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魔法陣の有用性

「ふむふむ…」



 どうも自分の服と馬達の服を作りながら布屋で買った魔法陣の本を読む僕です。



「はえー…魔法陣学面白いな…」



 僕が今読んでいる部分は魔法陣の種類。


 初級という初歩の本だからこれが全てだとは限らないが、魔法陣には『切替型』『充填型』『常駐型』『寄生型』という四種類がある。


切替型…これは自身で魔力を流す事で特定の効果を引き出す魔法陣で、魔力供給を断てばすぐに効果が消える事から武器や防具、道具等に描き込んで切れ味を増したり軽くしたり頑丈にしたり出来る一般的な魔法陣。


充填型…これは魔力を溜めて置き、必要な時にその魔力を使って魔法陣の効果を発動させる為の魔法陣で、魔法師が自分が持つ魔力以上の魔力が必要な魔法を使う時の触媒や、魔力が切れた時の安全策としても溜めておいた魔力を使って魔法を使う事が出来、空になればもう一度溜めて再利用出来るという魔法陣。


常駐型…これは常に効果を発動する魔法陣で、何でもいいから魔力の補充をすれば効果を発揮し続ける事から防衛戦等で活躍する結界やお店等の照明、大きな街なら夜闇を照らす街灯等にも使われていて、魔石という魔獣の身体に生成される事がある魔力の結晶とも言われる石を魔法陣に設置すれば人いらずで常に使う事も出来る魔法陣。


寄生型…名前的には危なそうだが、これは物ではなく人体に直接魔法陣を描き込む、または彫り込む事で自身の魔力を自動的に吸い上げて発動し、一般的には足の裏に魔法陣を描いて歩く速度を上げたり疲れを低減させたり、一般的でない魔力が多い人なら背中に描き込み常時展開型の魔力障壁を張ったり、地位も高くなれば毒殺される事も考えて相手が出した物を飲んでも問題ない様に解毒の魔法陣を施したりする事が出来る魔法陣。


 そして魔法陣は枠組みと言われる魔力の通り道となる線と効力を意味する文言を枠組みの図形と合わせる事で初めて魔法陣として完成する。



「要するに僕風に言えば切替型は電気のスイッチ、充填型はバッテリー、常駐型は冷蔵庫、寄生型はペースメーカー…今の状況風に言えば外付け才能か」



 この本だけで得られる魔法陣の基礎知識はここまでだが、別の本にはこれ以上の魔法陣がある事も考えてこれが全てだと思わない様にしようと考えを改めた僕は、早速本をパラパラと捲っていき既に出来上がった自分の服と馬達の服に刺繍する魔法陣の形を探す。



「欲しいのは耐寒と夏も見越して耐暑の二種類…出来れば汚れに強くなる効果があるといいな…型は常駐型…でも、純粋な動物は魔力が無いんだよな…魔石だと交換する必要が出ちゃうし、魔石が高かったら費用が嵩む…切替型と充填型の複合魔法陣とか作れないかな…多分これより難しい本に書いてあるかも知れないけど…うん、ちょっと試して見るか」



 掌サイズの余った白い布の切れ端に黒い糸を通した針を用意し、洗って落とせる黒いインクを付けた羽ペンを構えて才能の【魔法陣】を意識しながらペンを走らせる。



「うわ…コンパス定規いらず…フリーハンドなのにめっちゃ綺麗な直線と丸が描ける…」



 まるで腕そのものが定規やコンパスの様で淀みなくペンを走らせていると複雑そうな二つの魔法陣が一分もしない内に完成する。



「ふむ…原理としては充填型の魔法陣をまず設置して魔力の貯蔵。その隣にスイッチとなる切替型の魔法陣を作って魔法陣同士をこうやって繋げて…魔力を込めて切替型を起動すれば…充填型の魔法陣に溜まった魔力を吸い上げてくれる。…けど、切る時はどうすればいいんだ…このままだと垂れ流しだから…ああ、切替型の逆、魔力を流したら魔力がそれ以上入らない様に作って魔力を流して触れるだけでオンオフ出来る様にすればいいか」



 充填型から切替型に伸びる線の中間にまだ何も文言を書いていない切替型の枠組み図形だけを書いて線を繋ぎ、本来の切替型の文言と逆さになる様に文言を書き加えていく。



「簡単に繋げて見たけど…美しくない……まぁ、最初にしちゃ上出来かな」



 魔力を流して通常の切替型に触れれば問題なく魔力が巡り、逆転した切替型に魔力を流せば魔力の巡りが止まる。



「うん…試運転も問題ないし、通常の切替型に耐寒の文言を書き込む…耐寒耐寒…これか」



 予め空けていた余白に本に書いてある耐寒の文言を書き込みさっきと同じ様に魔力を流すと掌が持っていない手より暖かく感じ始める。



「うんうん、完璧だね。後は見栄えをよくする為に配置を考えて…で、この魔法陣を完成品に刺繍する…」



 チクチクチクチクと無心で魔法陣を刺繍していると誰かが扉を開けるけど殺気が感じられないから無視。


 僕は人間より綺麗な魂の動物の方が大切なんだ。



 ………


 ……


 …



「………ふあぁー…つっかれた…」



 散らかした覚えが無いのに強盗でも入って来たのかと疑うレベルに散らかっていた部屋を片付け終えた僕はテーブルの上に完成品を並べて一息吐く。



「ノリにノッて革まで使ったけど…今まで捨てずに溜めておいて本当によかった…」



 今まで生きる為に食べていた動物達の皮を鞣した革も使って出来上がった装備品を見つめる。


 まず服は白い布で作られた袖周りと裾周りがぶかぶかで両肩が出たシャツと、そのシャツの内側に着る黒いタンクトップ。


 これは決して失敗作ではなく、自分の体型を隠すのと武器や防具をつけていない様に見せる為の工夫で断じて失敗作じゃない…てるてる坊主でもない。


 手袋は二の腕までの黒のアームカバーで人差し指と中指だけを晒し、手の甲にはドラゴンの鱗を使った手袋兼手甲。


 ズボンはせっかくだからと【皮革】の才能を意識しながら作った茶色のホットパンツ。


 本当は黒にしたかったけど染料が無くて断念した。


 少し伸び縮みする布で太腿までのニーハイも作ったし、ホットパンツとベルトで吊るせるようにもしたからずり下がらない。


 何でズボンじゃなくホットパンツとニーハイにしたかというと趣味ではなく、ズボンよりはこっちの方が断然に動きやすいのと…僕の容姿なら映えるからだ。


 靴はロングブーツにしたかったけどそこまでするのは成長しきってから…今はまだ成長途中だからくるぶしが隠れる茶色の革と布を使ったちょっとだけ踵が上がっているショートブーツ。


 そして投げナイフやナイフを収めるホルスターと鞘も木の皮から本格的な革ベルトのホルスターと鞘になっていて、吊るす場所は両太腿にドラゴンの牙で作ったナイフ二本、ドラゴンの黒い鱗で作った投げナイフは両腕に一本ずつ、胸をベルトで締め付けて腹回りに防具兼投げナイフを仕込めるだけ仕込む…これがぶかぶかじゃないシャツなら出来ないのだ。


 決しててるてる坊主じゃない。



「…うん、完璧だ。音も出ないし隠密性も高くて動きの邪魔にならないしどの投げナイフも抜き易くて凄くしっくりくる…それに全部自分の手作りっていうのがなんか…うん、いいな」



 才能のおかげでしかないが、一からちゃんとした物を全部自分の手で作り上げたという感動と達成感に涙が出そうになる。



「魔法陣も…うん、ちゃんと機能してる」



 生地を二枚重ねにして裏側に刺繍した耐寒の魔法陣は傍からは見えず、それでもちゃんと機能しているおかげで肌を出しても寒くない。



「本当はコートとか上に着るのも欲しかったけど…身体が大きくなって使えなくなるのもやだしな…今はこれだけでいいか」



 最後に人差し指と中指だけが露出した黒い手袋を嵌めて腕に投げナイフを巻き、白雪に髪をポニーテールで纏めてもらって馬達の元へ向かおうとすると、お風呂から上がって来たのかホカホカと金糸の髪から白い湯気を立ち上らせるラザマンドさんと鉢合わせた。



「あ、ラザマンドさん」


「ん、ああシオン…っ!?何だその格好は!?」


「どうですか?自分で作ったんです」



 その場で一回転…からの満面の笑みアタック。



「くっっ…」



 ふっ、決まったな。



「…ふぅ、少し見せてもらっていいか?」


「こんな所で脱がさないでくださいね」


「分かってる」



 まずはブーツからか…ブーツはかなり頑張った。


 よく曲がる柔軟性のある木材に革を張り付けて頑丈な糸で縫い付けた一品で、隠れているけど木底には耐久と汚れ防止、緩衝の魔法陣を仕込んだからかなり乱暴に扱っても壊れないし、高い所から飛び下りても痛くないし汚れない。


 このニーハイも耐久と汚れ防止、更に消臭の魔法陣を組み込んでるから衛生的にも優れているし、森に入った時に枝や草で脚を切る事もない。



「…っ!?」



 ぶかぶかのシャツを捲った時の投げナイフホルスターにビックリしたのかな?


 ホットパンツも裏地に耐久と汚れ防止、緩衝の魔法陣がしっかりと仕込んであるし、投げナイフのホルスターにも耐久と緩衝、摩擦低減の魔法陣があるから防具としても機能する。



「…暖かい…まさか耐寒か?」


「はい。今日布屋で布を買った時に丸くて星みたいな絵が書いてある本も買ってたみたいで、それ見ながら刺繍で絵を入れたら暖かくなりました」


「なっ…!?」



 この黒のタンクトップに汚れ防止、耐寒、耐久の魔法陣を仕込み、白いてるてる坊主…じゃなくて、体型と武器や防具を悟らせない見事なぶかぶかのシャツには耐久、汚れ防止、対刺突の魔法陣が仕込んである。


 そして手袋兼手甲は汚れ防止、耐久は共通で、左右で対斬撃と対打撃の魔法陣を仕込んだから物理攻撃に関しては大分軽減されているはずだ。


 本当は魔法に対しても何か対策したかったが、これ以上は服がダメになるぞと【直感】が働いて断念したのだ。


 どうやら魔法陣を組み込める上限は使う素材によって決まるらしく、僕が初めて作ったものは三つが上限だった。



「…なぁ、シオン」


「何ですか?」


「何でこんなに投げナイフを持つんだ?というか何で投げナイフなんて持っているんだ?」


「投げナイフは森で拾った物を使って作ってあったんです。それに今日ラザマンドさんが言ってたじゃないですか、物より自分の心配をしろって。誰に襲われてもいい様に備えてるだけですよ?」


「そういう意味で言ったんじゃ無いんだが……」



 他にも何か言いたそうにするラザマンドさんだが目頭を揉み解し一つ息を吐いて無理やり話題を変えた。



「…まぁいい。明日からは私も取引先を周らないといけない。だから付き添えるのはここまでだが…あまり問題を起こすなよ?」


「分かりました」


「金の使い過ぎにも注意しろ。羽振りが良ければ狙われる…治安がいいと言っても犯罪が全く無い訳じゃないからな」


「はい」


「どんなに遅くても22時までにこの宿に帰って来い。帰って来なかったら自警団に駆けこんで総出で探す事になるからな?」


「…はい」


「後…先程『渡り鳥(ウルグス)』の皆が訪ねて来た。シオンと飯が食いたいと言っていていたが集中しているから別日にすると言っていた。明日、ネリン氏との勉強を終えたら時間が出来るだろう?他にもやりたい事があるならすればいいが二度も誘ってくれているんだ、一度でいいから飯を食ってくるといい。シオンと話したい事もあると言っていたからな」


「…わかりました」


「最後に。セーラには渡して置いたぞ」


「ありがとうございます。本当は自分で渡した方が良かったと思うんですけど、集中したかったので任せてごめんなさい」



 苦笑しながら僕の頭を撫でるラザマンドさん。



「それで?その手に持っているのが例の馬の服か?見てもいいか?」


「はい…でも、よくよく考えたら毎回着せるのも大変だと思うのでこう、お腹周りに巻いて取り外しが簡単になる様なベルトを付けただけですけど」



 馬に服をとかなり張り切ってデザインしたが…毎回誰が着せるんだという考えに至り、競馬のゼッケンをイメージしてお腹辺りでベルトを締める簡易耐寒にしたのだ。


 …結構いい感じのデザインだったのに。



「ふむ…別に暖かくないが…これは耐寒はついていないのか?」


「えっと、この服のここに絵があるのでここを触って魔力を溜めて、溜まったらここを触ると暖かくなって、脱がす時にここを触れば暖かくなくなって脱がしてる時に魔力を消費しなくなります」


「……」



 最早驚く事すらせず裏地をジッと見つめたラザマンドさんはそれはもう何度目か分からない深い溜息を吐き、【空間収納】の袋から小さな紙と筆先が金で出来た高そうな万年筆を取り出して何かを書き始める。



「…とりあえず、馬に着せてくるんだろう?」


「はい」


「行って来るといい」


「分かりました!」



 突然雰囲気を一片させたラザマンドさんに笑みを返し外に出るとすぐに馬達が待つ厩舎へ向かう。



(森から出て来たばっかの10歳の僕が色々やってるからラザマンドさんや『渡り鳥(ウルグス)』のみんなも驚いてるけど、成長して少し勉強すればこれぐらい出来る人は普通にいる…これぐらいの魔法陣なら本さえ見ればレーネにだって再現出来る…だってこの魔法陣学初級だし。それに僕が普通の子供じゃない事は全員気付いてただろうし、無垢な子供を演じ続けるつもりはなかったから何も問題ない。…それでも何か言って来るなら適性の儀で変わったって言えばいい)



 宿屋から黒い何かが夜闇に紛れて飛んでいくが、夜を昼と変わらない明るさで認識出来る僕にはその姿をハッキリと認識出来る。



(伝書鳩…伝書鷹か?『俺』の記憶だと主流の鳥とは違う種類の鳥…速さが段違いだね)



 いつかは僕の事を報告するだろうと思ってたからこれも何も問題ない。


 それより気になるのはラザマンドが連絡する連絡先…性格と魂の色から考えて裏組織はまずない。


 あるとしたら…国…経歴を考えれば王族、ルクスあたりだろう。


 ルクスの事だから僕があの場所でラザマンドさんと出会う【未来予知】をしたのか…?まだ現役でやっていける歳のはずなのに副騎士団長を辞めてる訳だし…本当に昔から商人として生きるのが夢だったと言われればそれまでだけど…その可能性も考えておくべきか。



(ふぅ…大事になったら逃げるか)



 どんどん小さくなっていく鳥を見送り、厩舎を見ると壁もあって藁も新しくなっていて綺麗だが、やっぱり宿に比べて肌寒い。



「みんな、お待たせ」



 僕が声を掛けると馬達がブルルっと音を鳴らして冷えた顔を摺り寄せてくる…可愛い奴等め。



「本当はもっとカッコいいのにしようと思ったんだけどこれしか出来なくてごめんね。でも、めっちゃ暖かいから今日からは寝やすいと思うよ」



 木の柵の中に入って手際よく馬の身体に作ったゼッケン風の服を着せてあげて魔力を流して補充。


 そのまま魔法陣を起動すると馬達がブルブルと身体を震わせてさっき以上に強く顔を摺り寄せてくる。



「気に入ってくれてよかったよ。今日はゆっくりお休み」



 最後に首を強めに撫でて木の柵を飛び越えると馬達は脚を折りたたんで大人しく眠り始めた。



「とりあえず今日やるべき事は終わったから明日に備えてお風呂入って寝るかぁ…」



 そして僕も全く疲れを感じないが興奮と集中の気疲れで何となく欠伸をしながら宿に戻る。





 ■





「…で、結局シオンが言っていた四人はシオンを狙った事で冒険者登録抹消と再入会禁止手続きをして今は自警団の牢屋ね」


「なるほど…僕に監視が付いてるとあの胸無し斥候は気付かなかったんですね。仲間が気付かないから他の仲間も捕まる…昨日僕が言った通りになりましたね」



 テーブルに頬杖をつきながら片手で蓋の閉まった万年筆を器用にクルクルと弄ぶネリンさんと羊皮紙に羽ペンをスラスラと走らせる僕。


 約束通りネリンさんから冒険者のルールや暗黙のルール、もし冒険者と揉め事が起きた時の対処法、素材の買い取り等の細かい質問をする為に冒険者ギルドに訪れ、今は文字の練習をしている所だ。



「それなら気付かせなかった監視を褒めるべきじゃない?」


「僕は気付いてましたよ。僕と一緒に来たラザマンドさんを対応してくれたお姉さんですよね?」


「……凄いね?」


「よく森の中でずっとこっちを狙ってくる小さいリスみたいな魔獣がいたので気配を探るのは得意なんです。そうじゃないと生きれなかったので」


「それって…黒い毛に尻尾が細い歯が鋭いリス?」


「はい。隙を見せると十匹とかで襲ってくるんです」


「『アサシンリープ』…討伐難度Aの魔獣よ?」


「だからずっと警戒しながらキノコとか採ってましたよ」



 また流石命知らずのシールズの生き残り…と呆れと関心が混じった独り言を漏らすネリンさんだが、頬を舌で撫でる白雪に顔を綻ばせる。


 今、僕の髪を纏めてくれる白雪はネリンさんの髪を纏めていて、会うなり僕の変わった姿に程々に驚いてすぐに白雪を撫でさせてくれと言い始めたので預けている。


 お陰で何度も髪を耳に掛ける必要があって邪魔だったが…。



「出来ました」


「早いね………うん、もう綺麗か綺麗じゃないかは置いといて文字の読み書きは問題ないね。物覚え良すぎない?」


「多分…昨日適性の儀をした時に自分じゃない様な感覚になって…それでですかね?」


「ふむ…そういう事もあるって言うし…そうなのかも知れないね」



 僕の読み書きの採点をし終えて黒い液体が入ったカップを傾ける…匂い的にコーヒーだ。



「ある程度教えたから私からはもう終わりなんだけど…他に何か聞きたい事とかある?」


「んー…あ、この街に本が読める場所、もしくは本が買える場所はありますか?」


「両方ともあるよ。地図描いてあげる」


「ありがとうございます」


「それと、図書館は夜六刻までで利用料は銅貨5枚。本の破損をしたら本の種類によっては金貨の罰金になるから気を付けてね。貸し出しは基本してないかな。で、本屋の店主は私の友人…まぁ、元パーティーメンバーの変わり者の魔法師なの。特に君は標的にされると思うから適当にあしらって」


「ふむふむ…」


「はい、地図」



 詳細な地図を三分もしないで描き上げるネリンさん…凄いな。



「私は斥候だったからよくダンジョンとかでマッピングとか罠解除とかしてたの。流石に外だとここまで綺麗に描けないけどね」


「斥候…だから僕が質問に答えた時、凄い顔してたんですね」


「ええ…君がパーティーを組みたくない四つの理由…それは全部私も思った事なの。裏切られた事もあるし、斥候になる前は前衛で双剣振り回してたんだけど罠に引っかかったり敵の数の報告が曖昧だったり…当然、人間関係でも揉めに揉めた事も一度や二度じゃない程に経験した。私が受付嬢になるきっかけもそう…とある魔獣の討伐依頼中に合同でパーティーを組んでたんだけど、目立ちたがりの自信家が俺ならやれるって無謀な事して死んじゃってね。このままじゃ無理だと判断して撤退したんだけど…その魔獣を振り切れなくて戦う事を選択して、何とか倒せたけど一緒に戦った合同パーティーは全滅、私のパーティーは私が仲間を庇って腹を半分ぐらい食われちゃっただけで済んだけど…その戦いで明らかに私は限界以上の動きをしていたけど、逆に限界を超えてもその程度にしかなれないって限界を感じちゃってね。引退して受付嬢をやってるの」


「な、なるほど…」



 予想以上に重い話だったがそんな悲劇は何処にでもあるし、これ以上にキツイ悲劇を『俺』は知っている。


 だから僕が驚いている所はそこじゃない…腹を半分食われたのに限界以上の動きをして生き残って、今僕の目の前にいるっていうのはとても凄い事なんじゃないか…?


『俺』の場合は姿を見せずに一撃必殺で標的を殺していたし攻撃を食らう事は無かったが、ルミナから授かった【光】と【治癒】の権能が無い状態でそんな傷を受けたら多分…死んでると思う。



「まぁ…そういう事だから本屋のあの子に会ったら私の名前は出していいけど、昔の事は聞かないであげてね。その時の事を一番気にしてるのがあの子だから」


「わかりました」



 話す事はないだろうが地雷には気を付けておこう。



「さてと…他には何かある?」


「じゃあ、これで本当に最後…冒険者ギルドのギルドマスターさんってどんな人なんですか?」


「…え?ギルマス?別に教えるけど…何でそんな事を?」


「実は僕と一緒に来たラザマンドさんと知り合いみたいで、ラザマンドさんが売った物が希少で王家に直接献上するって事になったらしく、行商にギルドマスターさん直々に参加する事になったんです」



 その時、バキッ!っと何かが砕ける音がして続いてポタポタと何かが滴る音がする。


 何だ…?と思い僕が音の発生源を見つめるとネリンさんの手でクルクルと弄ばれていた万年筆がバッキリと折れていた…。



「…その話、私、聞いて、無いん、だけど」


「昨日決まったみたいですよ?ラザマンドさんもビックリしてました」


「…へぇ、なるほどね…私が説明するより直接見た方が分かりやすいと思うから訓練場に行きましょうか。絶対にそこにいるはずだから」


「は、はい…」



 僕と話す時は表情豊かだったネリンさんの表情が初めて見た時の無表情より更に感情が抜け落ちたどす黒い表情になっている。


 そんなネリンさんの後をテクテクと付いて行くが、最初の時みたいに僕の歩幅に合わせて歩くという気遣いも無く淡々と靴を鳴らして別室からフロア、フロアからフロア横にあった両開きの扉へと突っ切った。


 フロアを横切る際にフロアに居た冒険者がネリンさんを一目見て視線を逸らしながら道を開けていたが、小声で「あの子、もしかして折檻される…?」という声が聞こえ、「この時間なら訓練場にいるギルマスだろ」と言っていたからこれはもはや見慣れた日常茶飯事なのだろう。



「この程度で動揺する者ばかり…本当にレベルが落ちたな…」



 地下に降りる階段を進みながら僕に聞こえない様にボソリ呟くネリンさん…バッチリ聞こえてますし、少し現役時代の雰囲気らしいモノが漂ってきてます。



「く、訓練場は地下にあるんですね…」


「…ええ、訓練場自体は昼夜問わず解放していますし、地上ですと訓練時の声や武器がぶつかり合う音が響いて近所迷惑になってしまいますので地下に設置する事になったんです。偶に上級冒険者同士の訓練や小競り合い、指導等で使う事もあるので地下の方が何かと都合がいいんです。見苦しいものを見せて苦情を受けるかも知れませんから」


「な、なるほど…でも地下だと何かの拍子に崩れたりとかもありそうですよね…」


「そこはご心配なく。基本は訓練場ですが、街が魔獣の襲撃に遭った際に住民の方々が避難する避難所としても使える様、頑丈で基本設備が整った作りになっているんです。中で故意に最上級レベルの魔法等で壊そうと思わない限り安心です」


「おお…」



 完全に受付嬢モードになっているネリンさんについて階段を下りる事3分。



「ここが避難所兼訓練場です」



 武器がぶつかり合う音や雄叫びが聞こえてくる鉄の扉の前に立ったネリンさんはゆっくりと扉を左右に開いて僕を手招く。



「おお…これは凄い…」



 招かれ扉を潜るとまず目に入るのは地下とは思えない青空と太陽の様な光。


 地下という閉塞感を与えない疑似的な空に程よく固められたふかふかの土の地面は広大な広場に居ると錯覚する程にリアル。


 大自然の光景の中に不自然に扉が付いている事から壁はあるのだろうが、辺りを見渡しても地平線ばかりでここが壁と示す様な柵が四辺均等に周囲に建てられている。


 そのほのぼのとした空間の中で大体の人が二人一組になってお互いの武器をぶつけ合っていて、変則的な二対三、パーティー対パーティー、藁を巻いた丸太や何個も円が描かれた的を使って訓練している光景が広がっているのだが…その中でも異彩を放っている人に自然と視線が吸い寄せられた。



「…もしかしてあの人がギルドマスターさんですか?」



 たった今、大きな斧と金属鎧で身を固めた巨体の足首を片手で掴み、笑顔で金属鎧の巨体を棍棒の様に振り回して仲間らしき人達に突っ込む人を指差すとネリンさんは首を縦に振る。



「ええ…冒険者ギルドフルール支部ギルドマスター、『パトラ・メイガス』です」



 肩までのふんわりとした銀にも見える薄紫の髪に爛々と楽しそうに見開かれる青っぽい緑の瞳。


 三日月に吊り上がる口からは白い歯と目立つ牙。


 肘から指先、膝から足先までを白いバンテージでしっかりと包み、大きい胸だけを隠す黒いピッタリとした服とホットパンツはとても身軽そうで、バンテージで隠れていない肩や腹周り、太腿には無数の古傷が刻まれている。


 その大きな胸の中心にはラザマンドさんに負けないぐらい真っ白で綺麗なメラメラと燃えている魂。


 そして古傷や片手で振り回している巨体で人を薙ぎ倒す惨状よりも目を惹くのはその人物の頭の上から生える金のリングピアスを何個もぶら下げた髪色と同じ虎耳と尻尾。


 …ぶっちゃけ触ってみたいけど女性なのでグッッッと我慢。


 ちなみに『俺』の記憶では婚約者しか触らせないとか触ったら結婚しないといけないという掟は全くないからいつか触りたい…。



「はぁぁぁぁぁ~…ほんっと根性ねーなーお前達ー」



 土に塗れて山積みになった四人の冒険者にそう吐き捨てるパトラ・メイガス…



「もう少し実力付けて出直してきなー。Bランク昇格試験不合格な」


「お仕事中失礼します」


「がっ!?」



 その後頭部を本気の空中回し蹴りで蹴り抜いたネリンさんのスカートがふわりと膨らみ、スカートに隠された太腿にナイフが収まったホルスターがチラリと見えたのがとても印象的だった…。

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