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殺さない殺し方

本日の投稿はここまでです。

「う…うそーん…」



 どうも白雪の背中を見つめて間抜けな声を漏らす僕です。


 僕は今…正直、とんでもない事が起きた所為で頭がハッキリ回っていない。


 簡単に説明すると、僕は才能を確かめる為に色々検証していた。


 その中の身体強化魔法で興味本位に強化し続けたら身体が耐えられず左手の骨を折る。


 それから権能の【治癒】で治せないかと思ったけど結局ダメ。


 武術の才能以外試し終えたから終わろうとしたらヨタヨタと白雪が近づいて来る。


 歩けた事を褒めようとしたら折れた左手をジッと見つめられる。


 そしたら白雪の背中が眩しく光って僕の左手が完治していた…だ。


 そして今、僕は白雪の服を捲って光る背中を見つめているんだけど…



「……これ、神印(メモリア)だよね…?」



 白雪の白い背中には蛇が巻き付いた杖を持つ一柱の女神の絵が描かれていた。



「左手を治した事もそうだし…この神印(メモリア)の杖…『アスクレピオスの杖』か…?」



 浅い知識だけど確かギリシャ神話に登場する名医アスクレピオスが持ってた杖で、医療、医術の象徴…だったっけ?


 しかもこの絵の女神…僕の神印(メモリア)の女神と似てるし…ルミナか…?


 それより何で白雪が神印(メモリア)を…?



「……もしかして眷属の僕が白雪をテイムしたから芋づるで白雪も眷属になったって事か…?」



 また謎が増えたけど…今は白雪のこの背中をどうにかしないといけない。



「白雪、聖気って分かる?」



 首を横に傾げる白雪。



「今から白雪に聖気を流すから感じ取れたら首を縦に振ってね?」



 そう言って今だ光り続けている白雪の背中に両手を当て、僕も背中を光らせながら白雪に聖気を流し込む。



「どう?なんか暖かいの感じる?」



 コクコクと頷く。



「その暖かいのを身体から出ない様に内側に溜められる?」



 すると白雪は自分の胸に手を当て俯き、僕は背中から手を退かして服を直し少し離れて見守る。



(さっきの光は明らかに神聖属性だった…しかも僕よりも強力な…もしかして白雪は仮契約じゃなく本契約をルミナと結んだ…?もしくはルミナから神の贈り物(ギフト)でも送られたのか…?)



 あー…教会にある適性の儀の時に使ったあの水晶に触れて直接ヘイルとルミナに聞きたい…


 でも今教会関係は…確か神の遺物に触れればって言ってたからあの水晶じゃなくても―――



「…あっ…あるじゃん王城に…」



 あの大きな大きな水晶―――真実の眼が。



「よし…次王城に行ったら触らせてもらおうか…」



 いつかは神の遺物を家に用意しようと決意を固め、白雪の背中を見れば徐々に光が弱々しくなっていく。



「後は白雪の才能とかも確認しないとな…この場合はテイマーギルドに行けばいいのか…?いや、出来るだけ情報は秘匿したいしなぁ…」



 そんな事を悶々と考えていると白雪の背中の光が消えてすり足気味でこちらに近づいて来る。



「うん!よくやったね白雪!左手治してくれてありがとね!」



 少し背伸びして頭を撫でてあげれば嬉しいと感情を返してくれる。



「さてさて…折角白雪が治してくれたんだから最後に武術系の才能も確かめてみるか」



 感じていた熱も痛みも違和感も綺麗さっぱり無くなっている左手を何度も握り、鋼鉄魔法で新しい鉄柱と両刃の鍔無し片手直剣を生み出すと白雪は銀色の剣をジッと見つめて両手を僕に差し出す。



「…ん?白雪もやってみたいの?」



 頷く白雪。



「んー……怪我したらやだしこれでもいい?」



 まだ足元もしっかりしてないのに真剣を握らせるのはちょっと…だから僕は【空間収納】から黒樹の大森林の木材で作った木剣を手渡し、木剣を受け取った白雪は鉄柱に近づき―――



「…んぃ!?」



 ただ乱暴に振り抜いた木剣は鉄柱を無残に拉げさせ訓練場に大音響を響かせた…。



「う、うわぁ…見た目はそれでも膂力は魔獣ってわけか…」



 拉げた所為で木剣が鉄柱に飲み込まれ、鉄柱から木剣を取り返そうと力任せに引き抜き尻もちをつく白雪…可愛い奴め。


 ただ…このまま放置すると簡単に人死にが出るな…。



「えーっと白雪…?今のって全力?」



 グッと親指を立てる白雪…何処でそんなの覚えたんだ?



「じゃあ半分ぐらいの力でもう一回やってくれる?」



 新しい鉄柱を立てると白雪は頷いてまた乱暴に木剣を振り抜く。



「っ…相変わらず音は凄いけど…」



 耳を塞いで木剣で殴った所を見ればキッチリと手加減出来ているらしく、最初の鉄柱は完璧なお辞儀をするレベルで拉げているが、今の鉄柱はその半分程度に拉げている。



「…うん、今のをもう半分の力でやってくれる?」



 三度目は角と表面がべっこり凹む程度の力。



「んー…これなら骨が折れる程度で死なない…かな?次はこれじゃなくて僕に打ってみてくれる?」



 全身が隠れる分厚い大盾を生み出し、床に置く様にして大盾を構えると白雪は木剣を振り上げ―――



「ぐっ!?なんっ…うあっち…」



 強烈な音で脳を揺さぶられ、強烈な衝撃で身体を痺れさせられた僕は情けなく尻もちをついた…。


 大盾を見ればクッキリと木剣の形に凹んでいる…これが討伐難易度S-の力…【盾術】の才能が無かったら…



「…ああ、大丈夫だよ白雪、怪我はしてないから」



 また背中を光らせて回復魔法を掛けようとしてくれる白雪を撫でて止める。


 こうやって手を握ったりする時の力加減は問題ないし、手加減自体は出来てる…これならあんまり心配しなくてもいいか。


 でも一応の保険として刃がある武器は持たせない様にしようかな…。



「白雪、戦う時の力加減は今のをよく覚えててね?白雪の全力を人にぶつけたら間違いなく弾け飛ぶからね…でも、命が危ない時とか怪我をしそうな時は遠慮はいらないからね?」



 コクコク頷く白雪。



「後で白雪用にもう少し形を整えてあげるか…今は歩きを完璧にマスターしようね?じゃないと一緒に歩けないし」



 何かをジッと考え木剣を僕に渡した白雪は壁に手をつかずたどたどしい歩き方でもゆっくりと訓練場を歩き始める。



「んじゃ…検証しようか」



 白雪が拉げさせた鉄柱を消し、新しい鉄柱を生み出し相対する僕。



「まずは【剣術】…」



 気力を薄く鋭く纏わせて手足の延長の様に感じる剣を振るえばキンッ!と鉄柱から音が響く。



「流石に【剣術】を持ってるだけじゃルシェロさんとかカリスさんみたいに綺麗には斬れないか」



 だが、昨日見たルシェロさんとカリスさんみたく斬れていない様には見えず、切り口が少し荒く表面がズレていた。



「次は両手剣でも【剣術】の才能の判定なのか…」



 片手直剣の形のまま刀身だけを僕の身長と同じぐらいに伸ばして両手剣のサイズに変えるが、問題なく【剣術】の恩恵を受けているのか手足の延長の様に感じる。



「うん、振りやすい…なら大剣はどうだ…?」



 長さ2m、幅1mのもはや剣の形をしただけの鉄塊を生み出し【怪力】を意識しながら構えるが…



「【剣術】が適応されるのは両手剣までか…っとと」



 軽く振るって感触を確かめても手足の様には感じず、どちらかというと大剣に身体を振り回される様な感覚になる。



「大剣は【大剣術】とかなのかな…?ちなみに刀は……【剣術】対象外なのか」



 何となく刀は【剣術】より【刀術】って才能な気がしたけどその通りだったみたいだ。


 実際剣は重量と耐久性を生かして鈍器と刺突をメインに扱ってたみたいだし、刀は斬る事と斬り方を重視した造りだしね。



「次は【槍術】…短槍も長槍も問題ないし、薙刀は…対象外か」



 槍は問題なく手足の様に扱えるが薙刀はただぶん回すしか出来ない…もしかしたら薙刀も【刀術】に当て嵌るのか?



「【刀術】はジゼルさんに聞いてみるか…で、次が【斧術】」



 薪割り用の片手斧から先端に大きな刃を付けたバルディッシュも問題なく手足の様に使えるが、



「…あれ?ハルバードだけ【槍術】も反応してる気がする…ああ、ハルバードって槍斧とか斧槍って言われてたっけ。なるほどなるほど」



 どうやら武器の用途が被っていれば【斧術】としてハルバードを振るう事も、【槍術】としてハルバードを振るう事が出来るみたいだ。



「んで…【弓術】…」



 少し離れた場所に鉄のマネキンを四本生やし、射線上に白雪がいない事を確認して薄く弾力性を加えた鉄の短弓に五指で握り込んだ四本の矢を番え―――



「…うん、全部首に刺さったね」



 今度は自分の身長以上の長さの長弓に普通の矢より少し太い矢を番え―――



「…問題ないね」



 的になったマネキンの首が千切れ飛んだ事としっかり扱えてる事に安堵の息を漏らす。



「次は…【棒術】か」



 細長い鉄の棒を生み出してクルクルと回せば問題なくイメージ通りに動く。



「ただ…棍棒は【棒術】に入らないのか」



 短くして先端を膨らませた棘付き棍棒にしてクルクル回すと途端に手から滑り落ちてしまう。



「これは【棒術】の他に【棍棒術】みたいな才能があるのかな…?ちなみにモーニングスターは―――いてっ!?」



 そして試しに棒と鉄球を鎖で繋いだモーニングスターを振り回せば鉄球が頭の上に落ちて来た。



「…ふぅ…えっと?次は【短剣術】…これはナイフでよく使ってるから分かってる。次は【鞭術】か」



 醜態は無かった事にして金属の鞭を生み出し振るえばどう曲がるか、こう振るえばここで一番威力が出るかがスッと頭に入って来る。



「次は縄…うん、縄も大丈夫。鎖も…大丈夫だ」



 縄を鉄柱に投げれば遠隔で捕縛出来るし、鎖を投げれば捕縛しつつ縄よりも強度があるから何処かに引っ掛けて逃亡も防げる。


 まぁ、『虚無繰(からくり)』があるからそこまで頻度は高くないけど…無力化したい時には使えそうだ。


 ちなみに馬鞭や教鞭みたいな短い鞭を持てば【調教】の方が反応する…うん。



「【暗器術】は主に投げナイフとかワイヤーとかだし…【体術】もパトラさんのおかげでかなり磨かれてるし、【盾術】もさっきの白雪の攻撃を受けたおかげで分かったし…【投擲術】も【暗殺術】も問題ないな」



 ようやく全ての才能の確認を終えて一息吐きながら懐中時計を見れば18時。



「18時か…魔導列車を進める為に模型の設計図になる王都の詳細な地図でも作ろうと思ってたけどちょっと微妙な時間だなぁ…」



 ふと視線を白雪に向ければ三時間の特訓が実ったのか歩き方は大分良くなっていて、これなら街中で歩いていても不審がられる事はないが…



「…僕が付けてる認識阻害のピアスが必要そうな容姿なんだよなぁ…」



 控えめに言っても今の白雪は可愛い…元になった人物を思うと複雑だけど、綺麗な白い髪も宝石の様な赤い瞳も、ダボダボな服を着ていても分かるぐらい膨らんだ胸も、服の裾から出てる白くて細くて長い脚も、無表情だけどなつっこい仕草も人の目を惹くには十分過ぎる。


 僕の時はまだ幼女っぽかったし保護者がずっと付いてたから表立って声を掛けられる事は無かったけど、白雪は女性と言っていい年齢の容姿をしているし保護者の僕と姉妹に見られて声を掛けられる標的になりやすい…。


 一時的に白蛇の姿に戻ってもらう…?いや、こんなに歩く練習をしたのにそれは可哀そうだよな…。



「……試しに隣の酒場で反応見てみるか。白雪ー!お腹空いたー!?」



 そう白雪に問うと頭を何度も縦に振りながらゆっくり歩いて来る…可愛い奴め。



「じゃあ人型の状態で食べてみよっか。ご飯終わったら木剣手入れしてあげるからね」



 そして僕は黒ずくめの暗殺服を脱ぎ、いつもの黒てるてると猫耳パーカー姿で―――



 ………


 ……


 …



「こんばんは、もうお店空いてますか?」



 少し古くなった木製の両扉を押し、ギィギィと軋む音と一緒にお店の中に声を響かせる僕。



「ああ、本日第一号様だ―――ん?隣の嬢ちゃん?」



 煙草を咥えながら三人のウェイトレスと多くのテーブルを拭いていた男が僕を見て目を丸くする。



「どうも『ドベルク』さん、今日はお酒じゃなくご飯を作るのが面倒なので食べに来ました」


「そうだったのか。好きな所に座りな、すぐ用意するよ」


「ありがとうございます」



 カウンターに置いていた灰皿に煙草を捨てて石鹸で手を洗うドベルクさんに笑みを向け、白雪を連れてゆっくりと階段を上って二階一番奥の隅に座る。


 店の内装は全てが木造で、一階部分には丸テーブルと丸椅子がセットになった席が30席置かれるホールになっていて、そのホールには個室席かお手洗いなのか扉が十枚設置されている。


 二階部分は10席程度に抑えられていて柵から身を乗り出せば一階の様子が全て一望出来る作りになっていて、一階が誰とでも酒を飲みながらはしゃげる場だとしたら二階は騒がしい喧噪を楽しみながらゆったりと酒を楽しむ場となっている。



「まためんどーにゃ所に座ったにゃ!」



 トレイにメニューらしき羊皮紙を乗せてかなり正直に物を言って来る猫型獣人族のウェイトレスさん。



「あはは…すみません、僕と姉が一階にいると絡まれそうなので…」



 この席を選んだ理由を言うとウェイトレスさんは遠慮なしに僕と白雪の顔をジッと真正面から見つめる。



「にゃー…確かに狙われそうだにゃ。にゃら個室にすればいいにゃ!」


「そうしようかと思ったんですけど、せっかくの酒場なので雰囲気を楽しみたくて」


「ふーん…変わってるにゃ!これメニューにゃ!決まったら呼ぶにゃ!」


「わかりました」



 にゃっにゃっと声を漏らしながら階段を下りていくウェイトレスさんを見送り僕と白雪はメニューを見つめるが…



「…これ、メニューの絵だよね…?絵の所為で全部マズそうに見えるんだけど…」



 店主のドベルクさんの絵なのか、はたまたさっき見えたウェイトレスさんの誰かの絵なのか、線もぐちゃぐちゃでどんな料理なのか全くイメージが湧いてこないメニューに眉を顰める。



「名前で選ぶしかないか…」



 ちなみに基本的に水は有料だから頼まないと持って来てくれない…日本のサービスに慣れている身としては少し違和感を感じてしまう。



「白雪は何が食べたい?」



 そう問えば伝わって来る感情は肉。



「肉ねぇ…名前的に肉っぽいのは…分からん!すみませーん!」


「はいにゃー!」



 呼び鈴も無いから大声を出すとさっきのウェイトレスさんが階段を使わず吹き抜け部分から跳躍だけで二階に上がって来た…普通に凄い。



「えっと、水を二人分とこのお店の肉料理全部ください」


「…にゃ?肉料理全部にゃ?15種類も食べられるのかにゃ?」


「はい、姉はこう見えてかなり食べられるので」


「にゃー……野菜も食うにゃ。そんにゃんじゃ大きくにゃらないにゃ」



 おい、僕の胸と白雪の胸を見比べて悲しそうに言うなし。



「じゃあ…お姉さんのおすすめで野菜もお願いします」


「かしこまりにゃ!全部で銀貨1枚と銅貨2枚にゃ!」



【空間収納】から言われた金額を出して手渡すとウェイトレスさんは階段を使わず吹き抜けから飛び降りてそそくさとカウンターの奥に引っ込んだ。



「…先にスプーンとフォークとナイフと箸の使い方を教えよっか」



 料理が来るまでの間に最低限食器を扱える様にと丁寧に教え続けて約20分。



「「「お待たせしました(にゃ)」」」



 三人のウェイトレスが両手に料理が乗ったトレイを持ってきた。


 テーブルに乗せられていく肉料理達は鳥の丸焼きや厚切りの肉に鉄の棒を突き刺さした肉串、どれも一皿でお腹がいっぱいになる様な量が乗っている光景は圧巻としか言いようが無い。



「うわぁ…凄い量ですね?」


「注文したんだから残さず食べるにゃ」


「それはもちろんです」



 …正直、僕一人じゃ二皿食べてお腹いっぱいになってしまうが、こっちには滅茶苦茶食べる白雪がいるからね。



「それじゃあごゆっくりにゃ~」



 また吹き抜けから飛び降りようとするウェイトレスさんを別のウェイトレスさんが阻止して階段を下りていくのを見届け、



「んじゃ…いただきます」



 僕と白雪は手を合わせ運ばれた料理を口にする。



「ん!美味しいね!」



 コクコク頷きフォークを使って大きな一口で食べていく白雪。



「量があるのに安いし、これなら料理が面倒になった日は通えるなぁ…」



 白雪が満足する量の料理を作るのはかなり時間掛かってたし…少しはこのお店に貢献しておくか。


 それから僕は羊皮紙にまだ手付かずで残っている料理の絵を詳細に描きながら徐々に入って来る人達の声を【風の声】で拾い情報収集を始める。



「なぁ聞いたか?近くで『ゴブリン』の集落が見つかったらしいぜ?」


「おっ?それいつだよ?」


「今日だよ。新人冒険者が見つけたらしくて血塗れで報告しに来てたぜ」


「んじゃあ大規模討伐がありそうだな…緊急性はあんのか?」


「それはギルドの職員が確認してんだろ」


「そりゃそうか。緊急性ありでランク関係なく招集された方がこっちとしては稼げるからありがてぇけどな」


「ちげぇねぇ!」


(ほぉ…近くでゴブリンの集落か…流石冒険者が集まる酒場だね。という事はしばらくはミミさん忙しそうだなぁ)


「アイツほんとマジあり得ない!」


「またパーティーで揉め事?」


「そう!アイツ臨時で入った子に言い寄って野営中に二人で抜け出してたの!ほんとあり得ない!」


(…この話はどうでもいいや)


「聞いてくれよ~…俺が通ってた娼館が無くなってさぁ~…」


「はぁ?お前が言ってた所って結構デカいとこだったろ?」


「それがさぁ…聞いた噂じゃ裏組織の息が掛かってたみたいでよぉ…」


「マジかよ…お前が見受けするっつって貢いでた女は?」


「知らねぇ…ずっと貢いでたのに…あぁ…死にてぇ…」


「…俺の行きつけの店紹介してやる。潰れてねぇって事は裏組織の息は掛かってないはずだから安全だぜ?」


(お気の毒様)



 その後も他愛もない雑談から有用な情報まで幅広く耳を傾けながら料理の絵を描き続けていれば時刻は20時。


 この酒場が最も盛り上がる時間帯になっていて、白雪も最後の一皿を食べようとしている所だった。



「お腹いっぱいになりそう?」



 そう問えば少し間を開けてコクリと頷く。



「まだお腹空いてるなら頼んでもいいよ?」



 すると白雪は食べ終えた何も乗っていない皿を指差すが…どの料理だ…?



「ごめん、この絵の中のどれ?」



 指を差したのは肉串…フォーク使わずに食べられるからかな?



「何本食べたい?」



 両手を広げて僕に向ける…10本って事?本当によく食べるなぁ…。



「すみませーん!」


「はいにゃー!」



 お客が入って来たからか吹き抜けからの跳躍じゃなく階段から来るウェイトレスさん。



「この肉串を10本追加でお願いします」


「レッドカウの肉串の絵にゃ…?マジかにゃ、まだ食べるのにゃ?」



 テーブルの空皿を見てから化け物を見る様な目を僕に向けるけど食べてるの僕じゃないからね?



「…銅貨4枚にゃ。それとその絵、もらっていいかにゃ?店長に見せたいにゃ」


「いいですよ。正直メニューの絵が全然美味しく見えなかったのでよかったらメニューに使ってください」


「助かるにゃ」



 空いた皿で埋まっていたテーブルが片付き、銅貨と絵を渡すとウェイトレスさんはそそくさと階段を駆け下りていく。



「これでお隣に挨拶する義理は果たし―――」



 その時、一階から若い男の…何処かで聞いた事がある怒声が響いた。



「っざけんな!お前がワザとリリカにぶつかって来たんだろ!?」


(…あれ?この声もしかしてアルト…?)



 どうやら声が響いたのは一階からで、上から下を眺めると王都まで一緒に来たDランク冒険者パーティー『渡り鳥(ウルグス)』の面々が屈強そうな男達と言い争っていた。



「俺らの酒を台無しにしたんだ。それなりの誠意を見せてもらわねぇとなぁ?」


「だからそれはお前らが!!」



 下卑た視線を向ける男達に立ち塞がっているのはリーダーのアルトとサブリーダーのリウ。


 二人の後ろには酒を被ったのか髪も服もびしょ濡れになったリリカがへたり込んでいて、周囲からリリカを隠す様にレーネ、セーラ、エインが立っている。


 そして周りにいる冒険者達は余興として楽しんでいるのかゲラゲラ笑うだけでアルト達を助けようとはしていない…これが冒険者か。


 ウェイトレスさんやドベルクさんは…どうにか止めようと思ってるけどって感じか…。



「だからそこの胸がでけぇ女を一晩貸してくれるだけでいいんだぜ?なんなら貧相なその三人も貸してくれていいんだぜ?」


「お前ら…!!!」



 アルトが背中の大剣に手を掛けた途端、店の中に緊張が走る。



「てめぇ…それを抜く意味がわかってんだろうな?」


「ああ…!もう我慢の限界だ…!!俺らの仲間に手ぇ出すなら相手になってやる…!!」


「ガキだなぁ…身の程を教えてやるから表出ろや」



 そう言うと男達三人はアルトとリウを連れて店を出ていき、にゃっにゃ言うウェイトレスさんはドベルクさんの指示でカウンターの中へ入り、残りのウェイトレスさんはリリカ達にタオルを渡す。



(守衛でも呼びに行かせたか…)



 そんなリリカ達に興味を失ったのか、



「おい!どっちが勝つか賭けようぜ!」


「俺は赤髪達が勝つのに銀貨1枚!」


「私は赤髪が負けるのに銀貨2枚!」



 店にいた冒険者達は挙って店を出て表で行われる喧嘩(ショー)に金を賭け始める。



(マジかよこいつら…胸糞悪い…)



 多分守衛を呼ぶにしてもここに辿り着くのには早くて5分…事情を説明したりするのに時間が掛れば最悪10分は掛かる。


 数分あれば決着は着くだろうが…それじゃあアルトとリウは酷い目に遭う。



「…はぁ、家が隣だし余り問題は起こしたくないけど仕方ないか…白雪?後でいっぱい食べさせてあげるからいつもの姿に戻ってくれる?」



 コクリと頷き白蛇に戻った白雪の服を【空間収納】に入れて僕も一階へ。



「…えっ!?シオン!?」



 僕が階段から降りて来た事に驚いたのかリベーラさんから魔剣を渡されたセーラが声を掛けてくるが、



「お久しぶりです皆さん。とりあえず話は後で聞きますので二階で待っててもらっていいですか?」


「え、ちょシオ―――」



 僕は無視して観客の間を割って中心に向かうと、額から血を流して顔を腫れさせたアルトと腹を抱えて頭を踏みつけられているリウがいた。



「Dランクパーティー如きがBランクパーティー『反逆の牙(リベンジャー)』に勝てると思ってんのか?」


「うぐっ…!?」



 腹に重い拳を貰って髪を乱暴に掴まれるアルト。



「んじゃ、あの女共は借りてくぜ?負け犬共」


「や…やめ…ろ…!」


「黙って寝てろや!」


「が―――」



 アルトが顔に拳を貰って吹き飛び力なく倒れる。


 …うん、こいつらの魂は黒に限りなく近い白。


 本当なら今ので黒になって欲しかったから泳がせたんだけど…白だから殺しはしない。


 だけど…僕の知り合いを半殺しにしたんだ、それなりに覚悟してもらおうか。



「さてと…てめぇら道開けやがれ。これから俺達はお楽しみタイムだ」



 そう言って勝った負けたとお金のやり取りをしている観客達を退かして男達が店の中に入ろうとするが―――



「…あん?どけよクソガキ」



 僕だけは退かずに温度の無い瞳で男達を見つめる。



「…退いて欲しけりゃ力尽くで退かせば?」


「ほぉ…?そうかよっ!!!」



 男の拳が僕の可愛い顔に突き刺さり、僕は面白いぐらいに地面を何度もバウンドして酒場の中へ吹き飛んだ。


 これで僕に対しても正当防衛が成立した。



「ハッ、口ほどにもねぇガキだな。おい!さっきの女共!何処に隠れ―――」


「なんだ、この程度か…見掛け倒しだな…」



 パトラさんの拳と比べ、僕が頬を擦りながら立ち上がると男達は目を見開く。



「…今ので寝たふりしてた方がよかったんじゃねえか?」


「えー?今の一撃でですか?虫が止まったかな?程度の拳でどうやって寝たふりしたらいいんですか?」



 ニッコリ笑みを浮かべながらそう言うと僕を殴った男の顔が真っ赤に染まる。



「てめぇ…!いい度胸してんじゃねぇかよ!表出やがれ!」


「表に出ろって…お前が僕を店の中に吹き飛ばしたんだろ?三歩歩いたら忘れちゃう頭してるんですねー?」



 瞬間、流石Bランクといった速さで激昂した男が素早く僕の胸倉を掴んで表に向かってフルスイングし、僕は川に落ちない様に立てられた柵に叩きつけられた。


 ここまで一方的にやられておけば少しやり過ぎても問題ないだろ。



「口の利き方を叩き込んでやる…!」


「じゃあ…僕はお前に恐怖を教えてやるよ。手足は覚悟しろよクズ」



 顔面を殴る為に伸ばした男の右腕に飛びつき、僕は思いっきり身体を仰け反らせて丸太の様に太い右腕を肘から逆にへし折った。



「あっ!?があっ!?く、クソガキ…!?てめぇ…!?俺の右腕を…!?」


「そんなに太いのに枯れ枝みたいに折れてビックリですけどね?あ、でも丁度よかったじゃないですか、無駄にデカい身体が少しはコンパクトになりましたよ?」


「このクソガキ!!!!」



 後ろから取り巻きの男が鋭い右脚の蹴りを放ってくるが、僕はその右脚の足首をしっかりと受け止めて膝に掌底を叩き込み逆にへし折る。



「――――!?!?いってええええええええ!?!?」


「夜なんだから近所迷惑ですよ?」


「ごぉ!?」



 のたうち回る取り巻きの下顎を踏み砕くと痙攣して動かなくなるが死んではいない。



「こ、コイツ!!!」


「抜いたな?」


「ぐあっ!?あ、脚がああああああああああああ!?!?」



 剣を抜いて斬りかかって来た取り巻きの剣を鋼鉄魔法で作った鎖で絡め取り、そのまま膝に蹴りを叩き込んで逆方向にへし折る。



「て、てめぇ…こんな事してただで済むと―――」


「まだそんな事を口に出来るのは素直に褒めますけど…これで終わりだと思います?」


「は―――ぎゃあああああああああ!?!?」



 最初に腕をへし折った男の無事な両脚に蹴りを叩き込んでへし折り、無事な左腕も逆にへし折り、下顎を砕いて泡吹いて寝てる奴の四肢も、鎖で首を絞め上げている奴の四肢もきっちりとへし折っていく。



「も、もうやめ―――」


「は?何で止めなくちゃいけないんだよ?両手足ちょんぎって川に捨てないだけマシだと思えよ」



 アルトをボコボコにしていた男が、僕を殴った男が弱々しく呟くが…そんなので僕が止まる訳ないだろ。



「ごぺ―――ごぺん―――もっ―――」


「えー?ごめんなさいが聞こえないなぁー?」



 馬乗りになって顔を殴る度に謝ろうとするけどもう遅い。


 やるなら徹底的に、二度と立ち直れないぐらいに、魂が白くて殺せないなら恐怖を叩き込んで心を殺してやる。



「ね、ねぇ!流石にやり過ぎ―――ひっ!?」



 四肢の折れた男の上に跨り狂気的に拳を振り続ける僕を止めようと周りで見ていた女が近づいて来るが、返り血だらけの無表情な僕の顔を見るな否や小さく悲鳴を上げる。



「は…?あの赤髪の冒険者と茶髪の冒険者の時は金賭けてゲラゲラ笑って囃してたのに何でこいつ等が同じ目に遭ってる時は止めるんだよ?もしかしてこいつらのパーティーメンバーか?言っとくけど、僕は女でも平気で同じ目に遭わせるぞ?」


「ち、違う…!パーティーメンバーじゃない!!」


「じゃあ何で止めるんだよ?さっきと同じ様に醜くゲラゲラ笑ってろよ」


「そ、それは…ただの冒険者同士の小競り合いで…冒険者は自己責任だから…」


「へぇ…だったら僕にボコられる結果を招いたこいつ等の自己責任だろ?この人達がやられてる時も、僕がこいつ等に殴られたり投げ飛ばされた時も止めなかったくせに何で今更しゃしゃり出てくんだよ?」


「っ…」


「分かったら手を放せ偽善者が」



 女の手を払いのけて最後に一発顔面に拳を振り下ろせば男の意識は途切れる。


 それから残り二人の顔面も原型を留めないぐらいに殴りつけ、



「仕上げっと」



 最後に死なない程度に回復魔法を掛けていい夢が見れる様に四肢があらぬ方向を向いている男達の顔に触れて『ナイトメア』を掛ける。



「ふぅ…スッキリした」



 そして万が一にも逃げられない様に男達の首を鎖で柵に繋いだ僕は、化け物を見る様な視線を向けてくる奴等を全員【鑑定】して名前を盗み見る。



「…ああ、そうだ。僕さ、冒険者ギルドのギルマスのジゼルさんとサブマスのミミさんと仲いいんだよね。今日ここで人が嬲られてても笑って金賭けて助けようともしなかった奴等、【鑑定】で名前覚えたから今後の評価がどうなるか楽しみにしててね」


「っ…!?ま、待って!?」



 またも僕を止めようとする女…名前はサラ。



「何ですか偽善者サラさん?」


「っ…せ、せめてあの子達を私に治療させて!回復魔法が使えるの!」


「今度は評価を気にして保身とか醜い女ですね。傷は癒さないでください、彼らの傷は暴行の証拠になるので。癒したら証拠隠滅を図ったとしてこの男達と同じ目に遭ってもらいますから」



 それから2分…ガチャガチャと煩い足音が聞こえて来て―――



「にゃにゃにゃ!?にゃんだこれはー!?」


「なっ…これは…っ!?シオン!?」


「あ、ルシェロさん?暴行及び婦女暴行未遂、殺人未遂犯を捕まえておきましたよ」



 非番だったのか明らかにラフな格好をした王国騎士団団長補佐のルシェロさんと守衛達がウェイトレスさんに連れられて現れた…。

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