第二話 誰かがここにいる
夢が、醒めない。
目を覚ましても、私はまだ“誰かの気配”を感じていた。
部屋には誰もいないのに。窓は閉まっていて、玄関には鍵がかかっていて。
でも、空気が違う。気配が違う。
まるで“彼女”が、夢の続きをここで見ているような。
その朝、私は居間のカーテンが少しだけ開いているのを見つけた。
引っ越してから、一度も触っていないカーテンだった。
なぜなら、その窓の向こうには、崩れかけた塀と雑草だらけの隣家の裏手しか見えないからだ。
一瞬、寒気が走る。
でも、そんなことは気のせいにしてしまうのが、習慣になっていた。
朝食を食べ、洗濯を干し、少し散歩に出て――
夕方になって戻ってきた時だった。
玄関にあるはずのない、白い靴が一足、並んでいた。
小さな、華奢な、女性ものの靴。
見覚えなんてない。買ったこともない。
だけど、それを見た瞬間、私は「知ってる」と思った。
夢の中で、彼女が履いていた。あの、白いワンピースと一緒に。
「――やっぱり、入れ替わろうか?」
声が、後ろから聞こえた気がした。
振り向いても、誰もいなかった。
でも、わかっていた。
誰かが、ここにいる。
私の中に。私の外に。
夢の中の“彼女”が、現実に染みだしてきている。
そして私は気づく。
カレンダーが、一日進んでいなかった。
昨日と、今日が――まったく同じ日付だった。