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元婚約者と再会したら空気がバグった件(紗月)

海沿いのマーケット。

潮風が心地よくて、蒼真と並んで歩く時間が、少しずつ“本物”になっていくのを感じていた。


「この貝殻のアクセサリー、かわいい」


「似合いそう。買ってみる?」


「……ううん、見るだけでいいかな」


そんなやり取りが、昨日よりも自然になってきている。

それが嬉しくて、でも少しだけ怖かった。


この“自然さ”が、いつか壊れてしまうんじゃないかって

——そんな予感が、心の奥にあった。


——そのとき、聞き慣れた声が響いた。

「紗月……?」


振り返ると、そこには橘慶一がいた。

元婚約者。


過去のすべてを象徴するような存在。


「……橘さん」

声が震えたのは、驚きだけじゃなかった。


過去が、突然目の前に現れたから。


しかも、ここは——

彼と来るはずだった場所。


「やっぱり来てたんだ。……キャンセルされてなかったから、もしかしてって思ってた」

その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられた。


“偶然”じゃない。

彼は、わたしに会いに来たのかもしれない。


それとも、ただ確認しに来ただけなのか。


蒼真が隣にいる。


でも、慶一の視線が、わたしの“過去”を見ている気がして——

その空気が、胸をざわつかせた。


「元気そうでよかった」

そう言われた瞬間、心が少しだけ揺れた。


その言葉が、優しさなのか、皮肉なのか、判断できなかった。


……わたしは、もう“あの頃”じゃない。

でも、完全に切り離せているわけでもない。


写真を撮る流れになったとき、慶一が隣に立った。


その距離が、蒼真との“今”とは違っていて——

わたしは、少しだけ居心地の悪さを感じていた。


慶一の隣に立つ自分が、まるで“元に戻った”みたいで怖かった。


でも、蒼真の視線が、そっとこちらを向いているのを感じて——

その視線に、少しだけ救われた。


……蒼真の隣が、いちばん落ち着く。

そう思えたことが、何よりの答えだった。


でもその答えは、まだ誰にも言えない。

言葉にした瞬間、壊れてしまいそうで——


潮風が吹き抜けるマーケット。

人の声と笑いが響く中で、わたしの心だけが、静かに揺れていた。

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