表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/114

弟子の実力

「まさか弁当まで用意してくれてっとはな…随分と世話になっちまったな」



 どうも新妻の様に甲斐甲斐しく手作りお弁当をパトラさんに手渡す僕です。


 今は雪がチラチラと降っている9時頃…パトラさんの送別会を終えた次の日で、パトラさんがフルールに帰ってしまう日だ。


 玄関兼受付には僕を含めこの家に泊まった皆が揃っていて、パトラさんは少し気恥ずかしそうに頬を赤くしている。



「雪降ってますけど…本当に大丈夫ですか?」


「20時ぐらいにゃフルールに着いてんじゃねーかな」


「え…あの道程を一日もしないで移動できるんですか?」


「ああ、帰りはジゼルが手配してくれた飛竜便を使って空路で帰っからそんなもんだろ」



 飛竜便…?『俺』の記憶には無いけど文字通り受け取るならドラゴンを使っての移動って事かな?



「んじゃ、アタシは帰るけどよ…シオン、こっちの協力も惜しまねえからいつでも連絡してきな」



 そう言って手を握ったり開いたりするパトラさん。


 多分、王城でチラッと話した魔導義手の開発に掛かる素材提供の事だろう。



「はい、すぐに形にして見せます」


「楽しみにしてんぜ」



 差し出してきた拳に拳を合わせると一緒に行くのかジゼルさんとミミさんもパトラさんの隣へ。



「じゃあ私はパトラを送って来るからこれで失礼するね。シオン君、昨日は急に押し掛けたのにありがとうね」


「あ、ありがとうございましたっ!」


「いえいえ、またお風呂に入りたくなったらいつでも来てください。それとジゼルさんとミミさんにもお弁当作ったので休憩の時にでも食べてください」



【空間収納】から二人分のお弁当箱を取り出して渡すと目をまん丸にして苦笑される。



「わざわざありがとうね?」


「一人分も三人分も九人分も変わらないですしね。箱はそのまま捨てて問題ないので」


「ん、分かった。じゃあ有難く頂くね」


「手作り…ご、ごちそうになります…!」


「パトラさんも気を付けて帰ってくださいね?」


「おう、んじゃあ…またな」


「はい!」



 最後に頭をガシガシと撫でられる僕。


 その撫ではいつもより痛かったのが印象に残ったが、去っていく三人を見送った僕は残りの人達にもお弁当を手渡していく。



「私達のも…ありがとうシオン」


「お昼に頂きますね」


「おー!マジ感謝っす!」


「…あれ?そういえば俺、人生初めて手作り弁当貰う気がするなぁ…」



 なんか悲しい呟きがユウリさんから放たれたけど深くは突っ込まないぞ。



「リベーラさんも、アンリさんも、ユウリさんも、チアラさんもお仕事頑張ってくださいね。とりあえず僕は例の件をシルヴィ王妃陛下に相談してみようかと思っているので王城に行きます」


「例の件…あの馬車で話してくれた思い付きの件か?」


「はい、それが終わったらもう一つの件の準備をしようかと思ってます」


「…分かった、いくらユニコードを名乗る事を許されたとしても他の貴族には十分注意するんだぞ」


「分かりました」



 そしてリベーラさん達と一言二言交わして見送り、この家には僕、エルルさん、メルクリアさんの三人だけが残った。



「シオン、思い付きの件って何かしら?」


「直球ですね…少しはラザマンド商会の極秘情報とか考えないんですか?」


「あなたの思い付きは面白そうだもの。それともこの私がその情報を他に漏らしたり横取りするとでも?」


「…まぁいいですけど…とりあえず応接室で話しましょう」



 正直な話、この話が動けばエルルさんやメルクリアさんは絶対に協力要請を受けるだろうし…そこで発案者が僕だって分かれば何で相談しなかったのかしら?と無表情で詰められるだろうしね。



「…本当に無駄な機能ね」


「カッコいいからいいんです」



 壁の魔石に触れて執務室モードから応接室モードに切り替わる光景を見て呆れ気味の声を出すメルクリアさん。


 家具なんかは既にチアラさんに無理してもらって作ってもらったから揃ってるし、家具があるだけで部屋の雰囲気が一変するのがカッコいいのに。


 そんな事を思いながら思い付きを絵に描きながら話すとメルクリアさんは深く考え込み、エルルさんはワクワクを表現するかのように目をキラキラとさせた。



「シオン君の発想力は本当にすごいね!めっちゃいい考えじゃん!」


「これが受理されればきっとお二人にも直々に依頼が来ると思いますよ?」


「そうね…こんな大規模な敷設工事となると私達は欠かせないわね。でも…何故シオンが神代の時代(ヒストリア)の交通手段を知ってるのかしら?」


「えっ!?」



 メルクリアさんの一言でエルルさんの表情は一転して驚愕に変わる。


 僕の表情もきっと驚きに変わってるはずだけど…



「もしかして…神代の時代(ヒストリア)記憶持ち(リスタート)なのかしら?」



 まぁ、そうなるよね。


 ただ…この日本の知識と技術が『神代の時代(ヒストリア)』と同じレベルの知識と技術ならマズい。


 知らず知らずのうちにやらかすかも知れないし、【直感】も問題ないって告げて来てるし打ち明けるか。



「ちょ、師匠!?そういうのは探らないって―――」


「エルルさん大丈夫です。僕自身、当たり前だと思った事や便利だと思って作った物が異常な事や物かも知れないので…それを確かめるにはいい機会です」


「シオン君…」



 やっぱりエルルさんは本当に優しいな…。



「…お二人はこの世界とは異なる景色の記憶があったら…どうしますか?」


「異なる景色…?」


「例えるなら…周りを見渡しても人間しかいない、武器を持つ者も誰もいない、皆が鉄の箱に乗って楽に移動している、空にはドラゴンじゃなく鉄の鳥の様な物が多くの人間を乗せて国を自由に行き来している、そして魔法なんて一切ない、魔獣なんていないそんな世界です」


「魔獣がいないなら平和そうだけど…鉄の箱とか鉄の鳥とかはよく分かんないかも…」


「そうですね…幼少期から全子供が学校に通い識字率がほぼ100%、四則計算が当たり前だったらどうですか?」


「っ!?そ、それは凄いけど…」


「そんな世界の知識が今まではぼんやりと空想の世界として記憶に浮かんでいたんですが、適性の儀の時にハッキリと輪郭を帯びたんです。この記憶は異世界の記憶だと」



 そこまで言うとエルルさんは絶句し、メルクリアさんはジッと僕を見つめ、僕はメルクリアさんに問う。



「大師匠は今までそんな話を聞いた事はありますか?」


記憶持ち(リスタート)自体は割といるけれど、異世界の記憶持ち(リスタート)は聞いた事は無いわ」


「そうなんですね…その異世界ではさっき伝えた魔道列車はごく一般的な交通手段だったんです。それが偶々神代の時代(ヒストリア)の交通手段と似ていたんだと…」



 それか神代の時代(ヒストリア)は僕みたいな異世界の知識を持った異世界人がいて、その人が知識をフル活用して作ったか…



「…ちなみにその異世界の国の名前は?」


「日本です」


「ニホン…」



 その名称を聞くと大きく息を吐き捨て目の前に置かれたなんちゃってメロンソーダを飲むメルクリアさん。



「確かに異世界の様ね…この世界の歴史にそんな国の名前は無いわ」


「ちなみに神代の時代(ヒストリア)の時の名前は…?」


「国の名前は無いわ。唯一神ソラリスによって統治されていたから国なんて仕切りは無かったのよ。無理やり呼称するのなら…『楽園(ユートピア)』ね」


「…本当に凄いですね」



 国という垣根も無く、平和で豊かな統治をするというのは至難の業所じゃない偉業だ。


 そんな事が出来るのは正しく神と言った所か…。



「ただ、さっきシオンが例え話で出したものは全て神代の時代(ヒストリア)にあったとされているわ」


「え?師匠が読ませてくれた本にはそんな物の記述は無かったですけど…」


「いちいち全部書いてあったら身長程の分厚さじゃ足りないわよ。確か…デンシャ、ジドウシャ、ヒコーキ…だったかしらね」



 名前まで同じ…これは異世界人がいた説が濃厚だね。


 もしくは神代の時代(ヒストリア)の技術がこっちに流れて来たっていう逆パターンだったり…?



「そのニホンという異世界でも同じ名前なのかしら?」


「はい…なので僕の考えとしてはその神代の時代(ヒストリア)に僕と同じ様に異世界の記憶を持っていた人がいて、その人を中心に楽園(ユートピア)を発展させていったのかなと…」


「確かにあり得るわね…けれど、その交通手段は臭いや空気、環境を悪くしたりするとも聞いているわよ?それを獣人やエルフ、ドワーフみたいな異種族が多く住む王都に敷設するのは無理よ」



 確かにそうだけど、それは動力となるエネルギーをガソリンや石油等の資源を燃やしたりして補給してるから。


 だけどここは魔法がある世界だ。


 動力を全て魔法で補ってしまえば何も問題が無い…はずだ。



「僕の異世界の記憶だと乗り物を動かす為の動力となる石油やガソリンという液体を燃やすみたいなんですけど、それが燃えると環境が悪化するみたいなんです。だからその部分を魔力を使って動かしてあげれば環境は悪くならないと思うんです」



 そう言うとメルクリアさんの眉がピクリと動く。


 その動きを例えるのなら…自分が知らない事を僕が知っている事が許せないと言った感じの動きだ。



「…何なのかしら、そのセキユとかガソリンというものは。何でそれを燃やすと環境が悪くなるのかしら?」



 あー…やっぱり…これは凄く長くなるやつだ…。



「もー師匠…気になってワクワクするのは分かりますけどこの話長くなりますよね?学園の仕事はいいんですか?」



 え?怒ってるんじゃなくてワクワクしてるの…?



「ここまで生きていると未知と出会う事の方が稀なのよ?何時でも出来る仕事なんてどうでもいいわ」



 あ、これワクワクしてらっしゃる。


 そういえばいつだかエルルさんはしばらく付き合ってれば分かるって言ってたけど…無表情過ぎて怒ってるのかどうか一瞬じゃまだ判断付かないな。



「で?何でそうなるのよ?」


「…なら長くなりそうなので日を改めて説明させてもらっていいですか?それに僕も記憶に輪郭が帯びたって言っても思い出したり、詳細が分からなかったりというのもあるので…」



 あ、うん…その眉の動きは不満を表してるな…。



「ち、近いうちにちゃんと顔を出しに行きますよ。僕も神代の時代(ヒストリア)の事を知りたいですし…」


「…分かったわ」



 ほっ…これで何とか―――



「それで?もう一件あるわよね?」



 おっふ…そう簡単には終わらないか。



「…もう一件も同じ魔道具関連です。魔導義手って言って、腕や脚を失ったけど神聖魔法で治すお金がない人向けの義手義足ですね」


「…なかなか面白い事を考えるのね?それはルクスの為かしら?」



 たったこれだけの情報でそこに結び付けるのか…本当に凄いな。



「はい。今はルクス国王陛下の為の義手ですけど、ゆくゆくは冒険者や労働者にも使用してもらえる様にするつもりです」


「ふむ…」



 また深く考え込むメルクリアさん。


 隣のエルルさんは滅茶苦茶目を輝かせてるけど…どうだ?



「…行き詰ったら私かエルルに相談しなさい。協力するわ」


「うんうん!全然手伝うから何時でも言ってね!」


「ありがとうございます」



 よしっ!お墨付きもらった!


 あ、ついでだしあれも頼んじゃおうかな?



「じゃあ、秘密を二つも話したので師匠と大師匠にお願いしてもいいですか?」


「いいよ!どうしたの!?」


「…本当にいい度胸ね?何をさせるつもりかしら?」


「この家の地下に頑丈で広い訓練場を作って欲しいんです。魔法の練習をしたり身体を動かしたり…街中じゃ出来ないですし、いちいち学園まで行って練習するのもあれですし…」


「全然いいよ!私の家にあるのと同じのでいいの!?」


「はい、あれはとてもいい訓練場だったのであれに近いのが出来ればと」


「ふぅん…?一応魔法を学ぶつもりではいるのね?」


「まぁ、使えないよりは使えた方がいいですし、一応魔法師の弟子ですしね。それにそれなりに使えないとユニコードが侮られますし、ダンジョンとかにも潜るつもりではいるので選択肢を増やして使える様に特訓しようかと。それと…」


「…?」


「弟子の実力、大師匠として見たくありません?」



 そう挑発的に問うとメルクリアさんだけじゃなく、エルルさんも興味深く見つめて来た。





 ■





「うわぁ…本当に凄いなぁ…」


「ねぇ…私、まだこんな事出来ない…」



 真っ白な広大な空間…全てが白く、壁など無い様に見える空間は感覚的に1㎞四方に広がっている…はず。


 そんな僕専用の訓練場を地下に一瞬で作ってくれたメルクリアさんは無骨な木の杖を持ち、僕に相対する様に距離を取っている。



「あれだけ色々隠していたのに実力が見たくないかなんてどういう風の吹き回しかしら?」


「教えを乞う身として実力を晒さないと身の丈に合わない指導をされそうなので。教える立場としても無駄が省けるんじゃないですか?」


「そうね」



 この模擬戦を申し出た理由は四つ。


 この訓練場の強度、『虚無繰(からくり)』を使わない全力全開戦闘で僕が何処まで戦えるか、何処までの出力が一般的なのかを確かめる為…そして表の僕を知ってもらう為だ。


 殺しをする時は絶対に戦闘なんて状況にならないが、表の顔がある時点でいつ戦闘に巻き込まれるか分からないし絶対に避けては通れない。


 そんな時に全力を出したら大惨事になるかも知れないし、いつまでも全属性が使える事や神印(メモリア)を隠したりする事は出来ない。


 周りにはメルクリアさんやエルルさんのおかげで魔法が上手くなったと言えばいいし、全力全開で戦っても勝てない、正面から戦えば殺さない安心感があるメルクリアさんじゃなきゃ僕も全力全開で戦えない。


 エルルさんやパトラさん、リベーラさんだと今まで築いて来た関係性で無意識に手を緩めそうだし…これ程僕にとって好都合な相手はメルクリアさん以外いないのだ。



「準備は出来たかしら?」


「はい…本当に全力でいきますよ」



 ナイフを右手で持ち、左手を背に忍ばせて五指で服の下に吊るしている投げナイフを挟み込み、



「私からは攻撃しないから好きに打ち込んで来なさい」


「ッ!!!」



 僕はありったけの全力をメルクリアさんにぶつける。





 ■





 Side.メルクリア・ユニコード



 シオンが振った左手から無詠唱で放たれた二又の穂先を持つ四本の炎の槍。


 無詠唱で中級の『ファイヤーランス』をここまでの完成度で放てるのは素直に凄いと思う。


 ただ、それは常人ならの話。


 ユニコードの名を名乗るのなら今の一瞬で1,000本は同じ質で放って欲しい。


 このぐらいなら私が纏っている魔力に触れるだけで身体に触れる前にシオンの魔力が解けてしまう。



「小手調べかしら?」



 全力で来ると言っていたのに様子見をするなんてと思ったけれど、



「シラユキ!!」


「シャアッ!!」



 シオンがそう叫んだ途端、まるでシオンの意図が全て分かっていると言いたげにシラユキは私の目の前に初級魔法の水の壁『ウォーターウォール』を立て、シオンの『ファイヤーランス』が『ウォーターウォール』に突き刺さり水蒸気の白煙が私を包む。



(目晦まし…違うわね)



【思考加速】と【分割思考】、【風の声】で捉えた僅かな異音。


 何かが弾けた様な破裂音が聞こえた瞬間、私は身体を屈めて何かを避けた。



「今の…」



 杖を振って風を巻き起こし白煙を吹き飛ばせば相対していたシオンの姿は無く、驚いているエルルの姿しか見えない。


 後方に目を向ければ白い空間に目立つ黒い四本のナイフが両目、喉、心臓の位置を正確に捉えて深々と突き刺さっている。


 きっと私が避けたのはこの四本の投げナイフ。


 しかもあの投げナイフには強力な気力が漂っている。


 あれが当たっていれば死ななくてもかなりの大怪我をしていた。



「…全力でと言ったのは間違いなさそうね」



 今のシオンの一手には様々な思惑が感じられる。


『ファイヤーランス』は中に潜ませていた投げナイフを隠すのとシラユキの『ウォーターウォール』を利用して周囲に白煙を生み出す二重の目晦まし。


 さっき聞こえた音は明らかに破裂音…火の上位属性である爆破属性で投げナイフを爆破して更に加速させたのだろう。


 それを一瞬で、しかも緻密で繊細な魔力操作をしながらシラユキとの連携を混ぜた一手目、火と水しか使えないと言っていたのに隠していた爆破属性を混ぜた一手目は正に全力の一手目。



「面白いじゃない」


「ッ!!!!」



 続くシオンの二手目は風を纏った辛うじて見える高速の突進と、背後からの完成度が高い三又の水槍が六本。


 今度も投げナイフが中に仕込まれているが、一度通用しなかった技を間髪置かずにシオンが使うだろうか?


 そんな思考で何重にも重ねた氷の壁『アイスウォール』でシオンとの射線を切り、ただ魔力の塊を放出して『ウォーターランス』を掻き消した時。



「ウラアッ!!!」


「シャアアッ!!」


「なっ…」



 背後から分厚い氷が砕ける破砕音と氷の礫、前方からは投げナイフと『ウォーターランス』に紛れていたシラユキが飛び掛かって来る。



「そのまま絞め上げろシラユキ!!」



 空中で巨大化したシラユキに巻き付かれながら思考する。


 私の『アイスウォール』は並みの強度じゃないのにそれを拳で破壊し、氷の礫を飛ばして私の逃げ場を塞いでシラユキが私を拘束する。


 一手一手が本当によく練られている。


 エルルが力技ならシオンは技術。


 エルルだったら最上級魔法を考えなしに撃って制圧するのに、シオンは初級と中級の魔法を上手く利用する事に意識を割いている。


 ただ気になるのは殺傷能力の低さ。


 今の所シオンとシラユキが放つ魔法は私に触れる前に解けてしまう程の錬度。


 だから物理やテイマーとしての技術を搦めて型破りな方法で迫っているが―――それでも私には届かない。



「シラユキ!そのまま拘束していろ!!」



 並みの魔法師ならこれで勝負が決まるが、私はユニコード。


 このぐらいの拘束なら空間転移で―――



「そこだ!!!」


「…!」



 拘束を抜け出す為に転移した瞬間、途轍もない爆発が私を包んだ。


 咄嗟に張った魔力障壁が不十分な完成度だったのか、はたまたシオンの魔法の威力が強かったのか、全身を包む青白い膜は至る所に罅を走らせている。


 まさかさっきのシラユキの拘束も目晦まし…?空間転移を使う様に仕向けられた…?今のがシオンが狙っていた本命の一撃…?



「…驚いたわ。空間転移を誘っていたのかしら?」



 それにしても今の爆発、一切魔力を感じなかった。


 あの時の魔法も使えず身動きが出来なくなった何かと同じだ。



「驚いたのならもう少し表情動かしてくださいよ…転移直後なら隙が出来ると思ったんですけどね」



 苦笑しながら縮小化したシラユキを身体に巻き付けるシオン。



「でもやっぱ、小手先の騙し討ちじゃ全然ダメですね…」


「他の魔法師なら効果は絶大だと思うわよ?」


「それは自惚れではなく事実として分かってます。でもユニコードとしては足りない」


「…そうね。初手の『ファイヤーランス』は1,000本ぐらい出してもらわないと」


「ハードルたっか…」



 そう言ってシオンが小さく笑みを浮かべてその場で小さく跳ね始めるとどんどん高さと魔力量が増していき、



「ここからは型破りな魔法師ではなく…僕として全力で戦わせてもらいます」


「…!」



 次に床に着地した瞬間、既にシオンは私の目の前に居て、分厚い魔力障壁をナイフで突き崩し杖で防いだ私を壁まで吹き飛ばした。



「これは身体強化魔法…?」



 獣人とドワーフに匹敵する速度と膂力…確かにシオンはさっきまでは魔法師だった。


 でも今は…



「考察ですか?」


「…!?」



 唸りを上げて振り抜かれるシオンの蹴りを空間転移で避けると壁には横一文字に斬り裂かれた跡が刻まれた。


 よく見るとシオンの足首から下は凍っていて、靴底には氷の刃が一本通っている。


 蹴りに合わせて氷の刃を伸ばした…?


 いや、熟達した剣士は振った剣の斬撃を飛ばせるけれど…それを足でしたという事…?



「ただの蹴りでこの威力…末恐ろしいわね」


「そう思ってくれるなら全力を出してる甲斐があります。大体身体強化魔法で上がる身体の感覚が掴めたのでもっと苛烈に攻めますね?」



 猫の耳が付いた白いフードを目深に被り四肢を獣の様に付くシオン。


 その手足は徐々に銀色の鋼鉄に覆われていき、凶悪な爪のガントレットとグリーヴの姿になると全身が紫色に淡く光りバチバチと雷の音が響く。



「まさか系統外まで使える全属性とはね…」


「まだ土は使ってないですよ?」


「どうせ使えるんでしょう?」


「さぁ…?どうですかね?」


「本当にいい度胸してるわ。掛かって来なさい」


「ではっ!」



 瞬間、身体を包んでいた魔力障壁が粉々に砕けた。



(まるで小さな雷虎…出鱈目ね…)



 聞こえてくるのは魔力障壁が砕ける甲高い音と床や壁を蹴る重厚な金属音。


 一気に十枚ずつ魔力障壁を展開しても二秒にも満たない僅かな時間で粉々に砕けていく。


 捕らえようと視線を向けても見えるのは紫電の残光と銀色の五線。



(これはどうするべきかしらね…)



 遠慮なく割られていく魔力障壁を眺める私。


 シオンのスピードと攻撃力は落ちる所か徐々に上がっている様な気がする。


 その証拠に魔力障壁が割れる音の感覚が短くなっているし、一枚しか割れなかった魔力障壁が一撃で二枚目に罅を入れる程になっている。


 更に火や水、土や鋼鉄の槍を石を投げる感覚で移動しながら放ち始めた。


 どれだけ体力あるのよこの子…。



「くっ…はぁ……どんだけ魔力…!あるんですか…!」


「まだ二割も使ってないわよ」


「え…!えぇっ…!?」



 防ぎ続けて10分。


 流石に疲労が見えて来たのか手を変え品を変え苛烈に攻め続けていたシオンの勢いが衰え始める。


 こんな精密な魔力操作をしながら魔法を放ち続け、物理攻撃まで並行しての全力戦闘を10分も続けられる方が凄い。


 もしどちらかに専念すれば何時間も、下手をしたら一日中戦えてしまえそうな体力…これは本当に育て甲斐がある。



「これも通用しないのか…ふぅ…」



 滝の様な汗を顎から滴らせ対峙する顔色の悪いシオン。


 魔力が完全に感じられない、もしかして魔力欠乏になるまで魔法を?



「もう十分実力は分かったわ。終わりに―――」


「待ってください」



 だけれど、シオンは青白い顔のまま私に闘志の萎えない瞳を向ける。



「…まだやるつもりなのかしら?魔力欠乏の症状が出ているわよ?」


「なってます…けど、まだ戦えます」



 …驚いた。


 魔力欠乏症は根性なんかでどうにもならない程の倦怠感と立っていられない程の立ち眩みがあるはずなのに、その状態でまだ戦うと言える精神力は常人のそれではない。



「ここからまだ強くなるって言ったら…見てみたいですか…?」



 今の状態でさっき以上の?


 その外傷は無くても満身創痍な身体で?


 …見たい、シオンが何処まで出来るのか確かめてみたい。



「…いいわ。来なさい」


「…ふぅぅっ…これが正真正銘…最後の全力です」



 そうシオンが呟いた時、私の視界に信じられないものが映る。



「深淵属性…!?それにその背中…!?」



 あの背中の輝き方、魔力とは違う心地いい波動、魔力無しに発動する魔法…間違いない、神印(メモリア)を通じて授けられる神の寵愛…ソラリス・ユニコード(私の師匠)と同じ権能の力…!



「…やっとしっかり驚いてくれましたね。ちなみに…神聖属性も使えますよ」


「っ!?」



 シオンの身体から噴き出す深淵と極光。


 本来相反する属性と言われている闇と光。


 光があるからこそ闇が色濃く際立ち、闇があるからこそ光が光り輝くと言われているが…その二つを権能として内包している意味が分からない。



「全力でやるので…大師匠も全力で防いでください」


「っうぐっ!?」



 シオンから言葉が零れた瞬間、私の何重にも重ねた魔力障壁は黒い触手の様な深淵に握りしめられガラス細工の様に砕け散った。


 見えなかった、反応出来なかった、何をされたのか分からなかった。


 明らかに今までのが児戯だと言わんばかりの圧倒的な力の奔流…これが神の寵愛、権能の力…。



「次いきま―――」


「『時止め(ステイシス)』」



 これ以上は無抵抗で受け続けるのは私でも難しい。


 それにシオンがどれだけの実力と特異性、異常性を隠して世間に溶け込もうとしているのかも分かった。


 もう十分だ。



「…全く、とんだ化け物を拾って来たわねエルル」


「わ、私もビックリです…」



 ピタリと動きを止めたシオンを見つめながら近づいて来るエルル。



「基本属性四種、上位属性四種、系統外の身体強化に権能の深淵と神聖…魔法だけじゃなく身体能力も並みじゃ収まらないのに、ここまで色々隠して大人しくその他大勢の中に溶け込もうとして、その力を人の為に使おうとしているのは本当に奇跡としか言えないわ。これもこの世界じゃなく異世界の記憶持ち(リスタート)だからかしら?」


「本当にそうですね…でも…道を踏み外したとしても私達ならシオン君を止められる」


「そうね…私達しか止められないとも言うけれど…でも、これだけはハッキリと言えるわ」



 シオンの拘束から抜け出し、時間が止まったシオンの頬に触れ―――



「手の掛かる弟子になりそうね」


「…そうですね」



 私は小さく笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ