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とんでもスキルで魔国建国 ~ネットスーパーの供物で魔王を餌付けしたら、最強のグルメ大国ができました~  作者: 限界まで足掻いた人生


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第8話:中間管理職たちの茶会と差し押さえ

ギルガデス王国の王宮。その北棟に位置する「内務統治府」の長官室では、1人の男が深いため息と共に、卓上の魔導通信機を見つめていた。


内務大臣、アリウス・ヴァン・ノード。

彼は、植民地の管理や国内の治安維持を一手に引き受ける、王国屈指の苦労人である。40代後半の彼は、外交大臣ベルナルドと同様に、連日の過重労働と、非論理的な王の命令によって胃に深刻なダメージを抱えていた。


「……ハルナ平原の監視兵から、極秘の通信か。よりによって、こんな時に」


アリウスは、特定の部下だけが持つ「伝心石」からの情報を読み取った。そこには、正体不明の龍の襲撃と、それに続く「奇跡の炊き出し」の様子が詳細に記されていた。

アリウスは、中世ヨーロッパ的な苛烈な倫理観が支配するこの世界において、奇跡的に「現代人」に近い、理性的で倫理的な感性を持っていた。それゆえに、この報告書の重みが痛いほどわかる。


「龍を従え、飢えた民に王宮以上の食事を振る舞う……。これが民衆の耳に入れば、ハルナだけでなく全土で暴動が起きる。だが、陛下に報告すれば『全軍で皆殺しにせよ』と仰るだろうな……。はぁ、明日もまた胃が燃えそうだ」


彼が頭を抱えていると、ノックもなしに扉が開いた。

現れたのは、クッキーの載った皿を片手に持った、外交大臣ベルナルド・サックスだった。


「やあ、アリウス。お疲れのようだね。今日は気分転換に『手作りお菓子パーティー』を開催しに来たよ」


「……ベルナルド。部署が違うだろう。勝手に執務室に入るなと、何度言えばわかるんだ」


アリウスが力なく抗議するが、ベルナルドは「まあまあ、お互い大変なんだから」と言って、勝手にソファに腰を下ろした。2人はこの腐敗した王国において、数少ない「まともな感覚」を共有する戦友のような間柄だった。


アリウスは渋々、ベルナルドが差し出したクッキーを一口齧った。


「…………相変わらず、不味いな。石を噛んでいるようだ」


「ひどいな。これでも、徹夜の合間に精一杯頑張って焼いたんだよ。材料の配合を工夫してね」


「素材の質が最低なんだろう。小麦粉には殻が混じり、砂糖は湿気っている。……これがこの国の現状か」


アリウスの皮肉に、ベルナルドは自嘲気味な笑みを浮かべた。


「その通りだよ。諸外国からの物資供給は、今の『勇者外交(武力威圧)』のせいで完全に冷え込んでいる。私の努力も虚しく、手に入るのは他国が捨てたような家畜用の粉ばかりさ。このクッキーの不味さは、ギルガデス王国の外交的孤立そのものだよ」


ベルナルドは、自分が焼いた不味いクッキーを噛み締めながら、遠い目をした。

そんな親友の姿に、アリウスも少しだけ毒気が抜かれ、隠していた情報を口にした。


「……実はな、ベルナルド。今さっき、ハルナ植民地でとんでもないことが起きた。龍を従えた男が現れて、獣人たちに贅を尽くしたシチューを配ったらしい」


「……ほう。シチュー、か」


ベルナルドは驚きを見せなかった。彼はすでに、砂漠に捨てた相良レンの影を追っていたからだ。


「報告によればな、監視兵たちもその男に倒されたんだが……驚くのはその後だ。男は、倒した兵士たちにも飯を食わせたそうだ。兵士たちは、獣人の子供たち以上に泣きながらシチューを貪り食い、『家族のために仕方がなかった、すまない』と謝罪しながら投降したという。……それを聞いて、私は少し、彼らが羨ましくなったよ」


アリウスが、机の上の書類を乱暴に片付けた。


「我々がどれだけ胃を痛めて働いても、兵士1人の空腹すら救えない。なのに、その男は一晩で彼らの魂を奪ってしまった。陛下が『戦争すればよい』と繰り返している間に、我々の足元は美味しい匂いと共に崩れ始めているのかもしれんな」


「……同感だ。アリウス、その男はきっと、我々が求めている『答え』を持っているのかもしれないよ」


2人の中間管理職は、不味いクッキーと冷めたお茶を啜りながら、いつか自分たちもその「温かな飯」を口にできる日を夢見て、深い溜息を重ねた。


一方、砂漠の闇を切り裂いて走る、4輪バギー。

レンは運転席で、先ほどの炊き出しの記憶を、満足そうに振り返っていた。


「……いやぁ、琥珀も凄かったけど、やっぱりみんなが美味しそうに食べてくれるのが1番だな。料理人冥利に尽きるよ」


「……レン様。1つ、聞いていいですか?」


助手席に座るミナが、複雑そうな表情で尋ねた。


「どうして、あの監視兵たちにもご飯をあげたんですか? 彼らは、私たちの村を奪い、リクたちを蹴飛ばした、憎い敵のはずです」


ミナの言葉は重かった。彼女たち亜人にとって、王国の兵士は暴力の象徴だ。

レンは、バギーの速度を少し落とし、夜の砂漠を見据えながら答えた。


「……確かに、あいつらがやったことは許されないよ。でもな、ミナ。飯をあげた時、あいつら、獣人の子供たちよりもボロボロ泣いてたんだ」


「泣いていた……?」


「ああ。『ごめんな』って、何度も何度も謝りながら食べてた。話を聞いたら、あいつらも故郷に家族がいて、その家族を食べさせるために、王国の無理な命令に従うしかなかったんだってさ。……空腹ってのは、人を鬼にもするけど、同時に弱くもさせる。俺には、あいつらがただの『悪人』には見えなかったんだ。ただ、誰かと一緒に温かい飯を食いたかっただけの、普通の人間だよ」


ミナは黙り込んだ。家族のために頑張らなければならないという言葉は、彼女自身が1番よく知っている感情だったからだ。


「……それでも、私はまだ許せません。でも、レン様がそう言うなら、そういうものなのかもしれませんね」


「はは、それでいいよ。俺はただの料理人だから、腹を空かせてる奴がいたら、敵も味方も関係なく座らせたいだけなんだ」


そんな会話をしながら、バギーがシェフターのあった場所へ近づいた。

ちょうどその時、時刻は24時を回った。


「……あれ? 体に何も起きないな。とんでもないペナルティーって、呪いとかじゃないのか?」


レンは自分の腕や脚を触ってみたが、痛みも違和感もない。

「なんだ、脅かしやがって」と胸を撫で下ろし、シェルターが見えるはずの丘を越えた。


だが、レンの瞳が大きく見開かれた。


「…………え?」


そこにあるはずの、白く輝く最新鋭のドーム型シェルターが。

キッチンも、ベッドも、ソーラーパネルも。

跡形もなく、消えていた。


ただ、砂の上に「差し押さえ」と書かれた巨大な魔法の刻印が、虚しく光っているだけだった。


「な、なんだよこれ……!? 俺のキッチンが……俺の家が!!」


慌ててスマートフォンを取り出す。

画面には、衝撃的な通知が表示されていた。


執行完了:債務不履行デフォルトによる資産の強制徴収

不足ポイント分(15,200ポイント)の回収として、全拠点を差し押さえました。

※現在、あなたの保有資産は『4輪バギー』1台のみです。


「う、嘘だろ……。せっかく貯めたポイントで買ったのに……」


レンは絶望し、膝から崩れ落ちた。

だが、追い打ちはそれだけではなかった。

せめて、安価なテントでも買い直そうと「ショップ」の画面を開いたレンの顔が、さらに真っ青になる。


制限事項:ペナルティー期間中

債務完済まで、全商品の必要ポイントを『2倍』に設定します。

(例:簡易テント 500pt → 1,000pt)


「…………あんまりだ」


1,000ポイント。今のレンにとっては、それすらも気の遠くなるような数字だ。

しかも、利息も毎日増えていく。


「女神様……こんなの……あんまりだよ。みんなを助けただけなのに……。炊き出しはいいことだって、言ったじゃないか……っ!」


砂漠の静寂に、レンの悲痛な叫びが響く。

琥珀が心配そうに頭を寄せ、ミナがそっと肩に手を置いた。


「……レン様。大丈夫です。私たちがいます」


「ミナ……」


「シェルターはなくなっちゃいましたけど……私たち、このバギーがあればどこへでも行けます。それに、あのシチューの味を知った人たちは、みんなレン様の味方です」


琥珀もまた、重厚な声でレンを励ます。


『主よ。我の翼の下は、どんなシェルターよりも強固な守りとなります。……今夜は、このバギーの中で休みましょう』


レンは、鼻をすすりながら、4輪バギーの座席に深く身を沈めた。

狭いシート。冷たい夜風。

昨日までの豪華なベッドが、遠い夢のように思える。


「……ポイント2倍か。……やってやる。やってやるよ。次はもっと、とんでもなく旨い飯を作って、借金なんて秒速で返してやるからな!」


レンは、暗い夜空を見上げ、空腹と悔しさを燃料に変えるように、静かに闘志を燃やした。

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