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さよなら嘘つき聖女様  作者:
第一部
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2.私は帰りたい

目を覚ますと天蓋つきベッドの上だった。ここは王宮か貴族の邸宅とかなのだろうか?

私は枕元に置かれているであろう眼鏡を手繰り寄せた。

ぼやけていた視界がはっきりすると、そっと身を起こした。

両手には包帯が巻かれてあり痛みは消えていた。

信じられないけれど、これは夢ではなくて現実なのだ。



「お目覚めですか?」


金髪碧眼の小柄な侍女らしき人が、「少々お待ちください」と慌てて誰かを呼びに行った。


桐野はどこだろう?別の部屋にいるのだろうか。


長身で精悍な顔立ちの赤髪の騎士と、長い銀髪で菫色の瞳の多分神官であろう年長の男性が、先程の侍女と共にやって来た。


侍女はメイサ、私の当面の護衛騎士であるリマール、召喚に携わった神官ヘイルだと名乗った。


「鳴瀬と申します。傷の手当てをしていただき、ありがとうございました」

「いえいえ当然です。しかし、なぜお怪我をされたか詳しく伺っても?」


ヘイル卿の菫色の瞳が探るように私を見つめている。


召喚した人物が血だらけで現れたのは、始まって以来だったそうだ。


「病床の父がおりまして、その父を一人残して来ることができず、なんとか召喚の魔方陣から抜け出ようとしたのです」


言葉は問題なく通じているようだ。これも異世界召喚の定番なのだろうか。


「事情はわかりましたが、それはとても危険なことです」

「お手数をおかけして、申し訳ありませんでした」

「それから、確認させていただきたいのですが」


ヘイル卿は私に書類を差し出した。


「同時に召喚された聖女様より伺った通り記載致しましたが、内容に間違いはございませんか?」


い、今、聖女って言ったよね?それとも私の聞き間違い?


寝起きで頭が回っていなかった私だったけれど、書類の内容のあまりの出鱈目さが私を激しくしゃっきりとさせた。


見たこともない文字も普通に読めることも驚きだけれど、私の本名鳴瀬美帆はなぜか鳴瀬ヨネと記載され、年齢はなんと三十歳になっていた。


まさか、ここは四年後の未来の世界なのかと一瞬思った。


······や、やられた。


異世界でも桐野は嘘つきだった。



しかも桐野は新しい聖女様で、桐野志摩子を桐野玲奈と名乗り、年齢は二十歳とサバを読んでいた。


自身のプロフィールだけならともかく、他人のプロフィールを改竄するとか、どれだけホラを吹くのか?


そんな人が聖女様なんかで大丈夫?!



驚きつつも呆れてしまったが、これは桐野が聖女になったチートなのか、私が桐野の嘘を訂正しようとすると声が出なくなってしまった。

否定したくてもできず、不本意でも改竄を受け入れるしかなかった。


それに私は巻き込まれて来てしまっただけで、この世界の方々に歓迎されているわけではない。

強くものを言える立場に無いから目立たず従順でいる方が得策だ。


この世界では知人が嘘つき桐野しかいないなんて最悪でしかない。


「私は召喚されたのではなく、聖女様の召喚の巻き添えで来ただけですので、元いた世界へ帰していただけないでしょうか?」

「申し訳ありませんが、それはできないのです」

「どうしてですか?」

「召喚した者が帰ったという事例はありません」

「それでも、帰る方法自体はあるのでは?」

「いいえ、それは存在いたしません」


ヘイル卿の言葉は丁寧だったが、反論を受け付けない圧があった。


余計な者まで連れて来て、迷惑しているのはこちらだと言わんばかりの態度に私は傷ついた。


それでも私は言わずにはいられなかった。


「召喚に全く関係無いのに、自分の生活を根こそぎ奪われました。私は跡取り娘で看護が必要な父もいるのです。貴族社会ならその重大さがかりますでしょう?ですから責任を待って私を帰して下さいませ!」

「おや?聖女様は、あなたに自分も連れて言ってくれとせがまれたとおっしゃっておりますが?」

「なっ······!」


そんなことがあるわけ無い。嘘つき桐野に猛烈な怒りを覚えた。


彼女は私の家庭の事情を知っていたくせに。


──許せない。


血の涙が出るのではないかというほど私は憤怒で震えた。


「嘘つき···聖女!」


私は喉が締め付けられるのを必死で耐えながら、それだけは口にすることができた。


けれどもその時から私は声を奪われてしまった。

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