幸せな夢
「カルヴァート様!また無茶して!泣きますよ!泣きますからね!」
「ちょっ……待て、泣くな。頼むから泣かないでくれ……」
「カルヴァート様が無茶するからでしょ!」
「う……ごめん。」
小さくなって、本気で反省している姿を見ると、仕方がないと許してしまう。
こんな弱い気持ちではダメなのに、私は本当の意味でカルヴァート様に勝てないのだ。
「わかりました。今日の晩御飯を作ってくれるなら、許してあげます。」
カルヴァート様は、こう見えて料理上手だ。
私と一緒に暮らし始めるまで、一度も料理をしたことがないと言っていたけど、一度教えたらぐんぐんと上手くなっていった。
今では私よりも美味して綺麗な料理を作ってしまう。
少し、女として負けた気分になるけど。
私の仕事が終わった後、2人で手を繋ぎながら家への帰り道を歩く。
途中で晩御飯の材料を買い足したんだけど、カルヴァート様が全部持ってくれた。
本当、こういうところが紳士的だよね。
彼に見つからないように、クスリと笑う。
カルヴァート様が台所で料理をしている間、私はその後ろ姿を感慨深く眺めるのが好きだ。
時々彼が振り返って、困った顔をして笑うのも好き。
晩御飯ができたら、一緒ご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒にベットに入り込む。
こんな穏やかな毎日が続いてくれればいいと願いながら、彼の腕の中で眠りについた。
朝、目が覚めて、思わず隣を見てしまう。
冷たいベッドに触れて、胸が苦しくなった。
幸せな夢を見た。
もし、彼が生きていたら、こんな未来があったかもしれないと思えるような、幸せな夢。
幸せで、幸せで……泣きたくなった。
目覚めたことが、悲しかった。
私が彼を殺したことは、後悔していない。
それが彼の望みだったから。
けれど私は、もっと彼と生きたかった。
バカやって、嗜められて、冗談言って、笑って。
そんな平凡な日常を、彼と過ごしたかった。
そんな夢は、もう叶わないのだけど。
彼を殺して、早くも数年の時が過ぎていた。
なのに、あの日の出来事は、昨日のことのように覚えている。
抱きしめた温もり、感触。
そしてこの手で殺したときの、なんとも言い難い手の触感。
きっと、これから何度だって思い出すし、一度だって忘れないだろう。
私自身、忘れる気がないのだけど。
私はそっとベッドから抜け出して、窓を開けた。
爽やかな風が、頬を撫でていく。
今日もまた、私の一日が始まる。
あの戦争は、結局のところ我が国が勝利した。
何人もの魔法使いや兵士が亡くなった、悲惨な戦争だった。
戦争が終わった後、私は聖女の位を降りた。
魔法使いを救うための存在である私が、魔法使いを殺した。
みんなには、状況的に仕方の何事だと引き留められたけど、私自身が納得できなかったのだ。
聖女を引退した後、遠く離れた田舎に移り住み、そこで回復術師として働いている。
田舎では回復術師は大変貴重なので、近隣の村からも応援要請がかかることがある。
そうして、人々を癒しながら、私は新たな生活を送っていた。
聖女ではなくなったけど、誰かを救う存在でいたい、そう思ったから選んだ。
私は彼が守ってくれたこの平穏な日常を、大切にしながら日々を生きていく。




