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巫女な妹、護衛な私

さて君達。


君達は“異世界トリップ”なるものをどう思う?


「そんなの在りえない」

「所詮、小説の中のお話」


たぶん、そう言った答えが返ってくるだろう。私もそれを否定はしない。


というより、私もそう思う側の人間だ。どちらかと言えば私ではなく妹の方がそういったファンタジーやSFめいた事を夢見ていた。


なんせ妹は中学3年までサンタクロースが実在すると信じていたし、今でも世界の平和は人知れず正義の味方によって守られていると思っているのだ。


もう高校2年生、17歳にもなっているのにちょっと……いや、ちょっとどころじゃなく物凄く心配だ。


そんなメルヘンな思考を持つ妹を生温かい目で見守っていた私なのだが、実は私と妹がそんなファンタジーな存在の代表だと知ったのは1ヶ月も前の事だ。


ところで、話がいきなり変わって申し訳ないが私と妹は双子の姉妹だ。


え? 話し方が女らしくない? 自覚してるがその説明はまた後にしてくれ。今は私と妹が何故ファンタジーな存在の代表なのかを語らなければならないのだから。


話が脱線したが、私と妹は双子の姉妹だ。だが、そう説明すると必ず『嘘だ』と言われる。その理由も分かっている。


私と妹は外見が全く似ていないのだ。しかもそれは二卵生双生児だから、というレベルではない。


……一応断っておくが、私と妹は一卵性双生児らしい。何故自分で『らしい』などと言うのは、実は私がそれを一番信じていないからだ。両親が疑った私に対してDNA鑑定までして証明したのだから本当だと言うので、一応は信じてはいるが。


と、話に戻ろう。


ますは身長だ。


妹は同世代の平均身長より若干低い153cm。対する私は男子並みの170cm。その差17cm。二人で並ぶと妹の背は私の顎あたりまでしかない。


次に体型。


妹はいわゆる『出るところは出て引っ込むところは引っ込んでる』という言葉を体現している。厭らしくなほどに主張する胸に、理想的ともいえる腰の括れ、そこから続くヒップラインから伸びるしなやか脚はモデル並に綺麗だ。


対する私は良く言えばスレンダー、悪く言えば貧乳だ。引き締まって無駄がないとよく言われるが、一時期はそう言われる度に妹と比較して揶揄されていると思ったほどだ。


そして最後に容姿。


妹は絶世の美少女だ。姉の贔屓目を差し引いてもかなりのものだと思っている。実際、学校では妹のファンクラブなるものが存在し、街を歩けばナンパと芸能事務所のスカウトが引っ切り無しに群がってくる。しかしそれも無理はないだろう。


限りなく白に近いプラチナブロンドの長い髪は、質も柔らかくふんわりとした手触り。瞳も澄んだ綺麗な瑠璃色だ。もちろんそれらは染めてもいなければカラーコンタクトでもない。純度100%天然物。瑠璃色の瞳は父親から、プラチナブロンドは母親からの遺伝だ。


そんな物凄く人目を引く妹の容姿に対し、私はというと、まあ、ひと言で言うのなら『黒』だ。


顔は自分で言うのは何だが、どちらかと言えば整っている方だろう。妹は『凄い美人だよ!』と言ってくれるが、絶世の美少女に言われてもいまいちピンとこない。そして髪も瞳も黒。まあ腰まである髪は絹糸のように滑らかで、それが数少ない自慢ではあるが、私の容姿は『親の遺伝子はどこにいった?』ってな具合だ。


さて、そんな妹と私が並んで『一卵性双生児です』と言われて君たちは信じるか? 正直に言って構わない。絶対に信じれらないだろう。もう一度言う事になるが私が一番信じていない。


ではそろそろ本題に入ろう。


あれはそう、忘れもしない1ヶ月前、日曜日だった。


その日は特に用事などはなく、軽く身体を動かした後で自分の部屋でまったりとしている時だった。突然両親が『話がある』と言って私と妹を父の書斎へと呼んだ。


私の家は、両親共に日本人らしくないのに古き良き日本家屋だ。2年前に亡くなった祖父の家で両親も気に入っているから建て替える気はなかったとの事。今はそんな事どうでもいいか。


畳が敷き詰められた8畳ほどの広さの書斎。その中央に置かれている座卓。正面に両親が座り隣に妹。


家族で一緒に食事をする時もそうなのだが、そういった構図になる度に私は一人場違いな存在なんじゃないかと思う事が時々ある。以前、一度それを口にしたら母が物凄い勢いで目を潤ませたため、今は思っていても口にはしない。


急に開催された家族会議の様な現状。正面に座る両親は今までに見た事ないほどに真剣な表情をしていた。そんな雰囲気に呑まれたのか妹は座卓の下で私の服の袖を掴んだ。


私も滅多にない両親の雰囲気に、ついに自分が養子だという事を話すのかと身構えていたところ、父の口から出た言葉は予想の斜め上どころか、大気圏を突破するほどの突拍子のないものだった。


「実は僕たちはこの世界の人間ではないんだ」


……………………………………………………


「「は?」」


たっぷり10秒ほど固まった後、私と妹は異口同音に間抜けな声を出したのだった。


両親の話を掻い摘んで説明するとこういう事だ。


両親は地球が存在するこの世界ではなく、レイウォルスと呼ばれる所謂『異世界』――いやこの場合地球の方が異世界なのか?――と呼ばれる世界の1番の大国ラインヴェルグという国の人間で、訳あってこちらの世界に身を隠していた。


異世界に身を隠すとかスケールがでかすぎるだろ……


そしてその『訳』と言うのが何と王位継承問題。父よ、貴方は元・王子様でしたか。


元・王子であった父は第2王子で、2つ年上の兄である第1王子が文武両道に優れた素晴らしい人格者であったため、王位を継ぐ気はさらさらなかったらしい。


だったら何故王位継承問題が起きたのか。それが母の存在。なんと我らが母君はその国の最高位の巫女様でいらっしゃったらしい。


王子様と巫女の恋物語。妹の好きなファンタジー小説に良く登場する設定だな。それを両親が体験していたというのは妹としては嬉しいのだろうが、私としては返す言葉がないんだがな……


で、何故父と母が恋仲であった事が王位継承問題に繋がったかというのが、神殿の思惑――ぶっちゃけ神殿がもっと大きな権力を持ちたくなったからとの事。そりゃそうだ。巫女である母と恋仲の第2王子である父が王になったら母はのちのち王妃だ。後見人である神殿はそれはそれは多大な権力を持つだろう。


結果、第2王子を擁した神殿と、国の慣例通りに第1王子を擁した貴族達との間で継承問題が勃発したという訳だ。


元々王位を継ぐ気のなかった父と、そんな思惑なんてこれっぽっちもなくただ純粋に父が好きだった母は物凄く悩んだそうだ。そして何も出来ず途方に暮れていた時に手を差し伸べてくれたのが、対立する貴族達が擁した父の兄である第1王子。


第1王子は憔悴している父と母を前にして言った。


『ここではない別の世界へ逃げろ。立場も義務も権利も全て捨てて構わない。後は私が何とかする』


恰好いいじゃないか第1王子。続柄としては私の叔父か。叔父上、私は姪として貴方を誇りに思います。


それでも、と渋る両親を第1王子は文字通り引き摺る様にして転送陣に押し込むと、両親の同意も何もかも無視して強制的に転送を実行した。そして父と母は着の身着のままで地球に転送されたのだった。


本来転送陣に異世界に転送する機能はなく、恐らく第1王子が何やら細工をしたのだろうとは父の言葉だ。


しかしそこからもまた問題だった。当然だろう。父と母は異世界の人間だ。地球の日本という国の事など何も知らないのに転送されてしまい途方に暮れるのは当然の事だ。


だが捨てる神あれば拾う神あり。少し表現がおかしいかもしれないが、途方に暮れていた両親に手を差し伸べたのが他ならぬ祖父であった。


祖父に保護された両親は、信じてもらえないだろうと思いながらもありのままに説明をした。


ちなみに何故か言葉も通じて文字も読めたらしい。原因は両親も分かっていないらしいが、妹が言うには『異世界トリップ補正』というものらしい。便利だな異世界トリップ。


全ての説明を終え、行き場がなく俯く両親に祖父が掛けた言葉。


『なら、ここに住めばいい』


恰好いいぞ爺さん。私は孫として貴方を誇りに思うぞ。


そして、慣れない異世界の日本の生活に右往左往している内にあれよと時間は過ぎ、気付いた時には父は祖父の養子になっており、母はその奥さんという戸籍を手に入れていた。


当時の両親は戸籍制度なんてものを理解していなかったが、時が経つにつれていったいどこで戸籍を手に入れたのだろうと不思議に思ったらしい。祖父にその事を聞いても『気にするな』と返されるばかりだったと。


まあ、爺さんも大概一般の人とはかけ離れていたしなぁ……時折、有名な政治家さんが相談に訪れる謎の老人だったし。


さて、ここまでの話で分かって貰えただろう。何故私と妹がファンタジーな存在の代表であるという事が。


では次の話に移ろう。


そこまでは理解したが、次に疑問に思うのが『何故今になってその話を私達にしたのか』という事だ。ぶっちゃけこの日本で暮らしていくには全くもって知る必要のない事だと私は思った。そう思う私の隣で妹は物凄く目をキラキラさせていたがな。


そう私が質問すると両親は困ったような表情を浮かべて言った。


曰く、私達が生まれてきたから、らしい。


愕然とする妹に両親は慌てて『君達を愛している』『2人とも大切な私達の娘よ』と捲し立てたので、疎まれていたわけではないと分かった妹はホッと肩を撫で下ろした。


では何故、私達が生まれて来た事が今回の話に繋がるかというと、妹が母と同じ巫女としての力を持って生まれたかららしい。


両親の話によると、『巫女』とはレイウォルスに必ず1人存在し、その役目は精霊の力をその世界に繋ぎ留める楔の様なものらしい。


精霊ですか……異世界、転送、という事でもしやと思っていたが、やはりあちらの世界は俗言う『剣と魔法の世界』だそうだ。嗚呼、妹の目の輝きがさらに増した。


楔といっても不自由でなく、存在さえすればその世界のどこにいても問題はないらしい。まあ、基本は自分の国から出ることは滅多にないらしいが。


で、巫女と精霊の縁はその巫女が生まれた時に繋がるものらしく、次代の巫女が成人を迎えた時点で当代巫女はその縁が途切れるらしい。そしてレイウォルスの成人年齢は17歳。先週の日曜、私達は誕生日を迎えて17歳になったばかりだ。


母としては異世界に来たのに精霊との縁が途切れなかった事を不思議に思っていたらしいが、それだけその縁が強固なものだったのだろう。そして私達――というか、妹が17歳の誕生日を迎えた時にその縁が途切れたのを悟ったと言う。


これで妹に縁が現れれば何も問題ないはずだったのだが――妹には全くその兆しが見られなく、慌てた父と母はどうするか話し合い、そして何故か異世界のはずのレイウォルスから第1王子、今は王様になったらしい兄から念話の魔術が届き、国の現状を知って私達に全てを打ち明ける事にしたらしい。


母が妹に変わったところはないかと問い掛けても、妹はいつもと何も変わらないと返す。それを見ていた私は妹はそもそも巫女としての力を持っていないのではないかと問い掛けたが、巫女なのは間違いないと力説された。


何故そう言い切れるのかと問い掛けたら、私が生まれてきたからと返された。


は? 何故そこで私が出てくる? 巫女なのは妹だけだろう。


混乱する頭で両親の話を聞くと、私はどうやら巫女の護衛の役目を持った存在らしい。何故それが分かるかというと、護衛役は必ず巫女の近しい同年代の親族に生まれ、必ず髪も瞳も『黒』。実際、母の護衛役は従姉で髪も瞳も私と同じ『黒』だったと言う。


そんな事を聞きながらも、私はようやっと自分の容姿が皆と違うのかを理解した。そうか、世界が関係していたのか。そりゃ人間の力じゃどうにもならんわな。


そういえば私が爺さんから武術を教わりたいと言った時、両親は特に何も言わなかった。実は祖父は古武術の遣い手で体術、剣術、槍術などを会得していたのだ。


反対されると思っていたのにあっさり許可され、その時は不思議に思っていたがこの話を聞いて納得した。両親は私が本能的に護衛としての役目を果たそうとしていると思ったのだろう。


事実、妹を守るために始めたのだからは違ってはいない。ただそのせいで口調が少し男っぽくなった事には嘆いていたけどな。


だが、だからと言って妹が巫女とは限らないのだが、念話が繋がったという第1王子――王様が言うには、父と母が異世界に転送した後、『黒』い髪と瞳をした子供は世界中探してもどこにも生まれておらず、それなのに1週間前から精霊の力が弱り始めたらしい。


つまりそれは、当代巫女であった母の縁が途切れたにもかかわらず、新たな巫女の縁がレイウォルスの精霊と繋がっていない何よりの証拠。


慌てた王様はまさかと思い、駄目もとで藁にも縋る思いで異世界に転送した父に念話の魔術を送ったのだそうだ。そして思った通り、両親の間に『黒』い髪と瞳を持つ私が生まれ、同じ時に生まれた妹は間違いなく巫女なんだそうだ。


ここまで話の展開が進めば次がどうなるか、聡明な君達なら分かるだろう。


そう、“異世界トリップ”だ。元の世界に帰る事を“異世界トリップ”と言っていいのかは不明だがな。


妹が巫女で間違いない以上、精霊の力を失い始め徐々に衰退するであろうレイウォルスに行かなければならないのは明白で、その護衛役である私がついて行くのも決定事項だ。


と言うより、妹は物凄い乗り気だ。目の輝きが半端じゃない。それも仕方ないだろう、だって夢にまで見たファンタジーを自分が体現してさらに体験しようとしているのだ。メルヘンな思考の妹が喜ぶのは至極当然のことだった。


そんな事があったのが1ヶ月前。そして今、私達は家の庭で向こうから呼ばれるのを待っている状態だ。


何故1ヶ月も空いたのか。それにはいろいろ理由がある。

まずレイウォルスの方も急いで連絡をしたため、まだ私達を受け入れる体制が整っていないという事。そして私達の身辺整理に与えられた時間というわけだ。


私達は高校を中途退学した。そりゃそうだろ。帰ってこれるかなんか分からないし、あっちの世界に永住する可能性の方が高い。

中途退学の理由だが、祖父が死んだ事で母方の祖父母に連絡を取ったら、自分も老い先短いのだから暫くの間、孫である私達とだけでも一緒に暮らしたい。と言う事にした。


ぶっちゃけでっちあげだ。本当の理由なんぞ言えるわけない。さらに向こうの暮らしが良ければ永住するかも、という理由もつけて退学届を提出した。


私達の中途退学の話は瞬く間に学校に広まった。ここぞとばかりに妹に告白しては玉砕する男子生徒が後を絶たなかった。詳しく理由を言えない妹はちょっと困った顔をしていた。


そして何故か私も結構な人数に告白された。だが半分以上が女子なのはどういう事なのだろうか? 言っておくが私はノーマルだ。そっちの気は絶対にない。


そんなこんなで1ヶ月はあっという間に過ぎていった。


ちなみに父と母はこちらに残るらしい。こちらの世界での生活は既に切り離せなほどになっているし、何より無責任に姿を消したのにいまさらどの面下げて戻ればいいのか分からない。せっかく軌道に乗っている兄の治世に無駄な混乱を与えたくない。なんて理由を挙げていたが、権力争いの醜さを嫌と言うほど知っている2人だ、最初から戻るつもりなんてないのだろうと私は思っている。


だがそれでいいと思う。この2人には権謀術数渦巻く世界は似合わない。穏やかで平和な世界が2人の在るべき世界だ。


キィィン、という音と共に現れた光が、私達の足元に複雑な模様の円陣を描き始めた。どうやら召喚の儀式が始まったらしい。


それを見て期待に胸をふくらませているのだろう、歓喜が目に見える表情を浮かべる妹を一瞥した後、正面の両親を見る。心配と後悔、そして自らを責める様な複雑ば感情が入り混じった表情を見て私は悟った。


本当は、私達を向こうの世界に行かせたくないのだ。でも生まれ育った世界が衰退していくのも見過ごせない。きっといろんな葛藤があったに違いない。


私はそんな両親を安心させるように、妹の手を握って大きく頷いた。両親の表情に少しだけ安堵の表情が浮かんだのが見えたが、その姿も直後に眩しい光に包まれたおかげで見えなくなった。


次に視界が開けるまで数秒。私は考える。


さて、私が向こうの世界に到着してまずやる事は派閥を探る事だ。可愛い妹を政治の道具にしてなるものか。それから下世話な下心を持って近付いて来る輩の排除だな。


流された感じではある異世界召喚だが、強く反論しなかった以上、結局は自分で選んだようなものだ。ならば、与えられたその役目、しっかりと果すとしよう。


強く握られる手を優しく握り返しながら、私はそんな事を決意するのだった。

1度は書いてみたかった異世界トリップもの。と言ってもそのプロローグ的なものですけどね。


事情を知ってからの異世界トリップがあってもいいじゃないか。てな考えから書いた短編です。続きなんか考えていません(笑)。

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