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さよなら嘘つき聖女様  作者:
第三部
25/31

25.魔女

新しい聖女は小島紗理奈と名乗った。年齢を尋ねられると「アラサーです」と答えた。


「あらさぁとは?」

「三十手前という意味ですわ」


紗理奈は若いふりをするのを控え、玲奈よりは丁寧な言葉使いで接することにした。

以前の玲奈よりも紗理奈である自分が格上のように見せたかったからだ。

他のことは三日坊主ですらないのだが、自分上げのプロデュースだけは怠らないのが桐野なのだ。


神殿にはお初の肖像画が相変わらず飾られていたが、玲奈の肖像画はなかった。

玲奈が罪人として投獄されたからなのを、当の本人なのだから説明されなくとも知っていた。


玲奈だった当時の神官の面々も、神殿が断罪と粛清を受けた際に入れ替わっており、玲奈を直接知っているのは神官長と僅かな者達だけだった。

そのため紗理奈が玲奈だと気づかれず都合が良かった。


聖女としての様々な務めや儀式が初めての筈なのに紗理奈は動じず、なぜか手慣れてすらいるような感覚を周囲の者に与えた。


「今度の聖女様は違うな」

「ああ、玲奈様とは違って神々しい」


周囲の発言は紗理奈にとって多少複雑な気分になることもあったが、 新聖女紗理奈の評判も上々だった。


また、玲奈だとバレるのを避けるために酒席や晩餐会等は極力参加を避けることにしたのが、かえって真面目で貞淑な聖女のイメージを作ることに役立った。

我が儘でやりたい放題だった玲奈とは全く違うと、王侯貴族らも紗理奈を称賛するようになった。


特にダレルは見目麗しい聖女紗理奈に惚れ惚れして絶大な信頼を寄せた。


「紗理奈殿、この国をよろしく頼みます」

「はい陛下、おまかせくださいませ」


控え目で従順な態度を見せておけば、玲奈と仕草等に共通点があろうとも、同一人物だとは思われることもなかった。


だが、しばらくして玲奈と紗理奈の筆跡が酷似していることにヴラウワーが気がついた。


これは······、どういうことなのか?


彼は紗理奈への疑念を強めた。


聖女の力を持ってすれば、自分の容貌を変えることも可能なのかもしれない。

しかし、聖女玲奈は罪人として処罰を受け、元の世界に戻されたと聞いていた。


······なぜその彼女がこの世界にまだいるのか?いや、異世界から······まさか戻って来たということなのか?


もしも紗理奈が本当に玲奈だとしたら······?


だとすれば、なぜ聖女召喚の儀式で新しい聖女が現れなかったのか辻褄が合う。


それは先代の聖女が生存していたからだ。


そして神聖力もまだ衰えずに持っているのだから、新しい聖女が召喚されないのは当然のことだった。


恐らく玲奈は······、紗理奈はその事を知っていたのだ。


知っていて召喚の儀に同席していたのだとすれば、これは紗理奈が初めから聖女に成り代わるつもりだったのだろう。


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それが言葉の通りなのだとしたら。


──恐ろしい女だ。


彼女は自分の犯した罪を何とも思っていないかのようだ。

まるで何事もなかったように振る舞えるとは。


罪悪感の欠如、良心を持たない者、それが最も御し難い人物であるのだ。


紗理奈が玲奈であると公にバレたら、また神殿が罪を問われてしまう。そうなったら今度こそ神殿は終わりだ。


それは絶対に回避しなければならない。


ヴラウワーは紗理奈という危険な聖女、紗理奈という爆弾を抱えてしまったことに戦慄した。

紗理奈が元玲奈ということは何がなんでも秘匿しなければならない。



ヴラウワーは控え室で彼女と二人きりになった際、紗理奈に「玲奈様」と鎌をかけて呼んでみた。


ゆっくりと振り向いた紗理奈は、不適な笑みを浮かべていた。


「神官長とは運命共同体ですわ、ふふふっ」

「······!?、や、やはりそうだったのか······、なぜこのようなことを!?お前は神を怖れないのか?」

「私は神なんてこれっぽっちも信じてはいないわよ」

「せっ、聖女なのにか!?」


······何ということだ。これでは魔女、悪魔ではないか。



桐野は日本で暮らしていた時からそうだった。

桐野家の墓参りはおろか、仏壇にも神棚にも手を合わせず、子どもの頃から神社には地域のお祭りの時ぐらいしか行ったことがない。

しかもお菓子や食べ物、イベントが目当てだっただけだ。

わざわざ賽銭を払ってまで神頼みするなんて馬鹿げていると思っていたのだ。


初詣も一度も行ったことがなく、何の信仰も持たず、神などお伽噺の世界にしかいないと思って来たのだった。


『すべてお天道様が見ている』


そんな祖父母の忠告や教えなどはどこ吹く風、神頼みするなんて無駄なことはせずに、欲しいものや叶えたいことは嘘や人を上手く利用して得る、叶える方が余程現実的だと信じて来たのだ。


自分の願い通り、思い通りにする、それの何がいけないの?


自分の願望や欲望を満たすやり方に疑問や罪悪感など微塵も抱いたことはない。


私はずっとそうやって来たのよ。だから今もこうやって、ちゃんと聖女になっているじゃないの。


一度目は薄気味悪いヘイルに無理矢理聖女にさせられたけど、今度は自分がなりたくてなったのよ。


聖女嫌いのアルベルトももういないし、ダレルも味方につけたのだから、何もかも私の思うままよ。


「バレさえしなければ良いのだから、あなたが私が玲奈だとバラさずに協力してくれれば済むことよ。あなただって良い思いをしたいでしょ?」


ヴラウワーは何も言い返せなかった。


「安心して。私は玲奈よりも上手くやるから」


玲奈とは同一人物とは思えない美貌で、魔女は微笑んだ。

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