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『グレイターボアのハーブベリーソース』

 本日のまかない当番は、石の家の用心棒ことギリク。

 そして、まな板の上に乗っているのは、一週間ハーブ液に漬け込んだグレイターボアの塊肉。

 剣王国の山岳地帯、ウィスの地元で彼によって仕留められ直送されたものだ。


 丁寧に血抜きから部位分けもされたそれを、一部はギリクが今回のまかないに使っている。

 残りは、ルシアスが冷凍保存しているので、頭の中でシチューや他のメニューを考案しながら食べ切る。

 若い連中から「トンカツ喰いたい!!」と指定があるので、それは後日作る。


「さてと、まずは毒抜きしたスライムで肉を包んで、鍋に入れてゆっくり火を通して──」

 透明でプルプルとしたスライム膜で包まれた肉は、お湯を張った鍋の中でじんわりと色を変えていく。

 真っ赤な肉の色から、薄いピンク色と白い脂。


 肉が茹で上がるまでの間に、タレを作る。

 ザイルの地元の名産。ゴルゴンベリーを潰して、裏漉(うらご)しして種子を取る。

 こうすると舌触りが良くなる。

 そこに、砂糖を投入。


 ハーブ液に漬け込んでいたので、味は浸透している。

 ミント、セイボリー、タイム、トウガラシなど。

 少し辛めの味に甘いタレが良く合う。


 ◇◇◇


 ダイニングで待たされているライアは、厨房から漂ってくる香りに今か今かと体を揺らしている。

 他の面々も、そわそわと待ち遠しい様子。

 ぐううううう、と誰かの腹がなって空腹を訴えた。


 ◇◇◇


「もういいか」

 充分に火が通った肉を鍋からあげて、スライム膜ごと包丁で一口大に切り分ける。

 赤いベリーのタレを皿に回しかけて、盛り付ける。


 細かいハーブに肉のロゼ。真っ白な皿に赤い模様は芸術点も満点。


 ◇◇◇


 すでに、テーブルにはバケットと米、各種酒類が陳列して主賓であるメインディッシュを待ち侘びていた。

「旦那、旦那。早く、早く!! 肉が、冷める!!」

「お肉が冷める前に、いただきましょう!!」


 うんうんと、頷きあう従業員たちにギリクは。

「褒めても何もでねーからな」と、皿をテーブルに置いていった。


 ◇◇◇


 純白の皿の上。

 薔薇色の断面を彩る緑と赤のコントラスト。


「どうしてギリクの料理はこんなに芸術的なんだろうね。転職した方が良いんじゃないかい?」

「人は見かけによらない」

「能ある鷹は爪を隠す」

 従業員たちから称賛のような皮肉のようなものが飛ぶ。


「とっとと、喰え」

 ギリクは酒を瓶であおる。


 フォークで肉を突き刺して、口に放り込む。

 ぷるりとした食感のあと、獣とは思えない柔らかさと臭みのない肉と脂の味が混ざり合った。

 ハーブは味を引き立たせる脇役。

 ゴルゴンベリーソースと共演すれば、酸味と甘味が、肉の味を一変させる。


 いつもうるさいザイルは無言で頬を膨らませて、伯爵はのんびりと味わいながら、赤ワインを嗜む。

 ウィスタードは眉間に皺を寄せて、どう作ったのかと思案している。


 ギリクは、もう一口かじりながら。家訓である『飯は美味けりゃ、それでいい』を思い出し、酒で呑み込んだ。

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