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第二十三話「軍師、改革案について説明する:前編」

 統一暦一二一五年八月二十二日。

 グライフトゥルム王国中部王都シュヴェーレンブルク、王宮内。マティアス・フォン・ラウシェンバッハ子爵


 昨日、大賢者マグダと共に鷲獅子(グライフ)が王都にやってきた。

 年末に聖都にすべての四聖獣と各国の元首、各魔導師の塔の大導師が集まる際の内容について、話し合いを行った。


 話し合い自体はそれほど大きな混乱はなかったが、王都は突然(ヘルシャー)の使いである四聖獣が現れたことで大混乱に陥った。


 人族にとって四聖獣は信仰の対象であると共に、神の鉄槌を下す裁断者として畏怖の対象でもある。


 その強大な力は魔導器(ローア)を持っていれば、一般人でも感じられ、その恐怖によってパニックに陥ったのだ。


 一応、法国軍が禁忌を冒したという話は広まっているが、鷲獅子の怒りにも似た力を感じ、別の原因で王国が機嫌を損ね、滅ぼされるのではないかと考えたらしい。


 王国騎士団を各地区に派遣し、何も心配することはないと説明させたが、市民の不安はなかなか払拭されなかった。四聖獣という存在はそれほど大きいのだ。


 鷲獅子が飛び去ったことと、王宮の前でジークフリート王子が演説を行ったことで、落ち着きを取り戻した。


 その王子だが、大賢者と二人だけで語り合っている。話の内容は聞いていないが、大賢者が満足そうにしていたことから、問題はなかったようだ。


 その後、国王フリードリッヒ五世の退位とその後の隠居生活について、大賢者に相談している。


 大賢者もジークフリート王子が即位することが望ましいと思っていたこと、グライフトゥルム王家の血統を残すことを考え、すぐに了承してくれた。

 そのことを国王に伝えた。


『大賢者様の了承も得られました。塔の中ではありませんが、近くに邸宅が用意されることになりました。その方が気楽であろうとのことです。もちろん、陰供(シャッテン)も配置してくださるそうですので、ご安心ください』


『大賢者殿に配慮いただいたのだな……これで怯えて暮らすことがなくなる。すべてラウシェンバッハのお陰だ』


『ありがとうございます。退位につきましては、エッフェンベルク伯爵らが帰還後に戦勝式典を行い、その際にジークフリート殿下への譲位を発表していただいてはどうかと考えております』


『それでよい。来月の半ばには自由の身になれるのだな』


 国王は晴れやかな笑顔を浮かべていた。

 結婚についてもティルラ・モーリスの父、ライナルトに確認し、了承を得ている。


『畏れ多いことではありますが、我が娘も陛下を慕っており、不安は感じていないようです。娘が陛下の安らぎの一助となるのでしたら、私に否はございません』


 国王の結婚については、退位した後にグライフトゥルム市に向かっても公表しない。隠すつもりはないが、積極的に公表することで、利用しようとする者が現れないとも限らないためだ。



 そして、今日は王国の改革について、ジークフリート王子、宰相以下の重臣、妻のイリスと話し合うことになっている。


 会議室に向かう途中、内容を知っているイリスがやや硬い表情で話しかけてきた。


「大胆な案だけど認めてもらえるかしら」


 彼女が言う通り、今までの王国の政治とは全く違う形になる。


「認めてもらえるように頑張って説明するしかないよ。これからの王国のために必要なことなんだからね」


 そんな話をしながら会議室に入っていく。


 全員が揃ったところで、いつも通り要点が書かれたメモを配る。


「既にお伝えした通り、本日は王国の国政を抜本的に変える提案を行います。まず行政機構の改革について説明させていただきます……」


 国政改革は行政機構、地方統治、財政政策、身分制度の四つを改革することを考えていた。


「現在の王国の行政機構は宰相府の中に財務、軍務、外務などの部門があります。しかし、財務と軍務以外は責任者が明確でなく、内政や司法などは宰相が直接決裁を行っていました。そのため、我が国の発展は宰相の能力に大きく依存していたと言っていいでしょう」


 私の言葉に全員が頷いている。


「この行政機構を、お手元のメモのように区分しました。それぞれが担当する業務は……」


 具体的には宰相府に加え、実務部門として、内務、外務、財務、軍務、法務、工務、農務、商務、教務の九の部門を新たに設け、それぞれを省とする。また、王宮と貴族の管理を行う宮廷官房を設置する。


「内務省ですが、王国内の治安維持と地方の行政を統括する部門となります。現在治安維持は王都では第一騎士団、地方では各地の領主軍が担当しておりますが、それを一本化することで、合理的な治安維持を実現します」


 そこで宰相のマルクス・フォン・レベンスブルク侯爵が発言する。


「話の腰を折って悪いが、一本化して合理的な治安維持に繋がるというところがよく分からない。そこを説明してもらえないか」


「分かりました。先ほども申しましたが、地方の治安は各領主軍が担っています。魔獣が相手の場合、魔素溜まり(プノイマプファール)の規模によっては対応できなくなる可能性があります。また、盗賊団が跋扈した場合、領地を跨がれると追跡が困難になり、逃げられることがしばしば起きています……」


 三百人規模の村を領地と持つ騎士爵の場合、常備戦力は多くてもの十人ほどだ。トロルなどの大型の魔獣が襲撃してきただけでも壊滅の恐れがある。


 盗賊団については更に深刻だ。彼らは領地の境界を越えれば、領主に捕縛の権限がなくなることを知っており、拠点のある領地とは別の場所で襲撃を行うことがほとんどだ。また、酷いところでは拠点のある土地の領主に付け届けをすることで、見逃されているケースもあった。


「こういったことに、これまで対応できなかったのですが、統一組織であれば、大規模な魔獣の発生時には各地から戦力を即座に集めることで対応ができますし、盗賊に対しても継続して追跡が可能となりますから、捕縛が容易になります」


 私の説明に宰相が頷いた。


「なるほど、確かにそうだな。話の腰を折って済まなかった。続きを頼む」


「では続けさせていただきます。外務省は外交を管轄し、大使や外交使節の管理を行います。財務省は今までとほぼ同じで、王国の財政全般を司ります。軍務省は軍の人事や予算、軍施設を管理します……」


 法務省は法律の制定と裁判、工務省は街道や港湾などのインフラの整備や河川の管理、農務省は農業政策の立案と生産力向上、商務省は国内の流通と対外貿易の管理に加え、新たな産業の創出などにも対応する。


「……教務省は今後の王国の命運を左右する重要な部署と考えております。具体的には王立学院を含む教育機関の予算と人事の管理、今後行う各地の教育機関の整備、歴史書などの保存などを担当します。別途、教育改革についても提案を行う予定ですが、その要となる重要な部署と考えております」


 教育改革は各地に教育機関を設置するだけでなく、奨学金制度の創設や優秀な人材を輩出した家に対する減税措置など、貧しい農民にもチャンスを与えるものにしたいと考えている。


「これらに加えまして、王宮及び貴族の管理を行う宮廷官房を設置します。貴族の管理は相続などについて法に則って手続きを実施し記録を残すことを職務とします。ですので、これまでの宮廷書記官長のような貴族の相続に介入する権限は持ちません」


 宮廷書記官長は王宮の管理を行うため、君主である国王の側近として絶大な権力を持っていた。また、貴族の相続や揉め事の仲裁なども行っており、貴族に対する強い影響力があった。そのため、宮廷書記官長が宰相を超える力を持つなど大きな弊害があった。


「最後に宰相府についてご説明します。行政機関は九つの省に分割しましたが、その調整機関がなければ縦割りの行政となり、王国全体の利益に繋がらない恐れがあります。例えば、財務省は財政健全化のために支出を抑えたいと考えますが、工務省は街道の整備に資金が必要だと考えるでしょう。その調整役が宰相府となります。つまり、全体最適のためにどうすべきか、大所高所から判断する組織が宰相府であり、その責任者が宰相となります。私からの説明は以上です」


 私の怒涛の説明に、出席者たちはメモを見ながら、考え込んでいた。


下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


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