない
近々、ゲーム風キャラ紹介でも書こうかなと思ったり。
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主人公達が監視の腕輪を付けられてる描写がありましたが証明書を提示してるので居場所はまだ分かってません。
この世界の食事はどうも当たり外れが大きいようだ。
それなりに大きな街だから朝食は期待できるだろうと思い、食堂のメニュー(食事は別料金)から朝食セットを頼む。そうして出されたのはパンとオートミールでした。
異世界で初めて食べたのは豆スープ。テラードレイク討伐の時に立ち寄った村では具だくさんの野菜スープ。ミゼンとクオウさんの研究所では肉。そして今朝はオートミール……うん、極端だね。
「しかも甘すぎるし不味い……」
いや、味がどうこうというよりは口に入れた瞬間に感じる不快感がハンパない。これじゃあお粥でも食った方がマシだ。……日本の食生活に慣れ過ぎたのが原因か?
ともかく朝食は終始そんな感じだった。食事が終わったらその足ですぐにミランダさんとこの屋敷へ向かう。門番に依頼書を見せて、面倒なやり取りをして応接間に通される。ここで出たお菓子はパサパサだった。紅茶がなければ口の中が大変なことになってた。
「あなた達ですね。私の依頼を受けてくれるという冒険者は」
応接間へ姿を見せた依頼人は妙齢の女性だ。ウェーブの掛かった、キラキラと輝くブロンドの長髪にいかり肩。ここだけ見れば貴婦人と呼べるが、彼女の着ている服が美貌を台無しにしている。
科学者が着るような白衣に付いてる汚れ。香水の変わり漂う薬品らしき臭い。すす汚れた手袋。個人的には職業に興味があるが、今はそんなことを言っている場合じゃない。
「初めまして、ミス・エストック。私は葉月と申します。こちらにいるのは相方のミゼンです」
ミセス……と呼ぶべきか少し悩んだが多分これで会ってる筈だ。ミゼンは一度だけ会釈をする。
「初めまして、冒険者殿。私が今回の依頼人、ミランダ・エストックです。……では、依頼内容の説明に移させて頂きます」
コホン、とわざとらしく咳払いしてからミランダさんは話始める。
「大まかな経緯は省きますが、屋敷の敷地内に賊が侵入したのが事の始まりです。その中に運悪く死霊使いが居たせいでしょう、敷地内で埋葬した先祖を使役してきました。幸い、賊は討伐できたものの、ゴースト相手では私が抱える私兵部隊では歯が立たず、屋敷の中へ追いやるのが限界でした」
やっぱこの世界じゃゴースト系モンスターは倒せる扱いらしい。物理で殺せるかどうかは別問題として。
「あの、それでしたらゴースト退治はサブではなくメインなのでは?」
「いえ。ゴーストは時間さえ掛ければ討伐の目処も立ちますので。目的はあくまで書物の回収です。その……万が一にも他の者の手に渡ることを考えるだけで……ッ」
よほど大事な、或いは見られるとまずいものなのか、両肩を抱いてぶるぶると震えるミランダさん。まぁ……悪い人じゃなさそうだし、正式に引き受けていいかな。
「分かりました。それで、書物のある場所や具体的な表紙などを教えて頂けないでしょうか?」
「あ、あのその……」
なんだ。書物の話になると急にあたふたしたぞこの人。
「しょ、書物は二階右奥の部屋のダイヤル式金庫に入ってます! 二十秒以内にダイヤル番号を36,10,59,97の順番に合わせれば開きますので!」
「あ、あの──」
「さ、さぁ! もうお話は充分ですし私は仕事に戻りますのであなた達も早くお屋敷に向かって下さい! 吉報待ってますわっ!」
気付けば一方的に言いたいことを言われ、あっという間に応接間から出て行くミランダさん。あの人をあそこまで取り乱させるほどの書物……一体どんな代物なんだ?
因みに終始無言だったミゼンはあのパサパサしたクッキーを物珍しそうに眺めては小動物のようにもぐもぐ食べてました。感想訊いたら『美味しかった』とか。俺の味覚がおかしいのか?
帰り際、使用人から屋敷の鍵と地図を受け取り、問題の屋敷を目指す。冷静に考えればこれ、街中にモンスターが居るって状況だよな? それなら書物より先にこっち何とかした方がいいんじゃないか?
「多分、それは難しい」
俺の考えを伝えたらミゼンにばっさり切り捨てられた。
「個体差はあるけど、ゴースト系に共通してるのは全てが【物理無効】を持っていること。ハヅキが今、ゴーストモンスターと遭遇したら勝ち目はない」
だからゴーストは私が受け持つ。
そう言ってミゼンは黒塗りの鞘に収められた日本刀を掲げてみせる。自信ありと言うなら今回はミゼンに任せた方がいいだろう。
そんな感じで世間話をしながら歩くこと十数分。件の屋敷の前に到着する。依頼人から聞いた外見と一致するのはこの建物だけ。それを念入りに確認してから改めて全体を見渡す。
それなりに激しい戦闘だったのだろう、芝生には燃えた後、或いは何かで穿った跡があちこちに見られるが、屋敷を囲む塀のせいでそれ以上のことは分からない。
鍵を使って門を開けるとミゼンが屋敷の扉に手をかざす。するとぽぉ……と、全身から青白い光が溢れ出し、ふわりと髪を吹き上げる。
「……いる。一階に五体、二階に四体。大きな反応は二階」
「分かるのか?」
「初歩的な索敵魔法だから大まかな位置と数だけなら分かる。ハヅキも準備しておいた方がいい」
ミゼンの言葉に素直に従うことにした俺は腰に下げてたバトルソードを抜く。研究所を出るとき、ミゼンが俺に見繕ってくれたものだ。本来は両手持ち用の武器だが筋力が異常なまでに高い俺は片手でも楽々扱える。使うときはちゃんと両手持ちだけど。
ギィ……と、軋みをあげながら扉が左右に開く。
目に飛び込んだのは薄汚れた絨毯に埃を被ったシャンデリア、何者かによって荒らされた後、そして──ミランダさんの私兵部隊と思われる人の死体。
「……ッ。腐敗臭が凄いな」
無駄と分かっててもつい腐臭を払拭する仕草をとってしまう。
専門的な知識など皆無(あってもだいたい漫画知識やら●ィキ先生宛だからチグハグ)な俺には死んでからどのぐらい経っているかなんて分からない。ただ、腐りきった死体にハエや虫がたかっているのは臭いと相まって嫌悪感が増す。
……やっぱり、俺は根本的なところで甘い。
死体一つ取っても、それは否応なしに意識させられる。この世界で生き抜く為にもこういうのには慣れなきゃならないというのに。
魔物の死は割り切れる。意思疎通ができないこともあるし、何より家畜を殺す感覚で戦えば辛うじて耐えられる。けど人が死ぬところを見たのは一度だけで、それは軽いトラウマになってる。
込み上げてくる不快感を必死で抑え込み、視線をあげるとタイミング良く……と言うべきか。カタカタカタと、乾いた音を立てながら近づいてくる影とガシャン、ガシャンと、鉄がぶつかり合う音が耳に届く。
「ハヅキ、敵」
ミゼンに警告されるまでもない。敵は甲冑を纏った騎士が一体とその取り巻きと思われる骨系のモンスターが四体。これが噂に聞くアンデット系モンスターなんだろうか?
「なぁ、こいつらもゴースト系と同じように【物理無効】持ちだったりするのか?」
「大丈夫。でも奥にいる迷える騎士は【物理半減】持ちだから。ハヅキは取り巻きをお願い」
「分かった」
短く頷き、二人同時に地を蹴る。生物でない分、今回の戦闘は楽でいい──なんて楽観的なことを考えながら俺は剣を抜き放った。
「──経過は良好。これなら今日にでも現場復帰できるでしょう」
「ありがとう、ドクター」
城塞都市の一角に設けられた騎士専用の医療棟。その一室に今し方治療を終えた少女が医者に軽く頭を下げてテキパキと武具を装備していく。
医者は詮索することなくその様子を眺める。セダス国の首都にいる筈の彼女が何故、部下を連れていないのかは気になるところだが、それは医者の仕事から逸脱する。
「包帯だけは必ず毎日取り替えて下さい。身体は騎士の資本ですから」
「肝に銘じます」
そう言って病室から出て行き、人気のないところまで進むと彼女は懐から紫色にピアスを取り出す。貴族や豪商のような、富裕層しか手にすることのできない通信専用のマジックアイテムだ。とても高価ではあるが、携帯サイズだと通信時間が最大10分であるのが玉に瑕だ。
「クレスメント様……」
「フィリーね。ハヅキは見つかった?」
「いえ……」
クレアの期待を一蹴するような一言。勿論、そんなことを言う為にわざわざ貴重な通信時間を割いた訳ではない。
「悪い報告があります。アルヤードに駐屯している冒険者の3割……凡そ300人が帝国の引き抜きに遭いました。中には二つ名持ちの冒険者も居るとのことです」
「セダス国の体制では成功できない。ならば帝国へ渡ってチャンスを勝ち取る……と言ったところかしら?」
「それもありますが……どうも帝国側は身分を問わず、有能な者は優遇すると公言してました。住居や負傷時の補償、コネなどを撒き餌にされれば当然の結果とも言えますが」
「あぁ、やっぱそうくるわよね……」
女尊男卑の思考が根強いセダス国の女性は肉体的にも精神的にも男に負けぬよう向上心を胸に鍛錬に励む。だがこの世は未だに冒険者として生計を立ててる者は決して少なくない。出産率の低い国が軍事力を強化するなら身分や性別を問わず、冒険者の雇用も視野に入れるようにと前々から姉に言ってきたが、ついに妹の主張は受け入れられなかった。
「草の報告では人族のリーダーを中心に魔物の混合部隊も多く編成されてます。編成には時間が掛かるようでどうにか小競り合いを繰り返して編成を遅らせてはいますが、それも時間の問題かと」
「……。分かった、姉さんには私から言っておく。それとハヅキについては?」
「……お姉様、私の心配はしてくださらないのですか?」
「フィリーは信頼してるから問題ないわ。で、どうなの?」
「…………。それらしき人を見かけたと、アルヤードの衛兵から話を聞きました。セダス国から送られた百の援軍が死体を捜索してますが未だに見つかってません」
「分かったわ。引き続きハヅキの捜索に当たって。見つかったらファブレ男爵夫人の元に保護しといて。じゃ、切るわ」
容赦のない一方的な切断。ガクンと肩を落とすもすぐに気持ちを持ち直す。一見すると、クレスメントは一人の男に必要以上に固執しているように見られるがフィリーはそう思わない。
訓練を受けてないとはいえ正規軍を軽く上回る身体能力を有した男。他国の引き抜きに遭い、敵対されるぐらいなら手元におくべきだ。クリスティナと考えは違うが、自分としてもクレスメントの意見には賛同しているからこそ、こうして苦労の報われない任務に就いている。
(魔力の件もあるし、早く見つかればいいけど……)
証明書を持たない彼がどうやって証明書を手に入れたかは分からない。だが幸いにも自分が追われてるという自覚はかなり低い。これなら聞き込みをすればすぐに見つかるだろう。そう自分に言い聞かせながらフィリーは重たい身体を引きずるようにして人通りの多い表通りへと向かった。
開幕直後。骸骨に接近しながらバトルソードを中段に構えて薙ぎ払うように腕を振り抜く。ぶぉおんっ! と、凶刃となったバトルソードが唸りをあげ、足下に積もってた埃を風圧でまき散らしながら骸骨を容易く吹き飛ばし、あまつさえ空中でバラバラに分解した。気分はさながらホームランバッター。具体的には●ジラ●井あたり。
近くにいた二匹目が剣を振り上げてるのが映るが慌てない。相手の動作は余裕を持って見切れる。それなら少しは冒険してもいいだろう。
大振りの反動を活かすように一歩踏み込み一回転しながら軌道修正を図って二匹目に斬りかかる。アンデット故の思考か、貧弱な盾で受けきろうとするも全ては徒労で終わる。
(これで不調とかどんだけチートなんだよ)
今の俺は自分でも分かるくらい、力が入らない。多分、今ここでテラードレイクに遭遇したら逃げ切ることすら無理だろう。賭けても良い。
残る二匹の骸骨を一瞥する。知能が低い骸骨(いやただの偏見だけど)らしく、こちらの凶行や仲間の死などお構いなしに接近してくるので先と同じ要領で駆逐する。
自分の担当を終わらせ、ミゼンに目を向ければ彼女も丁度終わったところなのか、刀を鞘に戻していた。
「終わった……?」
「まぁな。そっちも終わったみたいだな」
「うん。【フレイムシューター】一発で沈むような敵だから」
……やっぱり現実で魔法の名前とか聞くと違和感感じるなー。
「なぁ、ゴーストみたいに【物理無効】のモンスターだと魔法とか特別な武器じゃないとダメなのか?」
もしそうだとしたら俺の能力は局所的に強いだけで御しやすい相手として認識される。
例えばネトゲーの防御ステータスにはVitとAgiの二種類から選ぶ。前者は単純に打たれ強く、後者はひたすら攻撃を躱すタイプ。実際はこれ以外にもステ振りがあるから一長一短が出てくる。そうした理屈から言えば俺は恐らく一部のステータスを極振りしたタイプなんだろう。
勿論、この世界の水準からすれば高レベルであるのは否定できない。が、一部の能力に秀でているだけに先のような特定のモンスターには手も足もでない。魔力が生命線というのもデメリットだ。昔遊んだRPGはMPが0になっても死ぬという理不尽設定だった。
「……。私には思い付かない。ごめんなさい…………」
「そっか。ま、思い付かないんじゃしゃーないよな。ミゼンにだって分からないことぐらいあるんだし」
「…………」
フォローを入れたつもりだったがミゼンは納得できてない様子。うーん、これはもしかしてやらかしちゃった系か?
そう思いながら俺たちは二階へ上がり、依頼の品がある部屋へと目指そうとする──が、やはりというか当然というか、RPGなら定番とも言える門番的なポジションに奴等はいた。
取り巻きと思われるのは先と同じ迷える騎士が二体に朽ちかけた肉体にボロボロの意匠を纏った人型のアンデットらしき敵が一人。そして噂の【物理無効】持ちのゴーストが通路の奥に控えてる。
「無視して進むことは……できそうにないな」
「うん。ゴーストだから間違いなく【すり抜け】も持ってる筈。それより厄介なのはアレ」
そう言ってミゼンが指指したのは人型アンデット。
曰く、あれはレブナントというアンデットの中でも格の高いモンスター。格が高いと言っても強さはピンキリ。今回の人型レブナントは未練を残した人間がレブナントへと昇華(?)したもの。ミゼン先生の豆知識より。
話し合いの結果、まずはミゼンが範囲魔法をぶち込んで奇襲を掛け、二人同時に突撃する。主導権を握らせることなく終わらせれば御の字。それができなければ臨機応変に、とのこと。
「じゃ、始めるね」
言って、曲がり角から飛び出すと同時にミゼンの掌から放たれたのはジャイロ回転しながら多くの敵を焼き払おうとする真っ赤な炎。
一拍遅れて耳朶に届く爆音。それを合図に俺たちはダッシュする。敏捷力のあるミゼンに一歩遅れる形で後を追う俺の目の前に映るのは膝を付いた迷える騎士。浅い一撃だったのか、それとも回避したのか判断が付かないが好都合だ。
──もらった……ッ!
袈裟斬りの軌道で振り抜く。だがそれは煙の向こうから放たれた魔法により、強制的に中断へと追い込まれる。殆どゼロ距離からしか認識できなかった俺に防御や回避の余裕などなく、衝突事故のように直撃して壁に打ち付けられる。
「ごっ、がぁ……あぁっ!」
予想外の威力に酸素と一緒に血が口から吐き出た。壁に打ち付けられたときの衝撃は大したことはない。だが魔法そのものの威力がおかしい。見た目は野球ボールに似た何か。それが飛んできた程度の攻撃。にも関わらずこの威力……ッ!
(まずい……ッ)
痛みで危うく思考が途切れそうになったところを繋ぎ止めた自分を褒めてやりたい。目の前には剣を振り下ろそうとする騎士の姿。奇跡的に握っていたバトルソードを片手だけで振り上げる。
ガキィインッ……と、金属同士が激しくぶつかり合う。限りなく不利な体勢からの一撃だったが、迷える騎士の攻撃を弾くぐらいのことはできるようだが……。
「洒落になんねーぞ、これ……」
デタラメな能力のお陰か、見なくても負傷した箇所が再生していってるのが分かる。それに比例するように全身にのし掛かる謎の虚脱感。こんな調子で攻撃受けたら今日中に消えてもおかしくないぞ。
「ハヅキ……っ!」
「大丈夫だミゼン。もう回復した」
喰らった直後は死ぬほど痛かったのにもう痛みは引いている。だがその代償は大きく、手に握ったバトルソードがやけに重く感じられる。
「ミゼンはゴーストに集中してろ。今すぐどうこうなる状態じゃないッ」
「でも……」
「俺なら大丈夫だから、な? だからミゼンは自分の役目に集中してくれ」
言いながら、迷える騎士の追撃を両手で持ったバトルソードでいなしながら答える。注意すべき敵は騎士ではなくレブナント化したあの魔術師。それさえ分かればどうってことはない!
少しだけミゼンは躊躇いをみせるも、すぐに頷いてゴーストへ向き直る。そんな彼女の後ろ姿を見守りながら俺は場違いなことを考えてた。
チート能力もらっても、貰う側が無能じゃ意味ないんだな……と。