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さよなら嘘つき聖女様  作者:
第一部
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7.聖女の村

「なっ、何で私と?」


珈琲を吹き出しそうになった。


「鳴瀬は料理上手だし、それに勇者と結婚すれば、この国での地位も上がるだろ?」


加藤君は思いやりのある人だ。そして正義感も強い。

クラスメイトのいざこざを仲裁する男気のある人だったのを思い出した。

そんな彼だから勇者に召喚されたのだろう。


「私のために言ってくれてありがとう。気持ちは嬉しいけど、せっかく勇者になったんだから、あなたは選り取り見取りでしょ?もっと若くて可愛い子とすればいいのに。もったいないよ」


彼が王城に滞在している間も、令嬢達の熱視線を浴びていたし、「ヨネさん、勇者様の好物は何か教えて下さい」なんて聞いて来る侍女達もいるのだ。


「鳴瀬だってまだ若くてかわ···綺麗だけどな」


勇者になった同級生は照れつつ頬を掻いた。

銀縁眼鏡の少年ではなくなった今の相貌は垢抜けて凛々しく見える。黒目がちの瞳が魅力的だ。


私が眼鏡をしなくなってから、たまに王城の男性からの視線を感じることはあっても、恋愛や結婚の対象とまでは思われてはいない筈だ。

スキル無し、加護無し平民だからだ。未だに私は聖女の下女だと思われている。

もしかしたら、男装しているから女性でなくて見知らぬ少年がいると思われていたりしないのかな?


聖女玲奈が美女で私が醜女であるという洗脳も、勇者加藤の影響で段々解けかけている影響もあるのだとしても。



「私、元いた世界にどうしても戻りたいの。帰ることを諦められない。だから結婚することはできないよ、ごめんね」


私の家庭の事情は既に話してある。


「帰るためのあてはあるのか?」

「ある人から聖女の村があるって聞いたの。過去に召喚の巻き添えを食らって帰れなかった人がそこにいるらしいのよ」

「······取り敢えず、そこへ行ってみたいんだろう?」

「行きたい!」



私は勇者様に同行して旅に出ることを許可された。勇者様の専属料理人と助手としてだ。

まさか聖女の村へ行くとは言えなかったから、「米の代用品探し」「勇者好みの食材探し」という名目で。


「米」と言ったら桐野は眼の色を変え、私が旅に出るのを許可した。


「いい?必ず見つけて来なさいよ!」


どこまでも何様なのかと二人で呆れながら王城を後にした。



***



「あなたのチートって、凄すぎない?」

「そうかな?」


王城を出て一時間足らずで聖女村に到着してしまったからだ。通常は馬車で片道四日はかかる。

一人で魔王討伐に出て、無事帰還できるぐらいだから、そうゆうものなのかもしれないけど。

魔王はダミー(影武者)だったけれどね。


魔方陣を展開し二度の転移で、もう目の前に探していた村が現れた。


「ねえ、この転移魔法で日本に帰ることはできないの?」

「う~ん、俺のチートはこの世界でしか通用しないんじゃ無いか?無事に帰れる保証はないよ」


さっきの魔方陣と、私をこの世界に召喚させた魔方陣の何が違うのかさっぱりわからない。

不親切で胡散臭い神官達の放つ魔方陣よりも、勇者の魔方陣の方が余程信頼できる。



私は村の入り口付近を流れる川で野菜を洗っている母子に声をかけてみた。

着物に似た衣服を纏い作業をしていた。


「こんにちは」

「······黒髪?あっ···!」


母子は驚いて私と加藤を見つめると、「少々お待ちを」と作業を止めて足早に人を呼びに向かった。



白髪の老婆の手を引いて母親は戻って来た。


「あなた様方は、この世界に別の世界から呼ばれて来なさった方かね?」

「はい。彼は勇者様で、私は聖女様の召喚に巻き込まれてこちらに来た者です」

「それはそれは。それで、どちらの国から来なさった?」

「二人とも日本、日の本の国からです」

「ほう。お初様と同じ国かえ?」

「はい、そうです」


老婆は皺だらけの顔を破顔させて、私と加藤を村に招き入れた。

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