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第2話 異世界の港町と海竜  作者: 海人太郎


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第2話 異世界の港町と海竜

 巨大な警報音が港町全体に響き渡った。

 人々が一斉に建物から飛び出し、港とは反対方向へ走っていく。

 何が起きているのか分からない。

 それでも、稀琉だけは海から目を離せなかった。

 水平線の向こう。

 海面が異常なほど盛り上がっている。

 まるで巨大な山が海の底から浮かび上がってくるようだった。

港の兵士「海竜だ!」

港の兵士「全員、避難しろ!」

稀琉「海竜……?」

 やがて巨大な頭が海面から姿を現した。

 体長は二十メートルを超えている。

 青い鱗。

 巨大な牙。

 しかし――。

 稀琉は、その姿に違和感を覚えた。

 海竜が苦しそうに唸っている。

 その身体には黒い鎖のようなものが何本も巻き付いていた。

稀琉「……あれ、なんだ?」

 隣にいた青髪の少女が答える。

セレナ「魔封鎖よ」

稀琉「魔封鎖?」

セレナ「魔物を操るための呪い。誰かが海竜を操ってるのよ」

 海竜が咆哮した。

 巨大な水柱が港へ向かって飛んでくる。

セレナ「危ない!」

 セレナが稀琉の腕を引く。

 しかし――。

 水柱は稀琉の目の前で突然止まった。

 大量の水が空中で静止している。

稀琉「……え?」

 右手を見る。

 海神の紋章が青く輝いていた。

アクアリス『海は、あなたの声を聞いています』

 頭の中に、あの海神の声が響いた。

稀琉「アクアリス……」

セレナ「今、誰と話してるの?」

稀琉「いや……なんでもない」

 稀琉は海竜を見る。

 怖くない。

 むしろ、可哀想だと思った。

稀琉「お前、苦しいんだろ?」

 海竜が稀琉を見る。

 その目には、怒りではなく苦痛があった。

稀琉「だったら、俺が助けてやる」

セレナ「ちょっと! 何する気!?」

 稀琉は海へ歩き出した。

セレナ「稀琉!」

 その瞬間。

 稀琉の足元から青い光が広がった。

 海面が静かになる。

 波が消える。

 風まで止まった。

 そして――。

 稀琉が右手を海竜へ向ける。

稀琉「その鎖……外れろ!」

 青い光が海竜の身体を包み込む。

 黒い鎖が一本ずつ砕けていく。

海竜「グ……オオ……」

稀琉「もう少しだ!」

 最後の一本が砕け散った。

 海竜の身体から黒い霧が抜けていく。

 海竜はゆっくりと稀琉へ顔を近づけた。

 巨大な鼻先が稀琉の目の前に来る。

セレナ「稀琉……逃げて!」

稀琉「大丈夫だ」

 稀琉は海竜の頭に手を置いた。

稀琉「もう、誰にも操られるな」

 海竜が小さく鳴いた。

 そして、ゆっくりと海へ戻っていった。

 港には静寂が戻った。

 誰も声を出せない。

 やがて、一人の兵士が呟いた。

港の兵士「海竜を……従わせた?」

別の兵士「違う。あれは……助けたんだ」

 セレナは稀琉をじっと見つめていた。

セレナ「あなた……一体何者なの?」

稀琉「俺?」

セレナ「あんな力、普通の人間には使えないわ」

稀琉「俺だって知らないよ」

 稀琉は右手を見る。

 紋章はすでに消えかかっていた。

稀琉「ただ……海竜が苦しんでたから」

 セレナはしばらく黙っていた。

 そして、小さく笑った。

セレナ「変な人」

稀琉「よく言われる」

セレナ「私はセレナ。王国魔導騎士団所属よ」

稀琉「稀琉。知念稀琉」

セレナ「知念……稀琉」

 セレナはその名前を繰り返した。

 そして真剣な顔になる。

セレナ「あなた、今夜私のところに来て」

稀琉「なんで?」

セレナ「あなたに話さなきゃいけないことがある」

稀琉「話って?」

セレナ「《海神の使徒》についてよ」

 その言葉に、稀琉の表情が変わった。

 この世界に来て初めて。

 自分が何者なのかを知る手がかりを得た瞬間だった。

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