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新グライフトゥルム戦記~運命の王子と王国の守護者たち~  作者: 愛山 雄町
第六章:「聖都編」

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第三十六話「大陸会議:その四」

 統一暦一二一六年一月一日。

 レヒト法国中部聖都レヒトシュテット、法王庁前広場。ドミニク・ロッシジャーニ白鳳騎士団長


 大陸会議が始まり、三十分ほどが経った。

 四聖獣様の怒りを直接感じ、私は不覚にも震えが止まらなかった。私がいる場所は四聖獣様から二十メートル以上離れているが、あれほど圧倒的な力を感じたことがなかったからだ。


 私も騎士として何度も魔獣(ウンティーア)と戦っている。

 その中には災害級と呼ばれる合成獣(シメーレ)一つ目巨人(クークロープ)と言った危険な魔獣もおり、死の恐怖を感じている。


 しかし、四聖獣様は全く次元が違った。

 シメーレが相手であれば、死の恐怖は感じたものの、戦うことができた。しかし、四聖獣様相手に剣を向けることなど考えられない。それほど力の差を感じたのだ。


(神の代行者の力とはこれほどのものだったのか……ラウシェンバッハが直接相まみえねば理解できぬと言った言葉の意味がようやく理解できた。これで我が騎士団にラウシェンバッハを殺めようと考える者はいなくなるだろう……それにしても、あれほどの怒りを直接受けてもなお膝を屈することなく反論できるとは……)


 聖竜(ドラッヘ)様と神狼(フェンリル)様に堂々と正論を叩き付け、怒りを鎮めさせたラウシェンバッハの胆力に畏敬の念が沸く。


 その後、法王聖下の動揺が収まらなかったため、グライフトゥルム王国の国王ジークフリートが王国の方針を語ったが、若いながらもその胆力と知性に驚きを隠せなかった。ラウシェンバッハに師事しているという話は真なのだと思った。


(ラウシェンバッハだけでなく、あの王もなかなかの人物だ。自らの言葉で四聖獣様を納得させたのだからな。彼らが率いる王国を攻めることは自殺行為だ。このことは広く伝えねばならん。神狼騎士団の者たちも同じ気持ちであってくれればよいのだが……)


 私が団長を退いた後、鳳凰騎士団を率いるのはラウシェンバッハに敗北したフィデリオ・リーツ黒鳳騎士団長だ。彼は以前からラウシェンバッハの能力を理解しており、無謀な戦争に加担することはないだろう。

 しかし、王国への侵攻を行うのは北方教会の神狼騎士団だ。


 今回は騎士団長たちが集められているから、当面は大人しくなるだろうが、十年も経てば、人も変わるし記憶も薄れる。その時、無謀な出兵が行われなければよいと真剣に考えている。


 会議は進み、グランツフート共和国とシュッツェハーゲン王国の方針が説明された。

 グライフトゥルム王国と事前に調整していたらしく、ジークフリート王が説明した内容に酷似しており、四聖獣様から特に意見はなかった。


『では、法王も回復したようじゃし、法国の方針を説明してもらうとするかの』


 大賢者様の声が響く。


 法王アンドレアス八世聖下は荒事が苦手で、聖竜様と神狼様の怒りを受けて気が動転し、それが落ち着くまで待っていたのだ。


 まだ十七歳でしかないジークフリート王と比べると情けないという気もしないでもないが、私が法王聖下と同じ立場であっても同じであったと思うので、ジークフリート王が特別なのだと思っている。


『で、では、せ、説明いたします……』


 聖下は懐からメモを取り出すと、それを読み始めた。


 このメモはラウシェンバッハが用意させたと聞いている。

 当初、聖下はすべて頭に入っているからいらないと言ったが、ラウシェンバッハにはこうなることが最初から分かっていたらしい。


『我が国、我が教団では禁忌を冒した者、使嗾した者、利用した者に対し……は、破門の上、極刑に処すと、法に…そして教典に明記いたします……』


 メモを読みながらでもたどたどしい。しかし、それは仕方ないことだ。

 聖下が説明を始めた直後から四聖獣様からの圧力がこれまでより強くなっており、聖下より離れている私ですら冷や汗が止まらないのだから。


『……年に一度、このことを周知すると共に、か、各教会に、ヴォルケローンの悲劇に関する壁画を描き……教会に足を運ぶたびに、こ、今回の教訓を心に刻み込むこととします……』


 そこで聖下は大きく息を吸い、話を続ける。恐らく息苦しさで声が出なくなっているのだろう。


『これまでも教典には魔素溜まり(プノイマプファール)の脅威と戦うことが明記されておりました。それでも今回のような恥ずべきことが行われました。これは我が教団の聖職者が本来の教えを蔑ろにし、私利私欲に走った結果と考えております……』


 聖下はここが重大なポイントとお考えになったのか、たどたどしさが消えている。


『……そのような聖職者はすべて追放し、教団を生まれ変わらせます。清廉かつ教義に忠実な者のみが聖職者となり、信徒たちを導くことで、今回のような恥ずべきことを二度と起こさせないと約束いたします。我が国の方針につきましては以上でございます』


 聖下は大きく頭を下げられた。それに我々も合わせて頭を下げる。


『まず儂から聞きたいことがある』


 大賢者様が厳しい口調で質問を始めた。


『そもそもじゃ、トゥテラリィ教団は魔象界の恩寵(ゼーレグネーデ)の反省を踏まえて生まれたはずじゃ。千年ほど前の聖職者たちは魔素溜まり(プノイマプファール)の脅威を排除するという教義に忠実であった。それが徐々に腐敗し、四百年前にも騎士たちが禁忌を冒しておる。そこで教訓を得たはずじゃが、再び禁忌を冒したのじゃ。此度追放したとしても、二度と起きぬとは言えぬ。そこはどう考えるのじゃ』


 大賢者様の声は冷え冷えとしていた。

 以前から我が教団によい感情をお持ちではないと聞いていたが、そのことがよく分かる。


 魔象界の恩寵(ゼーレグネーデ)は魔導を最大限に利用し、生活をよくしようと考えた。それも特権階級が贅沢をするために。そのため、四聖獣様の制裁を受け、滅んでいる。


『そ、それにつきましては……年に一度の周知することで……幼少より身に付くと、考えております……』


 たどたどしい答えに大賢者様が苛立たれる。


『元々教典にも書かれておることじゃ! 場当たり的に不良聖職者を追放しても根本的な解決になるまい! その方らの国は二度禁忌を冒しておるのじゃ! 他国と同じでよいわけがなかろう!』


 強い叱責に聖下が言葉を失う。

 更に四聖獣様からも苛立つ感情が噴き出しており、大聖堂前の広場に緊張が走る。


「恐れながら申し上げたきことがございます」


 北方教会のマルク・ニヒェルマン総主教が声を上げた。


『なんじゃ? 今は法王に話を聞いておる。それともそなたが法王に代わり、説明すると申すのか?』


「はい。今の大賢者様のご指摘は我々の議論の中でも出ておりました。私はそれでは不充分だと考え、提案を行いましたが、残念ながら却下されております」


『うむ。では、その方の考えを申してみよ』


 そこでニヒェルマン総主教は立ち上がった。そして、ラウシェンバッハの手の者から拡声の魔導具のマイクを受け取る。


『最初に申し上げます。私は北方教会の総主教マルク・ニヒェルマンでございます。つまり、そこにいるマルシャルクの直属の上司に当たり、今回のことに関し、私が認めたものではありませんが、道義的な責任があると考えております……』


 その言葉に四聖獣様から怒りの感情が湧き上がる。

 しかし、総主教はたじろぎながらも膝を屈することはなかった。


『お怒りはごもっともなことです。本来であれば、この場で謝罪以外の言葉を発するべきではありませんが、いかにして我が国が二度と禁忌を冒さぬようにすべきか、私の考えを聞いていただきたいと思い、発言を求めました』


 大賢者様が頷かれた。


『うむ。では、そなたの考えを申してみよ』


『ありがとうございます。まず根本的に我がトゥテラリィ教団の教義には大きな誤りがあると考えております』


 その言葉に我が国の関係者から驚きの声が上がる。しかし、四聖獣様の威圧により、すぐに鎮まった。


 ニヒェルマン総主教はその理由を説明し始めた。


下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


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