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新グライフトゥルム戦記~運命の王子と王国の守護者たち~  作者: 愛山 雄町
第二章:「風雲編」

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第一話「軍師、策を練る」

新章の始まりです。

 統一暦一二一五年四月四日。

 グランツフート共和国西部ズィークホーフ城西、草原地帯。マティアス・フォン・ラウシェンバッハ子爵


 夕方頃、グランツフート共和国とレヒト法国の国境、ズィークホーフ城に到着した。

 ここはかつての主要街道、西公路(ヴェストシュトラーセ)上にあるが、レヒト法国からグランツフート共和国が独立後は街道の往来は共和国軍のみで、廃れた街道という印象が強い。


 城は国境線であるランダル河の東にあるが、高さ五メートル、一辺が五十メートルほどの城壁に囲まれただけの小さな城だ。城壁の中の建物は木造のバラックのようなもので、本格的な城には見えない。


 共和国もこの城を防衛施設として期待しておらず、国境を監視し警備する部隊が五百名ほどいるだけと聞いている。


 これはランダル河自体が幅五十メートルほどと狭く、夏の増水期を除けば水深も浅いことから、天然の要害とは言い難く、防御に適した場所でないことが大きい。


 また、この辺りは乾燥した気候で地味に乏しく、農業に適さないことから入植者がほとんどおらず、国境線での防衛を行うメリットがないことも理由だ。


 建物がバラックのようなものであるのも、占領されるたびに焼かれるため、いつでも立て直せる簡易なものになっているらしい。


 その代わりでもないが、ズィークホーフ城から中央機動軍が駐屯するヴァルケンカンプまでは狼煙台が整備されており、四百五十キロメートルという距離を数時間で情報が届くシステムが構築されている。


 城に到着すると、ゲルハルト・ケンプフェルト元帥の紹介状を渡す。


千里眼(アルヴィスンハイト)のマティアス殿をお迎えでき、光栄です。元帥閣下のご命令もありますので、我々にできることがあれば、何でもお申し付けください」


 警備隊の責任者バルテル・グルーベ隊長が大袈裟に歓迎してくれた。

 グルーベは私と同じ三十一歳。引き締まった身体と精悍な顔つきの武人だが、満面の笑みを浮かべている。街道は廃れているし、月に一度の補給物資が届く日以外は外部の人間と話すこともないためだろう。


「閣下の命令書にもございますが、明日から周辺の偵察を行う予定です。まずは法国軍の動向とこの辺りの地形についてご教示いただければと思っています」


 隊長を始めとした幹部たちから話を聞くと、法国軍もここと同程度の国境監視部隊を置くだけで、今のところ積極的な行動は見られないということだった。


 この辺りの地形は背の低い草が生えるだけの草原地帯だ。但し、ところどころに緩やかな丘や雑木林が見える。


 守備隊の幹部たちと話し合った後、護衛である(シュヴァルツェ)(ベスティエン)猟兵団(イエーガートルッペ)の指揮官、獅子(レーヴェ)族のファルコ・レーヴェと(シャッテン)のカルラ・シュヴァイツァー、ユーダ・カーンと共に明日の予定を確認する。


「法国軍の動きは想定通りでしたね。まだこちらが気づいていないと思って積極的に動いていないようです。これなら偵察に行っても問題なさそうですね」


 これまで法国軍の侵攻に対し、共和国がそれを知るのは国境に軍が現れてからが多かった。

 これは位置関係による情報伝達のタイムラグが関係している。


 法国の侵攻の起点が東方教会領の領都キルステンであり、そこから約四百キロメートル離れた共和国の首都ゲドゥルトに情報が届くのは敵国内を通過する必要があるため、早くても十日後だ。


 ゲドゥルトから中央機動軍が駐留するヴァルケンカンプまでは約五百キロメートル。狼煙台による連絡網はあるものの、詳細な情報が届くには更に一週間ほど掛かる。


 一方、キルステンからズィークホーフ城までは約三百キロメートルであり、十五日ほどで行軍が可能だ。

 そのため、最前線に情報が届く前に法国軍が現れてしまうことになる。


「既に地図の作成は終わっています。敵の動きが想定通りとはいえ、マティアス様ご本人が国境を越えて偵察に行く必要はないのではありませんか?」


 カルラが反対する。

 その意見にユーダも頷いているが、ファルコは内心はともかく、沈黙を貫いていた。


「今回は短期決戦を狙っています。ラウシェンバッハ騎士団と突撃兵旅団(シュトースブリガーデ)をどう配置して、どのタイミングで動かすかがカギになるでしょう。リスクが小さいなら自らの目で見ておくべきだと思っています」


 法国の哨戒部隊は騎兵が主体の十名程度。ランダル河沿いを数時間おきに巡回しているだけなので、見つかるリスクは小さい。また、地形は地図で把握できるが、他にも利用できる物がないか、自らの目で見ておきたい。


「分かりました。マティアス様が必要とお考えであるなら、それに従います」


 カルラが認めたことでユーダも渋々ながら頷いた。


「我々はどうしたらいいですか?」


 ファルコが聞いてきた。黒獣猟兵団は目立つということもあるが、百人もの護衛を率いて偵察に行くことは現実的ではないためだ。


「黒獣猟兵団にはやってもらいたいことがある。共和国軍本隊が到着する前に敵の監視部隊を殲滅してほしい」


 ランダル河の西岸、約二キロメートルのところに、法国軍の国境監視部隊の駐屯地がある。ズィークホーフ城のように城壁があるわけではなく、簡単な柵で囲まれているだけであり、黒獣猟兵団の実力をもってすれば、五百名程度の監視兵を全滅させることは難しくない。


「作戦自体はファルコに一任する。明日は偵察に出るが、護衛は一班十名で充分だ。それに明後日以降はズィークホーフ城から出るつもりはないから、護衛は(シャッテン)だけで問題ないだろう。だから、その時間を利用して作戦を練ってくれ」


「はっ!」


 ファルコはやる気を見せて敬礼する。


 翌日、馬に乗って城を出る。

 騎乗しているのは私と警備部隊から派遣された騎兵だけだ。本来なら私も徒歩の方が見つかりにくくてよかったのだが、私の体力では長時間歩くことは難しく、今回の偵察範囲の半分も見て回れないためだ。


 ズィークホーフ城を出て共和国側を確認した後、ランダル河沿いを北上し、渡河に適した場所から法国領に入る。

 早春ということでまだ肌寒いが、日が高くなるにつれ、暖かさが増す。


 地図上では平原とされていたが、高さ十メートルほどの緩やかな丘がいくつもあり、思った以上に見通しは利かない。


「地図で見るより起伏に富んでいますね」


 同行しているグルーベ隊長に話し掛ける。


「この辺りは滅多に雨は降らないのですが、雨期に当たる夏には大量の雨が降り、丘の間を流れていきます。そのためなのか、時々地形が変わっていますね。まあ、少し高い場所に監視を配置すれば、少数の歩兵部隊はともかく、千名程度の騎兵なら二キロほど先からでも見つけられますから、地形を気にすることはありません」


「なるほど。共和国軍も法国軍も伏兵や奇襲部隊を使わないはずですね」


 奇襲部隊を編成するとしても、二キロメートル先から見つかるなら、奇襲効果は小さい。騎兵の機動力を生かしたとしても、それだけの距離を移動するなら強襲にならざるを得ず、それならわざわざ別動隊にする必要性は低い。


「我が軍もそうですが、法国の連中もこの辺りの地形は熟知しています。ですから、今更奇襲を仕掛けてくることはないでしょう」


 グルーベの言う通り、五百年ほど前の共和国独立戦争以来、数年おきにこの辺りで戦っており、両軍ともこの辺りの地形を熟知しているから、やりつくしている感があるのだろう。

 しかし、騎兵並みの機動力を持ち、身を隠しながら移動できる獣人族部隊なら話は別だ。


(敵の布陣状態にもよるが、上手く配置できれば五百メートル近くまで接近できるな。何度も戦っているから油断しているだろうし、奇襲効果は充分に見込める。それに撤退ルートが容易に想定できることも有利に働きそうだ……)


 偵察を無事に終え、ズィークホーフ城に戻った。

 但し、黒獣猟兵団の一部は夜間まで残って偵察を続けている。


 その後、地図情報を踏まえ、会議室にジオラマを作った。

 ジオラマは王国軍の士官学校でも使っており、私にとって珍しいものではないが、グルーベらにとっては珍しいのか、非番の者がよく見に来る。


「こうやって見ると、意外に起伏があるのだな。それにしてもずいぶん西の方まで作っているんだな」


「西の方は見に行ったことはないが、こんな風になっていたのか」


 分かりやすいと思ったのか、感心している者が多かった。

 私自身は一度現地を見ただけだが、叡智の守護者(ヴァイスヴァッヘ)の情報分析室に所属する(シャッテン)たちはここから五十キロメートルほど西まで偵察し、地図を作成している。


 偵察の翌々日、長旅と偵察の疲れが出たのか、熱を出して寝込んでしまった。

 魔導師(マギ)でもある(シャッテン)のカルラとユーダが治癒魔導を掛けてくれたため、大事には至っていないが、三日ほど動けなかった。


 体調が回復し、罠に必要な物資などをヴァルケンカンプに伝達し終えた頃、私の下に法国軍の情報が入ってきた。

下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


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