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終わりと始まりの日

初めまして八重柏やえがしと申します。


初投稿という事で拙い部分や誤字脱字が目立つと思いますが、生暖かく見守って頂けると幸いです。



「…そんな顔をするな」


「っ…」



 俺の呟きは群衆の怒声に掻き消されたはずなのに、少し離れた所に立つ男の空の様に澄み渡る青い瞳が雨を蓄える様に潤み、長い金髪が似合う綺麗で美しい顔が悲痛に歪む。



「…やめろよ…昨日、あれだけ語り合っただろ…?お前のそんな顔を見てたら俺まで泣きそうになるじゃないか…」


「……」



 これ以上俺の口から言葉が零れたらせっかくの俺の最初で最後の晴れ舞台が無くなるかも知れない…だって、親友の片手に握られた煌びやかな斧が小さく震えている。


 だから俺は親友から視線を外し、両手首と首を縛る血生臭い木の板に挟まれながら怒声を、石を、腐った食べ物を投げつけてくる群衆達に顔を向け、凛とした親友の、次期王の言葉を聞く。



「…答えろ。貴様はローゼン王国国王『アルベルト・フォン・ローゼン』、王妃『ルティア・フォン・ローゼン』、第一王子であり私の兄…魔王を討伐し、世界に平和を齎した勇者『ベルトハイム・フォン・ローゼン』、魔王討伐に大きく貢献し、勇者と民を支えていた聖女『リーン・セレスティア』、大賢者『ロゼット・フォン・レティアヴィア』、英雄『アルフォード・マルティノ』六名の暗殺及び、貴族や国民、併せて78,909名の命を奪った殺人鬼『フェイル』で間違いないか?」


「……そうだ。だが、殺した人数はそんなに少なくない。204,292人…種族は人間だけじゃない、全員の名も、容姿も、どこでどうやって殺し方をしたのか、どんな人物で何をしたのか全部記憶している」



 俺の言葉で怒声は息を吸い込む小さな音がして静かになる。


 公式な記録では78,909人の命を奪ったとされるが、実際はその倍以上の命を奪ったと殺人鬼フェイル…俺が公言したのだから当然だ。


 それに俺の言葉が正しい事は誰の目から見ても明らかなのは、王族である親友が王城で厳重に管理している『真実の眼』と呼ばれる“対象の言葉が真実か否かを判断する”巨大な水晶が俺の頭上で青く輝いているからだ。



「…何故、何故それ程の命を奪った」



 この問いをするという事はもう俺の命は長くない事を示唆している―――俺達が昨日そう決めたから。


 だから俺は、親友の願いが叶う様に祈りながら言う。



「この世界が醜いからだ。地位と権力に胡坐を掻いて私腹を肥やす救いようの無い貴族は、貧困に喘ぎ泥水を啜って生きる人から笑いながら、足蹴にしながら奪い徴収する。そしてそれが仕方ないと歯が砕けるまで歯を食いしばり、生きている平民が力をつければ能無しの貴族と同じ振る舞いをさぞ当然の様に振るう。だから俺はこの醜い世界を綺麗にする為にこの手を、この身体を、この魂を穢し、悪を屠り続けて来た」



 一際強く青く光る水晶は親友の瞳の色と酷く似ていて、



「預言する。この国が、この世界がもう一度醜く染まった時…フェイルは再びお前らの前に現れる。悪徳を心に宿す者共よ…この名を未来永劫恐れろ。俺は地獄でお前らを見ている」


「……二度と、お前の様な悲しき怪物を生まぬ様、我が手でこの国を良き国にするとここに誓おう」



 振りかざされた煌びやかな斧が親友の髪の色と酷く似ていて、



「…地獄で酒を用意して待ってるぜ、ルクス」


「ああ…俺も必ずそっちに行く、待っててくれ―――」



 終ぞ俺の中にあった“見知らない名前と朧げな記憶”に答えを出せないまま、涙を零した親友『ルクス・フォン・ローゼン』の手で眠りについた――――。





 筈だった。





 ■





「……ここが地獄…?」



 辺りを見渡せば真っ白な空間。


 怒声や石を浴びせる群衆は無く、無意識に首に手を伸ばせば落ちたはずの首が繋がっている。



「ここが地獄なら…俺が殺した奴等はさぞいい気分なんだろうな…」



 妙に暖かく何かに包まれている感覚は心地よくて、気を抜いてしまえばすぐにでも眠ってしまう程に居心地がいい。



「でも、ここじゃルクスお気に入りの酒は用意出来なさそうだな…」



 親友との約束を守れそうにないと笑い、せめて地獄で待つという約束だけでも守ろうと心地よさに身を任せて寝転ん―――



「…誰だ?」



 上下逆さの少女と目が合った。



「まさか…地獄の番人か?」



 寝転びながらジッと俺の顔を覗き込む少女に問う。



「……」



 首を横に振り、赤い宝石の様な瞳の少女が俺の顔に白い空間には異質に映る黒い髪を垂らす。



「…じゃあ何か?ここが天国だって言いたいのか?」



 少女に問う―――またも首を横に振り、黒い髪で俺の鼻をくすぐる。



「…じゃあ何なんだよ?言ってくれないと分からないだろ」



 折角の心地よさが台無しだ…苛立った気持ちを隠さずに問うと、少女の薄い唇が動く。



「いいの?」


「……は―――ッ!?!?」



 瞬間、頭の中を無理やり覗く様な、斧で頭を割り開く様な痛みが走り、全身が痛みに堪えきれずバタバタと痙攣し始める。



「おっ…お前…!!俺に…!何を…!?」


「神の言葉は重い。だから喋らなかったのに」


「あが―――」



 小さい口から零れる声は可愛らしいのに、一言、一音が俺の耳を震わせる度に身体が引き裂かれる程の激痛に襲われ、俺の口から人とも獣とも例えられないけたたましい叫びが真っ白な空間に響く。



「このままじゃ喋れない、頑張って耐えて。聞きたいんでしょう?」



 指を落とされようが、目玉を抉られようが、致死の毒で身体の中を蝕まれようが、声を出さない様に訓練してきたはずなのに―――この痛みは抗えない、耐えられない、早く楽になりたい、この苦痛から解放されたいと折れてしまう。



「あなたはフェイルじゃない」



 耳を塞いでも、声にならない音で叫んでも、耳元で囁かれる様に少女の声が鮮明に聞こえる。



「あなたは『シエル・フォン・ハーティ』じゃない」



 頭を打ち付けて死のうとしても、少女の優しい手に阻まれて死ねない。



「あなたの本当の名前は―――」



 這ってこの少女から離れようとして―――



「『濡羽 紫苑(うるは しおん)』。地球の日本という所で生まれ、不慮の事故で死に、私の手で異世界に転生した日本人」



『俺』―――『僕』の意識は白から黒に落ちる―――。

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