あの人は
この世界には、魔法使いと聖女が存在している。
両者は切ってもきれない関係にある。
魔法使いは魔法を使うごとに魂が汚染されて、最終的に狂化して魔力暴走を引き起こす。
それに対して、聖女は魂の浄化ができるができるため、魔法使いの魂を浄化して狂化を防ぐ役割を担っている。
魔法使いと聖女。
両者がいてこそ、魔法使いは真の力を発揮することができる。
一度目の私は、その魔法使いの魔力暴走を巻き込まれて死んでしまった。
そして気がついたら、聖女就任式の前日に戻っていたのだ。
おそらく、神のイタズラだろう。
それとも、私の願いを叶えてくれたのか。
どちらにしても、私はもう一度やり直す機会を得ることができた。
それだけで十分だった。
一度目の私は、国で1番力の強い聖女だった。
けれどそんな私にも、救えない人がいた。
カルヴァート・レウス様。
この国の王弟殿下で、この国1番の魔法使いだ。
1番同士、自然と私とカルヴァート様は組まされるようになった。
初めは、眼光が鋭く無口無愛想でとても怖い人と言う印象だった。
けれど彼と関わっていくうちに、彼がとてもこの国のことを愛していることに気がついた。
この国のために魂の汚染を恐れず、率先して最前線に向かう。
彼はそんな人だった。
まぁ、それでも怖い人というのは変わらなかったけど。
彼の戦い方は無茶苦茶だった。
聖女がいるとはいえ、普通の魔法使いなら魂の汚染を恐れる。
魂が汚染される時の痛みや苦しみは、表現し難いほどのものだという。
誰だって、痛みや苦しみは避けたい。
それは当然だった。
けれど彼は違う。
痛みや苦しみを感じないかのように、どんどん魔法を使い続ける。
感じないなんてこと、あるはずないのに。
だから彼は、普通の魔法使いからも、そして魂を浄化する聖女からも避けられている。
聖女として、私は許せなかった。
自分を傷つけるような行動をするあの人を。
だから、ついついやってしまったのだ。
何度目かの浄化の時、カルヴァート様を引っ叩いて怒鳴ってしまった。
「もっと自分の身体を大切にして!あなたが傷つくことで、悲しむ人だっている!もちろん、私も悲しい」って。
キョトンと目を瞬かせる彼は、いつもより幼く見えた。
その後、とても言いづらそうに、「ごめん」って言っていた。
聞くところによると、今までそんな心配をしてくれる人がいなかったらしい。
だからって、無茶苦茶すぎる。
それ以降、カルヴァート様とは、浄化のたびに話をするようになった。
好きなもの、嫌いなもの、得意なこと、苦手なこと。
取り止めのない話ばかりしていた。
この頃からだっただろうか。
彼が怖くなくなったのは。
カルヴァート様と話をするにつれ、彼のことが少しずつわかってきた。
魔法使いは、魂の汚染があるから短命だ。
いくら聖女が浄化しても、それは変わらない。
自分たちよりも早く死ぬ可能性がある子どもを、カルヴァート様のご両親は愛せなかったらしい。
どれだけ努力しても避けられてしまい、全く触れ合わなかった。
ご兄弟にしても、ご両親と同じだった。
だから、自分の身を顧みない戦い方をするようになったんだとわかった。
そして同時に、悲しくなった。
たとえ短命が事実だとしても、今生きていることには変わりないのに。
私は自分のことのように胸が痛くなり、思わずカルヴァート様に抱きついてしまった。
そんな私を苦笑いしながら、カルヴァート様も抱きしめ返してくれた。
その時、私は誓った。
私だけは、最後までカルヴァート様の味方でいようと。
そして、カルヴァート様の手を離さないでいようと。
けれどそれは、数ヶ月後に、覆されてしまった。




