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愛と死の逆ハーレム  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売
第五章 山賊

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いつもお読みいただきありがとうございます!

「本当にケネス様があんなことをされたのですか?」


 レジェスが先に帰った後で、侍従とともに後片付けをしながらナイルが気遣わしそうに聞いてくる。お互いの侍従に緊張が走ったのを見て、ケネスは荷物を運び出すように指示した。部屋には二人きりになる。部屋を出たすぐのところに騎士はいるのだが。


「証拠もないのに疑われるとこたえますね」


 ナイルは元騎士なのに疑っていないのか。それとも人を疑いすぎて嫌になったのか。側室になって平和ボケしているか。


「ナイル様も疑っておられるのですか、私を」

「ケネス様は陛下のことを想っていらっしゃるので……陛下を煩わせるようなことはしないはずです」


 この男の基準はいつもこうだ。

 陛下のためならこんなことはしないはず、と。

 違う、これまでの行動はすべて陛下が最終的に傷つかないためにやったことだ。目的は同じでもケネスとナイルは根本的に違う。


「陛下を煩わせたというよりも、警備兵を煩わせていますね。それが彼らの仕事といえば仕事ですが」

「ケネス様は……陛下の側の誰かがヒューバート様を殺したと疑っていらっしゃるのですか」


 ナイルは紙の飾りを手でいじくっている。それを横目にケネスは自分の前に置いてあった箱に飾りを収めて閉じた。次の側室の祝いでも使えるだろう。次に誕生日が来るのはラモンだから必要ないかもしれない。そもそも、それまでに側室が必要なのかどうかも分からない。


「どうしたのですか、急に兄のことを持ちだして」

「ケネス様が唯一感情的になられたのは、先ほどレジェス様に疑われた時ではなく、私の落としたカードを拾われた時でしたから。考えたのです。陛下をお慕いしていて陛下の役に立つには、まずヒューバート様の件を解決しなければいけないだろうと」

「私も家族も兄を殺した犯人が捕まって欲しいとあの日からずっと願っています。もちろん、黒幕もです」

「ケネス様が犯人捜しのために側室になったのでしたら、納得できる点が多いのです。ヒューバート様の弟ということで好奇の目で見られながら側室になったことも。何もかも」

「何もかもとおっしゃるわりに一点しか納得されていないではありませんか」


 ナイルはやっと飾りを手放して片付けると、ケネスの方に身を乗り出してきた。


「ケネス様はヒューバート様を殺した犯人、というか黒幕をご存じなのではありませんか?」

「それなら側室になっていませんし、さっさと捕まえて伯爵家を継いでいたはずです。側室になると決めて後継ぎを譲った時に妹に散々なじられたのですよ?」

「そうでしょうか。ケネス様がすでにご存じだと考えると、レジェス様とラモン様を仲たがいさせて私に疑いの目が向くようにしたことも理解できるのですが」

「なんの証拠もないのに元騎士のあなたまで私を疑うのですか」

「証拠がないので、ない頭を絞って考えるのです。普通に考えれば、プラトン公爵家とスペンサー伯爵の派閥の小競り合いでしょう」

「でしょうね。あそこは本当に仲が悪い」

「でも、ケネス様が犯人を知っていて……その犯人を陛下が知ってしまえば傷つくと考えたならば。ケネス様がすべてやったと考えると腑に落ちるのです。だって、あのお二人のそれぞれの実家の派閥は今更こんなことを起こす必要はありませんし、もっと過激な手を使っても良かったはずです。ケネス様が陛下の側にいれば、ヒューバート様の捜査の状況も逐一分かりますから」


 ケネスは笑って手を叩いた。


「素晴らしい想像力ですね、ナイル様。もっと大きな拍手をした方がいいですか」

「あなたの唯一コントロールできなかったことはあの白いバラのようです。そしてメッセージカード」

「ナイル様、そんなに私を黒幕のような存在にしたいなら今すぐ陛下のところに行ってその推理を披露してください。証拠もないならば陛下は一切信じないとは思いますが」

「私は犯人が捕まればいいとは思っていますが、それで陛下が傷つくなら捕まらなくてもいいと考えていますよ」


 ケネスは手を叩いて笑うのをやめた。ナイルがどこに隠していたのか短剣を取り出したからだ。


「まさか、私を傷つけるつもりですか?」

「そんなことをしたらすぐ捕まるではないですか。そのくらいのことは分かります」

「では、短剣まで取り出して何をするのですか」

「そうですね、自分を傷つけてケネス様にやられたと言ってもいいですね」

「元騎士なのに私程度の相手に怪我をさせられるわけないでしょう」

「ちょうど扉の外に立っている騎士とは知り合いなのです。ケネス様に襲われて揉み合いになり、怪我をした方の腕がうまく動かなかったとでも言えばいいでしょう」


 ナイルの表情は嘘をついているようには見えない。そもそも、この男は嘘が下手くそだ。


「正直ナイル様に対して今、とても呆れていますし感心もしています。もっと大人しい方なのかと思っていました」

「私は陛下のために命を懸けられます。陛下が笑っていてくだされば誰が王配になろうと構いません。私のことが信用できませんか、ケネス様。私がヒューバート様の殺害に関与したとでも疑っておられるのですか。この私が、陛下の大切な人を傷つけると?」


 ケネスはナイルの持つ短剣に目を向けた。鈍く光っているそれは鈍らなどではなく綺麗に研がれた本物だった。


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