CAさんに“ご夫婦”って言われた(蒼真)
「お飲み物は何にされますか?」
CAさんの笑顔に、俺は少しだけ緊張した。
隣の紗月は、すでにメニューを見ていた。
「オレンジジュースで」
「……コーヒーで」
「オレンジとコーヒーですね。ご夫婦でお揃いの席、素敵ですね」
その一言に、俺と紗月は同時に固まった。
ご夫婦……!
いや、そういうプランで予約してるんだから当然なんだけど、
実際に言われると、なんかこう、変な汗が出る。
「……あ、はい」
紗月が自然に返事をしたのを見て、俺も慌てて頷いた。
「ありがとうございます。ご新婚旅行、楽しんでくださいね」
CAさんが去ったあと、俺たちはしばらく沈黙した。
「……慣れてるね、紗月」
「……ふりをするだけだから」
そう言って、彼女はコーヒーを一口飲んだ。
でも、耳が少し赤くなってるのは、見逃さなかった。
その後、機内の揺れが少し強くなった。
ドリンクが揺れて、俺のオレンジジュースが少しこぼれた。
「わっ、ごめん!」
「大丈夫? 服、濡れてない?」
紗月が慌ててティッシュを差し出してくれる。
その距離感が、さっきまでよりずっと近い。
「“夫婦”なんだから、これくらい当然でしょ?」
冗談めかして言ったその言葉に、俺は少しだけ笑った。
でも、心の奥では、何かが少しずつ変わり始めていた。
……この“ふり”、いつまで続けられるんだろう。
“仮装のような関係”のはずなのに、
彼女の隣にいることが、少しずつ“本物”に近づいている気がしていた。




