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とんでもスキルで魔国建国 ~ネットスーパーの供物で魔王を餌付けしたら、最強のグルメ大国ができました~  作者: 限界まで足掻いた人生


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第12話:香ばしき調印

ハルナ平原に、穏やかな朝が訪れた。昨夜の天ぷらパーティーの熱狂は、冷涼な朝霧と共に心地よい余韻へと変わっている。広場では、元兵士たちが獣人の若者たちに混じり、自発的に瓦礫の撤去や炊き出しの準備を手伝っていた。


レンはバギーのシートに深く腰掛け、スマートフォンの画面を指で弾いた。借金という呪縛から解放された今、万象市場の画面はかつてないほど輝いて見える。


「……なるほど。ポイントは感情の対価。琥珀が龍へと進化した時の10万ポイントは、死の淵から救われたという絶大な『生存の歓喜』が還元されたものか」


システムのことわりが、ようやく腑に落ちた。美味しいものを提供し、相手の心を豊かにする。それがそのまま、次の食材を呼ぶ力になる。料理人として、これほど明快で、やりがいのあるシステムはないだろう。


レンは今朝の軍資金を確認した。


保有ポイント:7,200


拠点再購入権利:有効(ただし価格2倍ペナルティー継続中)


「今の全財産じゃ、あの豪華なシェルターは買い戻せない。……だが、これならいける」


レンは検索欄に「移動式屋台ユニット・拡張型」と打ち込んだ。


移動式屋台ユニット(鉄板・コンロ・冷蔵庫完備):6,000ポイント(定価3,000)


「確定。……よし、これが俺たちの新しい城だ」


光の粒子が広場の中央に降り注ぐ。現れたのは、質実剛健なステンレス製の屋台だ。バギーに連結可能な牽引式で、横に広がるカウンターを備えている。シェルターのような豪華さはないが、より「店」らしい佇まいに、レンの胸が躍った。


「レン様! また新しい道具ですか? すごい、昨日よりずっとお店みたいです!」


ミナが目を輝かせて駆け寄ってくる。その後ろには、お腹を空かせたリクやセーラ、そして少し遠慮がちに並ぶ元兵士たちの姿があった。


「ああ、今日からはここが俺たちのキッチンだ。……さて、朝飯にするか。今日は手軽に食べられて、力が湧くやつにするぞ」


レンが屋台の鉄板に火を入れる。取り出したのは、昨夜炊いておいた「コシアブラご飯」の残り。それを手際よく三角形に握り、鉄板の上に並べていく。


ジューッ、という小さな音が立ち上る。

レンはそこに、万象市場で取り寄せた「だし醤油」と「バター」をひとかけら落とした。


香ばしい醤油の焦げる匂いと、バターの芳醇なコクが、朝の冷たい空気を一瞬で塗り替えていく。

焼きおにぎりだ。

外側はカリカリに焼き固められ、醤油の衣を纏って琥珀色に輝いている。


「……いい匂い。昨日とはまた違う、お腹の底を掴まれるような匂い……」


行列の端に、見慣れない少女が立っていた。

深い紫色の瞳を持ち、頭からすっぽりとフード付きの外套を被っている。その姿は、ハルナ平原に住む他の亜人たちとさほど変わらないように見えたが、纏っている気配には、どこか凛とした、それでいて底知れない冷たさが混じっていた。


だが、レンはあえて彼女を特別視しなかった。

彼にとって、行列に並ぶ者はすべて等しく「腹を空かせた客」でしかない。


「はい、おまち。熱いから気をつけてな」


レンは焼きおにぎりを竹皮に乗せ、少女に差し出した。

少女は細い指先でそれを受け取り、不思議そうに眺めた。魔王軍の斥候として、人族の動乱を探りに来た彼女にとって、この「平和な匂い」は理解不能な事象だった。


彼女は、意を決したように焼きおにぎりを一口齧った。


パリッ、という小気味よい音がした。

次の瞬間、彼女の脳内に醤油の香ばしさとバターの旨味が衝撃となって駆け巡る。

中から溢れ出すのは、コシアブラの爽やかな香りを纏った、ふっくらとした米の甘み。

魔界の荒々しい食事とは比較にならない、緻密で、計算し尽くされた「温かな完成度」。


「…………美味しい。なに、これ。……熱くて、苦くて、なのにすごく優しい……」


少女の瞳に、戸惑いと、それ以上の法悦が浮かぶ。

彼女の中にあった「人族への敵意」や「任務の遂行」といった硬い氷が、この小さな握飯一つで、音を立てて溶け出していく。


その様子を、少し離れた岩陰からヴェイルが記録石に収めていた。


「……まずいな。あの少女、人族の亜人ではない。あの魔力の密度……魔王軍の幹部クラスだ。それが、あんなに幸せそうに握飯を……」


ヴェイルは胃の辺りを押さえた。外交大臣ベルナルドに報告すべき事態が、また一つ増えてしまった。


「レン。……貴様は、龍と兵士だけでなく、今度は魔族まで胃袋で調略するつもりか」


ヴェイルの独り言は、広場に響く「美味しい」という歓声にかき消された。


レンは、少女が自分の料理を食べて幸福そうに頬を緩めているのを見て、満足げに微笑んだ。

彼女が魔族であるかなど、今のレンにはどうでもいい。

大事なのは、彼女の腹が満たされ、この広場に流れる空気が昨日より少しだけ柔らかくなったこと。


「おかわりはあるからな。ゆっくり食えよ」


レンの言葉に、魔族の少女は小さく頷き、今度は大切そうに、もう一度焼きおにぎりを噛み締めた。

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