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さよなら嘘つき聖女様  作者:
第三部
29/31

29.神託

本来神官とは、神との橋渡しとして神託を得る者だ。だがこの国の神殿の神官が神託を得ることが無くなってから久しい。

ヘイルもラングも神託を一度も受けてはいなかった。

そんな神官達の代わりに神託を受けるのが聖女でもあった。その聖女にすら神託が降りない時代が長い間続いていた。


神殿を取り囲んでいる有翼の火竜は、威嚇するだけで襲っては来ない。


神官長ヴラウワーはこの窮地を打開するために神託を受けるべく祈祷の間に籠った。

無策な王ダレルからもせっつかれていたからだ。


聖女紗理奈は巡礼に出たきり戻って来ず、王都に戻る予定の日を過ぎても連絡すらも寄越さない。


ひょっとして紗理奈は逃げたのか······?


紗理奈とは一蓮托生だった筈が、紗理奈の逃亡はヴラウワーには誤算でしかない。


籠ってから四日目の朝、彼は神託を得た。

ヴラウワーは神託を世間に公表した。


『聖女を火竜に捧げる時、全ての闇は消え安寧が訪れるであろう』


これは真の神託ではなく、ヴラウワーの保身から作り上げた真っ赤な嘘だった。

紗理奈が玲奈だとバレる前に生け贄として処分することを狙ったのだ。


至急聖女紗理奈の行方を探し身柄を拘束するように王命が下った。


あまりのきりの無さに疲弊し嫌気が差した紗理奈は、聖女の役目を放棄した。

三日坊主ですらない彼女としてはそれでもかなり頑張った方であった。

潜伏先でヴラウワーの公表した神託を聞いたが、あれはきっと彼が適当に作った嘘だろうと見抜いていた。

あんな俗物に神託など降りるわけがないと。

しかも、ダレルまであんな王命を出すなんて。


「あいつらは許さない!」


あんな奴らの犠牲になってなんかやるものか。

だから完全に身を隠すことにしたのだ。

そして、いよいよ危なくなったらまた日本に帰ればいい。

神聖力はまだ残っているから、これならきっと帰れる筈だ。


紗理奈は再び黒髪村を目指していた。



***



洵は、玲奈と思われる人物が黒髪村に向かっているようだという報せを騎士バイルシュミットから受けた。


聖女を生け贄にするという神託の発表は実に胸糞が悪く憤りを覚えた。

そもそも、あの神がそのような神託を出すとは思えない。何かの間違いではないのだろうか。


だが今は玲奈を探す方が先決だった。洵は騎士バイルシュミットと合流し黒髪村に急行した。



「アルベルト様······!?」


村へ戻ると死去した筈のアルベルトがそこにいた。

ヘルムートらと既に親子の再会も済ませているのか、ジークベルトを腕に抱き、その傍らにヘルムートが喜色満面で立っていた。


バイルシュミットもあり得ない光景に驚愕した。



「「パパ、もう帰って来たの?」」

「早かったのね、討伐は終わったの?」


彼らと和やかに談笑していた村人達が、戻った洵らの方を一斉に見た。


「あなたは、あの時の魔導師様!?」


バイルシュミットが驚きの声を上げた。


「知り合いなのか?」

「あのダガーはあの方からいただいたものなのです」


下級貴族出身の彼は、上官らから冷遇され粗末な装備しか与えられず、初めての魔獣討伐で負傷し命を落としかけた。


あわやという時、どこからともなく飛んで来たこのダガーが魔獣の眼を突いた。

続け様にダガーが突き刺さり魔獣が怯んだ隙に態勢を立て直し、バイルシュミットは討ち取ることができた。


絶命した魔獣の体からスルリとダガーはひとりでに抜けて、三本のダガーがバイルシュミットの手の中に収まった。


「そのダガーはそなたに進呈する。以後励めよ」


声のした方を振り向くと、魔導師のローブに身を包んだ男が宙に浮いていた。


「私の気が変わらないうちにダガーを仕舞え」


魔導師はダガーに向けて詠唱し、詠唱が終わると彼は瞬時に消え去った。


その日からダガーはバイルシュミットの相棒となったのだ。


「リマール!?お前、こんな所にいたのか」

「バイルシュミット、お前こそなぜここに?」


二人は騎士団の同期だった。


「お前の説明は後にしてくれ。今は聖女の探索が先だ」

「聖女?」

「聖女紗理奈ではなく、先の聖女玲奈のことだ」

「玲奈様だと?玲奈様は元の世界に帰還した筈ではなかったのか?」

「洵、どういうこと?」


(玲奈···、桐野がまさか戻って来ているというの!?)


美帆は不安で青ざめた。



「大変です!祠へ侵入しようとしてる者がいましたので捕まえて来ました!」


村の青年が祠へ侵入しようとした女を連れて来て、皆の前に差し出した。


「放してよ、痛いじゃないの!」


結界をすり抜けるために神聖力を消耗した桐野は、日本を帰るために残り少なくなった神聖力を温存しようとした。

そのため祠へ通じる門を大破するかを躊躇していた最中に、村を巡回していた青年に見つかりあっさり捕まってしまったのだ。

この青年は生まれながらに魔力耐性があり、魅了や支配の魔法は通じなかったため桐野は逃げ切れなかった。


聞き覚えのあるその声と口調、ふてぶてしい態度に、美帆は恐る恐る女の顔を見やった。


「!?」


桐野とは似ても似つかない風貌の女だった。顔立ちは美しかったが、日本で見かけるアイドルやタレント達に見られる量産型美女のような、どこか人工的で作り物臭い感じがした。


(別人?でもあの喋り方は桐野そのものだ)


「······まさか、桐野なの?」


美帆は予想が外れて欲しいと願いながら、もう二度と会うことのないと信じていた、二度と関わりたくない女の名前を口にした。

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