表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「もうひとりの、わたしへ」  作者: 赤虎鉄馬
3/6

第三話 姿見





引っ越してくる前から使っていた姿見を、私は寝室の隅に立てかけていた。


縁が少し欠けていて、角度によって歪んで見える。


でも、不思議と手放せなかった。なぜか、それだけが「本当の自分」を写してくれる気がしていた。




ある朝、洗面所で顔を洗ったあと、ふと鏡を見た。


自分の目元が、少しだけ、柔らかくなっている気がした。


睫毛が長くなった気がした。肌が白くなった気がした。


いや、そんなわけない。そんな都合よく人は変わらない。


私は、目をそらした。




夜。


寝る前に、寝室の姿見を何気なく覗いたときだった。




――鏡の中の“私”が、一瞬だけ、笑った。




私は笑っていない。動いていない。


けれど、鏡の中の私は、ほんのわずかに口角を上げた。


その顔は、どこか女の子のようだった。




「…会えたね」




かすかに、唇がそう動いた。




私は立ちすくんだ。足が動かない。


喉が渇く。鼓動がうるさい。


けれど、その“私”の目は、どこか懐かしいものを宿していた。


懐かしい、でも、思い出せない。


まるで、かつて確かに「自分だったもの」が、そこにいるような。




「私はね、ここに閉じ込められてたの」




そう呟いたのは、夢だったのか、現実だったのか。


私は気がつけば、朝まで鏡の前に座っていた。




そして気づいた。


鏡の前に置いたはずの自分のスリッパが、片方だけ、鏡の中に映っていなかった。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ