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仲直りと準備

本日の投稿はここまでです。

「はぁ…やっちゃったなぁ…」



 どうもエルルさんに酷い事を言ってエルルさんの師匠と関係最悪のまま逃げ出した僕です。


 僕は今…雪降る曇天の空の下、王都が一望出来る時計台の上で王都を眺めている最中です。



「『虚無繰(からくり)』を人前で使っちゃったし、魔力も気力も全開にして警戒しちゃったし…はぁ…」



 ずっとひた隠しにしていた魔力も気力も解放し、それを囮にして『虚無繰(からくり)』を使って動きを封じ、更にずっと試していた【付与】【気力遮断】【魔力遮断】を合わせた大技まで使ってしまった。


 暗殺者として自分の手の内を晒してしまったという事実に僕は暗殺者失格だと落ち込み…何も知らなかったエルルさんを疑って殺すと殺気を向けて傷つけてしまった事…あんな姿を見せてしまった事を後悔している。


 かと言って何の抵抗もせずに記憶を覗かれて僕が20万人以上殺したフェイルの生まれ変わりだと知られたらどうなっていたか分からない。


 だから…あの場ではああするしかなかった。


 少しでも隙を見せれば僕の知らない魔法で拘束されて記憶を覗かれ最悪殺されていたかも知れない。


 それだけの実力差が僕とあのクソ女の間にあった。


 身体に纏っていた魔力の質がエルルさんとは全くの異質だった。


 エルルさんの魔力が無尽蔵な海ならあのクソ女の魔力は大地に根を下ろし、色々な物を吸収して積み重ねて凝縮した大樹の様な重さと密度があった。


 だから生きる為には最良の選択だったとしても『俺』としては暗殺者として失格、僕としてはエルルさんを傷つけてしまって大失敗だ。



「『虚無繰(からくり)』がバレていない事を祈るしかない…それにしても記憶持ち(リスタート)…か…」



 言い得て妙なネーミングだ。


 前世の記憶があれば前世で出来なかった事を最初から効率よく出来る…言わば“やり直し”。


 その知識を使って前世よりいい人生を送るのは正しくリスタート、僕風に言えば強くてニューゲームだ。


 だけど僕は普通の記憶持ち(リスタート)じゃない。


 きっとフェイルだった『俺』ならそうなのだろうが、『僕』は早々にこの世界から脱落している―――差し詰め『脱落者(リタイア)』だ。


 それでも僕はヘイルとルミナの使命を受けて転生し、僕に混ぜられた『俺』の知識を武器として扱っている…言うなればこの世界でもう一度生きようとする『やり直し(リベンジ)』だ。


 まぁ…そんな些細な違いは他の人にとってどうでもいい事だし、記憶持ち(リスタート)である事は警戒される。


 前世が罪人ならもっと狡猾な手段で罪を犯すだろうし、実力者なら力をひけらかして更なる力を求めるかも知れない。


 権力者なら更なる地位、探究者なら真実の解明、技術者なら誰も辿り着けない頂きに、商売人なら巨万の富を、殺人鬼なら…もっと多くの殺人を。


 他にも色々あるが警戒されるのはこの辺の理由だろう。



「…生き辛いなぁ」



 そしてこれがそれを全部ひっくるめた僕の感想だ。



「裏に徹すればこんな事にはならなかったけど…殺すだけしか出来なかった『俺』が『僕』と混ざった事で殺さずに救う事が出来るって知ってしまった…この生き方を今更後悔するつもりも無いし、そうしていくって絶対に曲げない覚悟もした。…でも、やっぱり生き辛いな」



 苦笑と共に白い息が漏れる。



「…白雪、さっきはありがとうね。落ち着く様に慰めてくれたんだよね」



 そう言えば白雪はぐりぐりと頬に顔を擦り付けてくれる…可愛い奴め。



「さて…気分も落ち着いたけど流石にまだ顔を合わせるのは気まずいしな…このまま―――」


「見つけた!!!!」


「っ!?」



 ここは遠くに見える王城よりも高い時計塔の上なのに聞き慣れた声が突然聞こえて身体がビクリと震える。



「…エルル…さん…?」



 声の方を向けばそこには呼び出した杖に腰を下ろして空を飛んでいるエルルさんがいた。



「もー探したよ!?どうやってここまで登ったの!」


「…ジャンプして、壁蹴って、ここまで登って来たんです…それが出来る事ぐらい…もう分かってますよね…?」


「…まぁ、あれだけの魔力をずっと隠してたんだし、黒樹の大森林の樹は滅茶苦茶大きいからこれぐらいは出来るんだろうなってさっきのシオン君を見て思ったけど…私からしたらだから?って感じかな!」


「…?」


「だって私からしたらシオン君の全力の魔力はこれっっっっっぽっちだし、こんな高い所に登れたって空を飛べる私からしたらどうって事無いし!逆に今以上の高さまで飛べるからね!」


「……」


「たったそれだけで“自分が異常”だと思ってるなら…正直自惚れ過ぎだよ」


「っ!あがっ!?」



【直感】がいきなり後ろに飛べと告げて来て飛ぼうとしたら、僕は何かを腹に受けて大量の息を吐き捨てた。



「…どう?今の避けれそうだった?自分が何をされたか分かった?」


「い…今の…」



【直感】は働いたのに【魔力探知】には一切の反応が無い…それはまるで『虚無繰(からくり)』の様で…僕の心臓は嫌な激しさで動き全身から汗が噴き出してくる。


 もし今のが『虚無繰(からくり)』なら僕は―――



「何をしたん…ですか…?」


「…“シオン君の時間を止めて”思いっきりぶん殴った」


「……は?」



 赤くなった手…少し血が滲んでいる手をヒラヒラとさせて時間を止めたというエルルさん。



「今…時間を止めたって…」


「『失伝した禁忌の魔法(ロストマジック)』…その中の『時止め(ステイシス)』って魔法だよ。私と師匠しか使えない魔法」


「時間停止…そんな神の様な魔法使える訳―――」


「使えるんだよ。私はシオン君が思っているより異常で化け物で…“魔法に愛されてる”から」



 そう言うとエルルさんは辛そうな表情になって―――僕を抱きしめた。



「ごめんねシオン君…私はただ優しくて可愛くて優秀な弟子を師匠に自慢して…正式に弟子だって認めさせたかっただけなの。でも…知らされてなかったとはいえ、ただシオン君を試すだけだと思って幻惑魔法に掛かってる事も教えないで会わせて…あんな事になって…本当にごめんね…」



 違う…僕はエルルさんにそんな事を言わせたいんじゃない…悪いのはあのクソ女と僕だ…エルルさんは悪くない…。



「私…シオン君が記憶持ち(リスタート)なのは気付いてたよ。きっとラザマンドさんも…多分パトラさんも。だけどね?どんな前世の記憶があろうとシオン君はシオン君だと思ってる。だから今まで聞かなかったし気付かないフリをしてた。知ったとしてもこれ以上深く探るつもりも無いし、私の時みたいに言いたくなったら言えばいいと思う」


「……エルルさんは…あんな僕を見たのに…前世が気にならないんですか…?僕が怖くないんですか…?」


「全然気にならないし、怖いってより…悲しかったかな…あんなに涙を流させてあんな事を言わせる事をしちゃったんだって…このままシオン君が人を信じれなくなって私の前から居なくなっちゃう方が怖いよ」



 今思えばそうだ…ラザマンドさんや『渡り鳥(ウルグス)』の皆、パトラさんですらかなり猜疑的な気持ちをぶつけられたが、エルルさんからは戸惑ったり本当にいいのかなという躊躇は感じられても一度も僕を探ったり疑う様な嫌な気持ちをぶつけられた事は無い…。


 いつもエルルさんは僕を僕として見て、扱って、褒めて、成長させてくれた。


 僕がやりたい事を優先させてくれたし知りたい事は何でも教えてくれた。



「…いつかこの力を使って酷い事をするかも知れませんよ…?」


「そんな事をする人はそんな事言わないし悲しそうな顔はしない。シオン君は優しいしちゃんと考えて行動出来るからそんな事しないよ。…まっ、間違った事をするなら私が全力で止めるよ」


「…何でそこまでして僕を…」


「シオン君が私の弟子で、私がシオン君が師匠だから」



 僕を抱きしめる力が強くなるけど苦しくないし…暖かい。


 ああ―――本当に僕はエルルさんと出会えてよかった。



「…さっきはごめんなさい」


「私の方こそごめんね?もう師匠が近づかない様にしておくから!」


「あはは…それとエルルさん、手を見せてください」


「ん?…ああ、このぐらいの傷なら―――」



 僕を殴った時に痛めた手を両手で包み込んで嬉しさと、僕を僕として扱ってくれる感謝を込めて祈る。



「し、シオン君…背中が…!?」


「…今はまだ何も聞かないでください。話すべき時が来た時、教えますから今は…」


「…分かった。この光、暖かいなぁ…」



 ホッとした様に笑うエルルさんの優しい手が治りますようにと。





 ■





「はい!ここで身体を預けて!そう!1.2.3.4でクルリ!」


「は、はい!」



 エルルさんと仲直りした次の日、僕はアンリさんに社交ダンスを習っていた…何で?



「…飲み込みが早いですね。これなら問題ないでしょう」


「はぁっ…はっ…な、何で社交ダンス何ですか…?献上する時はダンスなんて―――」


「黙れ。リベーラさんは貴族のパーティーに出しても恥ずかしくない様に完璧に鍛えろと私に言った。だったら私はお前をそう鍛えるまでだ」


「は、はい…」


「分かったのならその脚を広げて座るのを止めろ。少しは女らしく座れ」


「ぼ、僕は男で―――」


「口答えするな!お前は侍女として謁見するんだろう!?だったら覚悟を持って女になり切れ!!」


「は、はい!」


「声が小さい!!」


「はい!!!!」


「腕の角度が甘い!!敬礼はこうだ!!」


「は、はい!!!!」



 簡易的な布ドレスをパニエでふんわりさせた格好で騎士の敬礼をする僕。


 アンリさんはどうも現役時代のラザマンドさんの右腕らしく、教育や指導に熱が入ると騎士だった時の面影が出てくる人だ。


 そしてビックリする事にアンリさんは双子らしく、弟の『ユウリ・アルレシア』さんは貴族街にある『アトワール』の管理経営を任されている総支配人で、騎士時代はラザマンドさんの左腕…姉弟揃ってラザマンドさんの両腕としてかなり活躍していたらしい。


 それで何で会った事も無い人の事を紹介したかというと…



「姉さん、また悪い癖が出てるよ」


「…失礼しましたシオン君。ユウリが来たという事は採寸ね?」


「うん。…シオン君、初めまして。ユウリ・アルレシアです」



 鏡が壁一面に張られたレッスンスタジオに来たからだ。


 前髪がほんの少し長い清潔感と毛先が跳ねて遊び心があるショートカットで髪の色は根元が黒で毛先が紫。


 アンリさんと同じ狼耳と尻尾も髪色と同じで黒と紫になっていて、服は黒いスーツに灰色のワイシャツが覗き、首元は金色の刺繍でラザマンド商会シンボルとなる紋章が縫われた黒いネクタイが締められている。


 両手は貴重品を扱う事もあって白い手袋が嵌めてあって一見すれば何処かいい所の家の執事にも見えるイケメンなユウリさんがニコリと笑みを浮かべる。


 ぶっちゃけ…同じ男としてカッコイイ。



「初めましてシオンです。…えっと、それで…」


「…ああ、本当に女の子に見えるもんだから見惚れちゃったよ」



 うおっ、イケメン微笑み…くっ…



「これから採寸をするけど…デザインは自分で考えたいってあねっ…んんっ、リベーラさんからは聞いてるよ。どんなデザインにしたいんだい?一応用意出来る様に頑張るけど、それでも用意出来ない物もあるからね」



 …あれ?今姉御って言おうとした?もしかしてやんちゃだったのをラザマンドさんが更生させてみたいな関係だったり?



「もうデザインは書いてあります。でも僕じゃこのデザインが相応しいのか分からなくて…」


「ふむ…デザインを見ても?」


「これです」



【空間収納】からデザインした服が描かれている羊皮紙を手渡すとアンリさんもユウリさんの顔に自分の顔を近づけて羊皮紙を見つめる。


 こうやって並ぶと確かに双子だ…目鼻だしが凄く似てる。



「何て言うか…何だろう、シオン君がここまでデザイン出来る事にも驚いているんだけど…」


「このデザインは見た事が無いですね…斬新でとても可愛い…これは貴族令嬢が黙っていませんね…」


「そうだね姉さん。主役は飽くまで陛下と献上をするリベーラさんとパトラさんだ。侍女として主役より目立つのはマズいね」



 そっかぁ…やっぱダメかぁ…まぁ、そんな気はしてた。



「でもこのデザインを埋もれさせるのは良くないね。ねぇ、シオン君?このデザインをラザマンド商会で買い取らせてもらえないかい?」


「え?買い取りですか?」


「うん。シオン君のデザインは今まで見てきたデザインとはまるで別物で、奇をてらっている訳じゃ無いのに自然と華やかさに目が惹かれる。これをこの場だけのデザインじゃなく、ラザマンド商会で作らせて貰えないかい?」


「それは別に構いませんけど…」


「ありがとう。そうだな…姉さん、このデザインの買い取り金額は一目見た時の価値が俺と揃ったら即決でいいかい?」


「いいでしょう」



 するとユウリさんとアンリさんはもう一度ジッと僕のデザインを眺め、何かを思案する様に目を瞑ってゆっくりと口を開く。



「「白金貨30枚」」


「…白金貨?」



 えっと…確か金貨1枚で平民が四人家族でちょっと贅沢して一ヶ月過ごせるんでしょ?それで確か白金貨は金貨の一つ上の貨幣で…金貨100枚で1枚。それが30枚…?金貨換算で3,000枚!?献上するはずのマンティコアの角より高いじゃん!!!



「ああ、白金貨というのは―――」


「そ、それはラザマンドさんに聞いてるので価値は分かります…1枚金貨換算で100枚…ですよね?」


「そうだね。もしかしてもう少し欲しいかい?」


「そ、そうじゃなくて…高すぎませんか?」


「まぁ…正直言って高いけど、このデザインにはそれだけの価値があると俺は思うよ。姉さんもそうでしょ?」


「ええ、このデザインにはその価値があるわ。それに…私は半年もしない内に黒字になると踏んでいるけど?」


「俺も半年…売り方を考えればもう少し早くシオン君に金貨3,000枚払っても黒字になるね」


「えええっ!?そんなにですか!?」


「貴族は見栄にお金を掛けるからね。俺が総支配人をしているアトワールではどの商品も金貨10枚から、一番高いので金貨1,000枚の商品を扱っているんだ。このドレスをそうだな…一着金貨50枚、社交シーズンも考えれば60枚でも貴族令嬢は買いそうだけど姉さんの意見は?」


「私は一着60枚でもいいと思うわ。ひな形を一着用意してそれで問題なければ金貨50枚。一人一人の要望に合わせるのでプラス金貨10枚の計60枚ね。これなら社交シーズン関係無しに必ず60枚出すわ」


「いいね、それならオリジナルを求めてこぞって意見を出してくれる。その意見からこっちもデザインを生み出しやすくなるかも知れないね」



 な、何だかとんでもない事になっている…僕の思い付きで描いたドレスのデザインがこんな事になるなんて…。



「という具合にすぐに元は取れるんだ。本当なら買い上げではなく提携という形にして今後売り上げた利益の何割かを収める契約をするんだけど…それだと提携しているシオン君の名前を出さなくちゃいけなくなるし、もしかしたらシオン君の元にデザイナーや貴族達が押し寄せるかも知れない。それを考慮しての買い取りだから長い目を見たら確実にシオン君は損になっちゃうけど…それでも不満はないかい?なんならもう少し―――」


「だ、大丈夫です!デザインで稼ごうとは思っていないので!逆にそこまで考えてくれてありがとうございます!」



 まさかの値上げをしそうな雰囲気にビビッて話を区切ってユウリさんと握手を交わす。


 ただ…このままだと貰い過ぎだと思った僕は一つ提案をする。



「じゃあ正式な書面をすぐに―――」


「待ってください」


「うん?」


「さっき言ってた売り方…献上の時にお披露目…とかどうですか?」



 作戦名は謁見ファッションショーだ。



「…それはシオン君が着てかい?さっきも言ったけど侍女という立場で出席するならシオン君が目立つのはかなり印象が悪くなるよ?」


「それを主役のラザマンドさんとパトラさんに着てもらうんです」


「「…!」」



 ユウリさんとアンリさんの目の色が変わって僕のデザインを食い入るように見つめる…いい感触だ。



「でも流石に…リベーラさんの印象にこの可愛さは…」


「そうね…パトラさんもどちらかというと…」


「…実は、ラザマンドさんとパトラさんのデザインもあるんです」



 二人共尻尾がピンってなってる…本当に驚くとそうなるんだ。



「これがラザマンドさんの分で、ラザマンドさんの凛とした印象に合う様にパンツスタイルにして、片方をガーターベルトで吊るして太腿を見せる事で色気を出しつつ、コルセット風のスカートと袖元のふくらみ、ピッタリした胸元で女性らしさが出る様にしてみました。これがパトラさんで…逆にスカートで女性らしさを出しつつ、情熱的で野性味のある綺麗さと魅力を出す為にパニエを使わないスレンダーなスカートで脚をワザと見せるスリットも入れてあって、脚を出すのがはしたなければ網タイツで隠しつつ…元々の『宝石虎(ジュエル)』と言われるだけ美しいので華美な装飾をせずにプロポーションで勝負って感じですけど…どうですか?」


「…!姉さん!リベーラさんとパトラさんは今どこに!?」


「リベーラさんは襲撃者を放ったスケルツォ商会に対する今後の方針を決める会議ね。パトラさんは冒険者ギルドの訓練場で一汗流しているはずよ。採寸よね?」


「ああ!献上までに三着作らないといけないからすぐに頼む!」



 そう言うとアンリさんは颯爽とレッスン場を後にして僕はユウリさんに肩をがっしりと掴まれて顔を近づけられる…何で?



「商人としてあるまじき事だって言うのは重々承知しているんだ…だけど流石に三着分となると俺の裁量を超えてしまう…だから追加の二着分のデザインの支払いは待ってくれないかい…?その分しっかりと上乗せはさせてもらうから…」


「そ、それは問題ないですし…無償で―――」


「それはダメだ!」


「っ!」


「君はただの思い付きで三着分のデザインを考えたかも知れない…だが、このデザインは紛れもなくシオン君が生み出した物だ。そしてそうやって生み出された物は武器や防具、服や道具も等しくその生み出した人の子も同然なんだ。もし君が大切な人との間に子供を授かった時、同じ様に誰かにその子供をあげるかい?」


「ぜ、絶対そんな事しません…」


「そうだろう?言うなれば君はこのデザインの母であり、それを作る我々ラザマンド商会が父だ。そして出来上がった服がシオン君と我々ラザマンド商会の子供だ。その子供を誰とも分からない不特定多数のお客さんに君はあげようとしているんだ」


「す、すみませんでした…お支払いはいつでも待ちますし、値段も相談させてください…」


「それでいい。作り手は責任を持たないといけない…君は簡単にデザインを生み出したかも知れないが、どれだけ考えて考えて考え抜いても生み出せず潰れていく人、君のデザインに敵わないと仕事を、夢を諦める人、逆に自分もこれを超えるデザインをと燃える人もいるんだからね」



 これが目から鱗が落ちる…か。


 今までそんな考えをした事が無かった…ユウリさんの考え方に感動した…!



「さて…多分姉さんの脚なら5分でパトラさんの所に行って…連れてくるなら更に5分…パトラさんがごねたらその場でひん剥いて寸法を測るだろうし」


「え?」


「リベーラさんはシオン君がデザインした服が着たくないかって釣れば」


「え?」


「とりあえず先にシオン君の寸法を測ろう。君のドレスは最初に見せてくれたデザインにしようか。後から見せてくれたデザインも素晴らしかったし、これなら釣り合いが取れる」


「は、はい」


「これから忙しくなるからシオン君も頑張ってね」



 うっ、イケメンスマイル…





 ■





 Side.パトラ・メイガス



「―――つー事でここまで来たんだよ」


「ふーん、なるほどねー?でもさ、暴れていい訳じゃないよね?」


「ま、まぁ…あの時はちょっと虫の居所が悪くてよ…」



 今、アタシの前でニコニコしながら説教垂れてんのは冒険者ギルド王都ローレルタニア支部ギルドマスターの『ジゼル・クリシア』。


 現役時代のパーティーメンバーで冒険者ランクはアタシと同じSランク、二つ名は『双迅竜(エルゴ)』っつー龍人族だ。


 コイツの服は何の防御力も無さそうなヒラヒラな布で、胸はけっこーあんのに白い包帯でグルグル巻きにして潰してて、靴もカラコロ煩いグラグラ揺れそうな木の靴を履いてて、得物も薄くて細っこいポキポキ折れそうな刀?とかいう剣を二本使って踊る様に戦うんだが…アタシからしたら変わり者だな。


 で、何で説教垂れられてるかってーと…アタシが王都まで同行した所為でリベーラやシオンが襲撃者に襲われちまって、挨拶を兼ねてジゼルに憂さ晴らしの相手をしてもらおうと思ったら丁度いなくて…訓練場で王都の冒険者を片っ端からぶちのめしたからだ。


 別にいきなり殴りかかった訳じゃねーぜ?ちゃんと元Sランクのアタシと手合わせしてー奴は掛かって来なって参加者募ったんだから。


 んで、スッキリしてリベーラん所に泊めてもらってもっかい挨拶に来たら…これって訳だ。



「だからって掛かって来た冒険者全員一本ずつ、合計骨折127ヵ所は暴れ過ぎじゃないかなー?ウチのサブマスが泣きながら治したんだけど?」


「まぁー…アイツがいるからってのもあるが…」



 ここのサブマスは元SランクのアタシとジゼルのパーティーにいたAランクヒーラーで、名前は『ミミ・クローゼン』。


 ひ弱で根性無しで泣き虫だが…回復の腕が良くて腕が千切れても腕さえ持ってきゃ違和感無くくっ付けてくれるし、持ってなくても全魔力と引き換えに欠損を治してくれる凄腕ヒーラーだった。


 何でも教会の聖女候補だったらしーが…聖女になんかなりたくないっつってアタシとジゼル、もう二人の仲間に泣きながら攫ってと懇願されて…んで、色々あってって感じで仲間になったんだったかな。


 昨日来た時は丁度いなかったみてーだが…ジゼルと一緒に何処か行ってたのか?



「それに、パトラが壊した武器と防具…どうするつもりなの?」


「あー……んー…自己責任でいいんじゃねーか?天下の王都所属冒険者ならそれぐらい稼いでんだろ?元Sランクとの実力差を学べる授業料っつー事で」


「……はぁ。本当に相変わらずだねー…フルールでもそんな感じなの?どうせ書類仕事だって全部丸投げしてるんでしょ?」


「…一応最近は手伝う様にしてたぜ?」


「…えっ!?本当に!?どういう風の吹き回し!?」


「…10歳の子供に説教された」


「…!………ぷっ、あははははははは!!!何それ!?面白過ぎる!!あはははははは!!!」



 まぁ、見た目通り10歳の子供って訳じゃねーだろうけど…にしても笑い過ぎだろコイツ。



「ちょ!タンマ!胸倉掴もうとしないで!サラシ破けるから!!もう笑わないから!!」


「…チッ」



 ここぞとばかりに馬鹿にしまくる性格はホント変わってねーな…。



「…で?パトラにそんな事を言う命知らずの子供はフルールの冒険者なの?いい人材じゃん」


「…んや、冒険者じゃねえ。テイマーだな」


「…え?…ぷくっ…わ、笑ってないから…」



 コイツ…マジで一回分からせてやるか。



「丁度その子供が王都にいるんだけどよー…ソイツと戦って見ねーか?」


「…私が?」


「ここにお前以外誰がいんだよ?」


「…いやいや、流石にあり得ないでしょ。私が勝つに決まってるし、私だってこう見えてかなりいそ―――」


「ビビッてんのか?」


「…あ?」


「だからビビッてんだろ?アタシからすりゃあ、仕事を理由に逃げてるように見えるけどな?」


「…私がビビる?逃げてる?引退して平和ボケでもした?」


「してんのはお前だろ?」


「「………」」



 コイツは剣に命を賭けるアタシと同類…だから戦いから逃げるなんて選択はぜってーしねぇ。



「今すぐその子を連れて来て」


「ハッ…んじゃ、訓練場の人払いはしっかりしとけよ?じゃねーと恥かいて見っとも無く泣くかも知んねーからな」


「その子が?随分過保護になったじゃん。母親気取り?」


「んや、お前がだよ」


「あ?」


「あー?」



 んで、こうやって額カチ合わせて睨み合いすんのがアタシらだ…ホント、何時まで経っても変わんねーな。



「―――!―――!?―――!!!」


「「…ん?」」


「ダメ―――!もうちょ―――!」


「失礼します!!」


「「っ!?」」



 な、何でリベーラんとこのアンリが現れたんだ!?しかも小脇にミミを担いで…



「…え?アンリ?」


「じ、ジゼルさぁん…!」


「突然の訪問失礼致します、ジゼルギルドマスター。私の目的はパトラさんですので後日ご歓談をお邪魔したお詫びをお持ち致しますのでご容赦ください」


「ん?アタシに用なのか?」


「脱いでください」


「「「っ!?」」」



 はっ!?突然何言い出してんだコイツ!?



「パトラさんが謁見の際のお召し物の寸法を測りますので早く脱いでください」


「ちょ、待て!ここでか!?」


「はい、リベーラさんの分とシオン君の分も合わせて三着…謁見までに間に合わせないといけませんのでごちゃごちゃ言ってないで脱げ!!」


「あ、おい!?素が出てんぞ!?」


「いいから脱げ!こっちはプラプラ出歩いて王都を満喫する貴様と違って時間が無いんだ!!」



 何でこんな事に!?こ、コイツ以外に力があり―――きゃあ!?

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