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さよなら嘘つき聖女様  作者:
第三部
26/31

26.異変

元加藤男爵領を引き継いだのは、アルベルトから実直さが買われて派遣された文官ベッケンバウアーだった。

子爵家の三男で、王宮の独身寮暮らしだった彼は、男爵位を得て晴れて婚約者と所帯を持った。


得体の知れぬ勇者から領地の面倒を見るなんてと不安だったが、なかなかよく管理されており、領主は領民からも信頼を寄せられていた。

この国では見慣れぬ初豆や大豆の栽培など、独特ではあったが運営は取り敢えず軌道に乗っており、特に問題はなかった。


驚いたのは、自邸に温泉が引かれてあったことだ。自宅にいながら保養地のような感覚を味わえるのは、得した気分になった。

そもそもベッケンバウアーにとってこの男爵領は棚ぼたで得たようなものだ。


なぜ勇者加藤はここを手放したのか、理解に苦しむ。

生前のアルベルト陛下が加藤男爵は無欲な男と言っていたのが頷ける。



だが、王都で新しい聖女が召喚されたと聞いた頃から、温泉の状態が何やらおかしいのだ。

硫黄臭は元々だが、それに混ざって異臭がするようになった。


「これはどうしたことなのか?」


部下に温泉に詳しい者に相談しながら調査するように申し付けたばかりだ。


そして、突然麦畑に間欠泉が現れて、熱湯の水蒸気を空高く吹き上げた。


「うわあ、なんだこれは!?」

「きゃあああ!」


しかも今まで見たこともない魔獣が現れたのだ。火竜の亜種と思われる魔獣が間欠泉の中から現れた。

魔獣は有翼で、咆哮を上げると翼を広げて飛び去ったため事なきを得たが、近頃地震も多発しており領民の不安に拍車がかかっていた。


それはベッケンバウアー男爵領だけではなく、アララート各地で同様の現象が起きていた。


「紗理奈様、どうか各地へ視察と巡礼を」

「······わかりました」


かつて玲奈だった時は言い訳を作っては逃げて放置していたが、今度は流石に放置するわけにはゆかなかった。


「神聖力で抑えればいいのでしょ?」

「左様です。見事抑えられたなら、紗理奈様の人気も一層上がることでしょう」

「そうよね」


紗理奈は自分の神聖力を過信していた。


まるで土竜叩きの状態でキリがない。

ひとつ抑えてもまた別の所に新たな間欠泉ができて吹き上がるのだ。


「これは、何が起きているのか?」


訳がわからないダレルは苛立ち、事態を収められない紗理奈の神聖力を疑問視するようになった。


ふんっ、王族なんて勝手なものね。


散々私をチヤホヤしていた癖に、役に立たないと秒で掌返しなのだから。

王ならば、王こそが自分で何とかしろっての。

何でも聖女頼み勇者頼みなんて、馬鹿馬鹿しいわ。


「不徳の致すところです」なんて、私がそんな殊勝なことを言うわけないでしょ。

聖女だって万能じゃないのよ。聖女は神様じゃないんだから。


近頃上手くいかない紗理奈は、地の玲奈、素の桐野が以前よりも言動や態度に出てしまっている。


「紗理奈殿、どうか冷静に」


ヴラウワーは紗理奈が玲奈だとバレることを心配して気が気ではない。


紗理奈は落ち始めた自分のイメージの回復を早くさせなければならないと焦り始めていた。



間欠泉から現れた有翼火竜の魔獣達はなぜか王都に集結しているようだ。しかも王城や神殿の周辺に集まって来ているのだ。


黒髪村で穏やかに暮らしていた洵も、討伐に駆り出された。黒髪村には何も異常はない。

勇者を引退したつもりはないが、アルベルトには仕えても、ダレルには正直あまり仕える気が起きなかった。

アルベルトの治世の時は要請が無くてもいち早く駆けつけたものだが、ダレルの治世では要請を受けるまで動く気にはなれないのだ。


それでも王命ならば行かなければならない。



「洵、無事を祈っているわ」

「「パパ、頑張って」」

「パパ、早く帰ってきてね」


洵は一人一人を抱き締めてキスをした。


「僕も行きます!」

「ヘルムート、君はまだ子どもだ。君はここで村と家族を守ってくれ」


村には結界を張り巡らせてある。余程のことがない限りは危険はない筈だ。


ヘルムートには剣術の才能があった。このまま鍛えて行けば騎士でも勇者にもなれるだろう。

彼の祖父の侯爵には見る目がなかったのか、ヘルムートから剣を奪っていた。あのまま侯爵家にいたらヘルムートの才能は潰され埋もれてしまっていたかもしれない。


「すぐに帰って来るから」

「······はい」


珍しくヘルムートは仏頂面だ。


「次に何か起きた時は君も連れてゆくと約束するよ」

「は、はいっ!」


機嫌を直したヘルムートは、養父を琥珀色の瞳を輝かせて送り出した。

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