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とんでもスキルで魔国建国 ~ネットスーパーの供物で魔王を餌付けしたら、最強のグルメ大国ができました~  作者: 限界まで足掻いた人生


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第48話:三勢力の停戦協定

デヴォンの中央広場は、かつてない濃密な殺気と、それとは正反対の「救い」を求める切実な熱気に包まれていた。


北側には、脱走してきた外交大臣ベルナルドを旗頭に、レンの香りに敗北して降伏した三万のギルガデス王国兵の残存勢力。彼らは武器を捨てているとはいえ、その数は圧倒的であり、何より王宮から持ち出した「正義」の行方を求めて彷徨っていた。


対する南側には、漆黒の甲冑を纏った魔王軍の精鋭たちが、静寂を保ちながら陣取っている。魔将ゼナに率いられた彼らは、魔王がレンに下した「注視」の命に従いつつも、いつでも人間たちを蹂躙できる準備を整えていた。


そしてその中心には、商務会長ガラン率いるデヴォン市民たちと、武装した美食ギルドの面々。彼らにとって、ここは守るべき家であり、新しい世界の中心地であった。


三勢力が睨み合う沈黙は、風が吹けば即座に火がつく火薬庫のようだった。誰かが咳払いを一つするだけで、大陸の歴史を塗り替えるほどの大虐殺が始まりかねない。そんな極限の緊張感の中、鉄の車輪を軋ませる音が響き渡った。


一触即発の睨み合い

「……汚らわしい魔族め。貴様らがこの混乱に乗じて、我が国を飲み込もうとしているのは分かっているのだぞ」


王国騎士団の生き残りが、腰の折れた剣を握り直して唸った。それに対し、魔王軍の重装歩兵が冷たく鼻で笑う。


「笑わせるな、脆弱な人間よ。貴様らの王が自ら国を滅ぼし、我らが主から恵みを奪おうとしたからこそ、我らはここにいる。食いぶちを求めて這い回る犬の分際で、誇りを語るか」


「なんだと……!」


「やめなさい、双方とも!」


ガランが声を張り上げるが、商人の言葉は武力を持たぬがゆえに空虚に響く。ベルナルドもまた、手にしたアリウスの汚職証拠を高く掲げようとしたが、今の兵士たちに「法」や「論理」を理解する余裕はなかった。彼らの脳内を支配しているのは、ただ一つ。


極限の空腹と、それを満たせぬ恐怖。そして、目の前の者がそれを奪いに来るのではないかという疑心暗鬼だった。


料理人の乱入:空腹に正義はない

「そこまでだ、野郎ども! 剣を引け、さもなきゃその首をやかんで叩き割るぞ!」


広場の中心に、琥珀の翼号から切り離された巨大なコンロを牽引して、相良レンが姿を現した。彼の背後には、万象市場から呼び出した「直径五メートルの超巨大鋳鉄鍋」が、魔法の浮遊台車に乗せられて運ばれてくる。


レンは広場のど真ん中に鍋を据え置くと、広場を埋め尽くす数万の人々と魔族に向かって、腹の底から怒鳴りつけた。


「王国だの魔王軍だの、ごちゃごちゃとうるせえんだよ! 誇りだの正義だの語る前に、自分の腹の音が聞こえねえのか? ああ?」


「……レン殿、しかしこの状況では……」


ベルナルドがなだめようとするが、レンはそれを片手で制した。


「ベルナルドさん、あんたもだ。外交のプロなら分かるだろ。腹が減ってイライラしてる連中に、まともな話し合いなんてできるわけがねえ。交渉ってのは、胃袋を落ち着かせてからやるもんだ!」


レンは巨大なヘラを掲げ、全軍に向けて断言した。


「いいか! 腹が減ったまま話し合いはできねえ! 全員、同じ鍋を囲め! 食い終わるまで喧嘩は禁止だ。もし一口でも食う前に手を出した奴がいたら、この街から永久に追放して、一生『不味い飯』しか食えねえ呪いをかけてやる!」


その言葉には、魔王軍さえも一瞬怯ませるほどの、料理人としての絶対的な権威が宿っていた。


混沌の鍋:万象和合の闇鍋スープ

レンは即座に万象市場ネットスーパーを起動し、ポイントを惜しみなくつぎ込んだ。


万象・神聖の黄金出汁(一トン):あらゆる食材の味を一つに纏め上げる、伝説のベーススープ。


魔界産・猛毒抜き大蠍の肉:弾力のあるエビのような食感。魔族の好物。


王国特選・熟成干し肉:人間が最も「肉」を感じる、噛み応えのある赤身。


東方大陸産・巨大白菜と極大豆腐:出汁を吸い込み、胃に優しくエネルギーを届ける。


レンは美食ギルドの料理人たちに指示を飛ばし、巨大鍋の中に次々と食材を投入していった。琥珀が熱源となり、鍋の底から黄金の気泡が湧き上がる。


「いいか、これは『和合のスープ』だ。人間界の出汁に、魔界の具をぶち込み、デヴォンの野菜で煮込む。種族がどうとか言ってる暇があったら、自分の椀の中にある『美味さ』だけを見ろ!」


立ち上ったのは、これまで誰も嗅いだことのない、複雑にして完成された香りだった。カツオと昆布の和風の深みに、魔界のスパイスの刺激、そして肉と野菜の芳醇な旨味が、湯気となって広場全体を包み込んでいく。


宴による停戦:共食の奇跡

「……食え。毒なんて入ってねえよ」


レンが最初に椀を差し出したのは、先ほどまで罵り合っていた王国騎士と魔王軍の兵士だった。二人は戸惑いながらも、抗いがたい香りに屈し、同時にスープを啜った。


「ッ……熱い。だが……なんだ、これ」


「……この肉の弾力、そしてこのスープの……心の奥まで染み渡るような、優しさ……」


人間と魔族が、同じ鍋から掬われた同じ味を、隣り合わせで咀嚼する。

その瞬間、広場を支配していた殺気が、雪解けのように消えていった。


一口啜るごとに、飢えによる狂乱が静まり、代わりに「他者への想像力」が戻ってくる。隣で食べている魔族も、自分と同じように熱さに身悶え、美味さに目を細めている。その当たり前の光景が、何よりも強力な停戦協定として機能した。


「ガラン、出番だ。飯を食って大人しくなった奴らから順に、これからの『ルール』を叩き込んでやれ」


レンに促され、ガランはベルナルドと共に広場の中心へ進み出た。


「……諸君。今の味を忘れないでほしい。我々デヴォンは、この『味』を共有できる者すべてを歓迎する。王国でも魔王領でもない、食による共生圏。これこそが、我々の掲げる新たな旗印である!」


ガランの宣言と共に、ベルナルドがアリウスの不正証拠を公開。王国の正当性が崩壊し、兵士たちの忠誠心は「自分たちに飯を食わせてくれた場所」へと正式に移行した。

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