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第十九話「第三王子、御前会議で発言する」

 統一暦一二一五年二月二十三日。

 グライフトゥルム王国王都シュヴェーレンブルク、王宮内。第三王子ジークフリート


 共和国への援軍派遣について、ラウシェンバッハ騎士団とエッフェンベルク騎士団の派遣が決まった。

 ここまではマティアス卿の考え通り進んでいる。


 更に彼の策を完全なものとするため、私は発言を求め、認められた。


「共和国への援軍ですが、エッフェンベルク騎士団とラウシェンバッハ騎士団は精鋭とはいえ、地方貴族の私兵に過ぎません。我が王国として同盟国を守るという強い意志を見せるためには王族が同行すべきと考えます。そこで私ジークフリートが共和国への援軍の名目上の指揮官となり、グライフトゥルム王家の思いを同盟国に伝えたいと考えます。もちろん、私のような経験のない青二才が邪魔をしては意味がありませんので、総大将は実績のあるエッフェンベルク伯爵、副将をラウシェンバッハ子爵とし、私に指揮権はないと明記してはいかがでしょうか」


 邪魔が入らないように一気に言いたいことを話す。


「王家から名目上の指揮官……なるほど、それは良い案じゃな。フリードリッヒ、そなたはどう思うか」


 父フォルクマーク十世が兄フリードリッヒ兄上に話を振る。


「よろしいかと思います。本来なら共和国の世話になった私が行くべきですが、王太子がみだりに王都を離れるわけにはまいりません。ジークフリート、よろしく頼む」


 兄は思惑通りの発言をした。

 しかし、グレゴリウス兄上が横やりを入れてきた。


「私も賛成です。ですが、三男ではなく、次男である私が行くべきでしょう。何といってもジークフリートは昨日王都に戻ったばかり。王国の状況もあまり理解できておらぬはずですから」


「ありがとうございます、グレゴリウス兄上。私も兄上が行ってくださるなら安心できます」


 そう言って賛意を示す。

 私の言葉が意外だったのか、グレゴリウス兄上は右の眉を僅かに上げた。


「小職はグレゴリウス殿下ではなく、ジークフリート殿下がよいと考えます」


 マルクトホーフェンがグレゴリウス兄上の意見に反対する。


「なぜだ? 私では役に立たぬと言いたいのか?」


 兄はそう言って侯爵を睨みつけた。

 侯爵は慌てた表情ですぐにそれを否定しに掛かる。


「そうではありません。殿下は将としても優秀な方。万が一、共和国軍が苦境に陥れば、自ら剣を取って前線に向かわれるでしょう。第二王位継承権を有する殿下を失うわけにはまいりません」


 そう言いながら侯爵はグレゴリウス兄上に目配せを行っている。彼はエッフェンベルク家、ラウシェンバッハ家という敵の中に、兄上を置くことを嫌ったのだ。


 そのことに気づいた兄上は納得しがたいという表情を浮かべるが、渋々頷いた。


「叔父である宮廷書記官長が我が身を案じてくれた以上、我儘は言えぬ。ジークフリート、頼んだぞ」


「承りました。兄上ほど役に立てないと思いますが、精いっぱい務めさせていただきます」


 こうしてグランツフート共和国に対する援軍の派遣は正式に決定した。

 そして、そのすべてが我が師マティアス卿の思惑通りだった。


千里眼(アルヴィスンハイト)とはこのことを言うのだな。予め詳しく聞いていたから、この程度の驚きだが、結果だけしか知らなければ、どのようにしてこうなったのか、想像すらできない。軍師アルトヴィーンを超えるという大賢者の言葉を実感した……)


 私は自室に戻りながら、翌日以降の準備を始めた。


■■■


 統一暦一二一五年二月二十三日。

 グライフトゥルム王国王都シュヴェーレンブルク、王宮内。ミヒャエル・フォン・マルクトホーフェン侯爵


 御前会議が終わり、執務室に戻ってきた。


「叔父上、先ほどのことを説明してもらうぞ」


 グレゴリウス殿下がソファにドンと座ると、不機嫌そうな声でそうおっしゃられた。


「ラウシェンバッハとエッフェンベルクはジークフリート殿下を支持し、グレゴリウス殿下の王位継承を阻止しようと考えている者たちです。そのような者の中に殿下の身を置くわけにはまいりません」


「ラウシェンバッハらが私を害そうとするとでも言いたいのか? それはないだろう」


 暗殺という手段を取らないという点では私も同じ考えだ。しかし、別の懸念がある。


「おっしゃる通り、殿下を害そうとすることはないでしょう。ですが、貶めることはできます」


「貶める?」


「今回の援軍の指揮権はエッフェンベルクとラウシェンバッハにあります。殿下には何の権限もありません。そんな中で殿下は彼らのやることを黙って見ていられるでしょうか?」


 殿下はまだ私の言いたいことが分からないのか、不機嫌そうに首を横に振る。


「王族として意見を言うだろうな」


「しかし、二人は決して殿下の意見を認めません。どれほど有用なものであっても認められぬのです。そうなれば、殿下は苛立たれるはず。当然口調も厳しくなるでしょう」


「うむ……」


「ラウシェンバッハは情報操作の天才。殿下が正当な権利もなく指揮命令系統に介入し、それを拒否したら苛立ち紛れに怒鳴ったという噂を流す。その程度のことは平気でやる者なのです」


「なるほど。ジークフリートを旗印にしたということは、彼は私の敵になったということか……」


 殿下は以前からラウシェンバッハを幕下に招きたいと考えており、残念そうに呟かれた。


「今回はラウシェンバッハにしてやられましたが、奴は自らの墓穴を掘ったのかもしれません」


「どういうことだ?」


「私は宰相が提案しなければ、ラウシェンバッハとジークフリート殿下を共和国に送り出そうと考えておりました。病み上がりのラウシェンバッハに千数百キロの旅は堪えるでしょうし、敵は六万五千の大軍。長期戦になることは間違いないでしょうから、体調を崩す可能性は高く、上手くいけば排除できます」


 腹心のヴィージンガーが考えた策だが、騎士団が同行しても長距離の移動が必要なことは変わらないため、身体への負担は変わらないはずだ。


「確かに負担は大きいだろうが、その程度のことは考えているのではないか? それに彼が戦場に出れば、長期戦になる前に決着を付けるはずだ。ジークフリートの名を上げることになると思うのだが」


「その懸念はありますが、ジークフリート殿下は名目上の指揮官に過ぎませんから、名声を得ることはないでしょう」


「確かにそうだな。しかし……」


 私の説明に半分納得したという感じで頷いておられる。

 殿下に言っていないことがある。


(騎士団と共に出陣するが、これで最低でも三ヶ月は戻って来られぬ。その間に国王と王太子を排除し、グレゴリウス殿下の王位継承を進めてしまえば、奴も手の打ちようはない。マルシャルクが計画通りに動いてくれればいいのだが……)


 ラウシェンバッハが回復したことは誤算だった。

 本来の計画では奴はまだグライフトゥルム市で療養生活を続けており、我々が動いても即応できないはずだったのだ。


 しかし、運が悪いことに体調が回復し、王都に戻ってきた。

 幸いなことに共和国への援軍となることから、計画を大きく変える必要はなかった。


(問題はどの程度の損害で抑えられるかだ。法国の狂信者どもは帝国の皇帝より信用できんからな……)


 そんなことを考えながら、グレゴリウス殿下と今後について話し合った。


下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


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