『なんとかなる、きっとなる?』
「どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう」
厨房でカミュは祈りながら思考を巡らせていた。
本日の当番は、カミュと──ダーイング。
まだ、料理経験の浅い大公様と凝った料理なんて作れない自分。
……ここはもう。諦めるしかない。
適当に、食料庫にある保存食つまりは、ギリクが作り置いているものを煮るなり焼くなりして食べれる状態にするしかない。
「ギリクさん、ごめんなさい。今度お手伝いしてお返しします」
鶏のレバーパテと、大嘴のもも肉のコンフィとラベルが貼られた二つを取り出して調理台に乗せると、カミュはパテの瓶をダーイングに渡して、サンドイッチを作るように頼んだ。
コンフィを火にかける。
ゆっくりと固まっていた脂が溶けて、ローズマリーの香りがふわり、と鼻をかすめた。
ううう。美味しそうです。ギリクさん、ありがとうございます。ごめんなさい。
◇◇◇
何をそんなに謝っているのだろうか。
ダーイングはレバーパテを黒パンにたっぷりと塗り、その上にスライスしたきゅうりにトマトを乗せて最後にゆで卵を並べて、オープンサンドにして、黙々と皿を埋めていた。
いつのまにか指についていたパテを舐め取ると。
貴族でも「こちらは高級料理店で購入した品物でございます」と言われてもわからないだろうと思わせる程の出来栄えだった。
……。
……料理の腕で、あの巨人を負かすことができるかどうか、一瞬考えて。
ダーイングは即座に考えそのものをなかったことにした。
そう、「俺は何も思っていない」と。
無心になって料理に没頭した。