13. サヨナラサンカク
不毛な恋をしてるって、一応自覚はあるんですよ?
想い人の想い人が、いつものメガネはどこへやらコンタクトで登校してまいりました。かなりですが遠巻きに女子が黄色い声を出しています。
くやしいんで口にはしていませんでしたが、いつものフレームなしのメガネにアンニュイな雰囲気は、なんというかこう、同じ男から見てもフェロモンみたいなもんを感じました。いや、決してフォモの類いではありません。むしろ妬みと僻みです。おそらく同学年のモテない男共はみな一様に感じていると思います。もちろん自分含め。
ところがどっこい今日のコンタクトの彼はどうでしょう。印象は一変、一匹狼的な冷たい(クール?)オーラを放っているにもかかわらず少年の無邪気さを合わせ持っているという奇跡のモテ男オーラを発しているではないですか。例えるならあれです。ほら、いるじゃないですか。喧嘩上等な不良のくせにやけに男受けも女受けもよくてさり気に優しくて顔も頭も良いっていう、妬みの対象にしかならないような羨ましい奴。コンタクトの彼は正にその雰囲気を地でいっています。というより普段のメガネ装着時が優等生なだけあって教師受けもいいだろうと踏みます。彼に新たな男ファンと女ファンが増えるのが目に浮かぶようです。
そして僕の可愛らしい想い人がまたつらそうな顔をするのも目に浮かびます。
『好きだろ』って聞くと『別に』って意地はって答えるけど、隠しきれてません。その上傷付くのは主に僕です。嘘でも『好きじゃない』って否定できないのが悲しいですね。
お互い片想い。不毛すぎます。でも玉砕するのは嫌なんで僕も君も絶対に想いを口に出したりしません。君が幸せになるならなんて偽善も言えません。というより僕の安い勘だと、彼には好きな子がいると思います。両想いだと思います。ベタボレだと思います。勘でしかないんですが。
ねぇ、彼のなにがそんなに君を惹きつけるんでしょうね。顔ですか。性格ですか。きっと君は全部って思っているんでしょうね。僕だって引力にも似た力で君に惹きつけられているというのに。同じ力で君は彼に惹かれているから、いつまでたっても君に近付けません。
「好きだよ」
って。頭の中でなら何回でも言えるんです。でも結局伝えれない想いは僕のこの65kgの入れ物の中でだけ充満しているんです。誰も聞いちゃいないと独り言で身体から出してしまうのも勿体ないと思うんです。
僕の横で、登校して来る彼に熱っぽい目を向けてる君。
できることならその目を僕に向けてください。宇宙の広さで受け止めます。
こんなに好きなんです しかたないんです
恋をしてる女になぜか人気がある低身長のシンガーソングライター。今ならその人気の理由がわかりますよ。気持ちを代弁してくれるように歌っているんです。つまりは共感するってことなんでしょうか。
無意識だろう溜息が何回も聞こえてきます。
二酸化炭素を吐き出すその唇。奪ってしまいたい衝動に駆られて、僕の中に住みついている獣が理性の檻を今にも破壊しそうですが、生憎とその檻は獣の牙なんかよりももっと頑丈なんです。開けられるのはただ1人、鍵を持った君だけなんです。
「好きなんだろ」
「……しつこい」
やっぱり否定はしないんですよね。なんて素直なんですか。正直その素直さが恨めしいですよ。いっそ想いを認めて言葉にして肯定してくれれば僕の想いも告白できるかもしれないというのに。
なんて上手くいかないんでしょうね。僕は君が好きで、君は彼が好きで、彼はきっと君とは違う子を見ている。狂った歯車が内蔵されているおもちゃみたいに動かない僕たちの想い。どうやったら動くんでしょうか。やっぱり僕か君かが想いを口する他ないんでしょうか。でも今の状況で僕が想いを伝えたら、君との関係が壊れるだけだと思うんです。それでもいいなんて言えません。だって僕がどんなに気にしないでいようとも、君が僕を避けるだろうから。
あぁ、そうだ。それなら。
それならいっそ、君がフラれてしまえばいい。
彼を好きで好きで好きでしょうがなくなったとき、伝えてしまえばいい。
もしも想いがはち切れてしまったら、僕は彼への想いごと君を慰めて抱きしめてあげるから、そのときは僕の想いに気付けばいい。不規則に早く脈打つこの音の意味に、気付けばいい。何度でも好きだと言うから。
君の茶色い髪に、冷たい朝風が吹き付ける。
肩ほどの、長くない髪がふわりと揺れて、思わず手を伸ばして梳いてしまいそうになってしまうその手に慌てて顎を乗せて、何事もなかったかのように装いますが、僕の心臓はすでに忙しくて、自分だけには隠せません。バレることはないとわかってはいても、なんとなく君に顔を背けて動揺を隠そうとする思考。
心に付いて行かない身体に、今はまだだめなんだと言い聞かせる。
脳にまで言い聞かせて言い聞かせて自分を納得させて忙しないこの心臓をなだめる。深呼吸をすると正常な自分が戻って来る感覚。
「好きだ」
正常な自分。
何秒か頭が真っ白になって、何が起こったのか理解ができない。
あぁ、なんと言ってしまったのだろうこの口はと、自分が言ってしまったのだと気付いてたっぷり後悔し始めたときには、「は…?」なんていう君の言葉が後頭部に投げ掛けられていたりして。
さて、この言葉の後始末はどうしようか。
サブタイトルはモロに某CMのセリフからとっちゃったんでいろいろビビっとります…。