一度目の死
隣国との戦が起こり、私たち聖女も戦場に行くことが決まった。
魔法使いが必要不可欠な戦場で、浄化のために撤退することができないからだ。
私はもちろん、他の聖女も、戦場に行ったことのある人は数えるくらい。
みんな緊張と恐怖で、顔をこわばらせていた。
道中は、終始無言で移動をした。
戦場に着いた私たちは、その悲惨さに唖然とした。
今まで私たちがどれだけ平穏な日常を過ごせていたのか、考えさせられる光景だった。
誰も足を動かせなかった状況だったけど、浄化を求める声に無理矢理足を動かした。
1人が動き始めると、流れでみんなが動き始めた。
魔法使いを浄化している間にも、戦場の爆発音は鳴り止まない。
私は、ふと気がついた。
同じ人を何度か浄化しているのに、まだカルヴァート様が一度も戻ってきていないことに。
私はその場を他の聖女に任せて、陣の中を探し回った。
けれど、その姿は欠片もなかった。
「まさか……ずっと戦場に……?そんな、無茶な……」
私は指揮官にカルヴァート様を一度戻してもらえるように、直談判しに行った。
けれども、もう遅かった。
「魔力暴走だ!全員退避しろ!!」
魔法使いの魔力暴走……
嫌な予感が拭えなかった。
どうか違っていて欲しいと願っていたけど、その願いは無惨にも引き裂かれた。
遠目からでも、はっきり見えた。
戦場で、今まさに魔力暴走を起こしていたのは、カルヴァート様だった。
頭を抱え、唸り声を上げながら、魔力を撒き散らしている。
それに当てられた味方の兵士も、敵の兵士も、苦しみながら息絶えていく。
私は浄化の光を全身に纏わせて、魔力暴走の現場に飛び込んだ。
「カルヴァート様!!」
その勢いのまま抱きついて、ありったけの浄化の力を注ぎ込む。
「カルヴァート様!どうか、目を覚まして!」
お願い……どうか……
私の願いは、届いた。
魔力暴走は治っていないが、カルヴァート様は自我を取り戻した。
「な……ぜ……早く……逃げろ……」
「嫌です!言ったでしょう!手を離さないって!」
「今の……状況、では……」
「関係ありません!絶対に、離さない!あなたを守ってみせる!」
私は意地でも離す気はなかった。
私は最期の瞬間まで、そばにいる。
それが、聖女だから!
「なら……俺を……殺してくれないか?」
「……は?」
「お願いだ。本当はずっと……願っていた。俺は、俺自身の死を……こんな化け物、生きていちゃいけない。」
「なんで……なんで、そんなことっ!私はっ……あなたに生きていて欲しいのに!!」
「ごめん……でも、もう楽になりたいんだ。兵器として扱われるのも、殺すのも……疲れた……」
「嫌……嫌よ……嫌!」
「ごめんな……」
私は納得できなかった。
そんなの、悲しすぎる。
カルヴァート様は、駄々を捏ねる私を無理矢理引き離し、突き飛ばした。
「……っ!」
「ごめん……ごめんな……」
そんな顔で謝らないでよ……
私は浄化の力を使いすぎて、身体に力が入らなかった。
もう一度近づくことも、逃げることもできないでいた。
ただ、その時を、無力感に苛まれながら見ていることしかできなかった。
そうして私は、カルヴァート様の魔力暴走に巻き込まれて死んでしまった。
それが、私の一度目の死だった。




