第二十四話「軍師、天災級の魔獣の力を目の当たりにする」
統一暦一二一七年六月十二日。
ゾルダート帝国南部エーデルシュタイン郊外。マティアス・フォン・ラウシェンバッハ伯爵
ゾルダート帝国南部の都市エーデルシュタインが魔獣の襲撃を受けている。
敵は確認できただけで合成獣十、一つ目巨人十、上級悪魔を含む悪魔三十、死霊魔導師三体だ。
私が指揮するラウシェンバッハ師団第一連隊は副師団長兼連隊長のエレン・ヴォルフ少将が第二大隊を率いて敵を引き付け、妻のイリスが指揮する本隊が後方から奇襲を掛けた。
その結果、指揮官らしき上級悪魔と死霊魔導師を倒すことに成功する。
イリス隊の攻撃でエレン隊を攻撃していた悪魔たちが気づく。地上を逃げ回るエレン隊よりイリス隊の方が脅威だと考えたのか、南に向かった。
エレンはそれを見て、一つ目巨人に攻撃を絞る。
「作戦通りですね。エレンもよく分かっています」
私の護衛である影、ユーダ・カーンが感心する。私は戦闘では邪魔になるため、少し離れた森の中におり、話をする余裕があった。
今回の目的はエーデルシュタインの救援だ。既に飛行できる悪魔たちは町に入っているようだが、建物の中に入っていれば大きな被害は出ないだろう。
しかし、大型魔獣である一つ目巨人サイクロプスや合成獣キメラが町に入り込めば、目も当てられないような大きな被害が出る。
そのため、城門を攻撃するサイクロプスを真っ先に排除するのだ。
本来なら十体のサイクロプスを相手にするにはラウシェンバッハ師団の精鋭であっても一個大隊三百名では相手にならない。
しかし、先ほどの戦いでキメラを倒せたことから、今回も倒せると判断したようだ。
その判断は正しかった。
一個中隊がキメラを牽制し、残りの二個中隊がサイクロプスに攻撃を仕掛ける。
彼らは見上げるような巨人に対し、果敢に足を斬り付け、怯んだところで弱点である目を矢で攻撃する。目を射られ蹲ったところで首を斬り裂いて止めを刺していた。
「イリスもやるね」
イリス隊は指揮官である上位種を排除した後、上空の悪魔たちを牽制しつつ、エレン隊の救援に向かった。
その結果、十分ほどでサイクロプスとキメラを倒すことに成功する。
イリス隊、エレン隊は指揮官を失って統制が取れず、散発的に魔導を放っている悪魔たちに矢を射り始めた。
それも一体に対し集中的に矢を放つ方法で、悪魔たちは着実に数を減らしていった。
「何とかなりそうだね」
そう言った瞬間、ユーダが警告を発した。
「大物です! 魔将が来ます!」
その声に南に視線を向ける。
比較対象がないため、大きさは分かりにくいが、先ほどいた上級悪魔より一回り以上大きく、私のような武術の素人でも危険だと思うほどの力を感じた。
その天災級の魔獣、魔将が物凄い速度で接近してくる。
「撤退の合図だ! ラッパを鳴らせ!」
通信の魔導具で伝える時間がなく、注意を引くためにラッパを鳴らすよう命じた。
ラッパの音が響き、戦っている獣人たちがこちらを見た。
そして、私の意図に気づいたのか、すぐに散開する。
その間に魔将は連隊の上空に達していた。
そして、自身の身長と同じほどの巨大な炎の球を召喚する。
「避けてくれ!」
私は思わず叫んでいた。
次の瞬間、炎の球は連隊の中央に向かって放たれる。
地面に着弾すると、爆音と共に炎が湧き上がり、辺りは煙に包まれていた。
それでも兵士たちは勇敢だった。
爆発に巻き込まれなかった者たちは果敢に魔将に矢を射かけ始めたのだ。
二発目の魔導を放とうとしていた魔将はその攻撃に怯む。
生き残っていた悪魔たちを引き連れ、南に向かって飛んでいった。
「通信兵! 各大隊に被害状況の確認を命じよ! 偵察小隊は周囲の警戒を継続! 支援中隊は直ちに負傷者の手当てに向かえ!」
矢継ぎ早に命令を出すが、妻が無事なのか気になって仕方がなかった。
「イリス様はご無事のようです」
ユーダの言葉で戦場だった場所を見ると、彼女の姿が見えた。
「よかった……」
思わず声に出してしまう。
兵士たちに大きな被害が出ているから、そんな発言はすべきではないのだが、安堵の言葉を止めることができなかったのだ。
「偵察小隊より周囲に魔獣の姿は確認できないと報告がありました。各大隊の損害状況は現在確認中ですが、イリス様、連隊長、各大隊長は無事とのことです」
「了解した。各大隊に警戒しつつ、魔石の回収と身体が残った敵の処理を命じてくれ」
命令を出し終えたところで冷や汗が流れているのに気づいた。
(魔将は天災級の魔獣だ。災害級と天災級でこれほど違うとは……あれなら一体で大都市が壊滅するというのは理解できる。我々では到底対応できないな。大賢者様のお力が必要だが、どうやって連絡を取ろうか……)
大賢者はツィーゲホルン山脈でグレゴリウスに憑依した魔神を探しているはずだ。捜索範囲が広く、こちらに来る可能性は低い。
「各大隊から被害状況の連絡が入りました。戦死者五十五、重傷者八十、軽傷者二百五十六。被害の多くが最後の魔将の攻撃とのことです」
「了解。よくやってくれた。負傷者の手当てを最優先で行うように伝えてほしい」
敵が完全に撤退したことを確認し、私も城門の方に向かう。
兵士たちに近づくと、先ほどの魔将の放った魔導の威力のすさまじさを実感した。
魔導が直撃した兵士の遺体は原形を留めず、重傷者の多くが骨折し酷い火傷を負っている。全員が東方系武術の硬衣法を使えるが、ほとんど役に立たなかったらしい。
「あれは何だったの?」
爆風で埃塗れになったイリスが悄然とした表情で聞いてきた。
「ケガはないようだね。無事でよかった」
そう言った後、彼女の疑問に答える。
「魔将のようだね」
「あれが天災級の魔獣の力……一体で王都が滅びるという話は本当ね……」
そこにエレンがやってきた。
彼も埃塗れだが、ケガはないようだ。
「負傷者の手当てが追いつきません。帝国軍の治癒魔導師に協力を頼みたいと思います」
エーデルシュタインは南部総督府がある大都市であり、治癒魔導師も多いはずだ。
「私が交渉してくる。君は警戒を頼む。あれで終わるとは思えないからね」
「了解しました!」
私はイリスとユーダ、護衛小隊と共に門に近づいていく。
「私はグライフトゥルム王国軍のマティアス・フォン・ラウシェンバッハ大将だ。貴国の要請を受け、魔獣に対応するためやってきた。先ほどの戦闘で負傷者が多数出ている。治療のため、町の中に入れていただきたい」
私の声が響くが、門からは反応がない。
もう一度開門を要求すると、今度は反応があった。
門の上に総督府軍の指揮官らしき人物が現れた。
「貴軍が援軍としてやってくることは聞いているが、森の中で魔獣を退治すると聞いた。援軍とはいえ、重要拠点であるこの町に貴軍を入れることはできない」
その言葉にイリスが憤慨する。
「私たちは命懸けで町を守ったのよ! なんていう言い草かしら!」
私はその言葉を無視して交渉を続ける。
「皇帝陛下より我が軍に協力するよう勅書が出ているはずだ。それでも我々を入れないというのであれば、せめて治癒魔導師をこちらに派遣してほしい」
「小官は皇帝陛下のご命令の詳細を聞いていない。だが、総督閣下は貴軍を入れることを許可できないとおっしゃっておられる。我ら南部総督府軍は総督閣下の命令に従うのみ」
総督が邪魔をしているようだ。
「では、総督に会わせてほしい。先ほどの魔将が再び現れたら、この町は壊滅する。それを防ぐことができるのは我が軍だけだ」
脅しを入れると、指揮官は慌て始める。
「総督閣下に確認してくる。少し待っていてほしい」
それだけ言うと、姿を消した。
「どういうことなの? 彼らにとっても私たちがいた方が安全だと思うのだけど」
イリスが呆れながら聞いてきた。
気持ちはよく分かる。準災害級の魔獣にすら対応できなかったのだ。我々を町に入れ、負傷者を治療した方が安全になるはずだ。
それに皇帝の命令が届いていることを認めている。ここで我々に協力しなければ、後で罰せられることは分かり切っている。
「総督は有能な人物じゃない。それに私に対して思うところがあるようだからね」
「そうね。私も思い出したわ」
妻も総督が誰か思い出したようだ。
「旧皇国軍の非正規部隊に対応するために西部総督府の法務執政官から昇進した人物だから、非正規部隊の黒幕である私に協力したくないのだろうね」
南部総督のアンドレ・サイツは西部総督府で旧皇国軍の非正規部隊を排除するため、民衆に対して厳しい取り締まりを行って成果を上げた。それが皇帝の目にとまって今年の一月に南部総督に昇進している。
「そんなことを言っている場合じゃないでしょうに」
妻のイリスが呆れている。
「融通の利かない人が総督になるように情報操作をした結果なんだけど、今回に限っては裏目に出たね」
そう言って苦笑する。
サイツが南部総督になれるように情報操作を行ったのだが、タイミングが悪かった。
「彼の性格は分かっているから、話ができれば何とかできると思うよ」
そんな話をしていると、城門から声が掛かった。
下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。
また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。
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