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第四十一話「大陸会議:その九」

 統一暦一二一六年一月一日。

 レヒト法国中部聖都レヒトシュテット、法王庁前広場。マティアス・フォン・ラウシェンバッハ伯爵


 大陸会議が続いている。

 最後の説明者、神霊の末裔(エオンナーハ)の大導師ダグマーは大賢者マグダや四聖獣に対し、今まで通りで何も変えないと宣言した。


『確かに以前であれば、問題はなかろう。じゃが、そなたらには大きな疑惑がある』


『疑惑? 助言者(ベラーター)とは言え、聞き捨てならん』


 皇帝ですら敬意を払っている大賢者に対し、ダグマーは敵意を露わにする。

 これは神霊の末裔(エオンナーハ)という組織が大賢者たちと相容れない考え方を持っているためだ。


 神霊の末裔(エオンナーハ)代行者(プロコンスル)助言者(ベラーター)と同じく管理者(ヘルシャー)の復活を目指している。

 しかし、大賢者たちとは考え方が全く異なっていた。


 大賢者たちは管理者の血筋から候補者が生まれ、その中から新たな管理者が現れるのを待っている。また、基本的には管理者候補に干渉しない。


 一方、神霊の末裔(エオンナーハ)は自分たちが管理者(ヘルシャー)を生み出すことを目指している。


 彼らの考える管理者は膨大な力を持つ魔導師(マギーア)のことだ。

 大賢者に聞くと、誤りではないらしいが、大魔導師だから管理者になれるのではなく、管理者として覚醒すると、大魔導師になるそうだ。


 神霊の末裔(エオンナーハ)はそのことを知らずにいるのか、意図的に無視しているのかは分からないが、大魔導師を作り出すため、魔導器(ローア)の出力を上げる方法を日々研究しているらしい。


 更に彼らは自分たちが(ヘルシャー)の側近として権力を振るうことを夢見ており、代行者(プロコンスル)助言者(ベラーター)といった存在を認めたくないと考えている。


 現状では力に差がありすぎるため、明確に対立しているわけではないが、大賢者や四聖獣に対して敬意を示すことはない。


『帝国から適合しそうな者を送り込ませ、魔導器(ローア)の改造を行っておることは分かっておる。それがいかに危険なことか、そなたでも認識しておろう』


『研究を行っていることは認める。だが、危険などない。仮に魔導器が暴走し、魔人化したとしても処分できる体制を整えているからだ。それに管理者(ヘルシャー)が禁じた行為に当たらないはずだ。リスクを踏まえた上で完璧な管理体制を構築し、特に禁じられておらぬ研究を行っているに過ぎない。代行者(プロコンスル)助言者(ベラーター)とはいえ、これを理由に処罰することはできぬ。この考えに誤りはなかろう』


 言っていることは間違っていないが、リスクを完全に押さえているのか疑問がある。


『では、絶対に暴走せぬと断言するのじゃな。万が一、魔素溜まり(プノイマプファール)が生まれるようなことがあれば、禁忌を冒したことになる。我らが制裁に赴くことになるが、その覚悟があるということじゃな』


 鳳凰(フェニックス)を含め、すべての四聖獣が強い威圧を加える。その余波で多くの者が許しを請うように地面に額を付けるが、ダグマーはよろめきながらも膝を突くことはなかった。


『それで構わぬ。だから我らに干渉するな』


 ブラフとは言え、四聖獣たちを相手に啖呵を切る胆力に驚く。


(やはり探られてはまずいことがあるらしい。大賢者様はどうするつもりなのかな? このまま引き下がるとは思えないが……)


 今回の会議の前に大賢者はいろいろと調べたようだが、神霊の末裔(エオンナーハ)のガードが固く、決定的な証拠は得られていない


『よい覚悟じゃ。神狼(フェンリル)よ、そなたの管轄に最も近い。そなたに一任してもよいかの』


 四聖獣は東西南北に配置され、大まかに担当地域が決まっている。

 神霊の末裔(エオンナーハ)の塔はゾルダート帝国内のツィーゲホルン山脈にあるが、神狼の担当地域らしい。


『我の好きにしてよいのか?』


『まずは監視だけにとどめよ。その上で魔素溜まり(プノイマプファール)が生まれれば、そなたの能力ならすぐに察知できる。それをもって、我らと協議したのち、罰を与えればよい』


『我に出張れというのか』


 神狼は嫌そうな雰囲気を漂わせている。

 神狼は大陸北部の大山脈、ハルトシュタイン山脈の北側にいると言われているが、ツィーゲホルン山脈のエオンナーハの塔から八百から一千キロメートルほど離れている。本拠を離れることが嫌なようだ。


代行者(プロコンスル)としての義務を果たせ。それが管理者(ヘルシャー)の命じたことであろうが』


『ならば仕方あるまい』


 神狼は管理者の命令に盲目的に従う。その気質を上手く利用したようだ。


 その決定に対して、ダグマーは何も言わない。仮面で表情が見えないため、余裕があるのか、強がっているのかは分からないが、自らの組織が絶対的な強者に監視されると分かっても何も言わないことに驚いている。


 それとは別のことを私は考えていた。


(神狼がツィーゲホルン山脈に来れば、帝国の軍事行動にも影響するかもしれないな。皇帝は自分が四聖獣たちに警戒されていることにショックを受けていたのだから……)


 ゾルダート帝国南部のエーデルシュタインからシュッツェハーゲン王国の国境の城グラオザント城に向かうルートはツィーゲホルン山脈の西の裾野を通ることになる。


 神霊の末裔(エオンナーハ)の塔からは三百キロメートルほど離れているが、帝国軍が進軍すれば、神狼が興味を示す可能性が高い。


 そんなことを考えていると、ダグマーが下がっていく。

 それを見届けた大賢者が総括を始めた。


『これですべての国、塔の説明が終わった。不完全なところもあるが、それは次回までに改善することでよいじゃろう。では、今回禁忌を冒した者、白狼騎士団長であるマルシャルクに対する罰についてじゃ』


 そこでマルシャルクが再び引き出される。


『既に多くの者が禁忌を冒すことの愚かさを知ったと思う。この者のような愚かな行為をすることはないじゃろうが、そなたら人族に教訓を与えねばならん。これは代行者(プロコンスル)の総意じゃ。無論、儂も賛同しておる』


 マルシャルクは神妙な面持ちで聞いている。

 最初に罪を問われた時から分かっていたが、既に覚悟を決めているのだ。


(さすがは十万もの兵を動かし、我が国と共和国を危機に陥らせたことだけのことはある。なかなかの人物だ。もし、禁忌に手を出さなければ、禍根を残したかもしれないな……)


 今の法国には彼に対抗できるような者はいない。ただの敗戦であったなら、一時的に権力を失ったとしても復権した可能性が高い。


管理者(ヘルシャー)の代理として、代行者(プロコンスル)が罰を与える』


 大賢者がそう言って小さく頷くと、マルシャルクを押さえていた(シャッテン)が下がる。

 その直後、マルシャルクの身体が浮き上がり始めた。


『よく見ておくのじゃ! 禁忌を冒した者の末路を!』


 その言葉で全員が視線を上に向ける。

 五十メートルほどの高さまで浮き上がった時、四聖獣から爆発的な力を感じた。

 次の瞬間、目を開けられないほどの光が発せられ、マルシャルクの身体で集束する。


 唐突に光は消えた。

 マルシャルクの身体も最初からなかったかのように消えている。

 オゾンのような匂いが残っていなければ、夢だったのかと思うほど何も残っていなかった。


 誰も声を上げることができない。

 これほどの力が自分たちに向けられたら、何もできずに消滅すると理解したからだ。


代行者(プロコンスル)の力はこの程度ではない。そのことを心に刻み付け、語り継いでいくのじゃ』


 大賢者の言葉に私を含め、全員が頭を下げた。


下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


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