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とんでもスキルで魔国建国 ~ネットスーパーの供物で魔王を餌付けしたら、最強のグルメ大国ができました~  作者: 限界まで足掻いた人生


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第9話:空飛ぶ鉄塊

夜の砂漠は、すべてを拒絶するような静寂に包まれていた。

差し押さえられたシェルターの跡地には、風に舞う砂の音だけが虚しく響いている。

レンは4輪バギーの狭い運転席に身を沈め、ハンドルに額を押し当てていた。


「……拠点を移そうなんて、お気楽に考えてたのにな」


もともとは、昨日炊き出しを行ったハルナ平原に拠点を移すつもりだった。あそこには俺の飯を待ってくれている人たちがいる。だが、シェルターごと荷物を持って行こうにも、肝心のシェルターが「物理的に」消滅してしまった。差し押さえという名の理不尽な強制徴収。


レンの脳裏に、前世の記憶が鮮明に蘇る。

俺は施設で育った。そこで、俺にとっての母親代わりだった女性……調理場の主でもあった彼女は、包丁の研ぎ方よりも先に、恐ろしい「世の中の仕組み」を口酸っぱく説いていた。


『レン、いいかい。この世で1番恐ろしいのは魔物でも幽霊でもない。借金とリボ払いだよ。あれはね、生きながらにして魂を削られる毒なんだ。一度足を踏み入れたら、死ぬまで終わらない底なし沼なんだからね』


「……ごめん、母ちゃん。今、身をもって体感してるよ。リボ払いどころか、異世界の神様に命の次に大事なキッチンまで持っていかれちゃったよ」


レンは乾いた笑いを漏らした。

画面に表示されているのは、利息で刻一刻と膨れ上がるマイナスの数字。

高級食材も最新設備も、すべては鎖で縛られている。

今の俺にあるのは、この使い勝手の悪いバギーと、隣で小さくなって寝ているミナ、そしてバギーの横で巨体を丸めている琥珀だけだ。


「今は、寝よう。明日になれば、何かが変わるはずだ」


そう自分に言い聞かせ、レンは重い瞼を閉じた。


翌朝。砂漠の地平線から強烈な陽光が差し込み、バギーの車内を蒸し風呂のように変えた。

レンは汗だくになって目を覚まし、喉の渇きを癒やすためにエンジンをかけようとした。

バギーの電源が入れば、車内の浄水機能が使えるはずだ。


「……あ。そうだ」


カチッ、カチッ、と虚しい音が響くだけで、大排気量のエンジンが唸りを上げることはなかった。

燃料不足。

そもそも昨日、この拠点跡に戻ってきた最大の理由は、万象市場から「燃料(魔力触媒)」を補充するためだったのだ。だが、今のレンには燃料を買うポイントすら惜しい。いや、そもそもペナルティーで価格が2倍になっている今、燃料1つ買うだけで借金がさらに加速する。


「……終わった。完全に行き詰まったな」


レンは力なくシートに背中を預けた。

砂漠の真ん中。水も食料も尽きかけ、移動手段も失った。

隣で目を覚ましたミナが、不安げにレンの顔を覗き込む。


「レン様……? バギー、動かないんですか?」


「ああ。……燃料切れだ。補充するために戻ってきたのに、ポイントが足りなくて買えないんだ。俺の不徳の致すところだよ、ミナ」


「そんな……。私のために無茶をしたから……」


「違うって。俺が勝手にやったことだ。……さて、どうしたもんかな。歩いてハルナ平原まで行くには、この暑さじゃミナが持たない」


その時だった。

バギーの外で静かに控えていた琥珀が、窓越しに琥珀色の瞳を輝かせた。


『主よ。何をお悩みですか。移動手段がないのであれば、我が運べば済む話ではありませんか?』


「……え? 運ぶって、俺とミナをか?」


『いえ。この「鉄の箱」ごと、我が掴んで飛びましょう』


レンは耳を疑った。

「運べるの!? このバギー、1トン以上はあるんだぞ?」


琥珀は、誇らしげに鼻を鳴らした。その表情には、龍としての絶対的な自信と、仲間を助けられる喜びが混じっていた。


『主。我を誰だと思っているのですか。我は地脈を統べ、空を支配する琥珀の天龍です。これしきの鉄塊、羽虫を運ぶようなもの。……さあ、シートベルトとやらをしっかり締めてください。快適な空の旅を約束しましょう』


琥珀はそう言うと、巨大な翼を広げ、バギーの前後をその強靭な鉤爪で優しく、だが確実に固定した。

龍の力によって、バギーの車体がふわりと浮き上がる。


「うおぉっ!? 本当に浮いた!」


「すごいです! レン様、外を見てください! 地面がどんどん遠くなっていきます!」


ミナが窓に張り付いて歓声を上げる。

琥珀の力強い翼撃が巻き起こす風が、砂漠の熱気を吹き飛ばす。

高度数百メートル。眼下には、果てしなく続く灰色の砂の海が広がっていた。

バギーの車内は、琥珀の魔力によって安定しており、揺れもほとんど感じない。


「……快適すぎる。琥珀、お前、最高だな!」


『主のお言葉、最高の誉れです。目的地は昨日と同じ、ハルナ平原でよろしいですね?』


「ああ、頼む! あそこで月華菜を採取して、一気に借金を返してやるんだ!」


青い空を、1匹の巨大な龍が、無骨な4輪バギーを掴んで悠々と飛んでいく。

それは異世界の住人が見れば、腰を抜かすような奇妙で壮大な光景だった。

レンの心には、昨日までの絶望が嘘のように、新しい希望が湧き上がっていた。


だが。

その様子を地上から、一切の気配を消して見守る眼差しがあった。


砂丘の頂。陽炎の中に紛れるようにして、1人の男が立っていた。

全身を砂の色と同じカメレオン・スーツのような隠密装備で包み、魔力を完全に遮断する特殊な外套を纏っている。

その手には、ギルガデス王国の外交大臣ベルナルドから授かった、最高精度の「記録石」が握られていた。


彼はベルナルドの直属の部下であり、王国内でも屈指の隠密スキルを持つ特殊工作員だ。

レンが王都から追放された直後から、ベルナルドの命を受けて、付かず離れずの距離で影のように追跡を続けていた。


「……報告通りだ。あの青年は、単に物資を呼び出すだけではない。伝説級の龍を、完全に『対等な相棒』として従えている」


男の声は、風にかき消されるほど低く、平坦だった。

彼は記録石に、琥珀がバギーを運ぶ様子を克明に刻み込む。


「ハルナ平原での炊き出し。騎士団の壊滅。そして、この移動能力。……ベルナルド様の懸念は正しい。この男は、すでに1つの国家に匹敵する脅威、あるいは希望となっている」


男は、自分の気配が龍にすら察知されていないことを確認し、再び砂の中に溶け込むように姿を消した。

ベルナルドは、レンを単に捕らえるつもりではなかった。

彼は、この理不尽な世界を塗り替えるための「変革者」として、レンの価値を冷静に見極めようとしていたのだ。


だが、その追跡者の背後……さらに遠くの岩山には、もう1つの不穏な気配が蠢いていた。

それは人族でも魔族でもない、もっとどろりとした、純粋な悪意の気配。


レンたちが目指すハルナ平原は、今や世界情勢の台風の目になろうとしていた。


数時間の飛行の後、琥珀は静かに地上へと舞い降りた。

そこは、昨日レンたちが解放したハルナ平原の植民地。

獣人たちが、自分たちを救ってくれた「食の神」の再来を信じて、広場に集まっていた。


バギーが着地すると同時に、琥珀は爪を離し、再び静かな守護者の姿に戻る。

ドアを開けて外に出たレンを待っていたのは、割れんばかりの歓声だった。


「レン様! また来てくれたんですね!」


「お兄ちゃん! お腹空いたよ!」


リクとセーラが真っ先に駆け寄ってくる。

レンは彼らの頭を優しく撫でながら、自分のスマートフォンの画面を見た。


現在保有ポイント:-16,800ポイント

(利息および拠点維持費による加算)


「……よし、みんな。待たせたな。今日は、昨日以上のものを作るために、まずは最高の食材を『現地調達』しに行く。ミナ、案内を頼むぞ!」


「はい! レン様! 今度こそ、月華菜をたくさん採りましょう!」


レンは決意を新たにした。

差し押さえられたシェルターも、尽きかけた燃料も、今の彼には関係ない。

仲間を信じ、自分の腕を信じ、そして飢えている人たちの笑顔を信じる。

記録


主人公:相良レン


状態:重度の債務超過(ブラックリスト入り)


心情:リボ払いの恐ろしさを痛感しつつも、料理人としての情熱で再起。


相棒1:琥珀(琥珀の天龍)


能力:バギーの空輸、圧倒的な戦闘力。


仲間:ミナ(灰猫族)


役割:現地ガイド、精神的支柱。


拠点:なし(旧シェルターは差し押さえ、現在はバギーが移動拠点)


保有ポイント:-16,800ポイント(全商品の価格2倍ペナルティー適用中)

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