秘密の告白は夜のベッドで（紗月）
スマホの光が、蒼真の顔をぼんやり照らしていた。
でも、彼の目は画面を見ているようで、どこか遠くを見ていた。
——きっと、真理との会話のことを考えてる。
そして、私の“許嫁”のことも。
……知ってた。高校の頃から。
でも、あの頃の蒼真は、何も聞いてなかった。
優しすぎるくらい、距離を保ってくれてた。
ベッドの境界線の向こう側。
私は、クッションを抱きしめながら、少しだけうつむいた。
言葉にするのが、怖かった。
でも、今なら——
彼になら、話せる気がした。
「……蒼真、ちょっと話してもいい？」
彼はすぐにスマホを伏せて、私の方を向いた。
その仕草が、なんだか嬉しくて。
私は、ゆっくりと話し始めた。
“許嫁”だったこと。
親同士が決めた関係。
高校時代の距離感。
そして、破談になったこと。
知ってるはずの話なのに、彼の目が少し揺れた。
その揺れが、私の胸を締めつけた。
……ずっと、言えなかった。
でも、蒼真には、ちゃんと伝えたかった。
「……ごめんね、巻き込んで」
そう言った瞬間、彼はすぐに答えてくれた。
「巻き込まれたなんて思ってないよ」
「俺、来てよかったって思ってる。紗月が、ちゃんと笑ってるの見られて、ほんとに」
その言葉に、心がふわっと浮いた。
涙が出そうになるくらい、嬉しかった。
「……蒼真って、ほんとにずるい。そんなこと言われたら、泣きそうになるじゃん……」
私はクッションをぎゅっと抱きしめた。
でも、その手の力は、もう“壁”を作るためのものじゃなかった。
ちらりと彼の顔を見て、思わず笑ってしまった。
——この人の隣に、いたいって思った。
「ねえ、クッション、どけていい？ ……隣、座ってもいい？」
彼の目が少し見開かれたのを、私は見逃さなかった。
でも、すぐに頷いてくれた。
「もちろん。……こっち、来て」
私はそっとクッションを横に置いて、彼の隣に座った。
距離は、ほんの数センチ。
でも、その近さが、今はとても心強かった。
そして——彼が言った。
「……代役じゃなくて、隣に立ちたい。本物になりたいって、思ってる」
その言葉に、胸がぎゅっとなった。
驚いて、彼の顔を見た。
そして、そっと彼の肩に頭を預けた。
「……じゃあ、ちょっとだけ、甘えてもいい？」
震える声だったけど、彼は何も言わずに、そっと肩に手を回してくれた。
——その瞬間、私は気づいた。
……蒼真の言葉、ずっと欲しかったんだ。
“代役じゃなくて、本物になりたい”って。
それって、私がずっと、彼に言いたかったことと同じだった。
心の奥にしまっていた言葉が、彼の口から出てきた。
それが、何よりも嬉しくて。
何よりも、ドキッとした。
