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新グライフトゥルム戦記~運命の王子と王国の守護者たち~  作者: 愛山 雄町
第九章:「暗闘編」

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第二十四話「軍師、メンゲヴァイン家を翻弄する:後編」

 統一暦一二一六年十二月二十二日。

 グライフトゥルム王国中部、王都シュヴェーレンブルク、王宮内。マティアス・フォン・ラウシェンバッハ伯爵


 ハインリッヒ・フォン・メンゲヴァインが思惑通り暴走した。

 リーゼル・ヴァルデンフェラー伯爵令嬢に扮した妻イリスがラザファムの屋敷から出たところで、ハインリッヒの手の者に襲撃された。


 (シュヴァルツェ)(ベスティエン)猟兵団(イエーガートルッペ)の三十人の猛者が近くに潜んでおり、イリスが剣を抜く間もないほど短時間で制圧している。


 また、ハインリッヒの居場所は把握済みであり、こちらも逃亡される前にあっさりと捕縛していた。


 ハインリッヒを逮捕した後、兄であるユスティンを呼び出した。

 彼は妾腹の生まれだが有能だという情報があり、彼がどのような対応を取るかを見るためだ。


 もし野心家であれば、侯爵という身分を与えることは危険だ。その場合はメンゲヴァイン家を子爵に降爵させ、権力から遠ざける提案をするつもりだった。

 しかし、彼は私が謀略を仕掛けたと気づくと、すぐに自家の力を削いでもよいと言ってきた。


(予想より頭の回転が速い。これだけのことが考えられるなら、ハインリッヒを暴走させて家督争いを終わらせることもできたはずだが、それをやらなかった。野心を隠しているのか、誠実なのかはまだ分からないが、少なくとも短絡的な人物ではないようだな……)


 謀略によってハインリッヒを暴走させると閣僚に諮った際、法務卿のベネディクト・フォン・シュタットフェルト伯爵が嫌な顔をしていた。


 そのため、レベンスブルク宰相とケッセルシュラガー内務卿と調整し、ユスティンの野心を確かめたのだ。


 もし、彼がメンゲヴァイン家の力を温存しようとしたなら、法務卿が何を言おうが連座させるつもりだった。来年から本格的に始まる国政改革の障害になりうるためだ。

 しかし、彼はそれを理解した上で自家の力を削ぐことに異議は唱えないと断言した。


 私はそのことに満足し、今回の目的を話し、協力を促すことにした。


「今回のことは私が考えたことです。その理由は王国貴族が自らの野心を優先し、王国に混乱を与えるのであれば容赦はしないというメッセージを出すためです。もちろん、その貴族の中には我がラウシェンバッハ家も入っています。そのメッセージを出すためにご協力いただけますか?」


 ユスティンは即座に頷いた。


「もちろんです。自らの栄達にしか興味がない貴族はこの国に不要だと、私は考えています。ですので、弟との家督相続争いでも、私に権利があることが明白であるにもかかわらず、王国政府の承認を待つという姿勢を貫き、強引な行動は差し控えました」


 先代のメンゲヴァイン侯爵オットーはユスティンを嫡子として王宮に申請している。しかし、当時の宮廷書記官長マルクトホーフェン侯爵が嫌がらせのためにそれを握りつぶした。


 適正な手続きを早急に進めるよう求めても全く問題なかったのだが、ユスティンは王国側の思惑に気づき、静観していたのだ。


 ちなみにオットーがユスティンを嫡子としたのは、彼の優秀さを認めたからではない。ハインリッヒの母、正妻のテクラを嫌ったオットーが嫌がらせでユスティンを嫡子に指名したらしい。


「そのようですね。ユスティン卿なら重臣の一人として、我が国の中枢に入っていただいても問題ないと思います。宰相閣下、いかがですか?」


 宰相に話を振ると、彼も満足げに頷いた。


「そのようだな。我々には優秀な人材が必要だ。ハインリッヒのような者を駆逐し、真に王国のことを考える者を登用せねばならぬ」


 宰相の言葉にユスティン以外の全員が頷いた。

 そこで今後についての具体的な話をする。


「今回の件を大々的に公表いたします。ハインリッヒ殿が侯爵家の当主になるために他の貴族家に干渉しようとしたこと、そのために王都内で兵を動かすという暴挙に出たこと、そのような者に兵を貸した者がいたこと、そして、そうなるように私が誘導したことをです」


「卿が誘導したことまで公表するのか? 言う必要はないと思うが」


 宰相が反対する。


「私が関与していると知れば、強引な方法で国政を動かそうとする者は一気に減るでしょう。私を敵に回す覚悟がいりますから」


「確かにそうだが……」


「それに私が国政を壟断するのではないかと、警戒する方が増えます。私の行動を掣肘しやすくなるのです」


「言わんとすることは分かるが、国政改革も本格化するのだ。卿の力を削ぐようなことはすべきではないだろう」


 そう言いながらも宰相はシュタットフェルト法務卿の方にチラリと視線を向けている。法務卿は表情を変えることなく、話を聞いていた。


「いいえ、削ぐべきだと思っています。陛下のご信任があることもありますが、王国政府内での私の力は強すぎるからです。私に国政を牛耳るつもりはなくとも、この状態が続けば必ず歪みが出ます。本来ならきちんとした法に基づき、私の力を制限する方がよいのですが、現状では難しいでしょう」


 王国の中央集権化で政府に権限を集中させた。しかし、明確な権限がないにもかかわらず、私個人の意見で王国が動いている。このことに私は危機感を抱いていた。


「その点は理解する。強大な敵である帝国が存在する以上、卿の力は我が国には必要だ。正しい政治にするために卿の力を落として、国が滅んだのでは意味がない」


「おっしゃる通りです。ですので、私を監視する人が増えるようにしておくのです」


「言わんとすることは理解するが、そこまでする必要があるとは思えぬ……」


 宰相は理解しがたいのか首を横に振っている。


「いずれにしても今回の件はきちんと公表すべきです。この件に関しては内務卿にお願いしたいと思いますが、いかがですか」


 ケッセルシュラガー内務卿が大きく頷く。


「承知した。しかし、イリス卿が襲われたことはどう説明するのだ?」


 その言葉に苦笑が浮かぶ。

 本来であれば、(シャッテン)であるカルラとその部下が囮になるはずだったのだが、イリスが聞きつけ自分が囮になると言い出した。


『我が家が謀略のために使用人を危険に晒したと思われたくないの。(シャッテン)を使ったということもどこからお金が出ているのかということになるわ。それに兄様の妹であり、あなたの妻である私が前面に出た方が、千里眼のマティアスが絶対に許さないという印象を強くできるから、その方が目的に合うでしょ』


 いろいろ言っているが、ラザファムの幸せを邪魔することは許さないという思いが強いだけだ。

 そんなことを思い出したが、すぐに表情を引き締める。


「それについては私が関与していると公表すれば、誰も気にしないでしょう」


「確かにそうだな」


 内務卿はそれで納得してくれた。

 私が画策したと公表すれば、イリスが動くことは不自然ではないからだ。


 後日、ハインリッヒとその配下二十名は騒乱罪で全員が処刑された。

 その際、今後王国政府は自らの栄達のために王国の利益を損なう貴族に対し、厳しく対処すると発表した。


 また、私が今回の謀略を主導したことも合わせて公表されており、古い価値観を持つ貴族たちは非難の声を上げた。


『ラウシェンバッハ伯爵が国政を壟断している。第二のマルクトホーフェン侯爵になりかねぬ。彼こそ排除すべきだ』


 それに対し、ジークフリート王はこう答えた。


『マティアス卿が真に国政を壟断しているのなら、卿らはこの場にいないだろう。それに我が師であっても不当に力を振るうのであれば、私自らが彼を処分する』


 国王の断固とした言葉に、騒いでいた貴族たちは声を失った。


 ハインリッヒらの処刑が終わった後、ユスティンがメンゲヴァイン侯爵家を相続することが発表された。


 また、ハインリッヒに連座した寄り子だけでなく、支持した寄り子や家臣の多くを放逐すること、それに合わせてメンゲヴァイン家の領地の三分の一を自主的に返納することが発表された。


 この発表に多くの者が驚いている。

 領地を自主的に返納したこともそうだが、自分を支持しなかった寄り子や家臣に報復したためだ。


 ハインリッヒを支持した者たちもユスティンが当主になると決まると、即座に恭順の意を示している。本来であれば、そこで手打ちにし、彼らの負い目を利用して領地経営を進めるべきだが、それをしなかった。


 但し、恭順を表明しただけでなく、責任を取って家督を譲った家は何の咎めも受けずに残されている。

 その理由を問われたユスティンはこう答えた。


『ハインリッヒのような者を支持したことは大きな罪だ。それを自覚できぬ古い価値観に縛られるような者はこの国に不要だ。それを明確に示しただけだ』


 その言葉が伝えられると、ジークフリート王は満足げに頷いていた。


下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


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