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新グライフトゥルム戦記~運命の王子と王国の守護者たち~  作者: 愛山 雄町
第八章:「激闘編」

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第八話「グラオザント会戦・前哨戦:その二」

 統一暦一二一六年九月二十五日。

 シュッツェハーゲン王国西部グラオザント城東、シュッツェハーゲン王国軍防衛陣地内。タンクレート・アイゼンシュタイン侯爵


 ゾルダート帝国との戦いが始まった。

 敵は六万の兵力のうち、一万の歩兵を我が陣地に向けてきた。

 弓矢による攻防では敵に後れを取り、我が軍の兵に動揺が見える。


「それでもシュッツェハーゲンの兵か! 祖国を守る精鋭としての意地を見せよ!」


 不甲斐ない味方を叱咤する。


 勝手の違う防衛陣地での戦いということで、兵だけでなく、指揮官にも混乱があった。土塁の後方にいる弓兵の攻撃がほとんど当たっていないのだ。


 それだけではなく、逆に敵からの曲射を受け、多くの兵が倒れている。私の近くだけでも三百人近い兵が倒されていた。


 私の言葉に指揮官たちが兵たちに喝を入れ始めた。


「敵の矢をよく見ろ! 冷静に動けば避けられないことはない!」


「指揮官の命令通りの角度で矢を放つのだ!」


 それに被るように更に声を張る。


「何としてでもここを死守するのだ! そうすれば、友軍が敵の後方に回り込み、一気に片が付けられる! 敵の攻撃は単調だ! 指揮官はよく見て命令を出せ!」


 我が軍では城壁から矢を射るため、曲射による攻撃を行ったことがなく、距離感が掴めないでいる。

 もっともこのことは演習中から指摘されていた。


『指揮官は目印になる岩を参考に、敵までの距離を正確に算出してください。兵は指揮官の指示する距離になるよう角度を調節するのです。最初は戸惑うと思いますが、慣れるまで何度でもやってください』


 イリス卿がそう言って指揮官と兵を指導するが、女性の将ということで軽く見ている者が多かった。その後、ラザファム卿が同じように指摘したが、三十代前半の若い将ということで彼の話すらあまり聞かなかった。


 私からきつく命じたが、エンゲベルト・メトフェッセル侯爵が口を挟んできた。


『同盟国の将とはいえ、我が軍には長い伝統があるのだ。それを無視するようなやり方を受け入れる必要はないのではないか』


 その言葉に私の部下たちも口に出さないものの心の中で賛同している節があった。


 彼らは三ヶ国同盟軍が八万五千という大兵力と強力な防衛陣地を構築したことで楽観的になっていた。そのため、自分たちのやり方に口を出されることを嫌ったのだ。


 その兆候は陣地構築の時からあった。

 当初、我々はどのような防御施設が最も効果的か判断が付かず、全軍が入れる巨大な防御拠点を作り始めていた。


 しかし、共和国軍とグライフトゥルム王国軍から派遣されてきた参謀たちはその陣地を即座に否定した。


『これだけの規模のものを作るには時間が足りません。それに防衛作戦では騎兵と獣人族部隊の機動力を活用することになっています。全軍が防御陣地に入ってしまえば、その機動力を殺すことになります』


 言っていることは全くその通りだったが、我が軍の指揮官たちは途中まで作った陣地を放棄することに難色を示した。


『一から作り直していては、それこそ間に合わぬのではないか』


『そのようなことはありません。ここに来るまでにある程度の案は作っていますので、それに従えば十分に間に合います』


 そう言いながら地図と防御陣地の図面を出してきたのだ。

 その用意周到さに感心し、私の権限でその案を採用した。


 彼らの言う通り、予定していた期限までに防御陣地は完成した。そして、実物を見ると、彼らの考えた防御陣地の方が有効であることは誰の目にも明らかだった。


 しかし、一度拗れた感情は総司令官である私がどれほど言葉を尽くしても解消しなかった。


 更に共和国軍とグライフトゥルム軍が合流し演習が始まると、我が軍と両軍の間に溝ができていくように感じていた。

 それは明らかに彼らの方が優秀で、兵だけでなく指揮官たちも劣等感に苛まれたためだ。


 それでもケンプフェルト元帥を始め、ラザファム卿やイリス卿らが尽力し、何とか一個の軍として動けるようになった。それにより、我が軍の将兵も自信を持つようになる。

 しかし、実戦が始まると、その自信は脆くも崩れ去った。


 戦場を見ていると、共和国軍の参謀長ダリウス・ヒルデブラント将軍が話しかけてきた。


「我が軍の騎兵部隊を敵歩兵連隊の側方に回しましょう。そうすれば、敵も混乱し、足が止まるはずです。その間に兵たちの動揺を抑え、奮起させましょう」


「そうですな……通信兵! ホーネッカー将軍に繋いでくれ! ヒルデブラント殿、貴殿から命令を伝えてほしい」


「承知しました」


 一応、私が三ヶ国同盟軍の総司令官だが、直接命令することは憚られる。

 ヒルデブラント将軍が命じると、フランク・ホーネッカー将軍率いる一万の騎兵が右翼側から回り込むように移動する。


 その動きは直接向かうわけではなく、後方にある皇帝の旗を目指しているように見せている。

 命じた私ですら、皇帝を討ち取りにいったように見えたほどだ。


「さすがは歴戦のホーネッカー将軍です。我が軍の騎兵ではあのような機動はできぬでしょう」


「ですが、帝国軍は全く動揺していません。ラザファム卿に出撃準備を伝えておいた方がよいでしょう」


 彼の言う通り、帝国軍は第二軍団の騎兵一万が迎え撃つように動くだけで、第三軍団はほとんど動いていない。

 同数の騎兵で対処できると考えているようだ。


「承知した。通信兵! エッフェンベルク大将に連絡。出撃準備を願う。また、出撃のタイミングは一任すると伝えよ」


 本来なら総司令官である私が明確な指示を出すべきだが、グライフトゥルム王国軍の名将ラザファム卿に自由に動いてもらった方が私のような凡将が命ずるより、よい結果になると考えたのだ。


 そのラザファム卿から了解の返答が来たが、その頃には騎兵部隊が激突しており、そちらに目を奪われていた。


「帝国の騎兵も巧妙ですな。ホーネッカー隊をいなしつつ、第三軍団の方に向かわせようとしています」


 ヒルデブラント将軍の言葉の通り、第二軍団の騎兵はホーネッカー隊の正面からではなく、左翼側、つまり我が軍に近い方から斜めに当たるようにしている。


 そのままいけば、皇帝がいる本陣に向かうこともできそうだが、そこにいけば第三軍団の騎兵一万五千に右翼から攻撃される。そのことにホーネッカー将軍も気づき、左翼側の攻撃をいなしつつ、第三軍団側に向かわざるを得なくなっている。


「グライフトゥルム軍より連絡! イリス師団が敵右翼に攻撃を仕掛けるとのことです!」


 左手を見ると、ラウシェンバッハ家の旗が靡くイリス卿率いる六千の兵が我が軍の陣地と共和国軍の陣地の間を走り始めていた。


「さすがはイリス卿ですな。これで第三軍団も皇帝を守りにいかざるを得なくなりました」


 更にグライフトゥルム軍から連絡が入る。


「グライフトゥルム軍より連絡! ハルト師団が敵歩兵部隊に攻撃を仕掛けるとのこと!」


 その言葉を聞き、慌てて右を見ると、イリス隊と同じように陣地の間を走り抜けようとしていた。


「敵の歩兵部隊が混乱するはずです。タイミングを合わせて矢を射かけましょう。そうすれば、敵の前進は止まります」


「そうですな」


 そう答えた後、我が軍の兵士に向けて命令を出す。


「一斉射撃だ! 敵兵を釘付けにせよ!」


 その命令が実行され、一斉に矢が放たれた。

 その攻撃でも敵に損害を与えることはできなかったが、足を止めることに成功した。


「各隊の指揮官は味方の動きを確認しつつ、適宜攻撃を続行せよ!」


 これで敵歩兵部隊は正面から我が陣、左翼側からハルト師団の攻撃を受けることになる。

 この状況に我が軍の将兵に余裕が戻ってきた。


(さすがはグライフトゥルム王国軍だな。絶妙のタイミングで介入してくれた。しかし、本来主力であるべき我が軍が足を引っ張っていることに変わりはない。何とかしなくてはならない……)


 私は危機感を抱きながら、指揮を行っていた。


下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


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