第15話:スタミナ炒め
戦場と化した広場に、レンの怒号が響いた。
「どいつもこいつも、俺の店で勝手しやがって! 琥珀、ミナ! 五分……いや、三分でいい、時間を稼いでくれ!」
レンは震える指でスマートフォンの画面を猛烈な勢いでスワイプした。今の残ポイントは少ない。だが、狙うは質より量。攻撃力ではなく「質量」だ。
「これだ! 業務用の備蓄土嚢袋、百キロ入りを二十袋! 確定ッ!」
ドゴォォォォォン!!
突如として虚空から現れた合計二トンの砂袋が、レンの肩を掴んでいた魔将の少女の頭上へと降り注いだ。
「……っ!? なにこれ、重い……!」
不意を突かれた少女が、漆黒の腕で砂袋を叩き壊すが、飛散する砂と質量に一瞬の隙が生じる。その隙にレンは屋台の奥へと飛び込んだ。
「主の命、承った! 我が魂に代えても、この場は一歩も引かせん!」
「レン様、信じてます! ……はああああッ!」
琥珀が咆哮し、金剛石の翼でタカシの聖剣を強引に弾き返す。ミナもまた、折れそうな腕を無視して魔将の足元へと鋭い蹴りを叩き込んだ。
レンは屋台の鉄板に火を入れた。心臓がうるさいほど脈打っている。
思い出すのは、あの砂漠で初めて琥珀に出会った時のことだ。二十センチしかなかった、ボロボロの小さな竜。
「大きくなってほしかった。もう誰にも負けないくらい、強く、立派に育ってほしかった」
そして、ミナを救ったあの日のこと。
「いっぱい食べて、笑ってほしかった。絶望なんて忘れるくらい、元気になってほしかった」
あの時込めた祈りは、今も俺の包丁の中に宿っている。
レンは万象市場の「スタミナ食材パック・極」を借金覚悟で注文した。
青森県産・最高級福地ホワイト六片:800ポイント
黒豚バラ肉・薄切り(500g):1500ポイント
新鮮なニラと高知産生姜:500ポイント
魔力活性・超濃厚スタミナダレ:2000ポイント
合計:4800ポイント(価格2倍適用で9600ポイント。再び借金生活へ)
レンの手が止まらない。
鉄板に多めの油を引き、包丁の腹で叩き潰した大量のニンニクと生姜を投入する。
ジューッという爆音と共に、暴力的なまでの香ばしさが広場を支配した。
「……くっ、なんだこの匂いは! 腹が減って力が入らねえ……!」
聖剣を構えるタカシが、その香りに理性を揺さぶられて動きを止める。
レンはそこに黒豚のバラ肉を広げ、強火で一気に焼き上げる。肉の脂がニンニクと絡み合い、食欲の権化となって立ち昇る。
さらに、手早く切ったニラを投入。シャキシャキ感を残す絶妙なタイミングで、真っ赤な「スタミナダレ」を回し入れた。
ジュワァァァッ!!
立ち上る蒸気が、戦場を黄金色の香りで包み込む。
最後に、屋台の隅にあった卵を二つ割り入れ、半熟の状態で肉に絡める。
これこそが、現実でも再現可能な時短最強メニュー「黒豚のガッツリニンニクスタミナ炒め」だ。
「琥珀! ミナ! これを食えッ!」
レンは二つの器に、炊きたての白飯と、山盛りのスタミナ炒めを盛り付け、二人の背中に向かって投げ放った。
『おおおおお! 漲る……力が、芯から漲るぞ!!』
宙で器をキャッチした琥珀が、肉を白飯ごと飲み込む。ニンニクのパンチと黒豚の旨味が、龍の細胞を再活性化させ、傷ついた翼が黄金の輝きを取り戻していく。
「おいしい……! 指の先まで、熱くなってくる……!」
ミナもまた、涙を流しながらそのジャンクで力強い味を喉に流し込んだ。
タカシの聖剣が放つ光も、魔将の禍々しい魔力も、レンの作る「飯」の放つ圧倒的な生命力の前では霞んで見えた。
レンは二人を見つめ、心の中で強く、強く願った。
(いっぱい食べて、体を強くしてね。俺が、あんたたちの明日を作るから)
その想いが料理を通じて二人の魂に直結した瞬間、琥珀の鱗がより一層激しく発光し、ミナの周囲に目視できるほどの身体強化の旋風が巻き起こった。
「……さて。お行儀の悪い客たちさん。……おかわりが欲しけりゃ、まずは礼儀ってのを教えてやるよ」
レンは空になったフライパンを構え、冷徹な瞳で勇者と魔将を見据えた。
料理人の反撃は、ここからだ。




