『紅酒(コウシュ)』
「……央華國の酒か。私が嫌いなものをわざわざ酒の席に出すとは。───何か、私はお前の気でも損ねたか?」
丸い透明な瓶には透き通った紅の酒が満たされている。
央華國の文字で書かれた札はところどころ、古びている。
年代物と思わしきそれに、スプルスは目を細めている。
瞳は『忌むべきもの』と。それを認識しているのが、傍目にわかった。
「仕方なくだ。『underの酒蔵で見つけたけど、ウチのツマミとも合わないし』って、ピリカに持ってけってな」
「……呑むなら、私抜きで呑め。舌に合わん」
「では、スプルス様にはウィスキーをご用意いたします。何か一緒に召し上がられますか?」
ウィスタードの質問に、スプルスは短く「砂糖」と答える。
「砂糖でございますか?」
「その酒の原料は、唐辛子だ。年代物はとにかく辛いぞ」
その一言で、酒宴の場が沈黙に包まれた。
「ピリカ……。なんつーもんを」
「ウィス。蜂蜜とチョコレートも追加で」
「あ。牛乳あったよね? 僕、アイス作るよ」
◇◆
紅酒に挑んだ男たちは、例外なく唇と舌が痺れ、のどは腫れ上がった。
丸瓶の酒はほんのすこししか減らなかった。
「拷、問用、だろ!!!」
「そうだが?」
さらっと、答えたスプルスにザイルが掠れた声で抗議する。
「先に、言って、えええ、ええ!!」




