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新グライフトゥルム戦記~運命の王子と王国の守護者たち~  作者: 愛山 雄町
第八章:「激闘編」

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第十七話「グラオザント会戦・前哨戦:その十一」

 統一暦一二一六年九月二十六日。

 シュッツェハーゲン王国西部グラオザント城北東、ゾルダート帝国軍野営地内。皇帝マクシミリアン


 三ヶ国同盟軍との戦いで大きな戦果を挙げ、我が軍の兵士たちは意気揚々として野営地に戻ってきた。


 既に日は落ち、思った以上に暗い。

 本来ならこちらの士気が上がり、敵の士気が落ちているこの状況なら攻め続けるべきだが、夜戦に強いグライフトゥルム軍の獣人兵がいるため引き上げたのだ。


 余の天幕に入ったところで、ホラント・エルレバッハ元帥とカール・ハインツ・ガリアード元帥と話し合いを行う。


「シュッツェハーゲン軍の騎兵部隊を囮にしてくるとは、エッフェンベルクもなかなか冷徹な指揮を執る」


 余の言葉に二人の元帥が頷く。


 メトフェッセルが指揮するシュッツェハーゲン軍の騎兵部隊が暴走するように仕向けたのだが、それに対してグライフトゥルム王国軍はメトフェッセル隊を救援するように見せながらも、我が軍に少なからぬ損害を与えてきた。


「陛下のおっしゃる通り、囮にしたことは明らかですが、それでもシュッツェハーゲンの将兵に反感を持たれないよう、自軍の損害を顧みず全力で助けにいったように見せています。特にイリス隊は見事でした。その指揮に対応できた獣人族兵士も侮れません」


 エルレバッハの意見に頷く。


「イスターツの指揮も絶妙だった。やはりグライフトゥルム王国軍が最大の障害となったな。そうなると、あの陣地に篭ったままでいるのかという問題がある。獣人族が夜襲を仕掛けてきたら、用意した罠だけでは対処しきれぬ可能性が高い」


 用意した罠とは野営地の周囲に落とし穴を多数作ったことと地面付近にロープを張り巡らせてあることだ。また、物資の保管場所に近い天幕には必ず武装した兵士が潜むようにしてある。


 落とし穴やロープは夜間であれば地面と区別が付かず、突入してくれば引っかかる者が多数出るはずだ。当然混乱するから、その隙を突いて討ち取るという作戦だ。


 それに敵の第一の目標は食料などの物資であり、そこで完全武装した兵士が待ち構えることで、夜襲を仕掛けてきた敵を討ち取ることにしていた。


 しかし、獣人族の多くは夜目が利く。

 そのため、落とし穴やロープがあると気づけば、見落とすことなく避けてくるだろう。


 また、夜襲の知らせを受けたら即座に大量の松明に火を点ける運用にしているが、それでも昼間の明るさには遠く及ばないため、普人族の兵士では対応しきれなくなる可能性が高い。少数の精鋭での夜襲なら撹乱した上で物資に火を放つことくらいできるだろう。


「夜襲だけではありません。グライフトゥルムの獣人たちが夜のうちに密かに陣地を離れ、我々が出撃した後にここを襲撃する可能性もございます。敵は歩兵ですから、地面に這われてしまえば、一キロ程度離れただけでも見つけることは至難の業。だからと言って、ここに輜重隊の護衛を多数置けば、前線での兵力が低下します」


「ガリアードの言う通りだな」


 現状では出撃中の物資や輜重隊の護衛は二個大隊一千名を当てている。これは百名を超える部隊が昼間に襲撃を企てれば、本隊からも確認ができるため、対応できると考えたからだ。


 しかし、ガリアードの言う通り、獣人族兵士が密かに陣地を離れ、野営地近くに潜まれたら非常に厄介だ。


 特にグライフトゥルム王国軍には優秀な通信の魔導具がある。だから、見つからないように部隊を分散させて接近し、襲撃時に集めるといったことが容易にできる。


 それ以上に厄介なことは、エッフェンベルクやイリスといった優秀な指揮官が現地に行かなくとも直接指揮を執れるということだ。


「獣人たちの奇襲については真実の番人(ヴァールヴェヒター)の間者を当てる。その分、敵の監視を減らさざるを得ないが、背に腹は代えられぬ」


 今回は真実の番人(ヴァールヴェヒター)の間者を五十人ほど連れてきている。ラウシェンバッハがいないとはいえ、搦め手で撤退を余儀なくされれば致命的だからだ。


 この五十人だが、帝都とリヒトロット市周辺から抽出している。この戦いが終わるまで、それらの地域でラウシェンバッハの手の者にやりたい放題やられる可能性はあるが、仕方がないと割り切っている。


「夜襲に対応するためには、兵力の半数程度を待機させた方がよいな。それだけいれば、グライフトゥルムの全軍が夜襲を仕掛けてきても対応できる」


 余の言葉にエルレバッハが首を横に振る。


「今夜から雨が降りそうです。物資を焼くにはあまり好ましい日ではありませんし、今日の敗北を受けて、いきなり夜襲で何とかしようとするほどケンプフェルトやエッフェンベルクは短絡的ではありますまい。多少警戒を強めても過度に反応して疲労を溜める必要はないかと」


「確かにそうだな。だが、勝利で気を緩め過ぎぬように引き締めておけ」


「「御意」」


 二人は同時にそう答えた。



 夜が明け、三日目の朝を迎えた。エルレバッハの予想通り、敵の夜襲はなかった。

 昨夜から雨が降り始めている。本降りというほどではないが、しとしとと降る雨はマントにまとわりつく。


 天候は悪いが、今日も出陣する。

 但し、足元が悪いことと、三ヶ国同盟軍が打って出る可能性が低いため、第二軍団の騎兵はすべて野営地に残していく。


 これはこの視界の悪さを利用して、グライフトゥルム王国軍の獣人兵が奇襲を仕掛けてくることを警戒したためだ。


 もっとも兵たちが不安にならないよう、そのことは公にせず、騎兵を休ませるという理由にしている。


 いつも通りに戦場に到着するが、先行していた偵察隊が困惑しながら報告してきた。


「グライフトゥルム王国軍のイリス隊、イスターツ隊の姿が見えません。シュッツェハーゲン軍の防衛陣地に入っている可能性はありますが、確証がございません」


 昨日話していたことが早速現実のものになったようだ。


「分かった。ガリアード、騎兵部隊を周囲の警戒に当てよ。但し、連隊単位だ。奴らのことだから、少数の部隊になったところで奇襲を狙っているだろうからな」


「御意。但し、すぐに戻れるよう連絡は密に取るように指示しておきます」


 ガリアードはそう言うと、命令を出すため、離れていった。


「ガリアード殿も分かっておられるようですな。攻撃はどうされますか? 敵を誘うために様子見をすることも可能ですが」


「昨日と同じように二つの陣地を攻める。だが、積極的ではない。敵が動きたくなるようにちょっかいを掛けるだけだ」


 敵は減っているとはいえ、八万近い兵がいる。

 余の旗が見える中、これだけ有利な状況で黙っていられるはずがない。


 姿が見えないグライフトゥルム軍がいなくとも七万ほどいるはずで、それだけでも我が歩兵部隊の倍以上になる。


 もっともそれだけの大軍だが、シュッツェハーゲン軍がその半数近くを占めており、脅威になるのはグライフトゥルム軍と共和国軍の四万ほどだけだ。


 その二ヶ国軍だけなら騎兵がいなくとも守りに徹すれば互角以上に渡り合えるし、ガリアードの騎兵が戻れば、一気に逆転できる。


「問題はケンプフェルトとエッフェンベルクが出撃を認めるかということだな。こちらが誘っていることは容易に想像できるのだから、恐らく出撃を許可しまい。シュッツェハーゲン軍も昨日のメトフェッセルのことがあるから強くは言えぬ。今日はグライフトゥルム軍が何をしようとしているのか確認することに費やしてもよいだろう」


 消えたグライフトゥルム軍がシュッツェハーゲン軍の防衛陣地にいるなら出てくる可能性はあるが、恐らくいないはずだ。


 防衛陣地に配置する意味はないし、我々を混乱させるために隠したのであれば、姿を見せないまま、こちらを迷わせるはずで、すぐに種明かしをすることはないだろう。


 その後、攻撃を仕掛けるが、矢の応酬に終始したため、双方ともほとんど被害を出さないまま、今日の戦いは終わった。


下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


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