チェックインから始まる恋の演技(紗月)
白いワンピースに、淡い水色のカーディガン。
髪を軽く巻いて、少しだけ“大人っぽく”見えるように整えた。
鏡の前で何度も確認して、ようやく家を出た。
(……変じゃないかな)
空港に着くまで、ずっと心臓が落ち着かなかった。
“新婚旅行”という名の、仮装のような旅。
隣にいるのは、幼馴染の。
でも、今日からは“夫”として振る舞わなくちゃいけない。
出発ロビーの前で、蒼真の姿を見つけた瞬間、胸が高鳴った。
「蒼真!」
蒼真が振り返る。
その目が、わたしを見て、驚いたように見開かれた。
「……なんか、雰囲気違うな」
「そう? 旅行用に、ちょっとだけ頑張ってみた」
「“ちょっと”じゃないだろ。……似合ってる」
その言葉に、思わず頬が熱くなる。
嬉しかった。
チェックインカウンターで、スタッフに言われた。
「ご夫婦でのご旅行ですね?」
一瞬の迷いもなく、わたしは答えた。
「はい」
その瞬間、蒼真が少しだけ固まったのがわかった。
でも、蒼真もすぐに頷いてくれた。
……これが、“仮装のような関係”の始まり。
飛行機の席は隣。
旅行会社には“新婚旅行”と伝えてある。
「蒼真こそ。わたしの“夫”役、ちゃんとできる?」
「……努力はする」
その言葉に、少しだけ笑ってしまった。
「じゃあ、まずは“夫婦の第一歩”」
彼の腕に、そっと手を添える。
周囲の目が気になる。
でも、それ以上に、彼の手の温度が気になった。
これは、ただの“一時的な役割”。
そう言い聞かせながらも、
心の奥では、少しだけ本気になりかけている自分がいた。




