幼馴染、特別になった日(蒼真)
「紗月は、昔から特別だった」
でも、俺はその“特別”が、少し怖かった。
中学に上がった頃から、紗月は変わった。
制服を着て、髪を整えて、言葉遣いもていねいになって。
まるで“令嬢”のテンプレートみたいだった。
俺は、隣の席に座っていたはずなのに、いつの間にか、彼女が遠くに感じるようになった。
「青葉くんって、桐島さんと幼馴染なんでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「すごいね。あんなお嬢様と普通に話せるなんて」
クラスメイトの言葉が、妙に引っかかった。
“お嬢様”“普通”。
俺は、紗月をそんなふうに見たことはなかった。
でも、周囲がそう見るようになってから、俺も少しずつ、距離を置くようになった。
紗月は、何も言わなかった。
ただ、少しだけ寂しそうに笑っていた気がする。
あの頃から、俺たちは“家族みたいな幼馴染”じゃなくなった。
そして今――
「婚約、決まったの」
あの言葉を聞いたとき、俺は何も言えなかった。
“おめでとう”としか、言えなかった。
でも、心の奥では、何かがざわついていた。
紗月が、誰かと結婚する。
それが“当然”だと思っていたのに、現実になると、どうしてこんなに苦しいんだろう。
俺は、スマホの画面を見つめながら、ふとLINEの履歴を開いた。
紗月とのやり取りは、数えるほどしかなかった。
昔は、もっと話してたのに。
――俺が、勝手に距離を置いたんだ。
そのことに、今さら気づいた。