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第二十八話「軍師、凱旋を見守る」

 統一暦一二一五年九月十四日。

 グライフトゥルム王国中部王都シュヴェーレンブルク、西門。マティアス・フォン・ラウシェンバッハ子爵


 本日、西の要衝ヴェストエッケまでレヒト法国軍を護送したラウシェンバッハ子爵領軍が王都に戻ってくる。

 これで一連の騒動は終止符を打つことになる。


 現在の王国の状況だが、ほぼ正常に戻っていた。

 帝都の商業地区二番街で市民を虐殺したマルクトホーフェン騎士団のクライネルト隊は、九月に入る前に所属していた将兵のすべてを拘束した。


 その中で虐殺に関与していないことが明らかな者は釈放している。

 この判別だが、叡智の守護者(ヴァイスヴァッヘ)魔導師(マギーア)に協力を依頼した。


 最初に全員を集め、魔導師を率いた私が説明を行った。


『ここにいる魔導師たちは叡智の守護者(ヴァイスヴァッヘ)に属している。そして、私の目といってもいい者たちだ。これより尋問を行うが、“千里眼(アルヴィスンハイト)”の異名を持つ私の目を欺こうとすれば、その場で有罪が確定する。私を騙し通せるという自信がある者は虚偽の証言をするがいい。私としてはその方が面倒は少ないので一向に構わない』


 この言葉に嘘は全くない。但し、魔導師たちはただ立っているだけだ。

 それでも兵士たちは私の言葉に慄き、ほとんどの者は素直に尋問に応じている。


 その際、誰と誰が一緒にいたかなどの情報を集め、それを整理した。その結果、実際に虐殺に関わった者とそうでない者を峻別することができたのだ。


 虐殺行為を行った者は王国騎士団による軍法会議に掛けられた。

 そして、全員が一旦極刑と決まった。但し、捜査に協力的だった者のうち、兵士については犯罪奴隷に落とした後、強制労働五年の刑に減刑している。


 処刑されたのはハーゲン・フォン・クライネルト子爵以下約百名だ。

 その半数が騎士階級で、残りは虚偽の証言を行った兵士と、残虐すぎて減刑を言い渡すことができなかった者だ。


 クライネルトは極刑になると聞き、グレゴリウス王子の拉致について協力したとして、私に抗議してきた。


『約束が違う! グレゴリウス殿下の捜査に協力した見返りに、配慮すると言ったではないか!』


『配慮はしていますよ。大罪人であることが明らかなあなたに拷問もせず、食事にはワインも付けたのですから』


 クライネルトは私の言葉に激昂した。


『騙したな!』


『人聞きの悪いことは言わないでください。きちんと配慮しているのですから。それともあれほどの事件を起こしたのに無罪放免となると思っていたのですか?』


『嘘だ……嘘だ!』


 私が嘲笑すると、クライネルトは膝を突いて慟哭した。


 処刑は九月十日に西門の外、騎士団の演習場で行われた。

 処刑の指揮を執ったのはジークフリート王子だ。本来なら王族はこのようなことに関与しないのだが、法を厳格に守るという姿勢を市民に見せるために私が要請した。


 王子は公開処刑に際し、演説を行っている。


『ここにいる者たちは平穏に暮らす民を殺し、財貨を奪った大罪人だ。赤子を守ろうとした母親をその子と共に無慈悲に刺し殺した者、結婚を控えた若い女性を凌辱し、その後首を絞めて殺した者もいる。私はこのような者たちを決して許さない! 今後も犯罪に手を染めた者は徹底的に追及する!……』


 公開処刑が行われた後、市民たちは王子と王国政府に対し、称賛を送っている。

 マルクトホーフェン派が牛耳っていた頃は治安が最悪だったため、その反動ということもあるが、治安を守る姿勢をはっきり示したことが市民たちに好評だったのだ。



 そして本日、私は妻のイリスと共に王都の西門にいる。

 レヒト法国軍との戦いで活躍したラウシェンバッハ騎士団と突撃兵旅団(シュトースブリガーデ)が王都に凱旋するため、出迎えるためだ。


 城門の前には私たちの他に、王国騎士団とラウシェンバッハ子爵領の義勇兵団、エッフェンベルク騎士団が整列している。


 エッフェンベルク騎士団とラウシェンバッハ子爵領軍は一度、領地に帰還し、二週間程度の休暇の後、王都に戻ってきた。私としては戻ってくる必要はないと思っていたのだが、ジークフリート王子が戦勝式典に参加させるべきだと主張したためだ。


『彼らは私と共に戦ってくれた戦友だ。彼らが故郷で過ごしたいと希望しているなら別だが、戦勝式典では彼らも大いに称えるべきだと思う』


 更にイリスも王子に賛同した。


『私も殿下に賛成よ。それと獣人族(セリアンスロープ)たちの家族も呼んであげたらどうかしら。お金は掛かるけど、彼らの働きに報いるためなら、無駄ではないと思うわ。それに子供たちに王都を見せておくこともいいことだと思う。将来、ここに留学するかもしれないのだから』


 二人の意見はもっともだと思い、開拓村から兵士たちの家族を呼んでいる。

 その数は一万人近くにもなり、兵士を含めれば、二万人近い。それだけの数の獣人が街道を移動したため、大きな話題となった。


 さすがにそれだけの数は宿に泊まれないので、家族たちも兵士たちと同じ天幕を使っている。


 食糧などの手配も大変だったが、主要街道上の移動であったことと、商都ヴィントムント市を通過することから補給面で問題は起きず、一昨日無事に王都に到着していた。


 その家族たちは兵士たちの後ろに並んでいる。

 更にその後ろには数万に上る王都民や周辺住民が詰めかけており、凱旋式典と見紛うほどだ。


 さすがに国王は出迎えないが、国王の代理としてジークフリート王子が王家の旗の前に立っている。その姿は自信に溢れていた。


「殿下もずいぶん自信を付けたようね」


「そうだね。この半年間、いろいろ経験したことがよかったんだろう」


 そんな話をしていると、王国旗と我が家の旗を押し立てたラウシェンバッハ騎士団が見えてきた。


 先頭には実弟のヘルマン・フォン・クローゼル騎士団長と第一連隊長兼副団長のエレン・ヴォルフが並ぶ。その後ろには我が家の紋章が入ったマントを羽織った兵士たちがきれいに並んで行進してくる。その表情は誇らしげだ。


 ラザファムが先頭に立つと思っていたが、一連の戦いの殊勲者ラウシェンバッハ騎士団に栄誉を与えるため、自らは下がったのだろう。


「ラウシェンバッハ騎士団、万歳!」


「よくやってくれた!」


「王国の守りは頼んだぞ!」


 観衆から大きな拍手と共に声が掛かる。


 ジークフリート王子の姿を認めたのか、ヘルマンたちが王子の方に身体を向け、右手を胸に当てる敬礼を行う。その動きに兵たちも倣うが、精鋭らしいキビキビとした動作に更に拍手と歓声が沸く。


「彼らがいてくれれば、王国の守りは問題ないわね」


 妻の言葉に私は頷く。


「そうだね。だけど、できるだけ彼らを戦いの場に出したくないと思っているよ。今後法国からやってくる獣人族(セリアンスロープ)たちも含めてね」


 レヒト法国との交渉については、獣人族十万人を受け入れることで、賠償金の代わりにする方針が御前会議で承認されている。


 基本的には開発の余地があり、対帝国戦線に近い東部と南部を考えているが、できれば戦争に駆り出したくないと思っている。

 但し、帝国への抑止力にはするつもりなので、宣伝は積極的にやるつもりだ。


「兄様が見えてきたわ。ハルトも一緒のようね」


 ラザファムはラウシェンバッハ騎士団の後ろにいる、突撃兵旅団(シュトースブリガーデ)の先頭に立っていた。その横にはハルトムートもおり、二人とも観衆に手を振っている。


 隊列の最後にケッセルシュラガー侯爵家の旗が立ち、三百人程度の兵がいた。今回の戦勝式典に侯爵が出席するためだ。


「これで本格的に軍制改革が行えるわね」


 妻の言葉に大きく頷く。


「まずはラズたちの意見を聞きたいね。反対することはないと思うけど、改善点が見つかるかもしれないから」


 ラザファムとハルトムート、そして弟たちは私の軍改革の構想を昔から知っている。そのため、彼らが反対することはないと思うが、実戦部隊の将の意見を聞いてみたいのだ。


「でもその前に慰労会をしないと」


「そうだね。じゃ、私たちも屋敷に戻ろうか」


 そう言って二人で屋敷に戻っていった。


下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


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