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新グライフトゥルム戦記~運命の王子と王国の守護者たち~  作者: 愛山 雄町
第十章:「奮迅編」

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第十三話「大導師、大きなミスを犯す:後編」

 統一暦一二一七年六月三日。

 ゾルダート帝国南東部、ツィーゲホルン山脈、神霊の末裔(エオンナーハ)の塔。大導師ダグマー


 グライフトゥルム王家の元第二王子、グレゴリウスの魔導器(ローア)の改造を行ってから三ヶ月ほど経った。


 改造後の精神操作は完璧だ。

 慈母のように彼のすべてを肯定した。そして、新たな力を得ることが使命だと吹き込む。愛に飢えていたのか、たったそれだけのことで我の言いなりになった。


 魔導器(ローア)の増強自体も大成功だ。

 これまで千人以上に増強を施したが、ほとんどの者が魔象界(ゼーレ)から流入してくる力に耐えきれなかった。そのため、魔人化する前にすべて処分している。


 耐えきれた者も突然大きくなった魔導器をなかなか制御できず、普人族(メンシュ)にしては強力な魔導器を持っているという程度で、闇森人(ドゥンケルエルフェ)と大して変わらない能力しか得られていない。


 そのため、魔導師(マギーア)として育てることなく、(ナハト)として暗殺部隊に配属している。それでも闇の監視者(シャッテンヴァッヘ)(シャッテン)を凌駕する能力を得ており、充分に使える。


 グレゴリウスはそれらの者たちと違った。

 私を含め、我が塔の魔導師が持つ魔導器を大きく凌駕する強力な魔導器を得たが、すぐにそれを我がものとした。そして、武術の達人ですら難しい十倍の身体強化を易々と成功させている。


 まだ、魔導師(マギーア)としての修行をしていないため、魔導(マギ)は発動できないが、このまま行けば、大導師である私を遥かに超える魔導師になれるだろう。


(ここまでの逸材とは思わなかった。ここまで深く魔象界に意識を繋げることができるのは我が塔の導師の中にもそれほどいない。このまま成長すれば、助言者(ベラーター)はもちろん、代行者(プロコンスル)の力すら凌駕できる。やはりグライフトゥルム王家の血に何か秘密があったようだな……)


 グライフトゥルム王家は先代の(ヘルシャー)の子孫だが、これだけ代を重ねれば、血が繋がっているだけならいくらでもいる。もちろん、助言者(ベラーター)によって守られた血統はより濃いのだろうが、それでも能力が低い普人族(メンシュ)に過ぎぬ。


 それに千五百年も経てば、先代の血などほとんど残っていないだろう。だから、血統以外の要因があると考えていたのだ。

 何が要因かはどうでもいいだろう。我らの目的は(ヘルシャー)の復活なのだから。


(このままいけば二年と掛からずに力を制御できるようになるだろう。幸い、見張っている神狼(フェンリル)も塔の中のことまでは気にしておらん。力を引き出しすぎなければ問題はない……)


 今日も魔象界(ゼーレ)から力を引き出す訓練に励んでいる。

 褒めてやればどこまでも深く魔象界(ゼーレ)に意識を潜らせていく。


(単純なものだ。これなら今日も上手くいきそうだな……)


 最初は順調で魔象界で大きな力を見つけ、それをものにしようとしていた。


(凄い進歩だな。これなら一年以内に魔導の修行に入れるだろう。だが、焦りは禁物だ……)


 そこでグレゴリウスに今日の修行を終えるように言った。

 しかし、彼は私の言葉を無視して瞑想に入ってしまう。


「やめなさい! これで終わりです!」


 それでも彼は無視して魔象界に潜っていく。


(まずいな。だが、ここで中途半端に止めると逆に危険だ。このまま何も起きなければよいが……)


 そんなことを考えていたが、彼の身に異常が起きていることに気づく。


(意識が呑み込まれている? 否、意識はある。だが、この負の感情は……まずいぞ、これは。このままで神狼に感付かれてしまう……)


 まだ彼の魂は呑み込まれておらず、今なら引き返せると思っていた。しかし、これだけ大きな力を放出すると、塔を監視している神狼に気づかれると思い、グレゴリウスに語り掛ける。


「戻ってきなさい。今日の瞑想はこれで終わりです。今日も私は満足ですよ」


 いつもならこれで意識が戻ってくるのだが、一向にその気配がない。それどころか、彼の魔導器(ローア)から大量の魔素(プノイマ)が溢れ出てきた。


「ああ! 熱い! 身体が燃えるようだ! ああああ!」


 グレゴリウスが身体を掻きむしりながら叫んでいる。


「グレゴリウス、戻ってきなさい! すぐに戻るのです!」


 私の焦りを含んだ声に研究棟の導師や上級魔導師たちが集まってきた。


「彼の魔導器(ローア)から魔素(プノイマ)が溢れ出ている! 全員で抑え込め!」


 導師たちは彼に近寄り、溢れ出る魔素を制御しようと手をかざす。

 彼以外ならこの場で処分してしまうのだが、これほどの逸材を失うことを怖れ、力を抑え込むことにした。しかし、それが大きな過ちだった。


「や、やめろ! 俺の身体に入ってくるな! 俺はグレゴリウスだ! やめろ! 俺を取り込もうとするな!……」


 グレゴリウスが叫ぶが、上級魔導師たちは近寄ることすらできず、導師たちも力を抑えることができない。

 溢れ出る力は実体を持っているように導師たちを呑み込んでいく。


(このままでは危険だ。この状態で彼を殺しても暴走は止まらない。脱出するしかない……)


 既に彼の身体の周囲には大きな魔素溜まり(プノイマプファール)が形成されていた。

 魔素溜まりは魔象界から具象界に魔素を湧き出させる泉のような存在だが、湧き出るといった生易しい状況ではなく、奔流のように噴き出していた。


 私は恥も外聞もなく、その場から駆け出した。そうしなければ、呑み込まれると確信したためだ。


神狼(フェンリル)は何をしている! 気づいているならなぜ来ぬ! このままではこの地は魔窟(ベスティエネスト)になってしまう。いや、私自身呑み込まれてしまう。早くしてくれ。頼む……)


 あれほど嫌っていた神狼に対処するよう心の中で懇願する。


 塔の屋上に出ると、私は飛翔の魔導を発動する。


(ここまで来れば大丈夫だろう……あとは神狼に見つからぬようにしなければ……)


 塔から飛び出し、最大速度で離れる。

 しかし、甘かった。振り返ると塔は爆発的に広がる魔素(プノイマ)の奔流に呑み込まれ、そのまま私の背中に迫っていたのだ。


「た、助けてくれ! このままでは……」


 私は圧倒的な力に包まれた。そして、身体を引き千切るような圧倒的な力に翻弄される。


(く、苦しい……これほどの力に耐えられるはずがない……まだ死にたくない。こんなところで死ぬのは嫌だ! 熱い! 助けて……)


 私の中に何かが入ってくるのを感じた。


『殺せ! すべての命を消し去るのだ! この世界を呑み込め! ハハハハハ!』


 圧倒的な憎悪が私の魂を蹂躙していく。


「嫌だ! 消えたくない! 私から出ていけ!……」


 私はその憎悪の塊に抵抗しようとした。

 しかし、その力の差は大河を素手で堰き止めようとするに等しい。

 力の奔流が私を呑み込んでいく。


『大した器ではないが、周りの雑魚よりはマシのようだな……』


 生命を感じさせない凍てつくような闇の中に、二つの光る眼が私を見つめていた。

 その目を見た瞬間、私は心臓が止まりそうになる恐怖を感じた。四聖獣の怒りなどそよ風に感じるほど圧倒的な恐怖だ。


 このままこの存在に呑み込まれたら、魂の救済は訪れないと本能的に感じ、更に逃げようと後退る。


『逃げることなどできぬと、なぜ分からぬ』


 その存在は私を嘲笑しながらゆっくりと近づいてきた。


『邪魔が入る前に回収した方がよさそうだな……』


 そう呟くと、私の身体に触れる。


「やめろ!」


 叫んだが、それが無駄だと分かっている。

 闇が私の身体の中に入り、私の意識はそこで途絶えた。


下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


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