雨
しとしとと、雨粒が落ちる、
屋根から地面へ伝わる雨。
空を見上げれば、鉛色の雲の海。
私はこの風景に、美的な何かを感じざるを得ない。
昔からそうだった。
その時もしとしと、と雨粒が落ちていた。
気温は、15くらい、天気はもちろん雨、
その時も鉛色の海が私の上に広がっていた。
ひと気のない道、数mおきに突き出た電信柱、
凹んだカーブミラー、
落書きされたコンクリート、
そしてアスファルトの上に広がる水溜り、
全てが雨、鉛色の海から落ちてきた、雨によって見事に演出されていた。
それは私にとって安らぎを象徴するとともに、虚しさの化身でもあった。
私は立っていた、この演出、一つの作品の中に、背景の一部のように、
見ていた、ずっと、取り巻くものを。
その時、音がした。
鈍い音、ばすって音が聞こえました。
何がおきたのかは、私には分かりません、
ただわかる事は、あの時と全く同じように立っています、同じ景色の中に、ずっと立っています。
そしてこの鉛色の雲の海を見つめています。