あなたは納得します
この世界の裁判は、
結果を出さない。
出すのは、
状態だ。
「納得」
被害者が、
それ以上考えなくなった時、
裁きは終わる。
方法は問わない。
罰でもいい。
救済でもいい。
ただ、一つだけ。
「疑問を残さない」
それが、
絶対条件だ。
目の前に、
男がいる。
家族を壊した男。
何度も思い出した顔。
何度も殺した顔。
何度も問い続けた相手。
「どうして?」
その言葉だけが、
ずっと残っていた。
「どうしますか」
静かな声。
考える。
殺す。
足りない。
苦しませる。
違う。
同じ目に遭わせる。
意味がない。
何をしても、
最後に残る。
「なぜ?」
あの日の、
あの瞬間の、
あの理由。
それだけが、
消えない。
「問いを消しますか」
声がする。
意味が分からない。
「納得とは、
問いが存在しない状態です」
沈黙する。
消せば、
終わる。
全部。
あの日も、
声も、
顔も、
理由も。
「……本当に、終わるのか」
初めて、
口に出す。
「はい」
即答だった。
「あなたは、
納得します」
少しだけ、
昔を思い出す。
笑っていた時間。
食卓。
どうでもいい会話。
音。
温度。
全部、
ここに繋がっていたはずなのに。
今は、
ただ一つ。
「なぜ?」
それしかない。
それすら消えたら——
何が残る?
分からない。
でも、
分からなくていいのかもしれない。
もう、
考えなくていいなら。
ゆっくりと、
頷く。
「……やる」
次の瞬間。
何も、
思い浮かばない。
目の前の男を見る。
ただの人間だ。
知らない顔。
何も感じない。
怒りも、
悲しみも、
ない。
「これでいい」
自然に、
そう思う。
何も、
引っかからない。
完璧だ。
これが、
納得。
裁判は終わる。
帰り道。
足が、
勝手に止まる。
理由はない。
ただ、
止まった。
しばらく、
そのまま立つ。
胸の奥に、
何かがある。
形はない。
言葉もない。
でも——
少しだけ、
苦しい。
「……?」
理由を探す。
何も出てこない。
問いが、
存在しない。
目を閉じる。
一瞬だけ。
光景が、浮かぶ。
食卓。
笑い声。
「——なんで」
声が出る。
その瞬間、
全部、消える。
静かになる。
涙だけが、
残る。
理由は、
ない。
「これでいい」
誰かの声がする。
自分の声に、
よく似ている。
納得している。
そう思う。
思うしかない。
歩き出す。
完璧なまま。
何も知らないまま。
何も、
疑えないまま。
疑問が消えたとき、
本当にそれは「納得」なのでしょうか。




